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28.追跡開始

 

 

~ギルナス・ヴェルウントからの視線~

“ドシャッ”

突然耳になにか鈍い音が飛び込んできた。ハットと一瞬で夢から覚めたみたいに意識が戻って来る。あれ? いつの間にか意識が飛んでいたのか? それに今の音はなんだ? 新しい敵か? 無理矢理に目を開くとボヤッとした視界のなかにカリ姐ぇさんの姿が見えた。ホッとしたと同時にもの凄い頭痛が襲ってきた。


「ギル様、どうしました? 大丈夫ですか?」

ああ、カリ姐ぇさんのいつもの猫顔が見える。でも頭が割れそうに痛い、視界がぼーっと滲んでくるみたいだ。それになんか凄く寒い。


「カ、カァファさ……ん。セェェ……ルが、セェリュが……」

んん? あれ口が上手く回らないぞ。

「判りました。判りました。あとはカリファにお任せ下さいね」

「セェェ・・リュを、セェリュを……」

んんん~~、あああ、駄目だぁ、意識が……、遠くなる………。駄目だ…………。セシルを……………。

「はい。ギル様もう安心していいですからね」

そのカリ姐ぇさんの声が天使の声に聞こえた。ああ……。






~カリファからの視線~

 奴にはきっちりとダガーが胸に突き刺さっていた。うん、完全に無力化できた。まっ、当然だな。なんとかこれでヴェルウント家の警備主任ギリギリ合格か? しかしこいつはなんなんだ? 奴の身体を探ってなにか手掛かりを……。


“ドシャッ”

えっ? なに? 背後から音が……。サッと振り返るとさっきまでセシルの上体を抱えながら座っていたギル様の頭が地面に付いている。ギル様! 慌ててギル様に駆け寄る。


「ギル様、どうしました? 大丈夫ですか?」

「カ、カァファさ……ん。セェェ……ルが、セェリュが……」

「判りました。判りました。あとはカリファにお任せ下さい」

「セェェ・・リュを、セェリュを……」

「はい。ギル様もう安心していいですからね」

なんとか頭を上げたギル様の目が虚ろで、呂律も回っていない。おかしいぞ、さっき見た時には、大きな怪我は感じられなかった。みんなかすり傷の類だと思えたけど。どこか隠れた処に怪我してたのか? 気を失ったギル様の身体を再度確認する……。


 よかった、やっぱり大きな怪我はないみたい。それじゃなんでこんなに消耗したのかな? さっき声を掛けた時にこんなじゃなかったけど……。だから一安心してたんだけどな……。むむ、見た目にはまるで魔力を使い切った時みたいだな。まぁ、呼吸は普通だから大丈夫だね。さて、セシルの方は?


 む、これは……、ちょっと駄目かな? どう見ても出血量が多すぎる。息も浅い、顔色も酷い、体温も低いな。カリファの経験から見て、これは助からないな。残念だね、セシル……。


「あ、あ、あカリファさま」

セシルの意識が戻って来た。真っ白な瞼がうっすらと開き紅い瞳が見えるけど、瞳が左右に震えるように安定してない。それに瞳の中の黒芯(瞳孔)が普通より大きく成っている。うん、やっぱりかなりマズイ状態だ……。


「話さなくていいからね。もう大丈夫だよ。ギル様は助かったよ」

多分これが聞きたかったんだろう。するとカリファの血の気ない唇が開いて弱々しく微笑んだ。

「あ、あたし、守れ……、ギ、ギル様守りました。あああ、でも、あとふたり……」

それだけ云うとセシルの瞼は再び閉じられた。そっかそっか、セシルお前、やっぱりギル様を守ったんだなっ! よくやった、よくやった。もう休んでいいからな。ギューっとセシルの身体に両腕を回し、力を込めて抱く。小さくて華奢なセシルの身体、凄く軽い、身体を抱くと体温がどんどん下がっているのが判る。頑張ったねセシル、ギル様も云ってたけど、そうかあとふたり居るんだね。うん、あとはカリファに任せなっ。久しぶりに腹の底からふつふつと湧き上がるものを感じる。セシル、お前の仇はきっちり取ってやるからね。


 セシルの身体をそっと横たえると、両腕を広げてカリファの身体をその場の地面に投げ出す。冷たい地面を身体全身で感じる。カリファは今地面を通じて全てに触れている。


“神感っ”

意識がスーっと地面に吸収されていく感じ。これを前にやったのは、確かナイ達と傭兵崩れを追った時だったな……。そうかあれからもう10年以上も経つんだな……。カリファの感覚鈍ってないかな? 大丈夫かな……。 んんん? こちらに向かってくる、重い動きが、ひとつ、ふたつ、その後ろ、かなり遅れて同じ様な動きが、ひとつ、ふたつ、みっつ。たぶん最初の2つがナイに剣術屋アドバンだね。そしてその後ろが、リリュ様にイジュマー爺とキャス坊だな。


 そしてまったく違う方向、ここから直線的にどんどん離れていく軽い動きがふたつ。そして更にその周りで自由に駆ける感じのがみっつ。直線的に離れるふたつの感じに意識を集中する。……まちがいない2本足で走ってる。これだねセシル? お前良くみたね、間違いないよ。さぁさぁ、お前らこのカリファが見つけたからには、もう逃しはしないよ。






~ナイナス・ヴェルウントからの視線~

 リリュが“ギルが危ないわ”と叫びながら、こちらに駆け込んで来てから、もうかなりの時間が経っている。残念ながら俺も武士殿(アドバン)もキャスも広域五感強化の内功術はあまり得意じゃない。たんなる五感強化ならできるけど。広域だと正直動きながらではちょっと使えない。しかし草原の中に所々にカリファが残した草を切った跡が残っている。俺と武士殿(アドバン)は若干間を開けながらこの印を目印にサラ()を疾走らせているんだ。


 カリファは走りながら草を切っている。しかも太刀筋で大体の進行方向を示している。さすがと云う他ない手練だ。カリファお前全然鈍ってないな。月夜でこの速度での追跡はキャスではまだ無理だ。武士殿(アドバン)が居てくれてほんとに良かった、じゃないともっともっと追跡に時間が掛かかったろう。さぁ、急げ急げ。


「こちらである」

武士殿の声が右手から響いて来る。カリファの走りが少しずつ曲がっている。どうやら走りながらも、軌道修正をしている様だ。カリファの軌道が直線でない所に、あいつが相当慌てている感じが伝わってくる。これはどうやら本当にマズそうだ。背中に冷たいものが走る。いやな予感がするぞ。もっと、急げ急げ。


“ハイツ、ハイッ”

サラッド(家馬)の速度を上げ右の闇へと突き進む。


“ドウッ、ドウォォ”

急に辺り一帯が物凄く血生臭くなった来た。サッと辺りを見渡す。オバル兄弟の姿が見える。そして……、ギルッ! サラッド(家馬)を跳び下りてギルに駆け寄る。オバル兄弟に囲まれる様にギルが仰向けに倒れている。ギルっ、やられたのか? 慌ててギルを抱きかかえる。意識がない。手首、腹、腕、頬、もう身体のあちこちから出血の跡がある。かなり手ひどくやれている、……いるが、大きな怪我はないようだ。腹に大き目の横への傷があるが、大丈夫全然浅い傷だ。息も深いし規則正しい。ああ、リリュ、ギルは大丈夫だったぞ!


 そしてその傍らでこちらも仰向けで横たわっているセシル。右胸から相当の出血をしている様だ。白のローブが血でぐっしょりだ。息も浅くて早い。こういう状況はよく見ている。これは助からんな……。身体が小さ過ぎる、まず耐えられないだろう。すまんセシル、お前を無理やり連れてきた俺の責任だ。


 そしてすぐ傍で両腕を開いて地に臥せるカリファ。ちょっと遅れて到着した武士殿(アドバン)が馬上から不思議そうな表情を浮かべ、そのカリファの姿を見詰めている。あれは“地探り”だな。俺は今までこれができる内功術使をカリファ以外に知らない。ってか、カリファに教わるまでは、“地探り”そのものを知らなかったな。でも……おい、なにを探っているんだカリファ?






~サローン・アドバンからの視点~

「こちらである」

むむ、この草叢(くさむら)の中でこれだけの切り口を見せるとは、正直驚きである。護民官殿とふたりでカリファ殿の跡を追っているが、正直これは尋常ではないである。これだけの草叢(くさむら)の中をサラッド(家馬)より早く走りながら、さらに目印を残しているのである。これが話に聞く“忍び”とか“索敵者”とか云う者であるか? シーフ(盗賊)とかレンジャーなら見た事はあるが、ここまでの能力は無いのである。忍びとは闇に棲まう者と聞いておるが、あのカリファ殿には、その様な気配は微塵も感じられんのであるが……。


“ハイツ、ハイッ”

護民官殿のサラッド(家馬)が、鼻息も粗く駆けて行くである。さぞかしご子息殿の事が心配なのであるな。それがしとて、とても心配である。あのご子息殿には、イジュマー老ではないが、なにか特別な感じがするのである。この様な所で命を落として良い者では決して無いのである。




“ドウッ、ドウォォ”

護民官殿が、サラッド(家馬)を止めて鞍から飛び降りたである。むっ、これは凄い血の臭いであるな。やはり尋常では無いのである。果たして我らは間に合ったのであるか? 護民官殿が、倒れているふたりに向かって駆け寄ったのである。むっ、あれはご子息殿と、セシル殿であるか? どうやらオバル兄弟は無事の様であるな。



 む、なんである? 両腕を広げ地に臥せているのは、カリファ殿であるな。これは一体なんであるのか? むっ、あちらの離れた処に倒れているのが襲撃者であるか。


「ギルは大丈夫です。セシルは無理かも知れません」

「で、あるか……。それがしが、あれが何者であるか確かめるである」

護民官殿の苦い口調。子供が死ぬのは嫌なものなのである……。だがそれでも成すべき事はしなくてならないのである。鞍から降りて血に染まった襲撃者の死骸へと向かうのである。






~ナイナス・ヴェルウントからの視線~

「ギルは大丈夫です。セシルは無理かも知れません」

「で、あるか……。それがしが、あれが何者であるか確かめるである」

俺は切り裂かれた血に染まったローブから覗く、セシルの胸の傷口に当てられた布切れを右手で圧迫する。これはギルがやったのか? よく知ってるな。必死にセシルを救おうとしたんだな……。武士殿(アドバン)が、たぶんカリファのタガーが刺さっている死体に向かって歩いていく。




「こやつは、たぶんフェルムである。フェバオロと見たである」

武士殿(アドバン)の声。フェルムのフェバオロ? なんでフェルムがこんな所に? たしかにフェルキア族長国に住まない多くのフェルムが、エクスムア大草原、セラムア平原、ダトムア大草原で暮らしている。それに確かにフェバオロは、エクスムア大草原に多く住んでいる。しかしフェバオロはエクスムア大草原と云ってもセキニアのずっとサラ()の方に住んでいる。もちろん王国内には居ないし、逸れフェルムにしても王国の最ウラ(西)のキトアに居るはずがない。それにフェルムは無闇にヒトを襲ったりしない。なんだ……、なにか変だな……。


「ナイ!、セシルを殺した仲間がまだいるぞ。きっちり落とし前着けなきゃだな」

地に臥せって居たカリファが身を跳ねると一瞬で直立する。おいおい、カリファよ、言葉使いが昔に戻ってるぞ。それに耳がなんかクルクル回ってるぞ。お前そーとう来てるな、それにまだセシルは死んじゃいない。まぁ、時間の問題だと思うが……。だが、そうだな、落とし前を着ける必要はあるな。いやいや、落とし前じゃない、罪人の仲間を捕えるって事だ。


「ああ、判った。当たり前だ! だがセシルをこのままにはしては行けないぜ」

このまま逝ってしまうにしろ、誰かが看取る必要がるだろう。この少女がこんな所でひとりで逝っていい理由が、あるはずがない。


「護民官殿、カリファ殿、それがしが、ギル殿、セシル殿を看るのである。おふたりは、やるべき事をやるのである」

武士殿(アドバン)が、そう云いながら死体の胸に突き刺さったダガーを引き抜き、懐から出した布でサッとダガーの血糊を拭き取って、カリファに手渡す。カリファはそのダガーを無言で受け取ると、ピョコンと武士殿(アドバン)に頭を下げる。そして直ぐに首を回してジッーっと俺を睨む。はい、はい、判ったよ。早くしろって事だな。だがカリファよ、お前に追われて逃げ切った奴を俺は未だに知らないんだけどな。


「アドバン殿、どうかセシルとギルを頼みます」

「確かに承ったである」

俺がサラッド(家馬)の背に跨ると同時に、カリファが物凄い勢いで走りだした。おいおい、ちょっと待てよ。その速度だと、このサラッド(家馬)じゃ追いつけないぞ……。


“ハイッ、ハイッ”

“ヒッィィン、ブハッァ”

俺は手綱を激しく上下させながら、サラッド(家馬)の腹に踵で強めの蹴りを入れる。サラッド(家馬)は大きく一声鳴くと、後ろ脚で大きく地を蹴り、一気に襲歩しゅうほになった。いいぞ、お前も判って呉れているんだな。さぁ、行くぜ!




 双子の月の冷たい月光のなかを、音もなく草をかき分け疾走るカリファ。そしてその背中を必死で駆け追う、俺の栗毛のサラッド(家馬)。俺達は草原の中を異常とも云える速度で、獲物を求めて一直線に突き進んでいる。そう、繰り返しになるが、カリファ、お前に追われて逃げ切った奴を俺は知らないよ。昔みたく獲物の所までの案内は任せた。ああ、そうだそれに俺も狙った獲物を逃した事は一度もなかったな……。






~サローン・アドバンからの視点~

 ふうぅ、護民官殿とカリファ殿が闇に消えていったである。だが正直、あのカリファ殿の台詞、“ナイ!、セシルを殺した仲間がまだいるぞ。きっちり落とし前着けなきゃだな”には驚いたである。あれがあのふたりの本当の関係なのであるな。


 薄々、カリファ殿の実力には気づいておったであるが、正直今までは相対しても遅れを取るものでは無いと思っていたである。しかしさっきダガーを手渡した時のカリファ殿の感じ……。アレには絶対に敵対したいとは思えないである。それに護民官殿も、騎士とか護民官とか云う上辺が剥がれ落ちて、まさに黒い野獣と云う感じがありありと伝わって来たである。ふむ、それがしが絶頂だった時に立ち会ったとしても、到底届くものではないである。流石は“魔獣殺しのヴェル(ヴェルウント)”の異名は伊達ではないであるな。上には上があるとはこの事である。正直あのふたりに追われる者には、それがし同情したくなるである……。





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