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27.ギルの闘い②

 

 

“バッシィィン”

派手な音を立ててヴァリのツーハンドソードが弾き飛ばされる。それってのはマジ信じられない様な光景だ。ヴァリは奴よりずっと大柄だし、ヴァリが奮ってるのは、小振りとは云えまごうこと無いツーハンドソードだ。それをあんなククリで力任せに弾くなんて……。こいつ、もしかして内功使か? それが迷いになったのか踏み込みがちょっと甘くなった。自分が袈裟懸けに放ったサーベルの一閃は、あっさりと奴に躱されてしまった。そして奴は身を捻りながら、ゼェタが放ったスローナイフをあっさりとククリで捉える……。これでゼェタのスローナイフは残り1本だけ、自分かヴァリの撃ち込みで奴のククリを抑えている時に、ゼェタがスローナイフを投げる。こんな簡単な事も出来ないのか……。奴との実力差がここまで離れていたとはさすがに思わなかった。クッ、なんか手首の傷の痛みが急に増して来たような気がして来た。でも、自分には諦める積りもないし、やられる積りも全くない。そしてそれはヴァリもゼェタもおんなじだった。


“ウゥガァァァアアァ”

ヴァリが今までとは質の違う叫び声を上げると、ツーハンドソードを頭上に振り翳す。これは例の合図だっ! その叫びに合わせてザッと一歩右脚を大きく踏み込む。間違いなく奴の間合い。かなり危険な距離だ。1対1ならこの一歩は間違いなく自分を窮地に落とす。でももしここで奴が自分にククリを放てば、ヴァリの一撃を受けてしまう。それ位奴なら当たり前に判る……。うん、やはり奴は自分には撃って来ない。ヴァリ渾身の一撃が頭上から奴を襲う。多分奴はそれを彈いてから、自分とゼェタに対処する腹積りなんだろう、だけど……。


“ギャンッ ギッギギギギィ”

ヴァリのツーハンドソードを受けた奴の顔が大きく歪むのが判った。奴は確かにククリでヴァリのツーハンドソードを見事に受けた。だが今回はツーハンドソードを弾く事は出来ていない。そうヴァリは多分筋力強化“爆力”を発功したんだ。爆発的な力で奴のククリを抑えこむヴァリ。奴のククリとヴァリのツーハンドソードの刃が正面で交わり悲鳴を上げている。今だっ、間違いなく今が勝負だ。自分は更に一歩前に大きく踏む込むとサーベルの切っ先を少し下げ左下方に向って薙ぎ払う。今度のサーベルの軌跡は斜めだ。さっきの直線的な袈裟斬りと違って簡単に身を捻る事で躱すことは不可能だ。そして奴の肩越しからゼェタが最後のスローナイフを投げるのが見えた。そのナイフは万が一奴に躱されても同士撃ちにならない様に斜め下、奴の腰辺りを狙っているハズだ。全力でヴァリの力に抵抗しているんだ、今腰を下手に動かせば命取りになる。これが自分達がアレから何回も訓練した3対1の闘い方だ。さぁどうだ、この攻撃から逃げ出せた者は今まで誰もいないんだぜ。


“おおっ、おぉぉぉ”

奴が初めて気合を放った。なんだっ!? 一体何が起こってる? 奴の身体が空を舞っている? 頭を下にしてまるで空中で逆立ちをしてるみたいだ。なんでそんな真似ができるんだ? 自分のサーベルがさっきまで奴の身体があった所を虚しく空を切る。そしてゼェタの最後のスローナイフが地面に突き刺さる。奴の腕がグッと折られその次の一瞬には突き放たれる。奴の身体が更に高く宙に舞いながら身体がグルッグルッと縦横に回転してる。月明かりの中で黒い影が昇り龍の様に身体を回転させながら宙を駆け上がって行く様に観える。跳ぶ? 飛んでる? これも魔術? なんなんだコレは? 自分もヴァリもゼェタもその理不尽な光景を前に固まってただたた目を奪われるだけだ……。






~カリファからの視線~

 見えたっ! 3人がひとりを囲んでいる。 そして槍が地面に突き刺さっている。アレはきっとセシルがなんとかした槍だろう。よくやったよセシル、あとで褒めてあげるからね。よし、あとちょっとで着く。早く早く! 逆手に握った愛用のダガー(刃渡りはだいたい15~20cm前後で、両刃のまっすぐな刀身で、 切っ先も鋭くつくられており、切る突くの両方で使用できる)の柄を再度ギュッと握り締める。


“ウゥガァァァアアァ”

ん? ヴァの感じが変わった。筋力強化か? ほう、闘いの中でも発功できるんだ? なかなかやるな。それにしてもその怒声は駄目だろう。一体なんの真似なんだい? ったく剣術屋アドバンは、あの馬鹿双子に何を教えてんだ……。でも、まぁそれなりにいい力は出てるみたいだね。そうそう、そうやって相手を押し付けていな。あと直ぐでこのカリファが着くからね。


 ん? ギル様が踏み込んで斬りかかった。それにゼェが後ろから投げナイフ? うん、これもまぁまぁな感じなやり口だね。剣術屋アドバンも少しはまともな事も教えてるんだな。でもね。カリファが教えるならこう云う場合は、ゼェが奴に飛びついて身体を抑えて、それを残ったふたり掛かりで切り付けるってのが一番無難だね。だって敵はひとりだけだし。奴さえ倒してギル様の無事を確保するならそれが一番だろうさ。そりゃ飛びついた奴は怪我とかするだろうさ。でもあまっちょろい仲間意識なんかは要らないんだ。要はなにが一番かってことさ。でも、これならカリファ無しでもいけそ……。


“おおっ、おぉぉぉ”

はぁ? なんだアレ? 刀翼身飛とうよくしんひだって? 何十年振りだあんな技を視んのは? 相手の刀と自分の刀の交わった点を中心にして、全身のバネと脚の力で地を蹴って逆さに空に舞う。そして腕の力で更に高く飛ぶ。かなり出来のいい内功と積上げた鍛錬によってのみ出来る技。正直カリファあれの出来る奴はもう居ないかと思っていたよ。


 やばっ、ギル様達が我を忘れて呆然と宙を見上げてる。なんだよ剣術屋アドバン刀翼身飛とうよくしんひとか教えてないんか? ってか、もしかしてお前も知らんのか? ああ、確かにあんまり知られてない技だな。1対多における無音暗技(サレンダークラト)の裏技だからね。しかも刀翼身飛とうよくしんひは逃げる技じゃなくて、殺しの技だから実際に見た奴は大抵死んじまってるから、普通に伝説、神話の類に思われてるんだよね……。そうアレは最後に高みから回転する力を利用した投擲技が来るんだ。


“昂力”

間に合うかっ。疾走るのを止めて大地をガッと踏みしめる。両脚を大股に開いて態勢を整えろっ。同時にポンと手に持っていたタガーを空中で回して、逆手から準手に持ち替える。息を一気に吐きながら右腕を背中の後ろまで回す。身体の捻りと合わせながら腕を精一杯伸ばしながらブンと振り切る。ダガーがその刃に青白い月光を浴びながら空中を一直線に宙を舞っている男に向って直進していった。

“無地無足の不利を知れ”






~ギルナス・ヴェルウントからの視線~

 何が起こっているのかさっぱり判らない。自分達の攻撃が決まったと思った時、奴は宙に舞っていた。身体をグルグルと回転させながら高く空を飛んでいた。その光景は完全に理解の範疇外だ。凄い跳躍力とかそーいうレベルじゃない。高飛びの前世の高跳びの世界記録は、確か2m45cmだっけ? でもあれは脚の先部分でも3m位? つまり頭の位置は4m半より上にあるぞ。完全に現実感0だ。人間って摩訶不思議だなって感じに襲われて、ただただ魂が抜かれた様に無音の影絵の世界の様に月夜を舞う姿に見惚れる。


“シャッ”

突然の音が、意識をこの世界の現実に引き戻す。それまで宙を華麗に踊っていた奴の身体を誰かが急に横から押したみたいに、身体の回転が止まり、まるで“く”の字に様に真ん中で折れ曲がった。そしてその“く”の時凹みから、なにか影が弾けたみたいに黒い奔流が弧を描く様にバッーっと月夜に迸った。


“ドサッ”

糸の切れたマリオネットさながら、奴が月夜の舞台から手足を投げ出す様に地に落ちた。思わずヴァリの顔を見る。あの、ヴァリがポカンと口を開けて瞳がウロウロと泳いでいる。すると左脇をゼェタが、いつの間に地面から回収したらしいスローナイフを右手に握り、地に落ちた奴に向って歩いて行く。そのゼェタの背中に引き摺られるように、無意識のまま自分の足が前に出る。


 変な具合に曲がった手足。ドロを塗った上に赤い隈取がされた奴の顔。その顔は、なんか奇妙にエッと云う感じの表情を浮かべている。恐怖でも怒りでも苦しみでもなく、純粋な驚きの表情。これがさっきまで闘っていた奴の顔なのか? 正直こっちが驚きだ。遅れてやって来たヴァリがソードの先で奴をつつくけど全く反応はない。そう、奴の胸のほぼ中央にはタガーが深々と根本まで刺さっている。あの情景から考えて、このタガーは空を舞っていた奴を襲ったんだろう。つまり投擲なんだよな? でもこんな太いタガーが投擲でこんな深くまで刺さるもんなのか? 投擲用の武器ってのは、ゼェタのスローナイフでもそうだけど、細く鋭いもんだろう? しかも刺さっている位置は寸分違わず心臓の位置だ。こんな太いタガーがこの深さで刺さったんだから心臓が一瞬で破壊されたんだろう。文字通り即死だな。そうか、あの月夜に舞った黒い奔流は奴の血だったんだ。そう、だから奴の血が辺り一面に降り注いでいるのか。その一面の血溜まりを見ているとやっと身体の感覚が戻って来たのか、急に生臭い血の香りが鼻を突いて来た。そして次に周りから虫の音が包み込んできた。ん? その虫の音に混じって草を踏む足音がはっきりと聞こえる。


“違います! ヒトです。ヒトが3人居ます。その内ひとりがこちらに近づいて来てます”急にセシルの声が耳の奥に蘇って来た。そうだ敵はひとりじゃない。まだいるんだ。


「誰だ」

「ギル様。カリファです。ご無事ですか?」

サーベルを持った腕を突き出しながら、足音のした方に向って声を上げる。すると月明かりの下に現れたのは、確かにいつもの猫耳をピンと立てたカリ姐ぇさんでした。


「カリファさん。うん、僕は大丈夫です。それよりセシルが……。ああ、それと敵はあとふたり残っているみたいです」

カリ姐ぇさんの顔を見て、これでやっとセシルの処に行けると思った途端、膝から力が抜けそうになった。でもなんとか踏みとどまると、空に向って突き立っていたあの槍に向って駆け出そうと……。あれ? さっきまであった槍が立ってない? どうしたんだ? 慌てて槍があった方に走る。すると倒れた槍の傍らに草の上に仰向けで横たわるセシルが居た。そのセシルの横に膝を付いてセシルの息を確認する。ああ、良かった。良かった、良かった。セシルには息がある。


「セシルッ」

セシルに突き刺さっていたあの長い槍は、どうも3mを超える柄の自重で抜けたみたいだ。マズイな。これで傷口が開いたな。持っていた右手のサーベルを投げ捨てて、ゆっくりと両腕でセシルの上体を抱きかかえる。するとセシルがゆっくりと目を開いた。


「はぁはぁ、ギ、ギ、ギル様。はぁはぁ、だ、大丈夫ですか? はぁはぁ、お、お怪我は……ない?」

「僕は大丈夫だ。それよりもセシルだ」

「はぁはぁ、あたしは、いいんです。はぁはぁ、そ、それよりギ、ギル様が……」

セシルの息が浅くてかなり早い。それに槍が抜けた辺りから、断続的な出血が続いてる。もともと雪肌症で白い肌が完全に真っ白になってる。いつもならアンバランスに紅い唇も、文字通り血の気が失せて真っ白だ。


「セシル。なんであんな事を……」

「はぁはぁ、守れましたよね? はぁはぁ、あたしギル様を、はぁはぁ、守れましたよね?」

「ああ、ありがとう……」

「はぁはぁ、はっ、はっ、う・れ・し・い、はっ、はっ、はっ、はっ、」

セシルの息使いがどんどん、早く浅くなっていく。セシルの様子を見て自分も頭からも血がサーッと引いていく。これって出血性ショックだ! マズイ、これはマズイぞ。どうする、どうする? そうだ、止血、止血、止血。一番簡単でそして確実な直接圧迫止血だ! つまり傷口を押さえるってことだ。


 セシルのローブに開いた裂け口に両手の指を指し入れ一気にローブを裂く、ほんとに真っ白な肌、そして小ぶりだけど重力に逆らって頂きを主張する可愛いバスト。そのバストの少し上の部分に血が溢れ出している傷口があった。それほど広くはないし、綺麗な傷口だ。でもかなり深いみたいだ。その傷口から断続的にピュッピュッと出血が続いている。よかった肺に傷はないみたいだ。自分の袖を齧って切り裂くと、その布切れをセシルの傷口に当てて圧迫する。傷口を物理的に塞いで出血を止めるんだ! でもこのままじゃ、駄目だ、早く救急車を……、クソッ、そんなのない。医者だ医者! でも医者もサラキトアにはひとりもいやしない! うwwっw,どうしたらいいんだ! そうだあれだ! 


 目を瞑り深呼吸を何度も繰り返し心を鎮める。そしてセシルの傷口を押さえている指先へ意識を集中する。指先からトクントクンと浅くて弱くて早いセシルの鼓動が伝わってくる。そのセシルの鼓動に意識を集中する。どんどん意識を集中しろっ! もっともっと……。


 おお、解る解る、見える見える。いつも練習してる内功の回復術と同じ感覚だ。意識を流し込め、具体的なイメージを流し込め! 細胞に酸素をATPを与えろ、細胞内のTOP(Three Organelle-Divisions Inducing Protein)蛋白質に刺激を与えるんだ。そうだそうだ、心筋のミトコンドリアでどんどんATPを産生しろ! 心臓を動かせ! 血を回せ! 体温を上げろ! もっとだ、もっとだ。ううっ、頭が痛い。頭の芯が痺れるみたいだ。駄目だ意識を集中しろセシルの鼓動と同調するんだ。もっともっと! もっともっと!





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