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26.ギルの闘い①

 

 

~カリファからの視線~

 走る。奔る。疾走る。こんなに走るのは、何年ぶりだろう? うん、やっぱ日頃きちんと鍛えていて良かった。カリファは、まだまだ走れるぞ。そうだもっと早く、早く。


 ギル様とセシルの気配と、もうひとりの気配が重なっている。間違ないギル様が襲われてる。こんな失態を犯すとは! カリファお前は、ヴェルウント家の警備主任失格だ! 走れ、奔れ、疾走れ、心臓が破れても走れ!


 まだ距離がある。もう少し時間が掛かる。セシル、オバル誰でもいい、カリファが着くまでなんとしてもギル様を守ってくれ。頼む!






~ギルナス・ヴェルウントからの視線~

 いつの間にか、倒れて空中に虚しく6本の脚を突き出しているサラッド(家馬)の傍にその男は、ひっそりと立っていた。身長は150センチちょい位?。かなり小柄だが裸の上半身の筋肉は見るからに逞しい。あちこちに傷跡があり歴戦の戦士であることが伺われる。髪は濃い茶の直毛、顔と上半身には泥が塗ってあるけど、所々から覗く肌の色は白くない、セラワルド人じゃない事は一目で判る。


「フェルムか?」

そいつは、無言のままニヤリと白い歯を見せる。そして右手の2本の指を斜めに左目の下から、右頬へと走らせる。するとそこにくっきりと赤い2本の線が描かれた。ふん、サラッド(家馬)の血での隈取か? なんの真似だ? そんなのコケ脅しにビビるとでも思ってるのかっ! 


 奴は多分間違いなくフェルムの歴戦の勇者なんだろう。それに比べて俺は10歳のまだまだ小さな小5、剣術の腕だってレイジナ流カイト派の修技(初段かな?)に過ぎない。まぁ、誰がどう考えても勝ち目はないな。でも全然、全く、一ミリも怖くないぞ。あれ、なんでかな? セシルが庇ってくれたからかな? それともさっきのセシルの微笑の効果かな? わからないな……。でも判っているのは、早くセシルを治療しなきゃいけないって事だけだ。時間はあまりない! 奴を真正面から睨みつけると、右手に握ったサーベルの剣先を奴の顔の高さに構える。Hey! ComeOn! インディアン! さぁ、かかって来い、戦ってやるぞ!


「さぁ、来いよ」

「お前達子供、でも勇気ある。俺の槍奪った。俺全力だす」

細目をちょっとだけ開いた奴が声を漏らす。おい、子供相手なんだからよ、全力だすなよ馬鹿野郎。



“キン”

乾いた金属音と同時に夜の闇に白い火花が奔る。奴の手にあるのは、刃渡り40センチ位の三日月状に反った刀だ。なんかアラビアンナイトとかに出てきそうな特徴的な奴だ。そうそう確かククリとか云う刀だったな。刀身は全体として刃のついてる方向へ三日月状に突き出る様に湾曲していて刃幅は根本がくびれたように細く、刃先の方へ向かって広くなってる形をしてる。その広い刃先がギラギラしてて見てるだけで普段ならドキドキしそうなくらい物騒な品物だ。一方自分が手してるサーベルの刃渡りは60センチはある、その刃渡りの長さの差が目下の処唯一の有利な点かな? こっちのサーベルも片手剣だから動きが遅れる事もないしな。持っていたのがソードじゃなくてマジ良かった。


 でもそれ以外では全てに渡って奴が自分を上回っているのが戦って直ぐに判った。残念だけど技でも速度でも全然敵わない。圧倒的かつ一方的に完全に押される。ただただなんとか奴の攻撃を防ぐだけで、攻撃が全くできない。多分もしかして勝機があるならあれだけだ。判っているけど、そんな事する隙は一切ない。うっ、また切られた! 右腕に熱い感覚、そして浅い切り傷から血がプツプツと湧き上がる。クソッ、クソッ、時間がないんだっ! セシルが! クソッ! 激しい動きと焦りで息が苦しくなってくる。


“シッ”

鋭い裂帛の気合と同時に奴の腕が伸び、刃先が月光にギラギラ光りながら、腹の前を奔る。ギリギリでお腹を引っ込めながら後ろに飛び退いたつもりだったけど、上着のお腹の部分がザックリと切り裂かれている。いや上着だけじゃなくてお腹の皮もしっかり切れている。チラっとお腹に目をやると白い綿の下着が真っ赤に染まってる。でも興奮してるからかな? 全然痛みはない、なんかお腹が温かい感じだけだ。こんなのかすり傷だ、気にしないぞ。


“しかしかすり傷でも重なると気は焦り、疲労は重なるのである”

古武士(アドバン)さんの声が頭の中に蘇ってきた。クソッ、余計な事を……、本当に焦ってくるじゃないか……。


 奴は真正面で、距離は2m位、ほんの少し前屈みで、ククリを握った右拳を前に突きだしながら、そのククリの刃先をゆっくりと左右へ揺らしている。表情はまったくの無表情、目がすごく細くて糸みたいだな。唇も薄めで、正直日本人に似てる。普段ならセラワルド人よりもよっぽど親密感を覚えそうだ。だけど今はその顔が最高に憎くたらしく視える。クソッ、全然隙が見えない。額から冷たい汗が落ちるのが判る。






~カリファからの視線~

 ん? ひとりの動きが止まった。あとの残ったふたりが激しく動いてる。ギル様が誰かと戦っているのか? それともギル様が倒れたのか? まさかギル様っ! 判らない! もっと見ろ。よく見なさいっ! 五感を澄ませっ、意識を澄ませろっ。感じろっ、感じろっ。相手を探れっ! 


 んんん、この動きは……、セシルにこの動きは無理だな。すると倒れたのがセシルか。戦っているのがギル様だな。よし、セシルは多分自分の役割を果たしたんだな。次はカリファの番だ。必ずギル様を助ける。でも、あと少しあと少しだけ時間が要る……。


 これはオバルの馬鹿双子か? そうだ早く早く、なにをしてるんだ。お前達今歩いてる場合かっ! 早くしろこの馬鹿! 直ぐにギル様の処に行けっ。






~ギルナス・ヴェルウントからの視線~

 ん? 奴の糸目がちょっと開いた。なにかに気を取られたなっ。今だ! 右足を踏み込みながら右手のサーベルの切っ先を奴のククリを握る手を打つ感じで突き出す。剣道の小手の感じだ。致命傷にはならなくても武器を持つ手を傷つけられれば、これってのはかなり有効な技だ。だがサーベルの刃先が近づくとまるで計った様に、奴の右手が逃げて行く。クッ駄目かっ、自分のサーベルを持つ腕が伸びきった瞬間に奴のククリが逆襲して来た。あっ! っと思った時にはサーベルの護拳をもの凄い衝撃が襲った。この一瞬でここまで届くものなのか? リーチの差か? 手首が熱い……。ククリの切っ先が手首に届いたみたいだな。ヤバッ、もし護拳がなかったら手首が落ちてたかもだ。不味い……かなり出血してる、これはジンジンと痛みが広がっていく。指先の感覚が冷たく成っていくのが判る……。うう、全く相手になってない。


「ギル様さぁ、大丈夫だべか?」

“!!!っ”

背後から聞き覚えのある声がする。ヴァリ? ゼェタ? なんでここにいる? でもこれは助かったぞ。思わず後ろに視線を飛ばす。いた、間違いないそこにヴァリとゼェタ、オバル兄弟の姿が見えた。


“グッ”

マズった一瞬気が緩んだ。その隙に奴が飛び込んで来やがった。後ろに飛び退きながら、サーベルを奴に突き出す。だけどククリの刃先が簡単にそのサーベルを払い退ける。疾い! 鋭い軌跡を描きながらククリの刃先が顔に向ってくる。いや狙いは首かっ。仰け反って避ける。ううう、駄目だ間に合わない。身体からサーッと血の気が引いていくのが判る。


“キンッ”

乾いた金属音と冷たい火花がほんの寸前の処で起きる。必死に仰け反ったので身体の態勢が崩れる。そのまま背中から草の上に倒れこむ。今攻撃されたらもう躱せない。だが攻撃が続く気配はない。なんだどうした?


“キンッ”

またさっきの乾いた金属音と冷たい火花だ。今度は何が起こったのかが判る。そうか、あれはゼェタの投げナイフだ。そのスローナイフを奴がククリで彈いてるんだ。そうそうゼェタは兄のヴァリがあまり好まない、投技武器を好んでいたんだ。今投げたのも、古武士(アドバン)さんからレイジナ流カイト派の教技(皆伝のひとつ前の位階)を賜授しじゅされた時に贈られたスローナイフ(投擲専用に作られたナイフで全長は10cm~20cmほどで、そのほとんどが刃部分という構造をしている)だな。ああ、そう云えば何度か自警団の訓練が終わった後で、黙々とナイフを投げているゼェタを見た事があったな。助かったっ。マジやられる寸前だった。死神の影がほんとにそこに見えた気がした。よしっ、直ぐに反撃だ。こうしちゃいられんぞ。あうあう、でも膝がガクガクと笑って立ち上がれない。息もかなり荒くなっていて肩が激しく上下してるのが判る。そうかこれってのがショック状態って奴なのか……。マジ動けない、不味い。その時ヴァリが激しい足音を立てながら倒れている自分の直ぐ脇を走り抜けていった。


“おおおぉぉ”

両刃のソードを両手で振り上げながら奴に走り寄って行くヴァリ。その雄叫びは悪い癖だといつも古武士(アドバン)さん注意されている。だけどどうしても、ヴァリはその悪い癖が治らないみたいだ。ヴァリに云わせると気合の一撃を打つ時には、それはどうしても必要なものらしい。奴はそのヴァリの勢いに圧される様にススっと後ろに下がっていく。奴を追いながらそのヴァリの気合の篭ったソードが唸りながら振り降ろされる。


“ガッシュッ”

金属の刃同士が互いを潰し合うような鈍い音。ヴァリの疾走って来た体重を載せた渾身の一撃。鋭い振り降ろしの撃ち込みも相まって、あれは盾でもなきゃ、そうそう防げない一撃なハズだ。それを奴はまず片手剣のククリの刃先で受けると、そのまま刀身を滑らせながらヴァリの力を流していった。その巧みさは見ていてもわかる。多分奴は後ろに下がる事でヴァリの勢いを受け流したんだ。ヴァリと奴の身体が交差して入れ替わる。ヴァリは振り降ろし、流されたソードの剣先をそのまま下から切り上げていく。こう云う場合両刃は便利だ。だが奴の動きが疾い。一瞬で身体を半身にし下から襲って来たソードの刃をギリギリで交わす。片手剣のククリは動きはソードより疾い、いつの間にかククリが胴を払う感じで横から、ヴァリを襲う。ソードで受けようとするヴァリの動きが間に合わない。危ないっ!


“キンッ”

3回目の乾いた金属音と冷たい火花。いつの間にか自分の直ぐ傍にゼェタが立っている。左手の指先が真っ直ぐに奴に向って伸びている。多分あれがゼェタの投げナイフの狙い方なんだろう。1射目と2射目は自分の命を救い。3射目はヴァリの命を救った。でもゼェタの顔は相当に険しい。3回ともスローナイフが弾かれたのが悔しいんだろう。ああ、いつも“おらっちの投げナイフはぁ、ひゃっぺつ千中だんべ”って云ってるからな。でもそれ云うなら百発百中な。


「ギル様さぁ、あち2本だべ」

ゼェタが呟く様に残りのスローナイフの本数を云いながら右手をこちらに差し出す。そうか、ゼェタの投げナイフは凄い有効だけど、それも残りあと2本。この2本を有効に使わないとだ。そんな事を考えながら、差し出されたゼェタの右手を握る。ゴツゴツとした硬い分厚いてのひら、でもその熱いてのひらを通じて何かが、自分の中に入ってくるのが判る。すると漸くさっきからのショックが身体から抜けて別の力が湧いて来るのが感じられた。


 ヴァリと奴の斬り合いが続くが、はっきり云ってヴァリの分が悪い。あの中途半端なツーハンドソードじゃ、奴のククリのスピードに従いていけないんだ。どうせならもっと大きなツーハンドソードやクレイモアなら、その重い攻撃で奴のククリを吹き飛ばす事も可能なんだけど……。あのワンハンドソードを一回り大きくしただけのツーハンドソードじゃ、ただ遅いだけでいいとこなしだ。見ている間にも、ヴァリの両腕、肩、脇腹から鮮血が弾け飛んでいる。どうやら奴の剣の腕前は、皆伝クラスって感じだ。ヴァリの顔付きが必死さで強張っているのが判る。あのヴァリが完全に押されている。


 でも、こっちは今や3人、古武士(アドバン)さんに云わせるなら、“3対1と云うのは非常に有利な状況なのである”なハズだ。しかもこっちにはゼェタの飛び道具がまだ(・・)2本も残っている。これで負けたなら自分達は今度こそ落第だっ。


「ゼェタ行くぞ。3対1だ。今度はこそはやってやる。アドバン先生に合格点貰うんだ」

右膝に手を当てながら腰を上げる。うん、いけるいける。大丈夫だ。チラっと槍を突き立てたままで身動きなく横たわるセシルを見る。セシル、もう少し、もう少しだけ頑張ってくれっ。


「ゼェタ背後を取れ、奴を囲むぞ。時間がないから僕が切り込むから、そこで奴の背中にナイフを投げろ」

「んだ」

右足でダッっと地を蹴ると前傾姿勢のまま、ヴァリと奴が斬り合ってる中へサーベルを振りかざしながら強引へ割り込んでいく。


“うっっ、おおぉぉぉぉ”

ヴァリよ。確かに気合入れるのにはこれは必要だな!





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