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25.セシルの闘い②

 

 

~セシルナ・アバルマからの視点~

“ドウ、ドウ、ドウ”

ギル様が、落ち着かないサラッド(家馬)をなんとかいなしている。きっとサラッド(家馬)があいつの気配を感じて落ち着かないのね。だめ、あいつがもう傍まで来てる。そこまで来てる。


「ギル様! 駄目ですここは危険です! 早く! 早く!」

ちょっと声が上擦ったかしら。恥ずかしいな。でももうそんな事云ってらんない。あいつがそこまで来てるのが判るもの。少しでも早くここを離れなきゃ。……駄目もう遅いわ。あいつがそこに居る。


“ドォーー、ドォー”

なんとかサラッド(家馬)が落ち着いて来た。でももう……ギル様、あたしが一撃は防ぎます。どうかあとは無事逃げて下さいね。大丈夫です。このサラッド(家馬)の脚なら逃げ切るのは簡単な事です。来たっ! 草叢(くさむら)の中から槍の穂先が伸びて来る。やっぱり目標はギル様だ! でもこの一撃はあたしが防ぐっ!




 あの日、ギル様とあの夢みたいなキトアサラレクへ行ったあの日、カリファ様から話しをされた。そしてその翌日からずっとずっと、カリファ様から修練を受ける事になったのよ。


「セシルあんたはどーしても体力的ハンデがでかすぎる。戦ってギル様を守るってのは難しいね」

「はい……」

カリファ様はいつでもこうなのよね。良く云って直情的、普通に云うと身も蓋もないって感じね。でも修練を初めて直ぐのこの言葉には正直ガッカリしたわ。


「でも、セシルにも出来る方法があるんだよ」

「本当ですか?」

このカリファ様の言葉に胸の内がパーッと明るくなった気持ちがしたわ。実はこの後によっく判ったんだけど“落として上げる”、これってカリファ様の十八番おはこだったのよね。


「なかなか厳しい修行になるし、なんて云うかな……。自分を犠牲にする覚悟いんだけどさ? セシルにできるかな?」

「それで、ギル様を守れるんですか?」

「ああ、ちゃんとカリファの云う通りにすれば、ギル様をお守りできるよ。それは保証するよっ」

「それなら、あたしやります」

あたしがギル様を守れる。そんな事がほんとに出来るなら、あたしなんだってやる。あの公童塾の初日……、頭から血を滴らせながらヴァリを跨いでいたギル様の姿が頭の中を過る。もうあんな事は絶対にいや。ギル様を傷つけるひとから今度はあたしがギル様を守るんだ!


 それから始まった修練、それは身盾しんじゅん術って云うものらしい。まぁ、身体を使ってギル様の盾になるって事よね。確かにこれなら力も剣術の技もいらないわね。鋭敏な感覚と俊敏な反射神経これが全てな感じ。そしてなんとあたしには、魔力があったの。みんなには内緒でイジュマー先生に魔力判定してもらったら、あたし内功術なら出来るらしいの。“ほら、やっぱり”ってカリファ様は云っていたけど、これにはほんとに驚いたわ。


「いいかいセシル、内向術での五感強化ってのは、色々な神経を敏感にするんだけどさ。これは突き詰めていくと全身の神経が敏感になるんだ。身体俊敏性の強化なんか修行しなくても、結局反射神経も鋭くなるんだ。その内に判ると思うけど、周りの動きがスローに思える様になるんだ。こうなったらこっちのもんだよ」

「ほんとですか? 周りが遅く見えるんですか?」

「そういうもんじゃろうか? 俊敏性の強化はそれでまた別の修行がいるのじゃろう?」

「イジュマーの爺さん、確かにそういう連中がおおいのは知ってるよ。でもそれってのは、自分の身体の事をよく判ってない。頭でっかちな連中のいい草だね。きちんと自分の身体が判っていれば、五感強化も俊敏性強化も根っこはおんなじ事だってのが、自ずと見えてくるもんなのさ」

「そんなもんじゃろか……」

「ああ、ほんとうさ。カリファなんか、最高に調子がいい時なんか周りが止って見えるからね」

「そりゃ、ちょっといい過ぎじゃ」

「あぁ? イジュマーの爺さん、マジだよ、マジ」

あの時はイジュマー先生がなんか呆れ顔していたけど、きっとカリファ様ならそんな事も出来そうだって思うな。でもあたしには、まだ周りが遅くなって見えるって事は結局起こらなかったな。




 闇の中をギラって光る穂先が迫って来る。あれ? でもなんだろう? 急にその動きが遅くなった。それにお尻の下のサラッド(家馬)の動きも緩慢に感じる。そして身体が凄く軽く感じる。まるでなんか体重が半分になったみたい。カリファ様に叩きこれた身体が勝手に動く。槍とギル様の間にあたしの身体がスルスルって入って行く。よかった完全に間に合った。ああ、あたしがギル様を守る! カリファ様ありがとう。あたし凄い嬉しい!






~ギルナス・ヴェルウントからの視線~

“ザッ、シュッ”

突然、セシルが睨んでいた傍らの草叢(くさむら)から、もの凄いスピードで槍が突き出されて来た。相手の姿は全然見えない、でもこの距離で槍だって? 絶対届かないだろう? えっ、なんだ、槍が伸びる伸びる、槍先が止まらない! どうなってるんだ? しまった避けるにはもう遅い、穂先がもう直ぐそこだ! サーベルで払えるか? 無理か! 駄目だ! しまった……。


 自分の胸に月光に輝く鋭い穂先が真っ直ぐに突き向ってきた。思わず目を瞑って全身に力を込めて襲ってくる衝撃に備える。クソッ……。


 ん? あれっ??? なんの衝撃もないぞ? どうした? っ!!! セシルッ! 長い槍の穂先がセシルの右胸に突き刺さっている。そしてその槍の柄をセシルが両方の拳でしっかりと握っている。セシルの小さい可愛い拳が真っ赤になる程の力で槍を握っている。小さい小さいセシルの可愛い拳がフルフルと震えているのが見える。槍の刺さった右胸の辺りの白いローブがどんどん赤く変色していく。セシルッ自分を庇ったのかっ! 


“ハッヒィィィン”

セシルの右胸に刺さった槍に手を伸ばそうとした時に、サラッド(家馬)が突然棹立ちした。






~セシルナ・アバルマからの視点~

 あいつの鋭い槍先が、あたしの右胸の上の方にに深く刺さったのが判る。やった! ギル様を守った! あうっ、胸に焼けた鉄棒を突き立てられた見たいな灼熱感が襲ってくる。こんな経験初めてっ。心が悲鳴をあげて、なんか一瞬気が遠くなって行く。でもでも、カリファ様の声が蘇って来た。


「槍は、突かれた時こそがチャンスさ、突かれたなら必ずその槍を奪い取ってやるんだ。こっちの傷と相手の槍。それくらいしなきゃ、やられ損だからね」

そうだこの槍を奪い取るんだ。うん、このままじゃやられ損だ。肩の筋肉に力を入れて穂先の動きを止める。もの凄い痛みが胸を襲う。でもそんなの関係ない。両手で槍の柄をしっかり握る。うう、槍を引き戻す力を感じる、でも死んでも、そう、死んだって絶対にこの手を離すもんか! この槍さえ奪えば、ギル様は確実に逃げることができるんだから。カリファ様から習った通りに、両腕全体を槍の柄に絡ませる。ギル様、早くこのままここから逃げ出してっ!


“ハッヒィィィン”

すると急に身体が地面と水平になって行く感じに襲われる。サラッド(家馬)が突然棹立ちしたんだ。なんでよ……。なんでよ……。






~ギルナス・ヴェルウントからの視線~

 セシルを片腕でしっかり抱いたまま、棹立ちしてほぼ垂直になったサラッド(家馬)の背中から地面へ振り落とされた。セシルを抱えたまま背中から地面の草の上に落ちる。背中にズドンって云う一瞬息が止まるような凄い衝撃、でもでも絶対セシルを離さないぞ。左腕でセシルを抱えたまま、ゆっくりと目を開ける。よかったセシルはまだ腕の中に居る! しかしサラッド(家馬)の棹立がいきなりだったのと、セシルが両腕を槍に絡めていた為なのかか、槍はセシルに右胸に突き刺さったままだ。そのセシルの胸から空中に向かって伸びている槍、竹で出来た槍で柄がもの凄く長い。どうみても4m近い、こんなの見た事ない! その長い槍がまるでセシルの右胸から生えてるみたいでなんかすっごい非現実感だ。でも敵はまだ辺りに潜んでいるはずだ。これが現実だ……。


“バフッゥ、ブハッ、ブハッァ”

もの凄い鼻息を漏らしながらサラッド(家馬)草叢(くさむら)に向かって駆け出す。どうしたんだ?


“ブッシャー”

なにか黒い影が草叢(くさむら)から飛び出すと、サラッド(家馬)の目の前を横切った。そして次の瞬間にはサラッド(家馬)の首から真っ赤な奔流が迸った。これが初めて敵の姿を認識した時だった。


「セシルちょっと待っていてね」

「……」

目を微かに開くとセシルが不思議な事にニッコリとこちらに微笑む。こんな時に笑うのか? でもそのセシルの優しい微笑みが心に染み入ってくる。心が落ち着いて、なんか心の中から恐怖と緊張が消え去って行くのが判る。そおーっと、自分の胸の中に居たセシルを草の上に横たえる。セシルに刺さった槍はそのままだ、ああ、下手に抜くと出血が増える可能性大だからな。止血の準備が出来てから抜くべきだ。うん、自分意外に冷静だな。そしてどうせこの敵を倒さなければ、自分にもセシルにも明日はない!






~セシルナ・アバルマからの視点~

 棹立したサラッド(家馬)から振り落とされた……。でも衝撃が思ったより少ないわ? ああ、ギル様が庇ってくれたのね。こんな時なのにやっぱり嬉しい……。カリファ様、あたし習った通り槍は奪ってみせました。できる事は全部やりました、カリファ様どうですか? 褒めてくれますか? あたしはいい弟子でしたか? ああ、あたし今ギル様の胸に抱かれている。ギル様の鼓動と温もりと体臭が感じられる。とっても恥ずかしい。でも嬉しい。胸の痛みなんか飛んでいっちゃう。


“バフッゥ、ブハッ、ブハッァ”

“ブッシャー”

伝わってくる音と気配、それに血の臭いで、目で見なくても、だいたいの事態は判るわ。つまりもうサラッド(家馬)では逃げられないって事なのね。そしてあいつにはまだ武器が残ってるって事。血と一緒に体力が流れ出したみたいで、もう身体が動かない。これじゃ、あたしギル様の盾になれない。やっぱりあたしではギル様を守れ切れなかったって事ね。ああ、こんな女……ギル様の胸の中にいる資格なんてないわ……。


 あっ、またカリファ様の声が蘇ってきた……。

「セシル。いい女ってのね。男に勇気と力を与える事できるんだよ。知ってるかい?」

「そうなんですか? 凄いですね? えっと、一体どーやるんですか?」

「こうさ」

そうだ、そう云ってカリファさんは、凄く優しい微笑みを浮かべたっけ……。


「セシルちょっと待っていてね」

「……」

そのギル様の声に応えて微かに目を開く。ああ、ギル様の顔が強ばっているのが判る。ギル様、今のあたしに出来るのは、これ(微笑み)だけです。すいませんあとはお任せします……。さようならギル様、どうやらあたしはここまでみたいです……。ギル様は絶対に死なないで下さいね……。





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