20.本当の闘いってのは……②
~ギルナス・ヴェルウントからの視点~
「さて戦場で方陣が崩れたと云う事は、かなり酷い状況が起こったのである。きっとお主らにはなんらかの事態が起きてほうぼうの呈で逃げ出して来たのである。でなければ、お主らは既に死骸となってどこかで転がっているのであるな」
「おらっち、ぜってぇそんな事になんねぇだ」
自警団の兄ちゃん達も固唾を飲んで話しを聞いている。ヴァリちょっと黙ってろ。
「気が付くと、お主らの目の前にひとりの敵の歩兵が立っているのである。この時状況が1対1ならばいつもの立会と変わらないのである。だが戦場で1対1など滅多に起こらないのであるよ。周りを見渡せば必ず誰かがいるものである。それが味方なら畳畳、敵なら大ピンチであるな」
「1対1の勝負でねぇだか?」
「やぁやぁ尋常に勝負勝負だべ?」
「戦場で1対1で闘う事など愚かな事なのである。なんの為に味方の人数を揃えたのであるか? それではもはや戦略も戦術も意味がないのである。戦場では生き残る事が全てであると云ったのである。道場や修行ではないである。1対1で闘うなどアホウのする事なのである」
アホウですか……。確かに正しいかもですが、そこまで云っちゃうですか。
「そげなもんかや?」
「もちっと、こう騎士道とか正々堂々とか、そげなもんはないのだか?」
「おらっちなら1対3でもまけんべ」
「騎士道? そんなものはサラにでも食わせるといいのである。お主らは無事家族の処に戻りたくないであるか? 格好つけてその結果薄汚い死体となり果てて泥の中に沈み、グチャグチャの肉片になるまで踏付けられたいのであるか?」
「そげはいやじゃ」
「んだんだ」
「おらっちにそんな危険はないべ」
グチャグチャの肉片とか……、でもきっとそれが戦場の真実なんだろうな……。これはやっぱ古武士さんの実戦経験が云わせる言葉だからこそ重みが伝わって来る。うん、戦場のロマンとかそんなもんを粉々にする話しだけどね。自警団の兄ちゃん達もちょい意気消沈な感じだ。ヴァリを除いてだけど。
「よいか? だから、まず敵が現れたなら周りの味方に声を掛けて敵を取り囲む事が大事なのである。できれば3人以上で囲むのが望ましいのである」
「3人で囲むだか? あんだか卑怯もんだべ?」
「卑怯もの? 大いに結構である。卑怯であろうが卑劣、愚劣、愚弄、下劣であろうが戦場では数が多いことは正義なのである」
あ~~、云い切っちゃったよ~。なんか泣けてくるな~。
「よいか? 戦場全体がどうなっていようが、その場その時で敵より数を多くする事こそが生き残る鉄則なのである。それこそが真実であり、そこに一切の誤謬はないのである。一切の迷いなく多勢で無勢を囲むのである。よいであるか?」
「判っただ……」
「んだ……」
古武士さんの迷い無い迫力のある声が、自警団の兄ちゃん達を包み込んで行く。いつもの修行や訓練の時の明るさが消えて行くのが判る。どんどん現実感? 緊迫感? が増していく。
「よいであるか? 目の前にした敵は者でないのである。それはお主らを害しようとする人外なのである。お主らを襲ってくる人外であるよ。それは血も感情も何も持たない人外なのである。一見見た目は似ているのであるが、それは全て擬態なのである。一切の躊躇や哀れみ同情は必要ないのである。ただただ滅する事を考えるのである。生き残り家族の許に帰る。これだけを考えるのである」
「「「お、おう」」」
えっ~~、そこまで云いますか? 敵への尊敬とかもなし? 人としての尊厳すら認めないの? ジュネーブ条約とかないんか?
「あの、アドバン先生、もし取り囲んだ相手が降伏してきたらどうしますか?」
「ああ、それは畳畳であるな。そんな場合敵の武器を奪った後で、躊躇無く切るのである」
「はぁ???」
「そうだべか?」
「おう、そうだべ、やっちまえばいんだべっ!」
「よいか、戦場の中、歩兵同士の争いで降伏の申し出などは認められないであるよ。それは単なる自殺の申し出であるな。一切の迷いなく切るのである」
これにはさすがに、自分も自警団の兄ちゃん達も目を丸くしている。ヴァリを除いてね……。
「では、これから3対1の戦闘訓練を開始するである。まずはご子息殿とヴァリとゼタェタの3人で、それがしを囲むのである。ここで3対1の戦い方を教えるである。その後に各自で訓練するのである」
「おう! せんせばやってやるだ」
なんですと? 自分ですか? ヴァリは嬉しそうに叫んでるけど、これはどーなんだ? それって戦力バランス悪すぎだろ? でもヴァリに続いてゼェタも黙って練習用の槍を振り出してるし、こっちもヤル気満々って感じだ。うwww、こりゃもう仕方ないのか~~。
今、自分の前には練習用の木剣を構えた古武士さんが立っている。そして自分の右隣には、歯欠けのオバル事、ヴァリが自分と同じく槍先を古武士さんに向けている。その上でヴァリの双子のゼェタが、古武士さんの背後で槍を構えている。こんな感じで自分とオバル兄弟の3人で古武士さんを囲んでいる状態だ。でも当たり前だけど3対1なんか修行でやった事ないからどーすればいいか、まったく判らんです。
「さぁ、始めるである」
その古武士さんの一言を聞いたとたん、右隣のヴァリが槍を突き出しながら突っ込んで行く。おいおい、いきなりか?
“カシッ”
乾いた木のぶつかる音が響く。ヴァリが突っ込むと同時に古武士さんも前に進みながら身体を捻り、ヴァリの突き出した槍先を躱し、槍の柄を木剣で払った。これが本物のソードなら槍を断ち切っているな。古武士さんはもうヴァリには一切目をくれず、そのまま自分に向って突っ込んでくる。まずっ! 中腰で構えていた槍を突き出す。だがその自分の槍先を簡単に木剣で払うと、古武士さんはそのまま俺の左脇を走り去っていった。えっ? なんだ?
「まず。云って置くのであるがこれは立会でもないし仕合でもないのである。戦闘訓練である。当然それがしの目的も勝ち負けではないのである。つまり“生き残る”事である。したがってこの様に囲まれた場合は、包囲から脱出する事が最大の目的になるのである。相手を傷つけられれば、それは良いであるがそれは目的でないのである」
現在第一回目の講評中です。まぁ、結果逃したけど自分達も全然傷んでないから50点ってとこかな?
「今それがしは、3人に囲まれたであるが、実際にはヴァリの槍を躱し、次にご子息殿の突きを躱しただけである。つまり1対1の闘いを2度しただけである。これは全体としては3対1であったが、戦ったその瞬間と場においては1対1だったのである。これでは簡単に相手を倒す事など出来ないのである。なんの為の3対1であるのか意味がないのである。確かにご子息殿達にも傷はないのであるが、この様に安易に敵を逃すと、その逃げた敵が集まり手痛い反撃を食うのである。3対1と云うまたとない有利な状況で敵を一切傷つける事なく逃したのは0点であるな」
あう、0点だそうです。でも確かに今のは3対1の意味がほとんどない闘いだったな。ゼェタに至ってはほとんど立っていただけだったよな。
「ギル様さぁ、ちっと相談だべ。ゼェっちもこっちさこ」
「おう」
ヴァリがかなり悔しそうな表情を浮かべながら、自分とゼェタを呼んで集める。
「こんどば、おらっちが叫んだら3人一斉に槍っこを突くだ。だば、せんせさやれんべよ?」
「ええ、一斉攻撃には大賛成です。でもゼェタは突くより払った方がいいのではないですか? 先生の後ろですから良く背中が観えるでしょう?」
「おう、ギル様さぁそりゃいいだ。ちっと卑劣な手だもそっちがいいべ」
なんか悪の一味が正義のヒーローを倒す為の悪巧みをしてる感じがアリアリです。しかもヴァリの笑い顔がこれがまた悪人顔っぽいんだ……。でもこれこそが戦場の正義なんだから仕方ないよね。
再び自分の前には木剣を構えた古武士さんが立ち、自分の右隣にヴァリが槍を構える。そして古武士さんの背後でゼェタが槍を構えている。さっきと同じ態勢です。
「さぁ、始めるである」
これもさっきと同じ古武士さんの一言だ。でも今度は右隣のヴァリは直ぐには突っ込まずに、ジリジリと槍先を突き出しながら古武士さんとの距離を詰めていく。そのヴァリを横目で見ながら自分も少しずつ距離を詰める。
「うっおぉぉぉ」
ヴァリが雄叫びを上げながら大きく脚を踏み込み槍を突き出す。一瞬遅れたけど自分も同じように右足を踏みだしながら槍を突き出す。槍ってのは攻撃は速いけど、あくまで攻撃ポイントが“点”になるから案外と躱し易いし外れ易い、だから自分の槍先の狙いは人間の身体の中でも一番面積を占めるお腹の中心だ。
槍先をグッと突き入れる。するとこちらを向いていた古武士さんの顔にフッと笑みが浮かんだかと思った瞬間、コマ落とし映像を見てるかの様に古武士さんの姿が目の前から消える。えっ? なんだ? クッ、下かっ、そう古武士さんは物凄い疾さで槍先の下に潜り込んで来た。それってのは所謂飛び込み前転的な感じで、頭から地を転がりながらこちらに向って来る。虚しく空を突く槍。やばっ、慌てて槍先引くが、槍より古武士さんの動きが疾い。人ってあんな疾く前転できんのかっ! 槍は引き戻したけど既に古武士さんは、自分の槍の懐に入っている。古武士さんが屈めた膝を伸ばして飛び上がる様にして自分の左脇を過ぎ去っていく。同時に自分の向こう脛に鋭い衝撃が襲って来て思わず片膝を着いてしまった。
「結果から見るならば、それがしはひとつの傷もなく逃走に成功したのである。その上ご子息殿の脛を払う事に成功したのである。まぁ、0点以下であるな。だが内容的には先ほどよりよっぽどマシなのである。3人である事を活かした攻撃であった。しかも背後からのゼェタの払いはなかなかなものである。あれではそれがしは前に出るしか手はなかったのである。
ただし問題が3つあったである。まずはヴァリの雄叫びであるが、あれが一斉攻撃の合図である事はあまりに明瞭なのである。あれでは敢えて作戦を敵に教えているようなものなのである。それがしは一瞬逆に何かの罠かと思ったであるよ。次がご子息殿とヴァリの攻撃が同じ場所を狙った事であるな。両人とも修行に忠実にそれがしの腹を狙ったのである。腹を狙うのは基本ではあるが、一緒に同じ場所へ攻撃するのは如何なものであるか? それがしにしてみれば、それはひとつの攻撃と同じでなのである。ひとつの動作でふたりの槍を躱す事が出来たのであるよ。
最後が攻撃の順序であるな。技量的にはヴァリが上のなのであるから、初手はご子息殿で僅かに遅れてヴァリが後手を務めるべきなのである。で、あれば地を転がるそれがしをヴァリが突く事も可能であった」
以上が第二回目の講評でした。うん、マイナス100点ですね。ヴァリとゼェタがこの講評に唇を噛んでいる。自分もかなり悔しいですっ。
「今見た通り、意外と3対1であっても盲点は多いのである。特にご子息殿、ヴァリ、ゼェタの3人は3対1での闘いは始めてであった。見ての通り知識も経験も不足しており2度の遅れを取ったのである。戦場ではこれが生命取りになるのである」
でも訓練材料としての反面教師ぷっりは100点満点だったんだな……。こんな古武士さんの説明に対して当然の質問が飛んでくる。
「「「だば、どげにしたらさ、いいだべ?」」」
「まず3対1と云うのは非常に有利な状況なのである。それを考えると先ほどのご子息殿達は、今説明した以外に全く同じ最大の過ちを犯していたのである」
「おんなじ過ちだか?」
「で、ある」
「「「????」」」
これには自分も含めみんなピンと来ない感じだった。同じ過ち? 2回の攻撃の仕方は全くと云って位違ってるハズだけど、あれで同じ過ち? ヴァリが最初に攻撃した事は説明済みだから……、駄目だわからないや。
「誰も判らないであるか?」
そう、楽しそうな顔で聞く古武士さん。自分も含め自警団の兄ちゃん達の誰も応える事はできない……。ヴァリもポカンとした顔だ。おい口が開いてるぞ。
「確かに少々難しいかも知れないのであるな。その過ちとは先に攻撃を仕掛けた事であるよ」
「なんだべ?」
「せんせさ、いつも先手必勝いってるだべ?」
「んだんだ」
その答えは、自分にとっても結構驚きなものだった。全く持って自警団の兄ちゃん達と同じ疑問が直ぐに湧いてきた。
「攻撃とは相手に隙を見せる事に繋がるのである。実力が伯仲している相手との仕合で、双方がなかなか初手を撃てないのはそれが理由なのである。撃ち込まれれば防ぐ自信はあるが、自らが撃ち込むとやられる危険が観えるからなのであるな。これはお主らでも判ると思うのである」
周りの自警団の兄ちゃん達の1/2位がなにやら頷いているな。自分は頷かない方のひとりです。ヴァリとゼェダは頷き組です。
「相手の技量が勝る場合、あるいは技量が互角の仕合ならば闘いの主導権を握る為の先手は有効なのである。だからこそ、そこに様々な技や駆け引き気組みがあるのである。飛び込み技やフェイント、先手必勝、先の先の気構えなどである。初手は躱されても次手に繋げる。常に先手を先んじてそこに勝機を見つける。これはひとつの極意なのであるな。だが自らの技量が相手に勝っている場合であるなら、相手の出方を見た後に攻撃する“後の先”は非常に有効な手段なのであるよ。これも判るであるな?」
今度は周りの自警団の兄ちゃん達の2/3位がウンウンと頷いている。自分は今回も頷けない方のひとりです。ヴァリとゼェダは当然の頷き組です。未熟なり自分……。
「3対1の場合とは、自らの技量、戦力が相手よりも勝っている状況なのである。この場合、採るべき戦法は“後の先”なのである。3対1の場合の最も有効な戦法は、まずは取り囲み相手の様子を見る事である。相手が誰かひとりに向って来たなら残りのふたりが背後、横から撃ち込むのである。攻防一体の技と云うのは存在するであるが、攻と防を同時に別方向に放つ事が出来るのは、2刀流以外にはないのである。しかもそれでも3方同時は不可能なのである」
「だば、相手が向ってこんかったらばどうすべ」
「見合いになっちまうべ」
「で、ある。それが一番多くある状況である。その場合は前面のふたりが気を引きつつ背後の者が攻撃を仕掛けるのである。ただし完全に深く撃ち込むのでなく、浅い撃ち込みで充分なのである。かすり傷を負わせる程度の気合であるな」
「かすり傷だか?」
「で、ある。前面のふたりに集中するので浅い撃ち込みでもそれ位は出来るのである」
「そんで? そったらかすり傷では倒せんべ?」
「で、ある。しかしかすり傷でも重なると気は焦り、疲労は重なるのである。すると相手は煩い背後の者に立ち向かうか、一番弱い者に立ち向かうか、逃げ出すかのどれかに出てくるのである」
うんうん、この話しなら自分でも理解できるなと頷いていたら、自警団の兄ちゃん達のほぼ全員が頷いていた。
「背後の者に立ち向かってきたなら、前面のふたりの内ひとりが支援に回り、あとひとりが背後より撃ち込むのである。つまり向きは変わるが再び3対1の形に戻すのである。一番弱い者に向って来た場合も、だれかが支援に回りあとひとりが背後から撃ち込み、元の3対1の形に戻すのである。逃げ出した場合は最も近い者が立ち塞がりあとのふたりが背後より撃ち込む事で再び3対1の形に戻すのである。相手に深傷を負わせるまでこれを繰り返すである。時間の心配はないのである、あっと云う間に決着は着くのであるよ」
「まるで嬲り殺しだべさ?」
「で、あるな。相手を者と思うべからずである。それが最も安全で効率的な戦法なのである」
なんだか酷い話しだな。でも、だったらそれを最初に教えて下さいよっ!
「では、今度はそれがしとご子息殿とヴァリとゼェダを各3人で囲んでの訓練を行うのである」
「うっおぉぉ」
「おう、やるだっべ」
「んだぁ、やったるべ」
「嬲り殺しだべぇぇ!」
うああああ、なんで? なんで? 見世物役の次は生贄役ですか? なんでそーなるんだ~~。しかも古武士さんのこの言葉に何故か熱り立つ自警団の兄ちゃん達、あれ? もしかしてやっぱヴァリとゼェダって憎まれっ子?
「あに云ってるだ。こんただモンは返り討ちだべ! なっ、ギル様さ」
おいおい、みなさんを煽り立ててどうすんだよ? ほら~~、ますますなんか怖い目でこっちみてるぞ。ヴァリの馬鹿!
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