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4.初めての冒険

 

 

 眼の前に広がる素晴らしい光景に、おもわず目を奪われていたんだけど、ちょっと火照った頬を風が撫でる感じにフッと我に帰りました。そこでまずは、ゆっくりと辺りを数回見渡して、特に危険なものが居ないことを確認します。よし、右良し左良し前方良しだなっ。じゃっ行ってみっか、そう意を決すると一番近くにあるブッシュを目指して、道から草原の中へと足を一歩踏み出したんだ。そうそう、これこそが冒険って感じだよな!


 よっし、やってやるぜ! 道を外れて自分の顔位の高さはある草を掻き分けるようにして進みだした途端、ムっとするような草の匂いが鼻をついて来る。今日の服装は、上は頭から被るタイプのダブっとした長袖、腰の下まで丈のある厚手の綿の上着です。綿だからセーターとは違うんだけど、まぁ似たような感じだね。色は明るいベージュで、お腹周りが本当にダブっと余っているので、お腹の所にある紐でウエストを締める感じですね。わかるかな? まぁこのウェストの余裕さと丈の長さから考えると、かなりの年齢までは着る事が可能だと思われます。


 そして下は裾が足首まである、これも綿でできた結構厚みのある茶色のズボンです。こちらのズボンもかなり大きくてね。実は裾はかなり折込んで詰めてあって、ウェスト周りは上着同様に、紐で締めるタイプですね。これも全体にかなり大き目で、多分数年は着れそうな感じです。お母様どんだけ倹約家なの?


 下着は目の細かい綿生地、紺の上下ですね。これのおかげで上着のゴワゴワした肌触りが、かなり和らいでいるんだ。ええ、こんな上下共にかなり厚手の布地の服で、肌のほとんどを覆っているんで、こんな高さのある草の中に踏み入っても、肌をちくちくと刺す感覚とかはほとんど無いんですよ。はい、準備万端とは正にこの事ですね。えっと、あの目標としたブッシュまでは、どれくらいかな? 1キロくらいか? いやもうちょっとあるかな? それにしても2キロはないな、そう大丈夫だ。直ぐに着くよ。




 かなり進んだかなぁ? ふっと気が緩みかけたその時、背後の草叢(くさむら)で突然、“ガザガザ”って音が聞こえたっ! うおっ! びっくりした! 心臓が止まるかと思ったぞ。思わずピタッとその場に凍りつく。背中を冷たい汗がツツーっと流れるのが判った。ううぅ、どうも思った以上に、緊張してるんだな。


 身体の力を抜いて、恐る恐るゆっくりと後ろを振り返る……。ふっぅー、誰も居ないじゃないかぁ。もう、驚かすなよな~。ちょい立ち止まって聞き耳を立てたけど、もうさっきの音は聞こえてこないな。


 どうしよう、どうしよう、もう帰った方がいいかな? でもでも人生最初の冒険で、こうもあっさり引き返すってのも、あまりにヘタレ過ぎじゃないか……。だってさ、きっとこの記憶も一生の間、鮮明に残るんだろうから、こんなヘタレな思い出と一生過ごすかと思うと、かなり悲しいよね。


 よしっ、やっぱ行こう! 目標のブッシュを再確認して、さっきりよりもちょっとスピードあげて、草叢(くさむら)の中をまたズンズン進みだした。




 それからちょっとだけ進むと、かなりの高さのあった草叢(くさむら)を抜け出して、芝生のような下生えだけの所に飛び出した。ここでブッシュまでの距離を再度目測してみる。あれ? 思ったより遠いな。ここまでで結構な時間掛かったのに……。だけど、もう半分以上は来たんだし、あとちょいじゃないか。そうそう、残りは多分後1/3位な感じさ。


 よしっ、さぁ行こう~~。歩こっ♪ あるこっぉ♪ わたしっは元気ぃぃ♪ ちょっと無理矢理にテンションを高めながら、ズンズンと芝草の上を進んでいく。やはり邪魔になる背の高い草が無くなったんで、すっごく歩き易いな。そんで目指すブッシュには、意外にもあっさりと到着出来ました。いや、よかった、よかった。お疲れ様です~。




 さぁ、それではブッシュの調査開始ぃ~。まずはこのブッシュに生えているのは、主に2m程度の灌木ですね。表皮はちょいゴツゴツした感じ。太さは親指より太い感じかな? う~ん、残念だけど、なんの木なのか判りません。ただこの灌木の枝には、青い葉に混じって赤い小さな小さな実がなっていますね。その赤い実からは、甘そうな匂いが漂っていて正直ちょっと食べてみたいけど……。うん、さすがにそれはあまりに不用心だよね。まぁ止めておけって感じかな。


 そして灌木全体に、直径1センチにも満たない蔓状の植物が纏わりついています。その蔓なんだけど、半分ほど先の方が枯れかけているのか、ちょっと白くてカサカサになっているんだ。残りの蔓はまだ青々としてるけどね。枯れ掛けの白くてカサカサの蔓を、ちょっと引っ張ってみる……。むむむ、見た目以上に張りがあるな。うぐっ、子供の力じゃ、千切るのは無理か~。くそっ、枯れてるくせに生意気な……。いや、どうもこっちの力不足って感じかな。なんたって腕細いからなぁ


 そんな軽い自己嫌悪に浸っていて、ふと空を見上げると、なんと太陽が真上に近づいているのに気が付いたよ。つまりそろそろ12時に近いって事だね。ここまで来るのに多分2時間以上は歩き続けたって訳だ。じゃぁここでちょい休んだら、とっとと家に帰ろう。3時のおやつに間に合わないと、かなり不味いことになるからね。なんと云っても集落の外に出るのは厳禁な訳だからね。


 よいしょっと、ブッシュを囲む芝草のような下生えに腰を下ろします。よいしょって、ちょっと爺くさいかな。ん? あれ? これってクローバーかな。腰を下ろしてお尻の周りの地面から生えてる雑草を見つめていたら、見覚えのある3つ葉のクローバーをみつけた。不思議になんか嬉しくなって来るね。おい、お前もこっちに転生してきたのか?


 おっ、こっちのは、アルファルファじゃないか? どうも植物の生態系はあっちと似てるのかな? まぁ畑には小麦も生えてるしね。どうやら植物の生態系は、ほぼ同じと考えて問題なさそうだな。そっかそっか、クローバーにアルファルファか、なるほどなるほど……。ん? じゃぁさっきの蔓はなんだ? もう一回ブッシュに生えてる蔓に目を向ける。う~~ん。いろいろな記憶がパラパラと頭の中に蘇ってくる。うぉっ、これって長芋か大和芋の蔓じゃん! やた、これはっ! 大発見かっ! なにか掘り返す道具(もの)とか落ちてないかな? 大慌てで立ち上がって当たりを見回してみる。




“うぅぅぉぉぉぉぉん”

その時、まったく突然に大きいなにかの鳴き声が、空気を震わせた。な、なんだ! あれこの声? そう、この遠くまで響く独特な遠吠えの様な鳴き声には、聞き覚えがあるぞ。ああ。|この鳴き声って、我が家で飼っているサラッド(家馬)の鳴き声じゃないか?




 サラッド(家馬)っての、6本脚の(サラ)で、体高(肩までの高さ)は180~200cmほど、体重は550~650kg程、元の世界のサラブレッドを一回り太くした感じの(サラ)です。サラッド(家馬)の6本の脚はサラブレッドの華奢な脚に比べると2~3倍は太いんですよ。親父殿の乗馬を見ましたけど、速度はサラブレッドには敵わないけど、耐久性はかなりこっちが上みたいですね。


 このサラッド(家馬)、サラブレッドの脆弱な感じは全くなくて、どっちか云えば、ばん馬のイメージに近いのかな。あんなに太くは無いけど、力強さが共通してるって感じですね。性格は温厚で、知能が高く飼い主の命令にはよく従い、農耕・荷役・乗馬などに幅広く利用されているらしいです。ええ、完全な実用馬です。




 そのサラッド(家馬)? の鳴き声が響いてきた方向に目を向けてみると……。おお、確かに向かい側の小さな丘の斜面をこちら向かって、1頭の赤毛のサラッド(家馬)が駆け下りてるのが見えるね。きっとあの丘の頂きの向こう側にいたから、さっきは気が付かなかったんだな。


 うん、人も荷物もなんにも背負っていない裸馬状態だな。それでかな、駆けて来る速さが思ったよりもそ~とう早い。我が家のサラッド(家馬)に、数回餌を与えた経験もあるんで、まったく危険とかは感じませんね。でもサラッド(家馬)だけってのは、どうしたんだろう? はぐれたのかな~、でも赤毛のサラッド(家馬)ってのもなかなか綺麗だね。家のサラッド(家馬)は栗毛だからね。


 そんな呑気にその赤毛のサラッド(家馬)をぼ~っと眺めてたら、赤毛のサラッド(家馬)は、まったくスピードを落とす事なく一直線にこちらに向かってくる。ん? なんだ? もしかして自分の事を知ってるのか? 草原を走っているから、蹄の音は響いて来ないけど、体重が550~650kg程の6本脚の巨大な動物がこっちに向かって猛スピード迫ってくるんだ、さすがに鈍い自分でも何かを感じて来る。


 あれ? なんかアレって、どっか家のサラッド(家馬)と違わないか? 家のサラッド(家馬)の頭はもっと小さいし、あんな牙みたいなもんは生えてないっ! 口から白い泡は吹き出してるし、そんであのギョロっとした大きな真っ黒な目が、目が、目が、なんかこわっいぃぃい! 


 奴との距離がかなり縮んで来て、“ズサッ、ズサッ”って云う重い足音が空気を震わせ耳に響いてくる。間近に迫ってきたそのサラッド(家馬)? の迫力! 重量感! それを認識した瞬間、なにか冷たいものがゾゾゾゾッと背中を駆け登ってきた。と同時に物凄い恐怖感が、全身を襲ってくる。これってなんかヤバいぞ!


 逃げなきゃ! これはマジヤバイ! 逃げろ、逃げろ、今直ぐ逃げろ! だが初めての恐怖体験アンビ○バボーに、この身体が竦んで動かない。いや膝だけはカクカクと震えているのが判る。うがっ、これじゃ、ますますもって身体は動かない。あっと云う間に更に彼我の距離が縮み、奴の大きく開かれた真っ赤な口の中から粋筋もの涎が飛び散っているのが見えて来た!


 怖い怖い怖い怖い怖い、無理矢理に動かない足に命令を下す。動けよ、おら動け! 後ろを振り返って一目散に走って逃げるんだ! だけどその命令は、竦み上がった5歳児の身体には、ちょっぴり複雑過ぎる命令だったようでした……。


“ボテッ”

ちょっとだけ上体を後ろに捻って走りだそうとしたけど、膝に力が入らないから、やっぱ足が従いて来ない。うwwww、なんとその場でこけちまった。そうです、芝草の上に尻餅を着いちまったんだよ。普通なら可愛いとか、笑いを誘いそうな格好だけど、今は1ミリも笑えんな。なんたって、その時すでに赤毛の怪物が、もう目の前にまで迫っていたからな!


“ブッハッァ、ブッハッァ”

って云うその物凄い鼻息が、直に伝わってくる距離ですっ! こっちは両手を芝に着いて、立ち上がろうと足掻いてるんだけど、この姿勢だと赤毛の怪物を真正面から見詰める形なんだよね。奴の黒いでっかいギョロ目玉に睨まれて、もうこっちはほとんど思考停止、この姿勢のまま金縛りな感じになってます。このままじゃ不味い、伏せるかって思った瞬間、赤毛の怪物が僅か数メートルの所からいきなりジャンプしやがった!


 奴の4本の逞しい前脚が上空から、こっちにむかって突き出されて来る。間違いないっ! こいつ踏み潰す気だな! もうこの場で伏せるのは無駄だ。いや逆に悪手だ。ここから逃げださないと、シャレならんっ!


 頭では結構冷静に状況判断をしてるんだけど、恐怖に襲われている5歳児の身体の方はまったく動いてくれない……。そしてこのヘタレの5歳児の身体は、この理不尽な恐怖と、現実から逃避するかの様に、あっさりと目を瞑ってしまいました。うおっ、こんな状況下での情報の遮断は最悪の選択だっ!


 ああぁ、これでせっかくの2度目の人生もおしまいかぁ……。意外にあっさりだなぁ……。でも今回は走馬灯は流れないんだな……





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