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17.錯綜する思惑⑤

 

 

ソチフ(士長:伍長)、ライダ・ナフォルガからの視点~

 ヤバイ、ヤバイ、これはマジにヤバイ。さっき知ったんだが、あの処刑された府員補(臨時職員)は、逃げたサラッド(家馬)の飼育関係者だった。つまり病死したハズのサラッド(家馬)が、実はスピシエデフルド・サラに戻って来てない事に気づいたはずだ。それどころかサラッド(家馬)病死の報告を出してるから、こちら側についたハズなんだ。そのふたりの首を刎ねた……。これってのは奴らが完全に関係者の口封じをするつもりだって事だな。これで実は賊は逃走していて、サラッド(家馬)も奴らに焼き殺されたって事を知っているのは、巡検隊を除くと俺と隊長様だけになった訳だ。どうする、どうする。クソッ、後時間がどれくらい残っているかで、今後の動きを決めないとだな……。もし即座に消される恐れがあるなら、今夜にでも逃亡すべきだ。幸い昨日は隊舎を警備していた巡検隊の連中の姿が今は見え無い。だが逃亡したらきっと俺は、直ちに賊の内通者として追われる事になる。それならもっと準備をしてから逃げ出さないと、セキア州から出る事もできやしない。


 ライダよ、よく考えろよ……。奴らにすれば、立て続けに騒ぎが起こることは望んでないはずだ。しかも奴らの目的は俺を殺す事じゃなくて、秘密を守る事にあるんだ……。となると、当面は俺を監視下に置いて行動を見張り、もうちょい時間が立ってから事故死なにかで静かに処置するってのが妥当な線じゃないか? よし、まずはちょっと偵察だな……。


 ほうほう、然りげ無くだが巡検隊の連中がこの隊舎だけを見張ってやがる。だが俺の周囲に殺気は感じない。つまり積極的に殺る気はないが、逃げたなら有無を云わさずにあっさり終わらすって腹積もりだな。つまり時間はまだあるって事か、……と云う事はここで下手に動くのは逆効果だな。こっちも静かに様子を見るか? 嫌、それじゃ駄目だ。もっとなんか積極的に動くべきだ。逆に奴らを安心させてやる位がいいんだが……。チッ、隊長様はささっと辞職して親父さんの鎮守府に戻るのか、いいよなボンボンはよ。ん? まてよ、そうか、その手があるか……。






~ビタダント・グル・モートスからの視点~

「ライダ・ナフォルガ入室許可願います」

ん? なんだ。ライダがなんの用だ? 俺は荷物整理の手を止める。


「いいぞ。入れ」

俺の声と同時に、ライダが隊長室に入ってくる。いつも何事にも動じない超然とした感じのライダの表情が珍しく曇っているな。まぁ、昨日の今日だからな、さすがの奴もショックを受けているんだろうな。あの襲撃事件から4日間はグルアと一緒に苦労したからな。すると荷物があちらこちらに散らばる隊長室をちょっと見てからライダが口を開く。


「隊長は近日には異動でありますか?」

「ああ、昨日守備隊隊長の辞表を白虎騎士団の軍令本部に提出した。兄上の話しでは今日にも受理され、明日には鎮守府に異動せよとの辞令が出るハズだからな。明後日にはここを出るつもりだ。まぁ、当分は鎮守府での役職もないだろうから、謹慎みたいなもんだな」

逃げ出すと思われるのも嫌だから、俺はライダに肩をすくめて見せる。


「そんな、隊長が謹慎なんておかしいです。隊長に責任は全くないです。全ての責任は、あの裏切り者のグルアとニールにあります」

「まぁ、そうかもな……」

「隊長の指揮に誤りはありませんでした。もしグルアの間違った情報がなければきっと賊を捕らえる事が出来たハズです」

確かに俺もそう思う、グルアが賊の逃走方向をサライラ(南東)と断定したんだ。“賊が王都に近づく可能性はありません。間違いなく逃走方向はサライラ(南東)です”今でもあのグルアの声は忘れない。まんまとあの嘘に騙された……。でなければ、きっとラン兄の手を煩わせる事なく、直接俺の手で賊を捕らえる事が出来たハズなんだ。


「巡検隊でなく、我ら守備隊が賊を発見出来ていれば地の利にも明るいので、きっと賊を取り逃がす事もなかったと思われます。そうすれば隊長がこんな事には……」

「ライダ……」

なんだ? 泣いているのか? この古参兵が俺の為に涙を? ごつい腕で顔を覆うその姿を見ていると俺の心にも何か熱いものが込み上げて来る。


「ライダソチフ(士長:伍長)、なにも気にしなくていいぞ。やはりグルアに騙された俺が悪いのだ」

「もしも自分がグルアの嘘を見抜いていればと思うと……」

「上官の判断に異を唱える事はできまいよ。はやり騙された俺の責任だ」

「しかし隊長、隊長だけが責を負うのはあんまりです」

「ははははは、隊長と云うのはそういうもんだろう? 俺が責を負わずして、誰が取るのだ」

「た、隊長……」

おお、ライダがキラキラした目で俺を見ている。これはもしかして俺の言葉に感激しているのか? 俺はこの食えない古参兵から尊敬されているのか? ラン兄も父上も良く云っていたな、“古参兵の信頼を勝ち得る事は重要だ”と。だが俺は今まで一度たりたも古参兵から称賛や信頼を得た事はなかった。このライダの示した態度には正直ちょっと感動する。


「隊長、自分は、自分は……」

「判った。判った。その気持はありがたく貰っておくぞ」

まずい、このままでは俺まで泣き出しそうだ。俺は、2~3度ライダが微かに震わせている肩を軽く叩く。俺にこんな得難い部下が居たとは、今始めて知った……。






ソチフ(士長:伍長)、ライダ・ナフォルガからの視点~

「失礼します」

敬礼をきっちり決めて隊長室から出る。うん、これで仕込みはOKだ。あとひと押しすればなんとか行けるだろう。だがマジ恥ずかしかったな。誰にも見られてなくてほんと助かったぜ。しかし判っていた事だが隊長様もほんとにチョロイ……、ってか単純だな。いや俺の演技が上手いって事なのか?


 今夜の隊長付きの連絡士にちょいと鼻薬を嗅がせておいたから、最後の仕込みも準備万端だ。後は果報を寝て待つだけだ。






~ランダント・グル・モートスからの視点~

「なに? ビタ、もう一回云ってくれないか?」

「はい。兄上、セキト鎮守府にライダ・ナフォルガソチフ(士長:伍長)を連れて行きたいのです」

「なぜだ?」

「彼は、この守備隊でも指折りの古参兵です。その彼が自分を慕って呉れております。自分は古参兵から信頼を得たのはこれが初めてです。是非とも彼を自分の右腕としたいのです。兄上もいつも云っていたではありませんか、“古参兵の信頼を勝ち得る事は重要だ”と。是非ライダをお願いします」

お前には、ほんとに正直呆れるな。ころっと騙されおって……。それは信頼じゃなくて利用されているだけだ。しかし不思議だな、いつもはおべっか使いを簡単に見破るお前がなんで今度は騙されたのだ? それ程ライダの訴えはお前の心を打ったのか? 


「ライダは自分に従いて来たいのに、それを直接は云い出しませんでした。こんな奴をひとり置いて行くなどできません」

「では、それを誰から聞いたのだ?」

「昨夜の連絡士からです」

「うむ、そうか……」

思わず額に手を当ててしまうな。見え見えの下工作だろうそれは……。しかしこんな簡単な事が……、……判らんのだな、それがお前の良い処なのかも知れんな……。しかしライダ・ナフォルガ……、なかなかな策士だな。伊達に長く兵隊をやっていた訳ではないと云う事か……。当然こちらの動きは予想しただろう。私の考えでは昨夜にでも逃亡を図ると見ていたのだが、その為に目立たたぬ様に隊舎に警備を置いていたのだ。しかしその上を行く仕事ぶりだな。どうやらちょっと奴を見くびっていたか……。


 私の目を正面からじっと見詰めるビタの顔を見る。うむ、まぁ、グルアの件もあるし、ここはビタの気持ちを汲んでやるか……、それに確かにビタにも有能な部下は必要だ。ライダ・ナフォルガ、どうやら能力には問題なさそうだ。まぁ、考えてみれば奴を鎮守府に置くのも悪くはないかも知れぬ。じっくりと監視もできるし他の利用法もあるやも知れぬからな……。


「ビタ、判った。父上に連絡を取る。ライダ・ナフォルガを鎮守府に連れていけ」

「兄上! ありがとうございます」

「うむ、ではライダに伝えてくれ。“貴官の行動には驚嘆した。今後ともその行動に期待する。決して後悔させないで欲しい”と」

「はい。判りました」

ビタよ。そんな不思議そうな顔をするな。お前は知らなくて良い事だ。まぁ、これで奴には充分私の考えは伝わるはずだ。お前がビタを補佐し続けるなら、お前の生命は一旦預けて置いてもよいとな……。






ソチフ(士長:伍長)、ライダ・ナフォルガからの視点~

 やった。やった。さっき隊長様から“自分に従いて来て欲しい”って話しを貰った。上手くいったぜ。ああ、その言葉を聞いてほんとに涙が出たもんだ。別の意味でな……。しかしどうやら、巡検隊の隊長さんには全てお見通しらしいな。あの伝言にはマジびびったぜ。鎮守府に行けば多分監視は相当厳しいだろうし、なんかやばい事に巻き込まれるかも知れんな……。だがそれも首を刎ねられる事に比べれば全然マシだ。後は見た目は精々隊長様の忠実な部下って事で生き抜いて行くさ。まぁ、隊長様が偉くなればこっちも生き易くなるから、ちっとは協力してやってもいいしな。しかしこれで生命も助かるし鎮守府へ移動か……、長かったこのスピシエデフルド・サラ務めからも解放されて王都へ帰還できるのか。いやなんか考えてみれば一石二鳥だったな。ああ、このライダ様は転んでも只では起きないって事だ。さぁ、俺も荷物整理を初めるか。






~ダイタス・ギュント・ホルミアからの視点~

 ナルスにスピシエデフルド・サラの事件を調査する様に指示してから3日後、司府長室でナルスからの報告を聞いている。やはりあれは単なる小火騒ぎでは無く、実際にはスピシエデフルド・サラへの少人数による襲撃だったらしい。しかもその襲撃によりサラッド(家馬)の仔馬が強奪されて居たのだ。だがその後守備隊隊長の活躍によって襲撃犯を殲滅し盗まれたサラッド(家馬)を奪還したらしい。これは確かに大事件だな。下手すると守備隊隊長の個人的問題から、モートス伯爵家の廃嫡問題にまで発展するやも知れん問題であろう。さすれば問題を握り潰そうと素早く鎮守府と巡検隊が動いたのにも納得できる。。


 だが伯よ仕事が少し雑であろう、釈然としない点があるぞ。見せしめと思われる4人の殺害……。わしなら単なる見せしめの為に局長や副長に手を出さんな。問題が悪戯に大きくなる危険がある。事実わし以外にもこの件を調査してる連中がいるようだ。それになぜ府員補(臨時職員)をふたりも殺したのだ? 見せしめならひとりで十分であろう……。この殺しの裏には何か見せしめ以外の目的が潜んでおるのか?


「ナルス。内通していたと云う府員補(臨時職員)であるが、なにか共通点はないか?」

「特に共通点は……、出身、年齢、趣味、友人関係も違っております。ああ、同じ馬舎の飼育員でした」

いむ、なるほど……、同じ現場の者か。現場、現場……、そして局長か……。ん? 現場と局長だと? もしや……。


「その馬舎のサラッド(家馬)とは、もしや……」

「はい。逃亡したサラッド(家馬)がいた馬舎でございます」

「確か、逃亡したサラッド(家馬)は全て()()()戻ったのだな?」

「はっ、その様でございます」

「マナリ、サラ()管理局に逃亡したサラッド(家馬)のその後についてなにか報告が出ていないか調べろ」

「御意」

どうも、なにかが引っかかる。マナリが何時もの様に静かに右腕を胸に付け腰を折った礼の姿勢のまま部屋を下がる。




「司府長様、逃亡したと思われるサラッド(家馬)の内1頭について病死の届けが出ておりました」

「届けの作成者は誰か?」

「殺された府員補(臨時職員)のひとりでございます」

「承認者は誰か?」

「前管理局局長ニールエリア・サイボン殿です」

「ふむ……」

なるほど……、これが局長と府員補(臨時職員)ふたりを殺した見せしめ以外の理由か。


「ナルス、病死したサラッド(家馬)について他の府員補(臨時職員)からもっと情報を仕入れろ」

「承知」

たぶん間違いあるまいが念の為だ。


「マナリ、サイボンの身辺調査の結果はどうか?」

「なにやら臭いです。しかしなかなか巧妙に隠しておったようです。申し訳ございませんか、今しばらくお時間を賜りたいと」

「構わぬ。しっかり調べてくれ。それによっては伯に揺さぶりを仕掛けるぞ」

「御意」

モートス伯よ。この時期に動いたのは失敗であろうよ。まぁ、スピシエデフルド・サラ襲撃にサラッド(家馬)盗難では動かずに居られなかった事も判るがな。しかしこの時期なのだぞ、ここは守備隊隊長のビタダント殿を見捨てるべきであったろう。しかもビタダント殿は秀逸とは真逆の噂の流れる息子殿であろう? 馬鹿な子ほど可愛いとも云う、確かにそれはわしにも少し心当たりはあるが、それにしてもそれほどに息子とは可愛いものであろうかな。






~エタンダント・グル・モートス伯爵からの視点~

 見事! ランよ。騒ぎそのものを完全に握り潰すのではなくて、小火騒ぎに歪小化しおったか、しかも白虎騎士団セキト鎮守府、巡検士隊が動いた理由をスピシエデフルド・サラ襲撃計画の内偵とはの。考えたものじゃ。しかもその内通者として事実に触れた者を口封じを兼ねて見せしめにするとはの。いやはや、我が息子ながら恐ろしいものじゃな。まぁ、あのサラ()管理局の局長はチト惜しかったな。別の使い方を考えておったのじゃが、だがこれは致し方あるまい。それに長い手殿への牽制にはなろうと云うものじゃ……。


 さて、どうやら長い手殿(ダイタの別名)や、司検府や白虎騎士団の軍令本部が調べているようじゃが、どこまで迫れるかの? 1000人近い関係者いるのじゃ、単なる小火騒ぎでない事は直ぐに判るじゃろう。だがそこは問題ない。賊も倒したしサラッド(家馬)も戻っている事になっておる。問題はその先じゃな。サラッド(家馬)が殺され、賊にも逃げられた事に気がつくのは誰じゃ? これは巡検隊には知る者が複数いる。多分長い手殿ならば気がつくかも知れんな。だが更にその先はどうじゃ? これを知る者はわしとラン、それにランの腹心の部下数名のみじゃ。ビタも知らんし、ましてやスピシエデフルド・サラ関係者には一切知られておらん。さすがの長い手殿であってもこれを知る事はまず不可能じゃな。


 ビタから白虎騎士団の軍令本部に報告書か出ておる。サラ()管理局の副局長からも同じ内容の報告書が司府庁に出ておる。あとはわしから軍府庁へ報告を出すだけじゃ。この報告書がそれぞれの所管部署で承認され最後に王儀で了承されれば、それはもはや事実と同じ事になる。いやそれこそが紛うこと無き事実に確定するのだ。さすればもはや誰にも何事も出来ないのじゃ。あと少しの辛抱じゃな。





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