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16.錯綜する思惑④

 

 

~ビタダント・グル・モートスからの視点~

 頭の中がなんか激しくグルグル回っている。さっきのは一体何だ? グルアとサイボン局長殿が賊と内通していた? そんな馬鹿な信じられない……。グルアはこの独立守備隊に5年近く勤務していて、いつも独立守備隊の副長である事が誇りであると公言していた。確かに少し判断が安易な処は処はあったが、真っ直ぐな男であった。サイボン局長殿とはそんなに付き合いは深く無かったが、俺の就任歓迎会で“あと数年で退官となるのでこのサラ()管理局が最後の御奉公になる”と笑っていたのが思い出される。そのふたりがつい今しがた目の前で巡検隊によって首を刎ねられたのだ。


 ラン兄から事前にこんな事は何も聞いていなかった。ただ俺が皆の前で辞意を示し、その後でラン兄が皆に口止をしてそれで終わりのはずだったんだ。それが……。ああ、さっきの光景が頭から離れない。必死に何かを訴える様に首を振りながら手枷をされた両手を上下させていたサイボン局長殿。さるぐつわをされた口から必死に唸り声を上げながら、両目を見開き最後まで俺を見つめていたグルア……。俺はグルアの声を聞くべきじゃなかったのか? だが俺はあまりの驚きに何も出来なかった。俺を見つめたまま後ろから首を刎ねられたグルア。あの一瞬、全ての情景が色を失いまるで何枚かの炭絵を見たかの様だった。ロングソードの刃が日の光を受けて光る。音もなくグルアの頭が地に落ちる。首から吹き上がる血の奔流。地を何回も何回もまるで永遠の様に転がる頭。最後に見たのは俺の正面で止まったグルアの顔だ。グルアが光を失った虚ろな目で俺を見上げた。あの光景は多分一生忘れる事はできまい……。


 なんだか何にも判らないまま、いつ間にかラン兄と一緒に独立警備隊の隊長室に戻っていた。ラン兄が何も云わずに隊長室にある応接用のソファに座る。なぜか巡検隊の副官も従士もついて来ていない。俺の副官は隊舎前で物云わぬ死骸となっているし、昨日からは俺付きの連絡士も居ない状態だ。今隊長室に居るのはラン兄と俺のふたりだけだ。


「ビタ。座れ」

「兄上……」

「まぁ、いいから座りなさい」

ラン兄の顔はいつもと同じでひとを安心させる様な柔らかい表情だ。そのラン兄の声に促されるまま、ラン兄の向かい側に座ったけど、正面からまともにラン兄の顔を見る事ができない。俺はラン兄を恨んでいるのか、自分を恥じているのか、自分自身の気持ちが全く判らなかった。


「ショックだったようだな」

「……」

正直何を云っていいのか全然判らない。俺はラン兄を声高に非難すべきなのか? そんな事できるハズがないけど……。


「だが、辛いだろうが全て真実なのだ。受け止めなさい」

「……」

「賊を追い詰めた時に、奴らから奪った荷持の中からこれが出たきた」

ラン兄が数枚のパピス(パピルス)を腰に吊るした布袋から出すと俺に手渡した。云われるままにそのパピス(パピルス)に目を落とす。そこには守備隊の警備情報やスピシエデフルド・サラ内部の情報が事細かく記されてあった。


「さっきも云ったが、お前が守備隊隊長となり父上も心配になったのだろうな。父上の指揮の下セキア鎮守府では、以前から善からなぬ噂のあったスピシエデフルド・サラについての内偵を行っていたのだ。その結果浮かんだのあのふたりだった。初めは単なる汚職・不正と思われていたのが、なんとそこからスピシエデフルド・サラ襲撃計画の情報を掴んだのだ」

「……」

「グルア・ミンシャムは、守備隊勤めが長すぎるとしきりに周りに零していたが、実は聖王騎士団に入りたがっていた様だな。その為に15貴氏の何家に働きかけていた。一介の騎士が用意できる様なものでない贈答品や付け届けが頻繁に成されていた。その金をどこから得ていたのかな」

「グ、グルアがそんな……」

「サイボン局長は、来年退官のハズであったな」

「はい。そうです」

「奴はどうやら、最後にドメンスル(領地執政官)就任を狙っていた様だ。その為にサラ()の闇取引を行い巨額の資金を得ていた。その金で司府の中に協力者を作っていたようだが、どうもその秘密を今回の襲撃犯に連なる者に握られたようだな。その結果奴らに内通した」

そんな信じられない、しかし確かに今目の前にあるパピス(パピルス)に記されている特徴的な文字にははっきりと見覚えがある。これは間違いなくグルアの文字だ。


「ビタよ、お前に一切知らせずに突然処断した事は謝る。この通りだ」

「ラン兄さん……」

ラン兄が俺に向かい深々と頭を下げる。もうショックの連続で頭の中がグチャグチャだ。


「もし事前にこれを話せば、敵に察知される恐れがあったのだ。お前を疑った訳じゃないが、お前は隠し事のできぬ男だ。わかるな?」

「はい……」

「もう少し早く動いておれば、本当に襲撃そのものを防げたハズだったがそれも出来なかった。ほんとに済まなかった」

またラン兄が俺に向かい深々と頭を下げる。そんな姿を見て心の底からやっぱりラン兄に全てを任せて良かったと感じた。


「兄上。頭を上げて下さい。事情は判りました。自分がまんまと騙されていたのが恥ずかしい限りです。今回の対処ありがとうございました」

「そうか、判ってくれたか」

「はい。兄上と父上の配慮に感謝致します」

そうだラン兄と父上はいつだって正しいし俺の味方だ。クソッ、グルアの奴あんなに仕事熱心のふりをして裏でそんな事をしていたのか。だから襲撃犯の人数を20人とか云って、捜査を混乱させたんだな。さっきの最期のあの目付きも俺を騙そうとした欺瞞だったんだな。あんな奴の事はもう綺麗サッパリ忘れてやる。ああ、なんか気持ちがスーッと軽くなったな。


「父上はお前を、鎮守府に呼び戻すつもりだ。今度の事でハソチフ(百士長:中佐)への昇進は無くなったが、まぁ、鎮守府で2~3年勤めればお前の事だ、直ぐにハソチフ(百士長:中佐)レハソチフ(正百士長:大佐)に成れるさ。心配するな」

「はい。心配しません」

今回初めて父上やラン兄の処から飛び出したが、そうだやっぱり父上の処が一番みたいだな。大丈夫、また鎮守府で頑張ればいいだけだ。それに王都の方が食い物も旨いし、酒場も多いしな。正直王都に早く戻れるのは嬉しいかもだな。うんうん、そうと決まったら荷物の整理を始めないといけないな。あれは大きいが是非とも王都へ持って行きたいな、それに……。


「おい、ビタよ。荷物整理の算段よりも、まずは報告書と辞表を書けよ」

「はい……」

「まぁ、報告書は巡検隊の方で大方は書いてあるから心配するな。お前は辞表を作法通りに書く事だけを気をつけていろ」

ラン兄には敵わないな。なんでもお見通しだ。それに報告書まで準備して呉れるのか、ほんとにありがたい。今度は俺がラン兄に深々と頭を下げる。良かった、良かった。これで一件落着だ。ほんとに良かった。俺の前途も安泰だ、ああ、モレラ(運命の女神)に祝福あれ。






~ダイタス・ギュント・ホルミアからの視点~

 スピシエデフルド・サラで何かが起こってから、5日目にやっと、スピシエデフルド・サラ、サラ()管理局の副局長からの報告があった。それによると、5日前スピシエデフルド・サラで酒に酔った府員補(臨時職員)の不始末で小火があり、その小火でサラッド(家馬)が逃げ出したらしい。たまたま馬柵が修理中でサラッド(家馬)が数頭、スピシエデフルド・サラの外に逃亡した……。


 ただしその逃げ出したサラッド(家馬)は、白虎騎士団セキト鎮守府、巡検隊の協力もあり、全て捕獲回収に成功したとの事。しかしこの小火でその原因を作った府員補(臨時職員)と、逃げようとしたサラッド(家馬)を阻止しようとした独立守備隊の隊員の3人が死亡。この責任を取り独立守備隊の隊長が辞職を申し出る。小火の原因はあくまで事故であり、小火を起こした本人も死亡し、逃げ出したサラッド(家馬)も全て捕獲回収された事もあり、独立守備隊、巡検士隊共にこれ以上小火の責任追求はしないと云う事だ。小火の原因が府員補(臨時職員)にあったので、報告が憚かれれて遅くなったとの丁重な侘びの文句が最後にあった。


 何故、副局長からの報告なのかが、まず気になるのう。確かに内容は一見理路整然としておるが……。ふむ、まぁ、上手くできた台本の様であるな。しかし逃亡サラッド(家馬)を阻止しようとして3人の守備兵が殉死? それはちょっと無理があるであろうよ。小火の原因が酔った府員補(臨時職員)だと? これも怪しいものだな。それにそもそも何故小火程度の事故で巡検隊が駆けつけるのだ。ほんとは何があったのだ? これでは何も判らなんな。そうだ、巡検隊が絡んでいる以上、鎮守府に問い合わせるも一興かもしれんな。あのモートス伯爵がどんな答えを寄越して来るか楽しめそうだな。だが今は微妙な時期でもある……、もうしばらく様子を見るか。




 翌日、再びサラ()管理局の副局長からのグスワ(大燕)便が届いた、しかも今度は赤書缶でだ。第一報が普通便で第二報が緊急便だと? 順序が逆ではないか? なになに……。スピシエデフルド・サラ襲撃の恐れあり? 何部に内通者ありだと? しかもそれが管理局局長のニールエリア・サイボンと守備隊副長グルア・ミンシャムだと? ふたりはあと2人の内通者と共に逃亡を計り抵抗した為、巡検隊により即座に処断されただと? 巡検隊は鎮守府が行っていた内偵に基づき、守備隊隊長の許可の許スピシエデフルド・サラに派遣されていた? なんだこの下手な台本は……。


 たまたま巡検隊が捜査に来た時に小火が起きて、それで見事に内通者を摘発して即座に処断だと? 誰が聞いても直ちに裏があると思うであろう。そうかだから副局長が連絡して来たのか……。一報も副局長の物であった処を観ると、彼の者は既に巡検隊……、いやモートス伯爵側に取り込まれておるな。それに管理局局長と守備隊副長を処断したのだ。多分見せしめとして全員の目の前で殺したのだろう。これでは守備隊の隊員も府官(役人)も府員補(臨時職員)も簡単には口を開かんな。


 ここまであからさまでは、裏を探らん訳にはいかんな。どうするか府官(役人)は皆わしの部下だ、自分の部下を締め上げるなどはもっての他だ。まずは府員補(臨時職員)であるな。しかしそれではそれほど深い処までは見えんであろうな、攻め手は独立守備隊か、巡検隊であろうな。まぁ、この時期巡検士を攫うのは少し問題があるか……。痛くもない腹を探られる事になりかねんからな。


「マナリこれを読んでみろ。なかなか面白い読み物だぞ」

グスワ(大燕)便を、いつもの静かな眼差しで執務机の脇に立っていたマナリに手渡す。しばらくそのパピス(パピルス)に目を通していたマナリが口を開く。


「確かに面白い読み物ですが、書き手は2流ですな」

「2流かの?」

「ええ、どうしても後付感が漂いまする」

「そうであるな」

「無様なやっつけ仕事でございます」

「そうか、無様か……、しかし局長と府員補(臨時職員)が3人死んでおる、ただ笑って捨て置く訳にもいかん。マナリ、管理局局長のニールエリア・サイボンについて洗ってくれ」

「御意」

マナリが何時もの様に静かに右腕を胸に付け腰を折った礼の姿勢のまま部屋を下がる。


「ナルス」

ナルスはいつ如何なる時でもどこかにおる。返事はないが確実にわしの声を聞いている。


「スピシエデフルド・サラの件の事実が知りたい。独立守備隊に手を回せ。詳しい事はマナリから聞け」

「お急ぎか?」

細かい事はマナリとナルスに任せて大丈夫だ。あとは結果を待つだけだ。直ぐにナルスの声が耳許で聞こえて来る。つまり手荒くやっても良いか? と云うことだ。


「それほど急ではないの。1ラウド(10日週)程時を掛けてよいぞ。例の件もある伯の周りには手を出すでないぞ」

「承知」

これで多分人死はでないじゃろうて……。エタンダント・グル・モートス伯爵よ、伯はわしの部下を殺したようじゃが、わしは今回は殺しはせんぞ。そうじゃ、わしはひとが云うほどには残酷ではないのだ。だがのぅ、わしは必ずわしの部下を殺した伯を後悔させてやろうぞ。


 さて、わしはふたりの調査が終わるまでサラ()管理局の局長の人事をどうするか考えるか。モートス伯側に取り込まれた副局長をそのまま昇格させる訳にも行くまいて……。モートス伯よ、まこと不要な面倒事を起こして呉れるものじゃな。人事程難しい仕事はないのだぞ……。





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