15.錯綜する思惑③
~ソチフ、ライダ・ナフォルガからの視点~
スピシエデフルド・サラ独立守備隊の隊舎前は危険な緊張感に漲っている。独立守備隊の連中が周りを取り巻く巡検隊の連中と睨み合う。俺はゆっくりと守備隊の集まりの中心部分に後ずさりしながら移動を始める。お前らには悪いが、もし何かが起こった時には俺の盾になって貰うぞ。
「隊長、しかし賊を倒せたのも奪われたサラッドを確保できたのも、全ては独立守備隊隊長のビタダント・グル・モートス殿のご活躍があったからこそでありました。その功績を全く無視して死を与えるのは、些か酷ではありませんか?」
巡検隊隊長の脇に立つ副官と思われる若い巡検士が口を開いた。お、それだよ。それ。それが昨日の筋書きだったよな? 最後のサラッドを生きて捕獲できたのは、俺らが隊長様の手柄なんだよな。そーいう筋書きだったよな。その線で噂話しを流したんだからよ。思わずを耳を傍立てるが、それでも油断はしない。周りを囲んでいる巡検士の中で弱そうな奴の当たりを付ける。
「確かに独立守備隊の警備体制に不備はありました。しかしその後の捜索を行う真摯な態度や、ビタダント隊長殿のご活躍。それに3人の尊い犠牲。幸いにも逃亡したサラッドは、全て生きて捕獲回収しておりますれば、小官としてはここで将来ある将兵の命を奪う事は忍びないと考えますが……」
当たり前だろう! ホントは死んでたとは云えサラも戻ってきたのに、なんで殺されなきゃならんだ!
「だが、過去に一度も盗難を許した事がない、このスピシエデフルド・サラでこのような事件があった事実だけでも、重大な事件である。やはり独立守備隊隊長を初め、独立守備隊全員で責任を……」
「モートス巡検隊隊長殿! 意見具申であります」
なんだ? あの昨日の巡検士隊長付きの従士が、隊長さんの言葉を遮ったぞ? やっとアレを云う積りか?
「なんだ? 良い申してみよ」
「隊長がおっしゃる通り、全てのサラッドは回収しております。しかも賊共も全て殲滅しております。問題は全くありません。つまり……」
「つまりなんだ?」
おお、そうだそうだ。だんだん昨日の筋書きになってきたぞ。独立守備隊の連中も唾を飲んで次の言葉を待ってるぞ。おい、早く続きを云えよ!
「侵入者などいなく、そもそも襲撃事件などなかったのではないかと?」
その言葉に隊舎前の集まった全員の視線が、一斉にその従士に集中する。
「確かに小火騒ぎはありました。そして不幸な事に修理中の馬柵を越えて何頭かのサラッドが逃亡しました。しかしそれは独立守備隊の活躍に依って、全てが生きて確保されました」
隊舎前に居る1000人近い人数がこの話しの続きを待ってシーンとなる。
「管理局の方に尋ねるが、過去にサラが逃亡した事件はないのですか?」
「1000年の歴史の中では何回か、その様な事が起こっております」
「その逃げたサラは回収されたのですよね?」
「はい。全て回収されております」
「その時に下された処罰はどの様なものですか?」
「減給と謹慎が主な処罰です」
昨日の巡検士隊長付きの従士と、司府のサラ管理局の副局長が静まり返った聴衆の中で言葉を交わす。
「では小火はどうですか?」
「ええ、それは結構起こっています。なんと云っても乾燥させた飼い葉は火が付き易いものですから……」
「その時の処罰は?」
「やはり減給と謹慎です」
「判りました。ありがとうございます。モートス巡検隊隊長殿、今の話しにもある様に、サラが逃亡する事や、小火騒ぎはままある事なのです。今回は不幸な事にたまたまこのふたつが同時に起こりましたが、サラッドが無事戻って来た以上、これら過去の事件となんら変わらないのではありませんか?」
「しかしそれでは……」
巡検隊隊長さんが、なにか迷った仕草で言葉を云い淀む。すると隊長さんの隣に立つさっきの副官が、なにやらチラチラとこちらを伺い見ている。ああ、そうか、そうか、判ったぞ! 俺の役割が見えたぜ!
「そうです! 小火はありましたし、サラッドの逃亡も有りました。でも襲撃なんかはありませんでした。俺はこの4日間、守備隊隊長の連絡士をしていましたが、そんな襲撃の話しなんか一言も聞いておりません!」
「小官は守備隊の副長を務めておりますが、小官も小火騒ぎとサラッドの逃亡騒ぎは認識しておりますが、盗賊による襲撃騒ぎ等は知りません。これはそれほど良くある事ではないですが、かと云って大騒ぎする程の事でもないのです」
まず俺が大声で訴えると、続いてNo2のグルア・ミンシャムが声を枯らして必死の形相で訴える。この俺達の声を聞いた周りの連中が、次第にざわついて来るのが判る。
「モートス巡検隊隊長、皆もこう云っております。どうでしょうか、なんらの損失がない以上、いたずらに騒ぎを拡大して、あたら有能な独立守備隊の諸君の命を散らすのも、如何なものかと愚考致しますが?」
巡検隊隊長さんの隣に立つ副官の若い巡検士が言葉を続ける。おお、そうだ、そうだ、愚考でもなんでもしてくれよ。頼むよランダントさんよ。俺はこんな詰まらん事で死にたくねぇし、巡検士殺しでお尋ね者になるのも御免被りたいぜ。周りの連中の視線が巡検隊隊長に集中し、固唾を飲んで次の言葉を待っているのが伝わって来る。
「……う~~む、独立守備隊隊長ビタダント・グル・モートス殿。貴殿はどう考えるか?」
「あ、あ、ああ、じ、自分の処分は如何様にも、お、お決め下さい。し、し、しかし部下の命だけは……」
「うむ、あいわかった。この一件このランダント・グル・モートスに預けて頂けるか?」
「はっ」
ちょっと俺らの隊長様の台詞が読みチックだったが、そんな事はどうでもいいぜ。
「諸君らも、それでよろしいか?」
「「「「「「「「「「はっ」」」」」」」」」」
よしっ、見事にハモったなっ!
~エタンダント・グル・モートス伯爵からの視点~
ランからのグスワによると、スピシエデフルド・サラ襲撃事件そのものを握り潰す方向で話しは進んでいるとの事だ。エデフルド・サラ独立守備隊の連中は、事件の当事者だから喜んで口を噤むだろう。問題は司府の府官の30人に、府員補(臨時職員)の300人だな。それにスピシエデフルド・サラの騒ぎに巡検隊が首を突っ込んだ事も上手く説明せなばな。やはり予定通り守備隊と府官か府員補(臨時職員)から生贄を出すしかあるまい。まぁ、嫌な事じゃが仕方あるまいて。口封じの見せしめにもなるし、巡検隊の介入の口実も必要じゃからな。それに事実を知る者を減らす事も必要な事じゃ。この話しもビタ(ビタダント・グル・モートス)には出来んな。やはりランは清濁併せ飲む器じゃな。それにどうやら何人かこの様な事にも使える腹心もランにはいるようじゃな。安心して任せておけようと云うものじゃ。
~ソチフ、ライダ・ナフォルガからの視点~
次の日の朝には再び巡検隊からの集合命令が掛かった。その命令に従ってゾロゾロと隊舎前に集合する。昨日と同様に俺達は丸腰の平服だ。そして完全武装の巡検隊に取り囲まれている。ただし俺は懐にナイフを2本忍ばせているがな……。多分他にも何人かは同様な事だろう。実は昨日の集合から今までの間、俺達独立守備隊と府官と府員補(臨時職員)の全員は隊舎と局舎に軟禁状態だった。今スピシエデフルド・サラは、完全に巡検隊連中に支配されている。どうやら夕方には応援の巡検隊が到着したらしく完全武装の連中が物々しく隊舎の包囲していた。昨夜一部の連中が力ずくで脱出を計画していたが、その巡検隊の増員振りを見て諦めた様だ。ああ、助かる可能性がある以上、軽挙な暴発は良くない俺もできるだけ説得に回ったもんだ。それにイザと云う時の盾は確保して置かないとだしな。
全員が集合した事を確認してから、ゆっくりと巡検隊隊長さんが俺らの隊長様を引き連れて登場して来た。俺的には昨日の話しの流れからそんなに心配はしてないが、周りの連中はビクビクもんだ。だからか昨日と違い隊舎前は最初から静まり返っている。時々巡検隊の連中の鎧の擦れる音が聞こえるだけだ。さぁ、こんな事は早く終わらせてくれ。
「ガダスシアプ。諸君」
「「「ガダスシアプ」」」
あまり威勢のいい返事じゃないが、何人かが巡検隊隊長さんの声に反応を示す。俺は当然多数派の沈黙組に同調した。なぜって? そりゃ、基本目立たない事こそが生き残れる道だからだ。
「さて、諸君今回の事件だが、我ら巡検隊としては、これはあくまでスピシエデフルド・サラ内の事件であると判断した。したがってその事件のあらまし、責任の所在については全て、独立守備隊隊長の判断に一任する事とする」
この巡検隊隊長さんの言葉に明らかにホッとした空気が辺りに漂う。俺としても予想の範囲ながらも胸が下りる気持ちになる。俺らの隊長様一任なら大丈夫だろう。俺らの隊長様は無能だが、悪辣とか非道とか云うのとは縁遠い男だ。ある意味いい男である事は周知の事実だからだ。だがこの巡検隊隊長さんは俺らの隊長様に比べると少し悪辣だな。これってのは全責任を弟に引っ被せたって事だろう? もしなんかあっても巡検隊は知らぬ存ぜぬって事だよな。どうもあんまり似てない兄貴なんだな……。
「さぁ、ビタダント・グル・モートス殿どうぞ」
「あ、あの……、じ、自分は、こ、今回の小火と逃亡騒ぎの責任を取り独立守備隊の隊長を、じ、辞職する。これ以外は今回の小火と逃亡騒ぎの責を問わない事とする」
巡検隊隊長さんに代わりに俺らの隊長様が昨日に続き、棒読みチックな台詞を吐き出す。まぁ、かなり不自然な感じだがなんと云っても問題は内容だからな。これで、一件落着なら御の字だ。
「諸君、理解していると思うが、今回の事件は単なる小火騒ぎと、修理中の馬柵を越えて何頭かのサラッドが逃亡しただけの事件である。しかも逃亡したサラッドは全て生きて捕獲回収されており、大きな問題は発生していない。宜しいな?」
おう、宜しい、宜しい。俺らの隊長様にはチト悪いが、これで幕引きとしようぜ。巡検隊隊長さんが、ゆっくりとこっちを見渡す。誰も声を出すことは無い、そうそう、沈黙とは了解を示すもんだ。
「うむ、どうやら全員に納得して貰えたと理解する。さて、話しは変わるが我ら巡検隊がなぜここスピシエデフルド・サラにいるかだが……」
ん? 今度はなんの話しだ? あんたらがここに居るには襲撃犯への対応の応援だろう? ああそうか、襲撃犯なんか居なかったのか……。そりゃ、確かに単なる小火騒ぎに、わざわざ巡検隊が駆けつけるハズがないよな。
「実は、セキト鎮守府では以前よりスピシエデフルド・サラ襲撃の計画についての内偵を行ったおったのだが、今回終にその確証を押さえたのだ。そこでスピシエデフルド・サラ襲撃を未然に防ぐ為に、独立守備隊隊長の了解の許今回の行動に出たのである。おい、連れて来い」
その声に応じて隊舎の影から、手枷足枷にさるぐつわ姿の男達が巡検士に曳かれる様にして現れた。これはなんだ? あれは……。巡検士が曳いて来た男達を、巡検隊隊長さんの前に乱暴に跪かせる。分厚い木の手枷を神に祈る様に巡検隊隊長に向かって捧げる奴もいる。
「この者共は、恐れ多くもセキニア王国の秘宝とも云えるスピシエデフルド・サラに襲撃を企ていた者共と内通していたのだ。これは今回の我らの現地調査で間違いない事実と判明した」
「ラン兄……」
「ビタ辛いかも知れんが今は黙って見ていろ。この件はあとで説明する」
さるぐつわ姿の男達は巡検隊隊長のこの断罪の声に一斉に目を見開き激しく首を横に振る。な、なんだこれは……、こんな話しは聞いちゃいないぞ。俺らの隊長様が青褪めた顔で、隣に立つ巡検隊隊長と何やら言葉交わしている。どうやら俺らの隊長様も何も知らないようだ。
「この4人は、スピシエデフルド・サラが襲撃された時に内部からの撹乱をする予定であったのだ。スピシエデフルド・サラ独立守備隊副長、テソチフ、グルア・ミンシャム、貴殿は襲撃があった時には、その襲撃内容や逃走方向について誤った情報を流し、捜索を混乱させる予定であったな。そして司府のサラ管理局局長、ニールエリア・サイボン、貴殿は馬舎での仔馬の飼育情報を襲撃犯に流しておったな。残りの府員補(臨時職員)のふたりは襲撃があった場合、火付けの手助けをする予定であったな」
さるぐつわから漏れだすくぐもった呻き声、目を大きく開き必死に首を横に振り、手枷をされた両手を激しく上下させ全身を使って否定を現す4人。
「見苦しい! 全ての目論見は既に明白である。やれっ」
その一言で、跪く4人の男達の背後で巡検士達がロングソードを鞘から抜くとギラギラした白刃を大きく振り翳す。
一刀で首を払われた4人の死骸が、自らの首から噴出した血だまりの中で身を赤く染めて横たわり、濃く生々しい血の匂いが辺りに漂う中で巡検隊隊長が言葉を続ける。
「この4人は、あったかも知れない襲撃の内通者であった。本来ならば王都で裁きを受けるべきであるが、そうなった場合、あの単なる小火騒ぎについてある事無い事、妄言を吐くかも知れす、それは諸君にとってもあまり望ましい事とは思われなかった……。よいか、この内通者共は、事が知れると逃亡を計り我らに抵抗した。そこで仕方なく我らが切り捨てたのである」
水を打ったかの様な静寂の中、巡検隊隊長の言葉が続く。俺の背中はさっきから冷たい汗が止まらない。
「よいか? もし今回の件を漏らす様な輩がおれば、それはこの者共同様に、賊の内通者であったと見なし我ら巡検隊が必ず処断致す。この件について決して口にするな。この件は墓場まで持っていくのだ。宜しいな? それでは解散!」
この言葉を残して巡検隊隊長は身を翻しこの場を去っていった。俺らの隊長様もぐったりと項垂れてその後ろに従いていった。巡検士達が首なし死体と、近くに転がるさるぐつわのままの首を片付け出す。この場に残された俺達のほとんどは呆然としたまま立ち尽くしている。そんな中俺の頭はもの凄い勢いで回っていた。
あいつらは、ほんとに内通者だったのか? 確かにグルアは襲撃犯の人数を無茶苦茶いったし、捜索の方向をスピシエデフルド・サラのサライラに決めつけたりしたが、あれってのは単に馬鹿だからじゃないのか? サラ管理局局長のニールもなんか収賄とかの噂はあったが、それって局長レベルの府官なら当たり前じゃないのか?
多分、いや間違いなくこれは秘密を守る為の見せしめだな。もし秘密を漏らせばって事だ……、独立守備隊の副長とサラ管理局の局長が目の前で殺されたのだ、誰でもこれで事の重大さが判っただろう。しかもそれに加えて俺達はもう独立守備隊の副長とサラ管理局の局長殺しの共犯になっちまったって事だ。秘密を漏らせば巡検隊にも狙われるが、事が公になれば王国からも追われるだろう。それに巡検隊がここにいる理由も出来たって訳だ。確かに上手い手だ。
それよりも問題なのは、最後に見つけたサラッドが実は焼かれて殺された事を知ってるのが、巡検隊の連中を除くと俺に、隊長様に、No2のグルアと、局長のニールのハズだけって事だ。俺はあの日、あの巡検士から埋めたサラッドは病気で死んだ様に書類上なるって話しを聞いていた……。そんな事できるのは局長か副局長のどちらかだけだろう。つまりさっきのは見せしめでもあるが、口封じでもあるって事だ……。まかり間違えば俺の首があそこに転がっていたって訳だ。これはマズ過ぎる状況だ。さすがに弟には手を出さないだろうが、俺にはなんの保障も後ろ盾もない。多分あの噂を流す役割があったから今回は見逃されたんだろう。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイぞこれは……。
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