14.錯綜する思惑②
~ソチフ、ライダ・ナフォルガからの視点~
なんだ、なんだ、巡検隊が来たかと思ったら、急にドンドンと話しが進みだしたな。まずは現場検証班と捜索班が出来た。現場検証班は巡検隊の連中が占めているけどな。現場検証班には、あの時現場に居た連中が何人も呼ばれて聞き取りされている。その結果どうも巡検隊では襲撃して来た連中を4~7人と見てるらしい。ああ、そうだ、たぶんそれが正解だな。さすが普段から色々なトラブルに対処してる巡検隊だな。
捜索班の方は、捜索担当地区を決めた上で遠方から騎兵がこちら側に向かって、近場は歩兵が外側に向かってしらみ潰しに捜索している。その上で部隊の中から猟師上がりの兵士を集めて、サラッドの足跡を追う捜索もさせている。これもさすがな指揮ぶりだ。ただスピシエデフルド独立守備隊も含めて全指揮を巡検隊の連中が取っているのはどうなんだ? 確かに巡検隊の隊長さんは、レハソチフで、俺らの隊長様より2つも偉いが、あっちはセキア鎮守府の配下だろう? こっちは軍令本部直属だから指揮系統が全く違うはずだ。こんなにへいへいと云う事聞いていて後で問題になんないのか? 指揮権問題はってのは大抵跡を引くもんだぜ。同じ白虎騎士団だから良いって事じゃねぇだろうしよ……。
ただ向こうの隊長さんは、間違いなく俺らの隊長様より有能な事は間違いないな。アレは単なる貴族のボンボンとは違うみたいだ。有能なだけでじゃなく、確かにカリスマな感じはするな。巡検隊の騎兵からも信頼されているみたいだしな。ああ、できればあんなヒトに隊長して欲しいもんだ。ただちっと気になるのは、あの隊長さんがどこか俺らの隊長様と面影が似てる処かな?
襲撃から2日目、巡検隊からの連絡では逃げ出したサラッドのほとんどが発見されたらしい。やったな。これで一応は騒ぎは収まるか……。おっと巡検隊の隊長さんからの命令だ。あ~あ、今度はなんの命令だよ、俺はこの3日間ほとんど寝てねぇんだぜ。もう勘弁してくれよ……。ってか、俺はあんたの部下じゃないだぜ。はいはい、俺らの隊長様とNo2様への命令の伝達ですね。了解ですよ。えっと、あのふたりは確か自室で休憩中だったな。現場の仕事は俺らと巡検隊任せとは、なんていいご身分なんだ。たくマジに涙が出てくるぜ……。
~ビタダント・グル・モートスからの視点~
平原の所々にあるブッシュの中でもここはかなり大き目なブッシュだ。今ここに居るのは、ラン兄(ランダント・グル・モートス、白虎騎士団、レハソチフ、エタンダントの長男)と巡検隊隊長付きの従士が2名に、俺、そして俺付きの連絡士ソチフ、ライダ・ナフォルガと、独立守備隊No2のテソチフ、グルア・ミンシャムの合わせて6名だけだ。
「襲撃犯をなんとか発見はしたが、残念な事に捕獲までは至らなかったのは、このランダント・グル・モートス断腸の極みだ」
ラン兄の血糊がべったりと付いたロングソードのすぐ傍に、焼けてほとんど炭になっているサラッドの仔馬の死骸が横たわっている。なんでも襲撃犯からサラッドを奪い取ろうとした時に、奴らは人質(馬質?)としていたサラッドに種油を掛けて火を放ち、ラン兄達にけしかけのだ。そしてラン兄達が、その火を消そうとした隙に逃亡したらしい。クソッなんて卑劣な連中なんだ。
「ランダント隊長、だが我々は最後のサラッドを取り戻したのです。これこそが最大の成果であります」
巡検隊隊長付きの従士のひとりが大声で意見を云う。そうだその通りだと俺も思う。ラン兄がまた俺を救ってくれたのだ。やっぱり全てを任せて正解だった。
「しかし申し上げますが、サラッドは国の宝であります。それが焼き殺されたとあっては、只では済みません。どうしたって司府のサラ管理局から厳しく責任の追求をされる事になります」
「グルア殿、それは正しいですな。だがその場合、全ての責任はスピシエデフルド・サラ独立守備隊の物となりまそうぞ」
グルアは俺よりも独立守備隊の経歴は長い。だからサラッドを失った場合の追求の厳しさを良く知っているのだろう。その声がわずかに震えているのが判る。更に巡検隊隊長付きの従士の声でグルアの顔が真っ青になる。そうだサラッドが殺されたとあっては、なんらかの責任を取る必要があるのだ。
「ビタよ。どうだお前、責任を取る覚悟はあるのか?」
「兄上、じ、自分は……」
言葉が続かない。でも俺もモートス伯爵家の一員だ。それ位の覚悟はある……。いや、なきゃいけないんだ。
「ある……。あ、あります」
「隊長……」
喉から声を振り絞る、お腹がキューっと成るのが判る。全身から冷や汗が出てくる。グルアがそんな俺を不安気な目でみる。グルアよお前も独立守備隊No2である以上、俺と一緒に責任を取って貰うぞ。
「ビダよ。いい覚悟だ。どうだ? この件の処置は私に一任して貰えるか? 宜しいかな? グルア・ミンシャム殿に、ライダ・ナフォルガ殿」
「「はっ」」
ラン兄に一任する事に反対なんぞありはしない。大きく頷いて見せる。残りのふたりも声を合わせて返事を返している。
「それと判っていると思うが、処置が決定するまでこの件については一切口外無用。宜しいな?」
「「「はっ」」」
俺も思わずラン兄の厳しい声に返事をしていた。するとラン兄が厳しい表情で周りを見回しながら、巡検隊隊長付きの従士の耳に何事かを囁く。その従士が何度も頷いている。その話しが終わるとラン兄はザッと身を翻し、もうひとりの巡検隊隊長付きの従士を従えてブッシュの外へと歩んで行く。俺はどうしていいか判らず思わずグルアと顔を見合わせる。
「さっ、後は任せて隊長は隊舎に戻って下さい」
「あ、ああ、判った。任せたぞ」
すると連絡士のライダが後ろから小声で囁く。さすが古参兵だ何事にも動じてない。一体何を任せたのは自分でも判らないが後は任せよう。
「グルア戻るぞ」
「はっ」
ラン兄の後を追う様にブッシュの外へと向かう、背後では先程の巡検隊隊長付きの従士とライダが残って何やら話しをしてる様だ。もうなんだ判らないが、きっとラン兄がまた俺を救ってくれるハズだ。そうだ、いつでもそれが正しかったじゃないか。
~エタンダント・グル・モートス伯爵からの視点~
ラン(ランダント・グル・モートス、白虎騎士団、レハソチフ、エタンダントの長男)からの報告によると、賊は最小で4人、最大で7名、たぶん5人と思われるか……。秘密裏に国境を超えてスピシエデフルド・サラまで侵入したのだ妥当な処じゃな。スピシエデフルド・サラの周辺に数日以上潜み、充分な準備をした上で侵入した模様。斃された独立守備隊兵士3人の傷跡は、ほぼ同一の槍の傷跡だとの事、恐るべき敵だと、ランも書いておる。後司府の府員補(臨時職員)が1人殺害、これも首に見事な槍の跡か……。牧場にクュマ(大獣猫:ピューマ)の糞、その上逃げ出したサラッドの首にもクュマ(大獣猫:ピューマ)の糞か……。実行犯としては逸れフェルムの可能性が高いか……。だが背後に族長国があるんじゃろう。真に面倒な事をしてくれたな。
馬舎に火を放ち逃亡させたサラッドが22頭。2日後にはその内なんとか21頭を捕獲……。だがこの21頭は全て囮じゃな……、0歳の去勢前の仔馬が1頭未発見。これが盗られたサラッドじゃな。すでに侵入から3日目、サラッドが逃げ出したスピシエデフルド・サラのイラ方面、サラ方面を探索したが、結局何者も発見できず……。つまり賊は、巡検隊がスピシエデフルド・サラに駆けつける事を見越して、警備が手薄になったスピシエデフルド・サラのウラ方向、つまりこの王都セキト方向へ逃亡したのじゃろう。クッしてやられたわ! この相手は腕も立つがどうやら頭も切れる。一筋縄ではいかんようじゃ。すでに襲撃から3日目の夜だ。ここまで事を隠して来た以上、もはやサラッド盗難を公には出来ぬ。となると表立ってセキト周辺の捜索も出来ん。さて、どうするか……。
ん? とりあえず不明のサラッドの仔馬は賊が焼いたと見せかけた? 身代わりのポニを焼いて埋めたじゃと……。ランよ、さすがだな、お前はほんに頭が切れる。よしよし、では後はこのスピシエデフルド・サラ襲撃事件をどう決着つけるかだな……。ふむ、それしかあるまいか、我がモートス家を守る為じゃ、独立守備隊と府官には犠牲に成ってもらおう。ランに了解したとの返事を認める。結局はビタ(ビタダント・グル・モートス)も騙すしかあるまい。それがいいじゃろ。ビタは馬鹿だが真っ正直な男だ。秘密を守るとか、陰謀とかには向かん男じゃ。可哀想じゃがそれで致し方あるまい……。
~ソチフ、ライダ・ナフォルガからの視点~
やっと昨夜4日ぶりの眠りと、まともな飯しにありつけた。これで体調は万全だ。隊長様の連絡士役も交代したから今日は明けで休みでいいのか? そんな事考えていたら隊舎に非常呼集のお達しが告げられた。面倒な事だ。しかも装備なしで集合だと? なんだ?
集合場所であるスピシエデフルド・サラ独立守備隊の隊舎前に行ってみると、そこには独立守備隊と司府の府官に府員補(臨時職員)の全員が集まっている様だ。そのスピシエデフルド・サラ全ての者の周りをグルリと巡検隊の連中が取り巻いている。しかもこちらは平服の丸腰なのに、巡検隊の連中は完全装備の出で立ちだ。なんだ槍に縦長のスクエアシールドまで持ってやがるぞ。その物々しさに府官連中はだただたキョドってるだけだが、独立守備隊の連中はざわつき出してる。そらそうだな……。
「ガダスシアプ。スピシエデフルド・サラの諸君、私はレハソチフランダント・グル・モートス、白虎騎士団セキト鎮守府、巡検隊隊長である。諸君もよく判っていると思うが、この場で4日前に起こったスピシエデフルド・サラ襲撃についての顛末を説明をしたいと思っている」
この言葉で、ざわついていた守備隊の連中も潮を引く様に静まっていく。俺もここは静かに話しを聞こう。昨日判ったがあの巡検隊の隊長さんは、ランダント・グル・モートス。つまり俺らの隊長様の兄貴って訳だ。なんやらドタバタしてて名前なんか聞いてる暇なかったが、やはり似てると思ったのはそういう事だったのか。おい、兄弟なんだからここはひとつ上手く纏めてくれよ。
「今回のスピシエデフルド・サラ襲撃であるが、昨日逃亡中の賊を発見しこれを殲滅した。その上強奪されていたサラッドも捕獲出来た。これにより全てのサラッドの捕獲回収に成功した。これは真に喜ばしい事である」
この話しは既に守備隊の中では、派手に噂で流れているからあまり驚きはないようだな。うん、そうだ昨日焼かれたサラッドが、逃げ出したサラッドの最後の1頭だった。俺は俺らの隊長様の盗賊退治の大活躍と、サラッドを生きて取戻したって話しを、昨日の夜隊舎に戻ってから噂好きな数人に流したんだ。案の定その噂はあっと云う間にスピシエデフルド・サラ全体に広がったようだ。そして今改めて巡検隊隊長の言葉を聞いて周りから明らかにホッとする雰囲気が漂って来た。まぁ、そりゃそうだよな。もし逃したとあったらそれこそ一大事だったからな。
「今回の賊は実に巧妙で強かであった、その賊を取り逃がした事は巡検隊としても責任を痛感している」
ここで一瞬の沈黙。いやいや、あんた方は良くやったと思うぜ。
「さて、賊の捜索は今も我が巡検隊が続行しておるが、それとは別にスピシエデフルド・サラ内部の捜査により重大な事項が幾つか判明した。まずは誠に残念だが、スピシエデフルド・サラ独立守備隊の警備に明らかな不備が在った事だ。ひとつ馬柵の見回り間隔は不定期間隔で行うべき処を、完全に定時間間隔であった事。ひとつ去勢前の若駒の育成は中央部の馬舎で行うべき処を、外側の馬舎で行っていた事。飼い葉の乾燥小屋にも鍵をするべき処を開け放って居た事……。他にもあるが省略する、つまりこの賊の襲撃があわや成功しそうになった原因のひとつは、独立守備隊の警備の怠慢にあると云わざるを得ない」
ん? なんだ。なんか話しの方向が変な方向に行ってないか? 昨日の話しだと……。
「これは非常に重大な責任問題である。恐れ多くも王国の最重要機密を守るべき独立守備隊としてあるまじき事である。襲撃を許した独立守備隊の罪は重大である。スピシエデフルド・サラ独立守備隊隊長のビタダント・グル・モートスは、この責を死を持って償うと申し出ている。私もその申し出を了と考えている。そしてその場合、私は隊長の責は諸君らにも及ぶものであると考えている。諸君はスピシエデフルド・サラ独立守備隊1000年の歴史に泥を塗ったのだ、ここ居る全ての隊員は隊長と共に死を持ってその責を取るべきであろう」
この言葉に一旦静まっていた守備隊の連中が再びざわつき出した。そして府官と府員補(臨時職員)が、守備隊からジリジリと離れだした。マジかっ! おいおいおい、冗談は辞めてくれよ。話しが違うじゃんかよ! んん? なんか隊長様が真っ青になって唇を噛んでんぞ? お前、ほんとに覚悟決めたのか? だがこっちは覚悟なんか決めてないぞ!
おい、どうなってやがる? 俺は昨日あのブッシュで一緒にサラッドの死骸を埋めた、巡検隊隊長付きの従士の顔を睨みつけた。む、目を逸しやがった。マジか! するとザッと云う音と共に巡検隊の連中が一斉に盾を構えやがった。スーッと血が引いていくのが判る。クソッ冗談じゃねぇぞ、こんな処で殺されてたまるかよ。懐に手を入れそこに隠して持っていたナイフの柄を強く握る。グッと腰を屈めて周りの人影に隠れる。数人の見知った古株連中が同じ仕草をしてるのが判る。あいつらと連携すれば、巡検隊はせいぜい100人、騎乗もしてねぇし囲いの突破は可能だ。おいっ、俺を他の守備隊の同じに甘くみてんじゃねぇぞ。
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