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11.スピシエデフルド・サラ(王立馬種育場)襲撃①

 

 

~キニー・ノホク(黒鷹)・フェバオロからの視点~

 父の命令でポニ(群馬)を降りて歩きになってから3日、俺達は1日中ほとんど中腰で草叢(くさむら)の中で腰を屈め、身を隠しならが進んでいる。これは正直かなりキツイ、腰を伸ばす時は、草叢(くさむら)中で横になって伸ばすんだ。それに1日に進める距離もせいぜい3クク(15K)程度まで落ちている。どうしても気が逸り、3頭のポニ(群馬)、ポー、ニー、ツーが自由に俺達の周りで駆けたり歩いたりしているのが凄く羨ましくなってくる。


 だがついに草原の彼方、水平線の向こうから幾つかの建物が浮かび上がってきた。だがそこからは更に慎重に注意深く進む事になった。なかなかその建物に近づけないもどかしさに心が焦る。だが父と叔父は全く平然としたまま腰を屈めながら歩を進める。やがて少しずつ近づいて来たその建物、煉瓦の二階建てで横に長い建物が幾つも並んでいるのが見えた来た。そしてその建物からクク(5K)位の所に、ノルノル(ノル×2=3m)程の高さの木の柵が2重に巡っているの判った。うん、これは普通の村とかじゃない。間違いない、こここそが、俺達の目的地、スピシエデフルド・サラ(王立馬種育場)だ。






 フェバオロのギルラ(族長)、賢き者・オルナ・クイラド(高い雲)から渡されたベルピス(羊皮紙)によると、今目の前にあるスピシエデフルド・サラ(王立馬種育場)では、創始王セキニア・アグヴェントの命令でエスタ歴1963年にサラニム(野場)の種育を始めた。当然な事にこの冒険的事業には数々の反対があったらしいが、創始王は強引にこのスピシエデフルド・サラ(王立馬種育場)での育種を推進した。そんなに自信があったんだろうか……。


 だが創始王はついにその結果を見ることはなかった。初めてサラッド(家馬)と呼べるサラ()が誕生したのは、スピシエデフルド・サラ(王立馬種育場)が出来た200年後のエスタ歴2168年の事だったからだ。200年か……、ほんとに気が遠くなる話しだ。サラッド(家馬)を育種するのに一体どんな方法を使ったのかは一切不明、そして200年と云う期間……、セキニア王国以外にもサラッド(家馬)の育種に挑戦した国は2~3国あるらしいが、未だにサラッド(家馬)の育種に成功した国はない。そしてここスピシエデフルド・サラ(王立馬種育場)ではサラッド(家馬)に続いてエスタ歴2320年には、サラバム(戦馬)が誕生し、エスタ歴2432年にサラセト(聖馬)が誕生している。


 セキニア王国にとって、サラッド(家馬)サラバム(戦馬)サラセト(聖馬)交出(輸出)は、国家の礎のひとつだ。それはそうだろう、セラワルドの全ての国が、サラッド(家馬)サラバム(戦馬)サラセト(聖馬)交入(輸入)している。何と云ってもロキルム(ロキアの人:非フェルム人)とは直接交易をしてないフェルキア族長国ですら、リジェット魔道国を通してサラ()達を交入(輸入)している。だからこそギルラ(族長)の賢き者・オルナ・クイラド(高い雲)が、サラバム(戦馬)に乗れるのだ。オルナ・クイラド(高い雲)の話しでは、なんとかダイトニア皇国の許可を得たロキシア民国が、サラッド(家馬)のアニウラワルドへの交出(輸出)を終に始めたらしい。これでサラッド(家馬)の需要は一段増しとなるだろう。


 そうサラ()の種育の秘密さえ守っていければ、セキニア王国は永遠に独占販売が続けられるのだ。そんな国家の最重要機密だから、このセキニア・スピシエデフルド・サラ(王立馬種育場)の警備は厳重を極めている。ここを護るのはスピシエデフルド・サラ独立守備隊だ、独立守備隊はあのセキニア白虎騎士団の所属。ベルピス(羊皮紙)によれば独立守備隊は、過去幾度に渡り襲撃者を排除して来た実績を誇っている。さすがにこの警備を恐れたのか、ここ100年間は襲撃者する者すら現れていない程だ。ただ父にこのベルピス(羊皮紙)の内容を読んだ時に、父は“鋭い槍先も研がねば鈍る”と呟いていた。




 スピシエデフルド・サラ(王立馬種育場)に辿り着いたこの日から、俺達3人は昼間は休息を取り、夜になると警備の偵察を始めた。オルナ・クイラド(高い雲)から渡されたベルピス(羊皮紙)にも実際の細かい警備状況までは記されてないからだ。この調査は主に叔父の“鋭き鷹の目・スツー・ノホク(黒鷹)が柵の間近にまで接近し、警備の実態を探る形になった。この偵察を続ける事5日幾つかの事が判明した。


 ノルノル(ノル×2=3m)程の高さの木の柵がノルノルメリモウ(ノル×2=3mよりメリ=とても、モウ=長い。つまり500センチ位)位の間隔を開けて2重に立っている。その柵の巡回警備は5人1組の騎兵が行なっている。その内の1名は、叔父同様に気配読みを使えるらしい。ただし叔父程には、全能の目プロビデの祝福は受けていない。そんな連中が夜間を含め半時間毎に柵の間を通って巡回警備を行っている。叔父は時間を測るも得意技のひとつだ。巡回の連中は多分砂時計とかを使っているんだろう。巡回の時間はかなり正確だ。それを見た父の感想は“形に嵌り、形に頼れば、心硬まる”だった。


 柵からクク(5K)程の内側には二階建ての煉瓦製で木製の横開き扉が幾つも並んでいる馬舎が数十棟ある。その各馬舎にも必ず3人1組の歩兵が常時警備している。更に厄介な事に5人1組の騎兵が、5組程で各馬舎を巡回をしている。どうやら警備の全体人数は500人以上は居る様子だ。この警備陣の内容は事前に聞いていた話しよりも人数が倍近く多い。さすがに“白蛇の槍”が、隠密での種馬奪取を諦めただけの事はある。確かに夜闇に紛れ忍び、悟られずに種馬を盗みだすのは不可能だろう。この人数を知って青褪めた俺を見た父は“数多くとも、計あれば局所は少数”と笑った。


「心配ない、手ある。準備する」

5日に及んだの偵察が終わった処で父は、ニヤッと笑いながら呟いた。多分この程度の警備については事前に予測していたのだろう。そりゃそうだ、“白蛇の槍”が諦めたんだ、警備が手薄だろうなんて予測をするはずがない。父から手筈の説明が始まる。




 事前準備には、それから5日を要したが順調に完了した。あとは父の決行の判断を待つだけだった。翌日は朝から雨こそ降らないが、真っ黒な厚い雨雲が低く垂れ込める昼から薄暗い日となった。


「今夜やる」

「「コゥセ(了解です)」」

父が夕方その黒い空を見上げ決断した。その父の声に思わず身震いが走る。


 予想通りその夜は、日が落ちると分厚い雲が2つの月の光を完全に遮り、雲夜と呼ばれる漆黒の闇が辺りを包込んだ。そんな雲夜の中、父の合図でまず俺達は目標の馬舎に、一番近い柵の傍まで素早く進む。この6日で結った草の縄を、外側の木の柵の支柱3本の上の所に結びつけた。俺はその結んだ3本の縄の端を支柱の根本部分の草叢(くさむら)の中に隠すと、サッと柵から離れる。


 一方父と叔父の二人は、素早く外側と内側の2つの柵を乗り超えると腰を屈めた格好で目標の馬舎に向かって素早く音もなく駆けて行った。その後ろ姿はあっと云う間に闇に溶け混んで見えなくなる。俺が柵から離れて直ぐに、時間通りに5人組の騎兵の1隊が見回りにやって来る。危なかった。だが奴らの気配読みの索敵距離も把握できている。だから充分に距離は取っているので、奴らが俺に勘付く恐れはない。それに柵の支柱に結び付けた草の縄は草叢(くさむら)に隠しているし、柵に縛った部分もこの闇夜では勘付かれる恐れはマズないはずだ。


“ザッザッザッ”

サラバム(戦馬)が重たい馬蹄の音を響かせながら進む。騎乗の5人の騎兵もゆっくりと何事も無く柵の間を進んでいく、うん。大丈夫だ。その騎兵の姿が闇に消え、サラバム(戦馬)の馬蹄の音も聞こえなくった頃、父達が目標とした馬舎から、少し離れた所でポッポッと次々と火の手が上がり始めた。この火こそが行動開始の合図だ。よしやるぞ!


 あれは多分叔父が、乾燥させている飼い葉に油を撒いて火をつけたのだろう。そう俺達が持っていた2つの水袋の中身は、水じゃなくてラペ(菜の花)の種油だ。その最初は小さかった炎が、みるみるうちに大きな炎となって行く。成功だ! あちこちから色々な叫び声や怒号が、こっちにまで響いてくる。さぁ、俺達の出番だ、俺は自分の背後に居る相棒達に合図を送る。


“チックチックチック”

すると直ぐに頼りになる相棒達、3頭のポニ(群馬)が背後から近寄って来る。そのポニ(群馬)の姿を確認してから俺は、腰を屈めた姿勢でサッと外側の柵に近寄り草叢(くさむら)に隠した草の縄の端を手に握る。その縄の端は、大きな輪になっている。その輪を3頭のポニ(群馬)の首に掛けていく。


“ハウ、ハウ”

“フゥー。フゥー”

俺の駆け声と同時にポーとニー、ツーの3頭が鼻息を漏らしながら、草の縄を引っ張り始める。その姿を確認してから、俺はその外側の柵に手を掛けると一気に乗り越える。手には叔父のトマホーク(戦斧)を握っている。ここからは全て時間勝負だ。もう気が付かれる事を恐れる必要はない。突っ走るだけだ。


“ギギ、ギギギ”

俺の背後で木の柵を支える太い支柱が軋み音を立てながら、ゆっくりと外側に傾むき出す。外側の柵は、ニー達に任せて置いて大丈夫だ。俺はこの内側の柵をやる。トマホークを右拳で固く握り大きく振り上げる。ウルスグ(闘いの神)よ! 今こそ我に降らん!


“ゴヴァッ”

鈍い音を立ててトマホークの厚い刃が柵の支柱の根本を切り裂く。再びトマホークを振り上げると渾身の力で、トマホークを柵の支柱の同じ部分に叩きつける。トマホークの刃が支柱にめり込むと同時に、ちいさな木片が辺りに撒き散らされる。思ったよりも硬い手応に心が焦る。


“フッハー。ブハハー”

“ギッギギギィ、バッサァ”

俺の背後から支柱が倒れる派手な音が響く。思ったより早く外側の柵は片付いた様だ。この5日間ずっと外側の柵の支柱の根本を削った効果だな。だが問題はこの内側の柵だ。俺は再びトマホークを全身の力を使って振り上げる。




 やっと内側の柵の支柱一本を切り倒す事に成功した。思った以上に時間が掛かった。不味いな。額の汗を拭いながら、その倒した柵の内側の馬舎の方を伺い見る。更に2カ所から新たな炎が上がっている。種油の袋は全部で6つだ。どうやら叔父は計画通り数箇所で盛大に火を付けているようだ。俺も気張らなければ……。だが身体からウルスグ(闘いの神)の力が抜けていくのが判る。これでは今よりももっと時間が掛かるのは間違いない。このままだと次の巡回が回って来るまでに柵を倒すのは無理だ。どうするか……。


 そうだっ! 俺は一旦倒れている外側の柵まで移動すると、その柵の支柱の根本と柵板をトマホークで完全に切断して柵を運び道を開ける。


「ニー来い」

俺の声に応じてニーが首から縄を垂らしたまま駆け寄ってくる。


「頼むぞニー」

そのニーの縄の端を残る1本の支柱へと結ぶと、ニーの尻を軽く叩く。


“フゥー。フゥー”

ニーが支柱を引っ張りだす。だがそんな事で支柱はビクとも動かない。次に支柱に向かって俺がトマホークを叩き付ける。手応えが硬い、そして支柱に一切の揺るぎはない。


“ゴヴァッ”

“フゥー。フゥー”

“ゴヴァッ”

トマホークの鈍い裂音とニーの鼻息と自分の激しい息音だけが耳を包む。他には何も聞こえないし、トマホークの手応だけしか感じない。気が付くと額の汗が目に流れ込み目に沁みる、トマホークを振り上げる肩にも鈍い痛みが積もっていくのが判る。息も苦しくて胸が焼けるみたく熱く成ってくる。でもその全てを無視して全身を使ってトマホークを振り続ける。


“ギッギギィ、バリバリ”

ついに最後の支柱が悲鳴を上げた。そして内側の柵が支柱と一緒にニーに引き倒される。やった、なんとか計画通り巡回の間に2重の柵に穴を開ける事が出来た。素早く支柱の根本を完全に切断して倒れた柵を片付けて道を開く。それが終わると、ポーとニー、ツーの3頭の首から縄を外す、するとなんの指示もしなくても3頭は静かに闇に紛れて姿を消していく。俺もその場から少し離れて草叢(くさむら)の中に屈んで姿を潜める。


 草の中に潜みながら柵内に目をやると、5カ所から上がった火の手が盛大に大きくなっている。上手く行っている。うん、上手く行っている。俺は自分に云い聞かせる。ふと気がつくと槍の柄を握る拳にギュッと力が篭り赤くなっていた。俺はその拳の力をゆっくりと緩めると、2~3度大きく息を吐く。大丈夫上手く云ってる。ゴクッと唾を飲み込むと、それまで気が付か無かった虫の音が急に耳に入って来た。どうやらかなり緊張してたようだ。落ち着け“白き牙”、ここまではほんの序の口、本番はこれからだ。




 


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