3.サラキトア集落の外
さてサラキトア集落内の探索が、結構簡単に終了しちゃった以上、探索範囲を広げるしかなかいよね。サラキトア集落内を周遊してみて、かなりの距離を歩ける事も確認しているし恐れる事は何もないぞ。そうそう、子供の足を舐めてはいけないよ。それは隣のトト○でも完全に立証されているじゃぁないですか。
いつも通り朝食が終わったあと、お母様が家事に勤しんでる隙をついて、気づかれる事なくササッと家の外にでました。まずは、家の正面の駅広場にある、伝馬車駅に行きます。ええ、伝馬車駅は既に探索済みですよね。
まずは伝馬車駅のポールの先を見上げると、そこに掲げられた今日の旗の色は青でした。そうです、昨日までは白旗だったんですよ。つまり明日には、この旗は赤旗になるって事ですね。ええ、赤旗それは伝馬車が到着する日って事ですからね。○共党の機関紙では決してないぞ。赤旗が伝馬車到着日を示し、青旗が伝馬車到着前日を示しているんだ。そしてそれ以外の日は白旗となります。さすが片田舎のサラキトア集落だけあって、ほとんどの日は白旗だったけどね……。だが今日は青旗だから、明日には伝馬車が着きますね。きっと明日には駅広場で物売りの露店が開くんだろうな。楽しみだぁ。
はためく青い旗を見上げそんな事を思いながら、白い“エスタ暦台”に近づいて行きました。“エスタ暦台”の外縁部の赤い日石が、昨日あった位置から、ひとつ右隣の窪みに動いている事を確認します。うんうん、ちゃんと成ってるな。続いて黒石柱の影で今の時刻を認識しました。
今が大体8時頃だから、14時には戻って来ないと不味いな。でも、6時間あれば結構なとこまで行けるな。片道3時間あるって事だからね。よし今日こそは、あの計画を実行に移そう。まぁ計画っていってもかなりアバウトだけど……。よし、6時間で行って帰ってくるぞ、でも時間を測る道具がないんで、結局太陽の位置でしか時間の判断ができないんだよ。そんな訳で、相当アバウトな計画なんだけど、でもね、計画を立てる事は重要なんだぜ。ないよりはマシってもんさ。
まず駅広場のハ○ジの水桶から水を一口飲むと、腕を腰に当てながら駅広場をゆっくりと見渡した。さぁ今日の計画ってのは、以前から考えていたあっちの道を探索する事だ。集落から伸びる3本の道のうち、2本の道、サラキトアから州都たるリシュトに向かい更には王都セキトへと至る道、そして反対のキグナスへと向かう道、つまりリシュール王道については既に探索済みなんだ。
そうそうこのリシュール王道は、どちらを行っても集落の外に出ると延々と畑の中を走っているんだ。まぁ道端には花が咲いていたり、所々に灌漑用水路があったりと、それはそれで楽しかったけど、やっぱり畑の中を通る道だからね……。うん、さすがに畑の中に分け入るのは憚られたので、畑の中を伸びる赤茶色の道を、ただただ淡々と進むだけだったんだよ。なだらかにうねった丘陵地帯に広大に広がる畑、結構歩いたんだけど、結局その畑が途切れる所までは、辿り付けなかったんだ。
いや~、広い広い。ほんとに広い畑だね。でもね、この状況ってのは子供の冒険心を充分に満たすものじゃなかったし、探索行としても不十分な感じだよ。そう、だから今日は最後の3本目の道、サラキトアからウルガムへと向かうウルガム支道を探索する事に決めていたんだ。
そんな当初からの計画に従って、ウルガム支道にそって歩き出しました。駅広場を出ると左手にすごく巨大な倉庫? が見えてきます。ええ、こいつは前からちょっと気になっていたので、近寄って調べて見ましょうか。う~~ん、1m位の高床式で、全体は細身の丸太を組んで出来た建物ですね。つまり換気が重要って事かな? そして地面に伸びる、かなり太い丸太の支柱が何本もあるね。でもこんな太い丸太の木が近くにあるんかな?
家は基本煉瓦で出来てるから、太い木の柱なんかないもんね。この丸太はきっとわざわざ遠くから運んできたんだろうな。んん? これは? その太い丸太が高床に達する近くに、お皿を逆さにしたようなものが付いているぞ? おお、なるなる、これってのはネズミ返しですか……。
つまりこいつは倉庫、しかも穀物倉庫って事だよね。う~~ん、凄いな~、きっとこれって集落の共同穀物倉庫って事だよね。どーいう仕組みで管理されてるのかな? うん、今度親父殿に聞いてみよう。でもでもその質問って5歳児じゃ、まだ早すぎかな?
その穀物倉庫から離れると直ぐ集落の外へと通じる門に到着します。当然ですが、門番さんなんかはいませんよ。その無人の門の扉なんですけど、表面に鉄板が打ち付けられた、相当にぶ厚い木製の観音開きの扉です。うおっ! この厚さ! どんだけ頑丈な扉なんだよ~。集落の外ってそんなにも危険? でもそんな感じしないけど……。その日本のお城の大手門の様な門をくぐり、観音開きの扉を横目で見ながら、無人の門を誰からも咎められる事なく無事すり抜けると、あっさりと集落の外へと踏み出しました。
ええ、ほんとにいい陽気ですよ。今はアラタンの7日だから、正に春、春爛漫って感じで~す。セニキア王国ってのは、月と季節から考えて北半球みたいだけど、北半球のどの位の緯度に存在するのかな~。アラタンで結構暖かいし、基本冬もあんまり寒くないから、きっとそれほど高緯度じゃないって事かな。東京と同じ感じかな? エスタリオン神国とかに行けば、きっとそこらへんの事も判るんだろうな。まぁ気候ってのは緯度だけじゃ決まらんけどね。
春の若草の匂いに包まれながら、眼前に広がった風景を眺める。畑の青葉一色の中に、際立った色の一筋に伸びる道。その駅広場と同じ明るい茶赤色の土と礫が混ざった土砂で押し固められた簡易舗装がされた道を、爽やかな風に背中を後押しされるようにどんどんと歩みを進めて行きます。ポカポカ陽気も手伝って、あ~、こりゃほんとに気持ちいいねぇ~。
えっとですね、このウルガム支道ってのは前に探索した、リシュール王道に比べると確実に道幅が狭いんだね。だいたい半分くらいかな? 道幅はだいたい1車線道路位、つまり約3mって感じですね。それに確かに簡易舗装はされているんだけど、心なしか埋まっている礫が少ない感じがします。やっぱ経費上の問題なんかな~? それにしたって、こんな細い支道まで簡易とは云え舗装をしてるとは、セキニア王国ってのかなりな文明国だよな。
このウルガム支道が通る場所は、前のリシュール王道とは違って、丘の傾斜が結構厳しいんだ。集落の門を出ると直ぐに登り坂になっていて、なが~い登り坂を1時間程(まぁこれはあくまでも感覚だけどね)、テクテクと歩いています。しかし道の両脇には、やはり実り始めた冬小麦が青々と茂った葉を、サワサワと風になびかせている畑が延々と広がっているだけですね。そんな風景をぼ~っと眺めながらも、確実に歩みを進めて行きます。
やっぱり畑なんかぁ~。う~仕方ないなぁ~、サラキトアってマジ完全な農村だもんなぁ。周囲が畑ってのは仕方ない事だよな。よしっ、あの丘の上までいけば、かなり先まで見通せるだろうから、そこでどこまで行くか決めよう。目の前に広がる小高い丘の頂上に向かう赤茶色の道を見上げながら、ちょっと立ち止まって初春の陽気の為に、額に流れだした汗を袖でちゃちゃっと拭うと、再び歩きだした。
暫くしてなんとか丘の頂上に着きました。ふむちょい疲れたけど、まだまだ大丈夫だ。それにここは予想通り素晴らしい見晴らしだ。丘の向こう側の裾野に広がるのは、見渡す限りに色々な色が混ざった、なだらかな丘陵地帯、そしてその中をす~っと伸びた赤茶色の道。そうです冬小麦の畑は、この丘までで終わっていて、この丘の先には、初めてみる自然の草原が視界一杯に広がっていたんだ!
うっおぉぉ、すっげぇ、初めて完全な地平線を見たぜ! 元の世界のネットでみたモンゴルだか、アフリカだかの大草原とおんなじような感じだ。しかもこっちの草原の方が、色が全然綺麗だ。まぁ季節によるのかもだけどね。目の前の視界一杯に、薄青の草原が広がり、その中にちょっと白っぽい青の雑多な種類の丈が高い草が生えている部分や、もう少し青の濃い丈がかなり低い芝生のような雑草が生えている部分、更に所々に、数メートルはある小高い細い木が数本生えている小さな茂みが見受けられる。
そのブッシュは生えている木の表皮がちょっと黄色っぽい色をしているのか、草原全体が構成する複雑な模様の中で、ちょ~どよいアクセントと成っている。更に地平線の間際の遥か彼方には、ぽつんぽつんと森か? 林か? そんな濃い緑の塊も薄っすらと見える。
色の違いやら濃淡の違いが入り交ざった、正に自然の絵画見たいな風景がパーッと広がっている。こんな夢の様な草原に爽やかな春の風がサァーっと吹き抜ける。若葉の香りに全身が包まれ、更にその風で草が一斉に靡いて、まるで風が草原を駆け抜けるのが目に見えるみたいだった。そう、なんか春の香りが視える様な感じだ。
“The ソウゲン”正にそんな感じでした~。マジちょっと感動したよ。
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