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5.キニー・ノホク(黒鷹)・フェバオロ

 

 

==テゥス・オマジク(ことわりの書) 第5編「諸族」 第1章ヒト (抜粋)==


 フェルム人:このセラワルドをプロスラド(約束の地)と呼んだ、エスタリオン神国の初代教皇ロキシア・エスタ・ヴォツェックが神導の旅でついにレブラレク(天啓の湖)に到達した時、既にその地に原住していた民族。


 フェルム人の外見的特徴は、髪は濃い茶の直毛、体形は小柄。肌の色は薄い黄色系でイラワルド人の外見的特徴に近似。元来は遊牧・採取・狩猟を行う民族で、定住・農産をあまり好まない。主食は、パンよりもロガラス(長米:いわゆるインディカ米)を好み、シプゥ(家羊)の肉、乳を好む。セラワルドのエクスモア大草原、セラムア平原、ダトムア大草原の全てに広く分布していた。本来好戦的種族ではないが、誇り高く個人や氏族の名誉の為には死をも辞さない。


 フェルム人の信仰は、諸族に広く信じられている始祖崇拝思想である。彼らの神話では、“初めのヒト”たるファト・ウズマーが行った血種試練の儀式の後に、5人の祖人が誕生したと成っている。それがハオロ、ハハ、キア、カチ、シャのフェルム5祖人である。全てのフェルムの氏族はこの5祖人より始まったと信じられている。


 定住を嫌ったフェルム人にはそもそも土地所有の概念はなく、土地は全生物の共有財産と考えていた。この為フェルム人には国家の概念がなく、フェルム人は氏族単位での行動を好んだ。ロキシア・エスタ・ヴォツェックが神導の旅でレブラレクに到着した時点では、フェルム人には大小30の氏族が確認されている。この30氏族の中で有力13氏族が正族と呼ばれ、他の氏族は準族と呼ばれていた。フェルム正13氏族は、数年に一度フェルム13氏族会議を開き、フェルム人全体の諸問題を話し合っていた。……中略。




 フェバオロ氏族:フェルム準族の1氏族、元フェルム正13氏族の1氏族、またフェルム失われた5氏族の1氏族。フェルム5祖人のハオロ系族に属する。フェバオロ氏族は、正13氏族の中でも極めて優秀な騎馬の民で、かつ獰猛な戦闘氏族で、フェルム3戦族(フェバオロ氏族、カナハオロ氏族、フェルキア氏族)のひとつであった。なお同じハオロ系族の正13氏族としてはチェバオロ氏族、カナハオロ氏族、ナハオロ氏族があった。なお同じハオロ系族内にあってカナハオロ氏族とは強く対立状態にあった。


 エスタ歴9年、最後のフェルム13氏族会議となったエスタリオン神国による創国宣言への対応を話し合うフェルム13氏族会議が開催された。この会議でフェバオロ氏族は会議の途中で解会を宣言し会場を退席する。これは一般には神国による13氏族切り崩し工作の成果と云われているが、実際には神国への絶対的敵対を訴える、キア系属のフェルキア氏族、シャルキア氏族にカナハオロ氏族が賛同した事へのフェバオロ氏族の対抗意識が大きく影響したものと考えられる。この時フェバオロ氏族に賛同し、会議を退席した氏族が、後にフェルム失われた5氏族と呼ばれるチェバオロ氏族,ロガーハ氏族,ナハオロ氏族、アカチ氏族である。以降この5氏族は残り8氏族との対立を深めて行く。


 エスタ歴31年、フェバオロ氏族はフェルム8氏族会議へ”断交”を宣言。同年エスタリオン神国と”友愛の契”を結ぶ。この後エクスモア大草原から多くのフェバオロ氏族が、エスタリオン神国レブラレク(天啓の湖)近辺へと移住。その後エスタリオン神国による同化政策により氏族としての固有性を失っていく。


 エスタ歴104年、フェルム8氏族会議はフェバオロ氏族の滅族を宣言。当時のフェバオロ氏族のギルラ(族長)、気高き者・ミナル・クイラド(高い雲)・フェバオロはこれを強く否定するが、実際にはその時にフェバオロ氏族と呼べる者は、エクスモア大草原に僅かに存在するのみであった。従ってこのフェルム8氏族会議によるフェバオロ氏族の滅族宣言は妥当なものであったと云えよう。この後一旦フェバオロ氏族は事実上歴史より姿を消すことになる。


 エスタ歴702年、エクスムア大草原でフェバオロ氏族によるフェバオロ占地が宣言される。このフェバオロ占地に参加したのは、エクスムア大草原に残存していた僅かなフェバオロ氏族に、フェルキア族長国から移住した多くのハオロ系族の幾つかの準族のフェルム人に拠るものと思われる。


 エスタ歴1146年、フェルキア族長会議(=フェルム8氏族会議)は、フェバオロ族の復族を宣言。同年フェバオロ占地の破棄を宣言。フェバオロ占地に参加したほとんどのフェバオロ氏族(?)は、フェルキア族長国へ移住する。


 現在のフェバオロ氏族の状況は大きく2つに大別できる。ひとつは非常に少数ではあるが、エクスモア大草原で本来のフェバオロ氏族の生活形態を守っているひとである。彼らはフェバオロ占地以前よりエクスモア大草原で生活していたひとの末裔であり、正しくフェバオロ氏族と云えるひとである。もうひとつは、フェバオロ占地に参加し、その後フェルキア族長国に移住したひとである。そもそも彼らがフェバオロ氏族の末裔であるかは甚だ疑問であるが、ハオロ系族に属していた事は間違いなく、この点からフェバオロ氏族の近種で在ることは確実である。なお残念ながら現時点で“フェバオロ氏族”と云えばこのフェルキア族長国に移住したひとの末裔を示す。


 現在もエクスモア大草原で本来のフェバオロ氏族の生活形態を守っているひとは、数家族単位で皮製のティピー(野営用天幕)に住み、主にシプゥ(家羊)の畜産・遊牧を行っている。終春であるアラニア(5の月)に、エクスモア大草原のサラ()からノラ()へ、秋雨のウズニア(11の月)(雨月)にエクスモア大草原のサラ()からノラ()へと大移動を行う。その他の期間は、放牧地を求め1~2月毎に小移動を繰り返すと云うほぼ5000年に渡って変わらない遊牧生活を行っている。


 なおフェルキア族長国に移住したひとの末裔たる“フェバオロ氏族”は、フェルキア族長会議(=フェルム8氏族会議)により、復族は認定されているが、エスタ歴31年のフェバオロ氏族によるフェルム8氏族会議への”断交”は有効なままとされており、フェルキア族長会議(=フェルム8氏族会議)への参加資格を現在も有していない。つまり名誉有るフェルム正13氏族であったフェバオロ氏族は、現在のフェルムにおいては準族の扱いなのである。これに対し彼らは正族復帰(=フェルキア族長会議への参加)を強く望み活動を行っているようである。しかしながら未だにカナハオロ氏族との溝は深く、カナハオロ氏族の拒否権の使用により正族復帰(=フェルキア族長会議への参加)への道はまだ遠いと見られている。……後略






~キニー・ノホク(黒鷹)・フェバオロからの視点~

「今のよい」

「はぁ。はぁ。はぁ」

額から汗がダラダラと滴り流れ落ちているのが判る。もう軽く2時間は、こうして父との無言の対峙を続けている。さっきの言葉が、たしか仕合を始める時に父が“構え”と云った以来の言葉だ。身体中が熱くて燃えるようだ。そして高揚感で身体が満ちて、感覚が鋭敏になっているのが判る。今は父の動きが、心がよく見える様だ! そうだフェバオロの男とは、言葉じゃなくて身体で心を交わすのだ。


“っっっ”

言葉にならない気合を唇の隙間から吐き出しながら、なんの躊躇いもなく槍を父の胸の中心に突き入れる。俺が今操っているフェバオロの槍は長い。2ノル(ノルは身長を示す=150センチ、つまり3m)位はある。


 そしてこの長い槍を構える時は、槍の長さを敵に悟られないように半分と少しの所を握り、握った手の後ろの長さを見せないのだ。突き出す時には、槍の柄を回転させながら手の中を滑らせ、敵の予想を超える速度と間合いで突き刺すのがフェバオロの槍だ。その為にフェバオロの戦士は、戦い以外の時でも決して槍をまっすぐに立てる事をしない。必ず斜めにして槍の長さを敵に悟らせる事を防ぐのだ。


“キーン”

乾いた音が辺りに響く。

この仕合で始めて父が、その手に持った槍の腹で俺の槍を弾いた。


「メリ(とても)よい」

その言葉を発すると、父が戦いの姿勢を直して直立しゆっくりと頭を下げる。右手に持った槍が自然と前に傾いている。それは今日の仕合の終わりの合図だ。俺も同じ姿勢を取り頭を下げる、次に右腕を突き出し槍を直立させて父に翳す。これは相手に槍の長さを示し、決してあなたには背かないと誓う姿勢だ。


「ギリール(感謝する)」

「コゥセ(よろしい)」

「「ガダスシアプ」」

父と挨拶を交わした瞬間、俺の両膝から力がスッと抜ける。どうやら自分でも気が付かなかったが限界ギリギリだったようだ。膝が崩れると自然に腰が落ちて後ろに向かってへたり込む。頭の後ろが草の上に投げ出され草の上にヘナヘナと仰向けに倒れ込んだ。どうも想像以上に疲労していたようだ。そう、疲労感を覆い隠していた緊張感と高揚感が消え去った今、全てがいっぺんに襲い掛かってきたのだ。


 草の上で仰向けなままの俺は、ドクドクと云う心臓の音、ハァハァと云う息音、そして自分の胸が激しく上下するのを全身で感じていた。ザ~っと草原を駆け抜ける風が、火照った肌に気持ちいい。草熱くさいきれがムッと鼻をつく。視線を上に向けると、見上げた空は冷たく蒼く澄んであくまでも高い。その蒼く澄んだ天空の中を切れ切れの白い雲が、まるで逃げるように、ノラ()に向かって駆けていく。


 全身の疲労がどんどん治まって行くのが判る。まるで背中に感じる大地と草原が発する息吹から生命が流れ込んでくるようだ。これこそがこの大地が我らの全てたる証だ。ずっとずっと始元の昔から、祖人たるハオロがこのエクスムアの地に立った時から、我らフェバオロはこのエクスムアの草原で生きてきた。この草原の全てが故郷であり生きる場所で我らの血肉の素なのだ。今正にその事を全身で感じ、ハオロへの感謝の気持ちが沸き起こる。我らは草原を翔ける自由なる民フェバオロなのだ。しかし今ではフェバオロの多くは、遠くセラフォの河のほとりに自らを縛り付けて住んでいる。父に云わせるとエクスムアの草原に居ないフェバオロは、フェバオロであっても、真のフェバオロではないらしい。うん、それには全く同感だ。




“ハオ。ハオ。ハオ”

ポニ(群馬)のポーの裸の背中にまたがる、父の後ろ姿はほんとに信じられない程安定している。まるで普通に床に座っているみたいだ。裸のポニ(群馬)に乗り、両足でポニ(群馬)の横腹をしっかりと挟みながら、両腕をハの字型にしたまま微動にすらしない。さすがな姿だ。あのポーの背上で、3日3晩過ごしたって話しが嘘ではないと感じられる。


 フェバオロは草原を翔ける民だ。ポニ(群馬)の背上で生まれて、育って、遊んで、戦って、ポニ(群馬)の背上で死ぬと云われている。俺だってポニ(群馬)に乗って10年以上、それなりに騎乗には自信は持っている。だがそんなフェバオロの中にあってさえ、父の騎乗姿は異常な程安定している。俺と父のポニ(群馬)の前には、3列に並んだシプゥ(家羊)の群れが、“メェ~。メェ~”と鳴きながらちょっと早足で歩いている。群れの最後尾に俺と父、右と左そしてちょっと離れてシプゥ(家羊)の群れ全体を見回しているのが、パシェル(大型牧羊犬)の、3姉妹ポラ、ラナ、サラだ。




 まだ5感が研ぎ澄まされているままなのか、吸い込んだ冷たい空気の中に、汗と草と土の香りに交じって、微かな水の香りが感じられる。そう今はウズタン(10の月)3ラウド(3の週)、あと少しで秋雨の月、雨月のウズニア(11の月)になる。そして秋雨の季節とは、我らフェバオロの移動の季節でもある。


 我らフェバオロは、エクスムアの草原を駆け巡る遊牧の民だ。寒さが完全に終わった終春のアラニア(5の月)サラ()からノラ()へ、秋雨の雨月ウズニア(11の月)サラ()からノラ()へと、家族とシプゥ(家羊)でエクスムアの草原を大移動する。そう、今居る場所をイステハト(居住地)と決めティピー(野営用天幕)を立てて既に2カ月、シプゥ(家羊)の放牧場所も結構イステハト(居住地)から離れてしまった。つまり南への旅立ちがもう間近だと云うことだ。だが俺は今年で15歳だから、今回南への旅立ちの前には、“ファト・ウズマーの試練”の儀式を受ける必要がある。


 そうだ、たぶん父が今のイステハト(居住地)をこの地、オズグムルツ(昏き闇の大森林)の傍に選んだのも、俺の“ファト・ウズマーの試練”の儀式の為なのだろう。この地について既に2カ月、朝、日の出と共にイステハト(居住地)から、シプゥ(家羊)を放牧地へ移動しシプゥ(家羊)の監視を、ポラ、ラナ、サラに任せると、ずっと父から闘いの手ほどきを受け続ける毎日を送っている。


 フェバオロは遊牧の民だが、フェルムの中でもフェルム3戦族と呼ばれフェルキアやカナハオロに並ぶ勇猛な民だ。そして俺はフェルムのシィオ(英雄)たる、“黒きふたつの爪・タツー・ノホク(黒鷹)・フェバオロ”の息子、キニー・ノホク(黒鷹)・フェバオロだ。いつかは俺もフェルムのシィオ(英雄)となり、父の姿名の“黒きふたつの爪”を継いでみせる。今や2カ月に及んだ父との仕合で俺もフェルムの闘いの神、“ウルスグ ”の祝福をこの身に宿す事が出来て来ている。そうだ、今や“ファト・ウズマーの試練”の儀式への準備は整った。俺は必ず“ファト・ウズマーの試練”を超えて真のフェバオロの戦士となって見せる。





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