24. マグス(見守る者)達
~孤高なる者カバック・マグスからの視点~
いや~、今日もいい天気だぁ。そして今日はさ、猫人種立の日だからあたいは基本な~んにもしないぞ。ってか昨日もなんにしもしてないけどね。えと、今居るここはセキニアの王都セキトにあるそれなりな感じの宿屋の一室だ。開け放った鎧戸からは、いい陽差しが差しこんで来てる~。お日様の匂いが一杯って感じだよ~。大きく開けた窓の下にはセキト広場がバ~ッて広がってんのが良く見えるよ。それがこの宿屋の売りだからね。でもこのセキト広場ってのはさ、なんやらむやみやたらにでっかい広場なんだよねぇ。ギャ~~ッて叫びながら走り回りたくなる位ひろいんだよ~。そしてセキト名物の黒々とした鉄車路も見える。でもマジよくあんなもん作ったよね~。この部屋は4階だけどそれよっかズッと高い処を走ってるし~。まぁ鉄車の都って呼ばれるだけの事はあんよね。
そしてこのセキト広場の奥には、10メルはある城壁がデンってあんだよね。あの城壁の中がセキトセラバザって奴だよね。あたいはあのセキトセラバザが、セキトって呼ばれてた時にもここに来たことあるけど、いやいや凄んごい発展振りだよね。今じゃセキトセラバザよりも何倍も広い、セキトウラバザとセキトノラバザが広がってるんだからね~。なんでも今度はセキトイラバザを作るんだってさ~。こ~いうの見てるとやっぱヒトってのはなんかあたいらとは違うなぁって思っちゃうよ。
うんうん、セキト広場のあちこちで色取り取りな露店の準備が始まって来たねぇ。この光景ってのは見てるだけでワクワク感があんだよね。そんであともうちょいすると今度はいろんな匂いが漂ってくるんだ。そ~したら昨日と同じく、買い食いに行こう。それまではこの陽射し一杯のベッドの上で丸くなったまま、ボッコをしてよう~っと。まぁ、世間様にとっては普通の日なんけどね~。あたいら猫人にとっては、年に一度の記念日だしね~。やっぱここは猫人らしく、一日中ゴロゴロとボッコボッコで行きたいよね~。
そもそも猫人種立の日ってのはさぁ、初めのヒトとか云う奴がやった、血種試練の儀式を生き残ったミャが、初めて猫人を産んだ日なんだよね。つまりあたいらの祖人さんのお誕生日って事だよね。多分今頃全ての猫人の里じゃ、お祝い騒ぎで大変だろうな~。それに今日を狙ってる連中もいっぱいだから、いつも通りのお産ラッシュなんかな~。
あたいら、猫人ってのはやっぱミャの血が流れてるからかな、多産なんだよね。少なくとも一度にこっこを5人は産むからね。でも小さいんで結構死んじゃうんだよな~。あたいもこっこは結構産んだんけど、やっぱいっぱい死んじゃったな~。ってか、今じゃさすがに生き残ってるのはいないんだけどね。まっ、そんな事は、マグスのノーマーが、あたいを導いた時から判ってた事なんだけどさ、やっぱ思い出すとなんか悲しくなんだよね。
あたいと一緒に生まれて育った奴らは、もう唯のひとりも生きちゃいないし、あたいが産んだこっこもひとりも生きちゃいない。そりゃ時々里に行って、その時の里長に会ったりしてけるどさ、なんかやっぱアレはもう仲間な感じしねぇからね……。だって拝まれたりするし~。そんじゃ他のマグス連中が仲間なのかと云うと、これもぜってぇ違うし~。ありゃ単なる腐れ縁だね。そもそもあいつら、あたいが選んだじゃねぇからっ。あいつらだって勝手にノーマーが導いたやつらだからね。あたいにとっちゃ仲間じゃねぇ。まぁ、一応目的意識は同じなんだけどね。でもそれもなんか“あいつ”に会ってからは、グラグラだしね~。
正直いうとさ、なんとなくだけど“あいつ”の方がまだ仲間かもしんないな。なんか境遇的に近いもんがあるしさ、なんとなくだけど共に闘う奴って感じもしたからな~。だから“あいつ”の事はみんなには秘密にしてるしね。
まぁ、あたいらも大概長く生きてるけど、“あいつ”に云わせるとそれも限界はあるらしい。そりゃそうだよね。不老不死とかマジあり得ねぇ~。だからなんとか目的達成してこの重し早く降ろしてぇ~。そしたらまたこっこ産んで、こんどはあたいがこっこに囲まれながら先に死ぬんだ。やっぱこっこが先に死んじまうのは効くよな……。もうあんな思いはぜってぇしたくねぇ~。うはっ、なんか思い出したらなんか目から出てきたぞ。クソッ、マジノーマーの野郎は、なんであたいをマグスなんかに導いたんだよ~。あたいはこんな長い時間は欲しくなかったんだ。他の猫人とおんなじで、仲間とパッと生きて、ポロポロってこっこ産んで、そんでゴロゴロしたらサッと死んじまうのでぜ~ぜん良かったんだ。それがこの様だよ。仲間もこっこもいないこんな時間マジウザいだけじゃん~。なんか腹立ってきたぞ。ううう~、まだ昼前だけど飲みにいくか~~~。
~考える者メルキオ・マグスからの視点~
私の目の前の質素なベッドの上では、ホピットが瞳をしっかりと閉じ一切身動ぎせずに横たわっている。だがその隣の同じベッドの上は空になっている。あの真っ白な顔色をして横たわっていた金髪の少女の姿はそこにはもう無い。彼女に成した融命術は無事成功し、その後ここで体調を戻し彼女はあっさりと旅立っていった。それを私は止める事も出来ないし、そもそもする積りもなかった。そうだその為に彼女を起こしたのだから……。
なのにこの喪失感は何故だろう? まるで胸にぽっかりと大穴が空いたかのようだ。これほど彼女の存在が、私の中で大きい物であったとは、今初めて思いしらされた。彼女と会ってからは、いつも彼女の傍で彼女を見守った、共に旅し、共に考え、共に悩み、共に苦しんだ。そして共に時を超えて来たのだ。どうやらいつしか彼女の思いを自らと共有した時、私は変容したようだ……。それはまるで私の中に彼女が溶け込んで来たかの様だ。そうだあの時から私は、ノーマの呪縛から逃れる事が出来たのかも知れない。だからこそ私は更に先に進めたようだ。この世界の行末を見たいと自分の意志で初めて思えたのだ。それはノーマが云う新しき扉を開く事ではなく、彼女の行末、我らマグスの行末、そしては今在るこの世界の種の行末を見守る事なのだ。マグスが真に見守るべき物がなんであるのか、それに気がついた今、私には迷いはない。だからこそ私は彼女を目覚めさせ、送り出したのだ。だがこの寂寥感は予想以上だったな……。
彼女は、まず神国を見に行くそうだ……。それからセラムア平原の国々を周ってからセキニアに向かうと云っていた。それはいい事だろう、なにが変わって、なにが変わっていないのか、まず自分の目で確認する事だ。その上で新たな種伝者に会えばいい。まぁ、新しい種伝者に直接会うのか、遠くから傍観するのかはそれも彼女次第だな。もし彼女が新たな種伝者と相まみえたなら、なにかが始まるのだろうか?
私が動くのは彼女のこの旅が終わった時、それからでいいだろう。彼女の言葉を聞き、再び共に考え、共に悩み、その上で共に動けば良い。そうだまた私は彼女と共に同じ時間を歩めるのだ。それはあの頃の様な黄金の時間になるのだろうか。それは判らない……、だが彼女と共に過ごす時間は大切にしたい、そしてその時間が少しで長い事を望むだけだ。私には判る、もし新しき扉が開かれたなら、その時こそが私と彼女の長かった旅の終る時なのだろう……。
~夢見る者ゼシュ・マグスからの視点~
サーピからの報告に目を通していたら、思わず全身が震えに襲われた。確かに今までの種伝者と同様に、様々な新しい事を初めているが、その中でもこの“麦”に対して行っている事が凄い。これこそはノーマが遺した言葉、“種を伝える鎖は、他の鎖と絡まりこれを交換し、新しき鎖を結ぶ”そのものを具現化している様だ。3人目の種伝者がサラニムに行った事にも驚きを感じたが、アレは結局は選別による特殊化でしかなかった。
だがこれは違う、明らかに新しき種の鎖の創生への挑戦だ。これぞまさしく吉兆、いや啓示に違いない。いよいよ世界に変化の兆しが現れたのだ。この種伝者こそが、我らマグスが待っていた種伝者に間違いない。おお、我ら見守る者、ノーマー・マグスの導きに従い、新たなる扉を押し開くなり。ついにその時が近づいているのだ。もう3度も失敗したのだから、もう失敗は許されない。そうだ今やパルザルだけには任せておけない。今こそ我らマグス全ての力を持って種伝者を守り、そして導くのだ。このサーピからの報告を見れば、みなも同意するだろう。どうやら再びマグスを集合させるべき時のようだ。
「サーピよ。全てのマグスに連絡を、“集まれ”と」
「畏まってございます。ゼシュ様。しかしカスパ様、オクリョ様は、命滞中なれば時間は掛かりますが……」
目の前で片手を床につけ跪ずくサーピが淀みなく応える。そうか命滞中ならば仕方ない。されど今こそは時間が惜しい。
「では、残るメルキオとカバックに連絡を取れ」
「パルザル様は、如何致しますか?」
「それは当然無理な事だ。パルザルの事は忘れよ。直ぐ動け、それにカスパとオクリョに融命術を成せ」
「畏まってございます。ゼシュ様」
サーピの姿が闇に消えるようにフッと消える。よし、これでいいだろう。今は少しでも時間が惜しいのだ。
~孤高なる者カバック・マグスからの視点~
摩訶不思議な薫りが漂う薄昏い室内に、メルちぃ(メルキオの事)とゼェ~(ゼシュの事)がいる。なんだかいつも思うんだけどこの部屋の匂いマジ臭いんですけど! なんとかしてくんないかな~。ヒトもエルフも匂いに鈍感だからな~。もう最悪だ!
「ガダスシアプ」
「「ガダスシアプ」」
「ご苦労様です。メルキオ、カバック」
「ゼシュ。一体なんの用でしょうか? 私にも予定はあるのですよ」
そうだ、そうだ、メルちぃ(メルキオの事)もっと云ってやれよ。なにが“集まれ”だよ。あたいはお前の子分かよっ!
「メルキオよ。済まなかった。だが至急の事で時間が無かったのだ」
「至急ですか?」
「そうだ、種伝者についてのサーピからの報告は聞いていると思うが、わたしはあの種伝者こそが本物なのだと思う。
「本物……」
ゼェ~(ゼシュの事)の今の言葉に、あのメルちぃ(メルキオの事)の顔色が変わったぞ。そりゃあたいも同感だ。おい、本物ってのはどんな言い草だよっ。じゃっ、“あいつ”は偽モンって事かよっ。お前頭おかしくなってないか?
「あの種伝者は、ノーマが遺した言葉、“種を伝える鎖は、他の鎖と絡まりこれを交換し、新しき鎖を結ぶ”そのものを実践しようとしているのです。これが啓示でなくてなんでしょう。彼こそが本物です。もうパルザルだけには任せてはおけません。今こそ我らマグス全ての力を持って種伝者を守り、そして導く時が来たのです。カスパとオクリョは融命術中ですが、まずは我ら3人だけでもその全力で……」
「ゼシュ・マグスよ。少しお待ちを、それはおかしいですよ」
またっ“本物”って云いやがった! こりゃマジ許せんな~。おっと珍しい事にメルちぃ(メルキオの事)が、ゼェ~(ゼシュの事)の言葉を遮ったな。メルちぃ(メルキオの事)の顔はさっきからかなり怖い感じだし。うんうん、メルちぃ(メルキオの事)の気持ちわかるぅ~。
「メルキオ。なにがおかしいのですか? 我らの使命は、新たなる扉を押し開く事ですよ。そして終にその者が現れたのですよ。今こそ我らの全ての力を尽くす時でしょう。違いますか?」
「ゼシュよ。我らの使命は見守る事なのです。守る事はガディアの仕事であり、導く事はノーマの仕事なのです。我らはマグス、我らに許される事は、種伝者に寄り添い見守り共に生きる事だけなのです」
「だがそれで過去3回はし……」
おお、今度は“失敗”って云おうとしたな。いっとくけどな、“あいつ”は本物だし、あん時の事だってな失敗じゃないぞぉ~。あれが“あいつ”の意志だったんだからなっ。なんかムカつく~~。
「ゼシュよ。あなたは導く者ノーマが定めた、我らが使命を違えるのですか?」
「しかしメルキオよ、我らの最も大きい使命は、新たなる扉を押し開く事です。それを成す為なら……」
「目的は決して手段を正当化しません。確かに我らの目的は扉を押し開く事でしょう。しかしその為に与えられた使命は、見守る事なのです。使命からの逸脱は許容できません」
あ~~、なんかこいつらの云ってる事がイミフになって来たぁ。でもなんだか判らんけど、メルちぃ(メルキオの事)云ってやれ、云ってやれ、もっと云ってやれ。
「カバック! あなたはどう思いますか?」
うぎゃ、トツかよ! マジこいつ(ゼシュの事)ウゼェえな。
「ゼッシュ。あたいはメルに賛成だよ」
「そうですか……」
あたいの言葉を聞いたら、それまでテンション上げ上げだったゼェ~(ゼシュの事)の肩がガクッと落ちた感じになったね。ザマァ~。お前が“あいつ”を偽モン扱いすっからだよ。
「判りました。カバックとメルキオが反対なら仕方ありませんね。今日はこれまでにしましょう……。そうです。おふたりともしばし命滞には入らないで頂きたい」
「了解した……」
これで終わり? ほんとにいいのか? ちらっとメルちぃ(メルキオの事)を見ると、あたいに頷いて見せたから、ほんとに終わりみたいだな。でもなんだんか、スッキリしねぇな……。う~、あたいそろそろ寝るつもりだったんだよね~。今回はもう8年以上起きてるからね。こんな長いのは久しぶりだ。あの種伝者の事が気になって、延び延びにしてたんだけど、まぁここは一旦寝て、あの種伝者が20歳位になる頃にまた起きようかな~なんて思ってたんだけど……。どうやらもうちょい起きてないと駄目か。うん、じゃ久しぶりにスピドルの里にでも行ってくんか……。あのガディアの事をもうちょい聞いてみたいしね。
~夢見る者ゼシュ・マグスからの視点~
メルキオとカバックは挨拶の言葉も無いまま席を立つと部屋を去っていった。信じられない……。まさかこのわたしに反対するとは思ってもいなかった。しかも気まぐれなカバックならまだしも、あのメルキオまでが反対したのだ。一体なにが起ったと云うのだろう……。
ふむ、あの様な狭い考えだから失敗したのだ。それに気が付かないとは、メルキオも底がまだまだ浅いな。しかしもうこの状況となっては動けない。サーピも今の内容は知ってるから、わたしがひとりで動こうとしても多分従わないだろう。サーピはわたしひとりに仕えるの者ではなく、マグス全体に仕える者だからな……。よいだろう、今は動くまい。まずはカスパとオクリョを待とう。あのふたりならば、わたしには反対すまい。ならば形勢は3対2で逆転だ。ああ、仕方ないがそれからでもいいだろう。
「サーピよ。カスパとオクリョの融命を急げ」
「畏まってございます。ゼシュ様」
サーピの声色が、なにかいつもと微妙に違う様に感じるのは気のせいだろうか……。もしかすると今後に備えてわたしだけに仕える者が必要だろうか? 一度サーピの里を訪れるのも一興か……。ふむ、こんな事を思った事も今までにない事だな。これも世界の変化の兆しのひとつなのだろうか……。
第Ⅳ章「勉強・修行・出会い・改革 つまりは成長」 完
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