23.改革をしよう⑦【農業生産編その4】
今日の晩御飯にはなんとオムレツが登場しました。お母様のオムレツはプレーンオムレツなので基本余計なものは入っていませんけど、チーズだけは入っているんだよね。半熟気味のフワフワトロトロのオムレツの表面が、食卓のラストンの光りを受けてなんかキラキラしてる感じだね。最高のご馳走ですっ!
「ガダスシアプ。首長さんから、千歯扱きのお礼ですって卵を頂きました。そこでフロマ入りのオムレツにして見ました。どうぞ召し上がれ」
「「「ガダスシアプ」」」
「なんでも最近ジキンが良く卵を産むらしいよ」
「ああ、カリファ、なんかそうらしいな。ジキンの話しは俺も聞くな」
「これで卵を食べられる機会が増えるといいわね」
「はい、お母様のオムレツは最高です」
バターの香り漂う、オムレツを一口含むと卵本来の甘さと融けたチーズの仄かな塩味が相俟ってなんとも云えない旨味が口中に広がっていく。ジキンの卵は正直に云って前世の鶏の卵より濃厚で滋味溢れる味がする。ちらと親父殿をみるとうっとりとした表情を浮かべながらオムレツを味わっている。カリ姐ぇさんも口の周りに黄色い物を付けながら夢中で食い付いてる。お母様はそんなみんなをみながら、なんか凄く楽しそうな微笑みを浮かべている。ああ、これこそはほんとに夢に見た幸福な食卓の風景だ。これだけで転生できた事に心から感謝出来ます。そしてこの幸福な世界を守りたいって心底思えるんだ。
そんな訳でどうやら農業生産改革第4の策、“卵倍増計画”は順調に遷移しています。そこで仕上げと云ってはなんですが、麦の増産としては最後の仕上げとも云える、農業生産改革第5の策を実施をする事にしました。これは期間も数年以上は掛かるし手間も係る計画だけど、多分麦の増産策としては決定打になるはずなんだ。
この計画の実行には、いろいろな準備が必要だ。まずそのひとつ目としてフィールド調査が必要となるんだ。しかもこのフィールド調査はかなり面倒で、調査できる人が限られる。次に実施場所の確保が必要だな。それにこの場所にはちょっとした条件がある。3つ目が数年に渡って世話をする人材の確保が必要となる。つまりこの計画の実行には、どう考えても集落の首長の許可がいるんだ。従ってどうしても首長を説得しなきゃいけないって訳だね。まぁ実際に事を始めるのは来年のウズタン(初秋)になるんで、時間はまだまだあるんだけどね。う~ん、でもこれはかなり難関だぞ……。自分今まで外の人を説得した経験ないからな~。む~普通こんな子供の話しなんか、まともに聞いちゃくれないよね。はてさてどうしたもんでしょうか?
まずこの第5の策の内容を理解できる人で、その上集落の首長を説得できそうな人で、更には自分の話しをちゃんと聞いてくれる人が必要な訳だな。それは……、そうか、あの人がいるじゃないかっ! ええ、そうです、ちょ~強力な味方を思い付きましたっ!
「ガダスシアプ。お母様ちょっといいですか?」
「ガダスシアプ。はい、構いませんよ。なんですか」
居間の長テーブルのいつもの場所で刺繍をしているお母様に話しかける。するとそれまで左手に持っていた丸い輪っかみたいな刺繍台を長テーブルの上に置いて、こちらを向いてから返事をして呉れる。ほんとにお母様は、何時でもきちんとしてるよな。
「え~~とっ、ご相談……、いや提案かな……、があるんですけど」
むむむ、どうも切り出し難いな。するとちょっと微笑みながら小首を傾げるお母様。うwっw,マジ可愛いんですけど……。母親を可愛いとか、なんか可怪しいかもしれないけど、マジです……。
「ギル。また何か新しい事を考え付いたのですか? それならわたしは、なんでも協力しますよ」
おおお、なんて話しが早いんですか~。同じ親なのにどっかの誰かさんとは大違いだ! それではお言葉に甘えてお願いしますね。ちょっと居住まいを正してから口を開きました。
「お母様、実は麦の収穫量を増やす方法を思いつきました」
「それは、“肥料”とかのお話しですか?」
「いえ、肥料とは全然違う話しです」
「そうですか……。わたしは農産についてはあまり詳しくないですよ。それならお父様に話した方がいいのではありませんか?」
いえ、親父殿には多分ご理解頂けないのと思っております。だからこそお母様なのです。一瞬の間が空い事で、どうやら自分の心の言葉がお母様に伝わったようだ……。
「農産の事は知らなくても、お母様なら判って貰えると思っています」
「そうですか。いいですよ。お話しなさい」
「はい。では……、まず例え話しになりますけど、ここに赤い花ばかり咲いてる花壇があったとして、その花壇にある花の種から育てた花は何色の花が咲くと思いますか?」
「……、ええ、普通は赤ですね。でもたまには他の色の花も咲く事がありますよ」
「はい。そうです。でも色々な色の花が咲いてる花壇の花の種に比べると、赤い花が咲く可能性は高いですよね?」
「それは……、そうだと思うわね」
ちょっと考え、考えながらの慎重な答え方だな。でも理解してるし肯定的だ。これならいいぞ、次へGoだ。
「その話しを前提としてですけど、麦にはいっぱい穂をつける物とそうでない物がありますよね」
「ええ、それくらいは判ります」
「では、その穂をいっぱいつける麦を籾種にすれば、麦の収穫を増やせると思いませんか?」
「ギル、それは駄目なのよ」
即座の却下! えっ、なぜ? しかもお母様の言葉は自分の云ってる意味を理解した上での否定みたいだ。
「えっ? なぜですか?」
「それはね。昔から云われてる事なのよ。でもねそれをすると、畑中が穂を一杯つけるけど背の高い麦だらけになるのよ」
「ええ、だからこそ収穫は増えますよね?」
「そうね。何事も無く上手く行けばね。でももし春や夏に強い風が吹くと畑中の麦が倒れてしまうのよ。それは恐ろしい光景なのよ……」
「……」
倒麦被害かっ! 確かに普通に考えれば穂が多い=背が高いって事になるな。そして背の高い麦は風に弱い……。そんな麦だけが畑一面に育っている時に強い風が……。うん、それは確かに悪夢かもだな。多様性が失われるのは危険って事かな? ジキンの時には近親交配を考慮したんだけどな……。でも植物の場合はそれはあんまり関係ないよね。米なんかも一品種で栽培するしな。でも確かに背の高い麦ばっかってのが危険な事は明白だな。さすが3000年の歴史か、ソレくらいは実施済みって事だな。つまりはもうひと工夫いるってことか……。麦、倒麦、豊穂……こんな単語で脳内検索を掛けいく。ポクポクポク・チーン!
「ギル、どうかしたの?」
「はい。大丈夫です。ちょっとだけ待ってください」
お母様が、突然黙り込んだ自分を心配してくれる。今必死に新しいストーリーを作っているんで、もうちょっとお待ち下さい……。
「判りました、確かにお母様の云う通りだと思います。背の高い麦ばかり栽培するのはやっぱりマズイですね」
「ええ、そうなのよ。実りの多い麦は欲しいけど、そればかりでは危険も高いのよ」
「でも背が低くて実りが多い麦があればどうですか?」
「背が低くて実りが多い麦? そんな都合の良い麦の話しは聞いた事はないわ」
そうでしょう。ええ、普通そんな都合の良い麦はないと思います。でもないのなら……。
「背の低い実りが少ない麦はありますよね?」
「ええ、この辺りはそれが多いわね」
「そして背の高い実り多い麦もある訳ですよね?」
「ええ、数は少ないけど確かにあるわね」
つまりキトア郡では、危険回避の為に低稈少穂種が主流って事だな。だが一方で高稈多穂種も存在してるって事だ。
「判りました。それではまたさっきの花壇の話しに戻りますけど、赤い花だけの花壇に青い花を混ぜると数年後にその花壇には、赤と青、それにそれ以外の色の花が咲くって話しを知りませんか?」
「……確かにそんな事もあると思うわね」
この自分の言葉を聞くとお母様は目を細めて、なにか遠くを視るような感じになった。そして暫くしてからそんな言葉を返してくれた。
「それってどう云う事だと思いますか?」
「どう云う事? あまり深く考えた事はないわね。そういうのは庭師や花師の技だと思っていたから……」
おお、庭師だけじゃなくて花師とかいるんか! そーいうのってはきっと貴族とか裕福な家の庭や花壇を世話する特別な職人さんなんだろうな。そして多分そういう連中の中にだけで特別に伝わる技や知識がありそうだな……。絶対に一般化されない様に隠された技や知識なんだろうな。秘技とか一子相伝とかだね、ペケペケ奥義書とか絶対有りそうだな。
「もしかして花師さんとかが、何をしていたか知ってますか?」
「……」
お母様はなにかさっきよりも深い処を探るような感じで考えこむ。あっ、綺麗な眉間にちょっと皺が……。
「そうね……確か……花が咲くとなにか筆を持って……。ああ、小さい頃の話しなので良く覚えていないわ」
ビンゴ! 筆とかってそれってもう完全に人工受粉させてるよね。でもお母様の実家は、花師を雇える程裕福な家なんだ~。そう云えばヴェルウントの家の話しは良く聞くけど、お母様の実家の話しって聞いたことないな? まぁ、それは今はいいか……。
「お母様それってのは、きっと赤い花の特徴と青い花の特徴を混ぜていたんだと思いますよ。人だって父親と母親の特徴が混ざった子供が生まれるじゃないですか」
「それはそうだけど……。者と花じゃ全然話しが違うでしょう?」
うん、生物学とかないしな……。生物の概念とかないんだろうな。当然だけど植物がどうやって子孫を残すとか多分解明されてないんだよね。だから雄しべと雌しべや花粉やら受粉やらとかも理解の範疇外って事だ。あのテゥス・オマジクにも植物の受粉の話とかは載ってなかったしな。そんなだからこのお母様の解答は全く当たり前って事なんだろうな。そう、つまりこの世界にメンデルが出現するのは、まだ遥かな未来って事だ。
「でも、そんな例があるんだから、やっぱり人も花もどこか似てるんじゃないですか?」
「そうね。者
そうそう、お母様凄いです。その一点を理解できない輩がどんだけ多い事か。それこそが人の感性・悟性って奴ですね。
「お母様、もしもですよ、赤い花の特徴と青い花の特徴を混ぜる事ができるならですよ……」
「……、つまり背の低い実りが少ない麦と背の高い実りが多い麦の特徴を混ぜることもまた可能?」
さすがです。やっぱお母様は物事の本質を見抜く力があるんですね。だからあんな料理も作れるんだと思います。この力が自分にもお母様から伝っているのかと思うと嬉しくなって来るな。
「はい。僕もそう思うんですよ。たぶん出来ると思います」
「背が低くて実りが多い麦が……」
そうだこの世界にも低稈多穂種の品種を必ず誕生させてやるぞ。卵とは違って完全な品種改良になってしまったけど、ああ、何世代掛かるは判らんけどやってやるさ。これこそが緑の革命だ。目指せ小麦農林10号+αだ。
この後お母様と親父殿(親父殿は予想通り、話しの本質は理解していなかったけどね)と一緒になって集落の首長の説得を開始しました。残念ながら首長の理解力は親父殿にも劣るもので、この話しは全く理解不能だったようです。そこでお母様は、“初めのヒト”たるファト・ウズマーの神話の話しまで持ちだして説得をしていました。ファト・ウズマーの血種試練の儀式を生き残った諸族は、それぞれの特徴が混ざった諸族が生まれたじゃないかと云う事ですね。この麦の品種改良も同じ事だと云う事ですね。いや~、自分的にはちょっと論理の飛躍を感じたけどね。血種試練の儀って所詮神話だしね。
でも、このファト・ウズマーの血種試練の儀式の話しが決定打になったみたいなんだよ。親父殿もこの話しには凄い感心してたし、首長もなにやら“おれらっちファドウズの教えさならっちっかぁ=我らはファト・ウズマーの教えに習うのですね”ってちょい感動気味だった。おお、始祖崇拝ハンパなく信じられてるな。
首長説得に成功したので、具体的な準備に入る事ができました。まずはひとつ目のフィールド調査の件ですけど、麦育ての名人と云われる数人を集めてもらって、来年のアラアド
ええ、そうです農業生産改革第5の策は、麦の品種改良計画なんです。この確保した農業試験場で、来年から四種の麦を使って交配実験を進めて行くだけですね。なんで四種かって? いや、前世の小麦農林10号ってのは低稈多穂種で優れもんなんだけど、病害に弱かったらしいからね。そこで二種類の病強種も混ぜてみたって事ね。だから小麦農林10号+α
でも気になるのは、こっちの性教育では雄しべと雌しべが無くて、どう風にアレを教えてるんだろうか? 自分はまだ性教育を受けてないから判らんけど、ちょぴり楽しみだな。
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