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Another World 【胎動編】 ~異世界転生をまじめに考えたらこうなった~  作者: KRN
第Ⅳ章「勉強・修行・出会い・改革 つまりは成長」
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21.公童塾、謎の集団欠席事件解決!

 

 

「カリファさ~~ん! カリファさ~~ん!」

家の扉をバーンって開けながら、部屋に飛び込むと大声でカリ姐ぇさんを探す。自慢じゃないけど自分には実行力が不足してるから、ここで頼るべきは間違いなゆく集落中に恐るべき人脈を広げてるカリ姐ぇさんしかいない訳だ。


「ガダスシアプ。ギル様。なんでしょうか?」

居間の奥にある台所から、何時もの黒い綿の膝丈チェニックに、夏用の白灰色の胸部分だけの丈の短い麻の前開きチョッキと白の前掛け姿のカリ姐ぇさんが登場して来た。


「ガ、ガダスシアプ。カリファさん、至急お願いしたい事があるんだけど、いいですか?」

「うん、まずは内容を聞いてから返事したいよね」

この安請け合いしない態度が、また信頼できて痺れるよね。そして一度Yesと云えば違える事はない。正にプロフェッショナルだ。


「どうしても作りたい物があるんです」

「作りたい物? 料理ですか?」

「違います。木工品ですね」

「木工品?」

ほんとは金属で作りたいけど、それだと“今”に間に合わないからね。アレを使えば十分に役立つはずだ。


「今は、夏作物の準備でみな忙しくて、時間があるかどうか……」

木工って云った時点で、きっとカリ姐ぇさんの頭には該当する人物リストがズラズラって並んでいるんだろうな。当たり前な話しだけどサラキトア集落には鍛冶屋さんや木工屋さんはひとりもいません。だけど家具だったり家だったり農具だったり壊れれば修理しなきゃいけないから、木工の腕が立つ人が何人かいる訳です。さすがに金属製品を治せる人はいないけど、それでもちょっと曲がったり切れが悪くなったりした物を叩いたり研いだりできる人は何人か居ます。


 こういう田舎の農村って奴は、ある程度自給自足できないとやっていけないもんなんです。サラキトア集落で既に7年以上過ごした自分もそこら辺は十分に理解できています。だからこそ、その自給自足能力内でこれは可能だと判断できたって事です。


「どうしても、成さなくてはなりません」

「どうしてもなのかい?」

「はい。どうしてもです。それも今直ぐにです」

カリ姐ぇさんが、ジット自分の目を覗き込んでくる。そのキラキラ輝くカリ姐ぇさんの瞳を力を込めて見詰め返す。


「うん。わかった。詳しい話しを聞かせなよ」

やったこれで、ほぼ九分九厘成功した感じだ。そこで早速いつも公童塾で使ってる砂板を使ってカリ姐ぇさんに作りたいものの説明を初めた。


「うん。それなら大丈夫だと思うけど? でもそれってなんに使うんだい?」

「これはですね……」

「???」



「若さぁ、云われたモンはこさえたんけど、こんなでいかったべか?」

その日の夜カリ姐ぇさんの説得(脅迫?)によって、集落でも1~2位の木工自慢のミハエルさんの手によって、ソレは完成していた。半分に割った竹から、細く割ったこれまた竹の棒が何本も櫛の様にならんで突き立っている。そうですこれがあの有名な“千歯扱せんばこき”です。そしてこれは土台から櫛先まで全て竹製なんですね。その完成した“千歯扱せんばこき”の櫛状にならんだ、竹の櫛の歯を押して強度を確かめてみる。うん、これなら十分だ。それに櫛の歯の隙間も丁度いい感じだ。やっぱり砂板を使って図解出来たのがよかったな。でもこんなに早く完成するとは思わなかったな、さすが木工のミハエルって云われるだけの事はあるな。


「でもよぉ、若さぁこげは、あんに使うだ?」

「これは、こういう風に使うんですよ」

ミハエルさんからの当然の質問に対して、前もって用意していた麦穂の束を取りして、その茎を櫛の間に挟むと一気に手前に引き抜いた。そうするとバラバラと麦実が下に落ちる。同じ事を2~3回繰り返してから、その麦穂をカリ姐ぇさんとミハエルに突き出して見せる。麦穂にはもう麦実は残っていなかった。


「こ、こげなことが……」

「さっき聞いたけど、ほんとに出来るんだ」

「これは、千歯扱せんばこきって云います」

「「千歯扱せんばこき」」

ほぼ完全に麦実が落ちた麦穂を見て、二の句が継げない様子のふたりを見て、思わず口元がニィッて釣り上がるのを止められません。




 麦の刈り入れが終わった時期から、公童所で欠席が始まった事。各家の女子供が総出で作業をしている事。ゼェタとセシルが身体を払って落としていた麦藁。そしてセシルの右掌てのひらにあった赤い筋。これだけ情報が揃えば答えは明白だった。そうです公童塾の大量欠席の原因は脱穀作業だったんです。脱穀作業、つまり麦穂に沢山実っている麦の実を麦穂から落とす作業だ。この作業ってのは単純で力もそれ程いらないけど重労働なんだ。2本の木の棒を片手で握って、その棒の間に麦を挟んで引く抜くんだよ。そんなに力は要らないけど、棒を確りっと握る必要もあるし、勢い良く長い麦穂を引き抜く必要もあるから、前屈みの姿勢からグッイっとやらなきゃだ。そりゃ数把の麦穂を脱穀するだけなら楽なもんだ。でもこれを数百把、数千把のオーダで熟すとなると話しは変わってくる。


 さっきも云ったけど、脱穀作業は単純で力も要らない作業だから、その担い手のほとんどが女子供に成る訳だ。丸一日かけて、100把前後の小麦を脱穀する。延々と前屈みの姿勢から麦藁を引き扱く、この同じ作業を延々と続けなくてならない。大の男でもくたくたになる位の大変な重労働なんだ。確か古代の中国ではこれってのは犯罪者への刑罰でもあったんだ。それくらいの苦役って訳だ。この脱穀作業の困難さが米や麦の生産性向上の足かせに成っていたって説もある位だからね。でもこの千歯扱せんばこきなら、処理量がほぼ3倍以上になる。しかも前屈みになる必要もない。これってのはマジ便利グッズなんだ。


「ミハエルさん、これって一杯作れる?」

「あんだ、あんだ。任せてくんろ。こげなええ道具なら直ぐ作るだべ。そんだにむずくねぇから、あと何人かに声掛けんべ」

「ミハっ、ほんとに任せて大丈夫かい?」

「カリファ様ぁ、なんだべ、そんらぁ? おらに任せてくんろ」

「材料は足りますか?」

「あにいってんだ? こげな道具作る為なんらみんな喜んで竹を出すべよ。だんじょうぶだ」

サラキトア集落、いやキトア郡では良質な材木は産出していない。材木は遠く離れたウズグムルツ(昏き闇の大森林)のある、クラミタ郡かザハミタ郡から運んで来るしかないんだ。だからそれに代わって重宝されているのが“竹”なんだ。こっちの竹は前世の竹よりも凄いらしい、なんと高さは30メートルを超えるものもあるらしい。それこそ、建築材としてパイプとして、竹槍、桶、ざる、籠、包皮、皿、コップ、柄杓、竹ペン、竹匙、釣り竿、竹炭、竹縄etc・etc……、正に竹は万能材なんだ。それに筍は食材にもなるしね。そんな竹は集落として定期的に購入されていて、各家に配布されてるらしい。だからミハエルさん個人はそんなに竹を持っている訳じゃないんだ。たぶん千歯扱せんばこきを10台も作れば底を尽くはずだ。


「それじゃ、ミハエルさんこうしない?」

「あんだべ?」

「カリファさんにも手伝って欲しいんだけど」

千歯扱せんばこきを手早く普及させるには、集落としての協力が必須って事になる、そこでちょっとしたイベント開催を目論んだ訳です。



 翌日、ミハエルさんの家(ラチェット家)に親父殿と首長に数人の“大人”さん達とその奥さん方が集まっていた。カリ姐ぇさんとミハエルさんと自分を除く全員が、胡散気な目で並んでる数台の千歯扱せんばこきを見てる。どうやらミハエルさんは徹夜で千歯扱せんばこきの研究と作成をしていたようだ。みると千歯扱せんばこきの櫛が試作初号機に比べて長くなってるし、土台には足で固定し易い様に改良が施されている。こーいうのはやっぱ職人さんには敵わないな。


「ガダスシアプ。ミハよ。でぇじな話ってのなだんだべ?」

「ガダスシアプ。こっじは夏もんの作付準備でえらいだべ。むだな時間なんぞなねぇぞ」

「ガダスシアプ。カリファ様に呼ばれたんけど、なんやらなん?」

「ガダスシアプ。あじ(あたい)もだんよ」

「ガダスシアプ。あじ(あたい)早く戻って、穀落としやらんと“だいかか”に叱られるべ~」

「「「んだんだ」」」

集まったみんなの言葉がなんか非難ぽい。みんな忙しいのと後で判ったんだけどある問題で悩んでいて、余裕が無くなっていたんだね。


「ガダスシアプ。じつばだ。こんの千歯扱せんばこき作る、竹っこがたらんくなったべ。なんとかしてくんろ」

千歯扱せんばこきだが? これだべか?」

「こんれ、なんだべか?」

「こんぎゃ、忙しい時になにいってるだ?」

「あほらしか~」

「かえるべ、かえるべ」

「ギルこれはなんだ?」

「まぁ見ていて下さい」

親父殿も明らかに不審気な様子だ。ほとんどの人がなんの興味も持てずに背中を見せようとした時に、カリ姐ぇさんの一言が……。


「いいかい! これはナミア(豊穣の女神)様からの贈りもんだよ」

「よく見てくんろ。これはよぉ、こげに使うだよ」

ミハエルさんが体育座りみたいに膝を立てて座り、両足で千歯扱せんばこきを抑えると、両手に持った麦穂を一気に千歯扱せんばこきで引き扱く、するとバラバラと音を立てて麦実が置かれていた竹籠に落ちる。その一瞬、みんなが固まる。




「あんだべこれ」

「どげになってるだ」

「これだば……」

「んだ、んだ、これだばいけんだべ」

「おうだ、なんとかなるべ」

あじ(あたし)、これ欲しいべ」

「「「ほんだ、ほんだ」」」

あじ(あたし)あじ(あたし)、助かるだぁ~、ううっぇぇ」

沈黙が破られると、一気に喧騒が高まり、抱き合ってる人や泣き出す人まで出て来る始末だ。そりゃ驚きだとは思うけど、この騒ぎはちょっと尋常じゃないな。なんだ?


「これギルの考案か?」

「えっと、カリファさんの考案なんです……。なんでも猫里に伝わる秘伝の道具なんだそうです……」

「ギル、猫人の里は農産はあまり盛んじゃないぞ」

「うwっw,そうなんですか……」

「まぁ、そこはいいか、だがこれで問題が解決出来そうだ。助かったぞギル」

「問題ですか?」

「ああ、そうだかなり切羽詰まっていたんだ。だがこれで解決出来る」

親父殿もあからさまにホッとした表情を浮かべ、ミハエルさんに代わって次々と、満面の笑みで千歯扱せんばこき体験をしてる大人達を眺めている。


 その後親父殿から聞いた話しは、こういう物だった。実は集落と麦問屋で取り決めた王税の納付期限を集落は守れなさそうだったのだ。納付期限を守れないと大幅な追徴課税を求められるらしい。そしてその原因は脱穀作業の遅れだったんだ。首長が全部の家に脱穀作業の期限死守を求めたのがエリシュキタス(王税確定の儀)の直後だったらしい。だからあの当たりから欠席率が増えたんだな。どうやら当初首長は納付期限の延長をエリシュキタス(王税確定の儀)で麦問屋と調整できると思っていたらしいけど、それが不調に終わり納付期限が例年と同様になってしまったって訳だ。それで大慌てで期限死守命令が出たって事だね。でも例年同様なら、ここまで切羽詰まる事もないはずなんだ。だって例年より麦の量は4割アップしただけだ。しかし問題は麦の増量だけじゃなかったんだ。


 まず、エリシュキタス(王税確定の儀)で測定する麦の抽出サンプル例の決定に時間がかった。なんといってもこの抽出サンプル例から全体の量を推計するんだから、この抽出サンプル例は平均的じゃないとまずい。今までならば各麦畑の収穫量に大きな偏りはなかった。だから抽出サンプル例の決定は比較的簡単に終わっていたんだ。しかし今年はそうじゃなかった、明らかに収穫量の多い畑がちらほらと見受けられた訳だ。司府の税部の府官(役人)(実際は食料商ギルド指定の麦問屋の人)は、それをみてもあまり気にしなかったけど、集落側はそうはいかなかった。なぜって云うともし収穫の多い畑が抽出サンプル例に含まれないと、実際の全収穫量>推計上の全収穫量となる事は明らかだったからだ。つまり実際には200の麦が取れていても、推計上の全収穫量が100となると。王税が25なので、集落の取り分は75となる。本当なら王税が50で、集落の取り分は150となるはずなんだ。でも王国側にすると、推計上の全収穫量が100ならば、王税は25でも、75の麦代で175の麦を入手できるのだから、問題はないんだ。そろどころそっちが随分とお得になる訳だ。


 当然集落側は、収穫量の多い畑も抽出サンプル例に含めろと申し出る。すると司府の税部の府官(役人)(実際は食料商ギルド指定の麦問屋の人)は、抽出サンプル例に含める割合を示せと云ってきた。そこで集落は、肥料を使用した畑の三角検地を初めた訳だ。その検地には司府の税部の府官(役人)(実際は食料商ギルド指定の麦問屋の人)も立ち会うし、その間は麦の刈り取りが出来なくなったんだ。まぁ刈り取ってしまうと、実りが多いかどうかは一見しても判らないからね。その結果、エリシュキタス(王税確定の儀)の推計結果も収穫量は大幅に増えたのはいいけど、例年に比べて麦の刈り取りの開始時期が大幅に遅れてしまったんだ。しかも刈り取り作業自体も収穫量が増えたから、当然時間が掛かかってしまった訳だ。


 首長にしてみると、刈り取り作業が遅れて脱穀作業が厳しくなる事は当然考慮済みだった。そしてそれは司府の税部の府官(役人)(実際は食料商ギルド指定の麦問屋の人)も理解しているのだから、納付期限の延長は可能と考えていたらしい。しかし司府の税部の府官(役人)(実際は食料商ギルド指定の麦問屋の人)側にすると無駄な作業、つまり肥料を使用した畑の三角検地、をしたのは集落側の要求だったのだから、そんな事は考慮できないの一点張りだったらしい。まぁ多分それって一種の意趣返しだね。


 その結果が、全家への脱穀作業の期限死守命令だったって事だ。刈り入れ作業開始の遅れ、刈り入れ作業そのものの増加、これにより王税納付期限までに脱穀作業に与えられた期間は、例年の1/3だったらしい。脱穀すべき麦の量が4割増で作業時間が1/3だから求められる作業密度は、4.2倍だ……。こりゃ公童塾に誰も来なくなる訳だ。なんでも夏作物の作付準備を一旦停止して集落全部で脱穀作業を行う事も大人達の間では検討されていたらしい。


 と云うわけで、ミハエルさんのデモンストレーションの直後に集落中から竹が集められると同時に、数名の木工自慢がミハエルさんの指揮の下、千歯扱せんばこきの量産に取り掛かりました。数日後には各家に千歯扱せんばこきが数台づつ普及した結果、この脱穀作業の期限死守命令は、若干の余裕を持って達成されたんです。そして公童塾にも三々五々生徒が戻って来たました。そしてセシルのてのひらの赤い筋も綺麗に元の白い肌に回復したんだとさ。いやぁ~、めでたし、めだたし。




 


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