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Another World 【胎動編】 ~異世界転生をまじめに考えたらこうなった~  作者: KRN
第Ⅳ章「勉強・修行・出会い・改革 つまりは成長」
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20.公童塾、謎の集団欠席事件発生!

 

 

 エリシュキタス(王税確定の儀)の結果によると、サラキトア集落の今年の麦の収穫は、ほぼ4割倍増だったらしい。これは結構凄い事です。前世の米作なんかでも大豊作で通常の2割増しがいい処だからね。つまりこれってのは間違いなく所謂豊作レベルを突破した事を意味してるんだ。確実に改革の効果が出て来ています。しかもまだ全体の畑の半分にすら肥料を使ってなくてこの結果だからね。オバルの家が担当していた畑はほぼ全てで肥料を使っただけあって、集落でダントツの収穫量だったらしい。


 麦の収穫が始まったアラアド(6の月)になると、集落の首長を中心に、所謂“大人”と呼ばれる人達が、塾所の2階に集まって何度何度も会議をしてました。親父殿からの話しによると、内容は肥料の使用についての討論だったらしい。やはり人糞への抵抗は相当あるみたいで、侃々諤々の大討論だったみたいだね。ただ全員が麦育成のプロなんで今年の豊作が、ふつうの豊作じゃない事は判っていたんだよね。そしてあの肥料を使った畑と使ってない畑の麦の育成状況の違いには驚いてたみたいなんだ。肥料による育成状況の違いが一目瞭然だったって事だね。最後まで反対した人も居た様だけど、結局最後には実績が物を云ったみたいだね。その後は討論会じゃなくて、肥料の使い方の講習会に変わったらしい。しかも講師はなんと、ヴァリとゼェタのオバル兄弟だったらしい。なぜ自分じゃないんだろう? まぁ、そんな事は置いといて、これで来年の収穫も確実にもっと増えるだろうね。それに休耕地=放牧地で青々と育っているクローバーの効果も期待できるからね。


 と、ここまでは万々歳だったんだけど、実はちょっとって云うか、かなり困った事が起きています。エリシュキタス(王税確定の儀)の少し前、そう麦の刈り取りが終わった当たりからなんだけど、公童塾の出席率がググっと悪くなってきたんだ。別に授業の内容が変わったとか、また学級崩壊したとかじゃないよ。最初はポツリポツリと歯が欠けるように欠席が出だしたのが、あっと云う間に半分位が欠席となって、今自分の前に居るのは僅か数人と云う状況です。


 もしかしてインフルエンザの集団感染? とか一時は思ったけどそんな話しは、親父殿からもお母様からも一切聞いてないんで、それはなさそうだ。それにヴァリとゼェタのオバル兄弟の姿も見えないけど、あのふたりに限って病気とかは考えられないからな……。それにいつも白いローブを纏った姿でチョコンと座ってる、セシルの定位置もずっと空席のまま……。こっちはマジ病気が心配になって来る。でも一体これはなんだ? 自分の授業が詰まらないとか? なぜだ? なぜだ? なんで授業の集団ボイコットですか? 正直この状況はかなりのショックでした。これでは明日は全員欠席の恐れがあります。残った数人の子に今まで以上に懇切丁寧な授業を行ってみました。その表情や反応はとても満足できるものでしたよ……。




 いません! 誰もいません! ガラ~ンとした塾所の道場に自分ひとりがポツンと立っています。昨日の授業はとても満足できるものだったし、あの子達に不満な様子はこれっぽちも無かった。なのに何故? どうして誰も来ないの? 言葉もなく呆然とただ立ち尽くしました……。


 これはなんとかしないと……。やはり原因の追求こそが解決への早道だな。今まではちょっと怖くて聞けなかったけど、やっぱり直接聞かなきゃ判らないよな。出席者0なのに説明会をやったどこかの東○電力と違って、直ちに塾所を飛び出すと一路オバルの家へと向いました。ほんとはセシルの顔を見たかったけど、何を云われるか恐ろしくて行けませんでした……。


 オバル家に着くと恐る恐る、玄関のかなり年季の入った木の扉をノックします。ちょっと待ったけどなんの答えもありません。一家で農作業? 確かに今は夏作物用に畑の耕を始める時期で忙しいんだけど、一家総出って事もないはずだけどな。扉の取手を押すと案の定、あっさりと木の扉は内側にへと開きます。ガラ~ンとした居間が目の前に広がる、木の床がむき出しで、部屋の真ん中に大きな丸テーブルがドンと置かれてる。サラキトア集落の家は大抵大家族だから、自然とテーブルは巨大になるんだ。窓の鎧戸は開いているけど、この部屋の大きさに比べる小さな窓なんで、昼なのに部屋は結構薄暗い。そんな薄暗い居間には、巨大丸テーブル以外には高い背もたれがある木の椅子が2つ、あとは絨毯とは云えない毛織物の大きくて厚手の敷物がレンガの暖炉の前に敷かれている。それにこれまたでかい食器棚があるだけ、質素を絵に描いたような感じだ。テーブルの上には何かの食べかけのままの皿が何枚かある。床には結構靴底のドロ跡が残ってたり、洗濯物が乱雑に積み上がっていたりと、生活臭がぷんぷんと漂って来る居間をグルっと見回す。うん、確かに誰もいない。


「ガダスシアプ~~。誰かいませんか~~~。ヴァリぃ~~、ゼェタぁ~~」

このままだとなんか空き巣とかに間違われそうなんで、ちょっと大き目の声で呼んでみる事にしました。これで反応なければセシルの家に行ってみよう。セシルが畑仕事をするハズないから、セシルは確実に家にいるだろう。


 でも直ぐに玄関の脇にある二階へと続く階段をギシギシ云わせながら、オバル兄弟の母親が登場しました。オバル家のちぃかかさんですね。集落では4世代家族が普通なんで、ちぃかかさん、中母ちゅうかかさん、大母だいかかさんって呼ぶ事が多いですね。しかも兄弟夫婦が同居してる事もあるんで、そうなると上のちぃかかさんとか下の中母ちゅうかかさんとかに成ります、もうややこしいよね。


 腰の辺りに腰紐が付いた麻で出来た貫頭衣ぽい服に、前掛け姿でのちぃかかさん登場です。この服は集落の女子さんの一般的な格好ですね。自分も着た事あるけど、さすが麻だけあってサラッとしてるし、風通しがいいから夏にはいいね。それに下もズボンより開放的だしね。オバル兄弟の母親はちょい小太りなおばさんです。オバル家の血筋なのかやはり顔が大きい、うん、決して美人じゃないけど、どこか愛嬌を感じさせるそんな近所のおばさんです。目許辺りがどことなくヴァリとゼェタに似てるかな。


「あんれまぁ? ガダスシアプ。若様なんだべ~」

「あの……、ちょっとヴァリかゼェタは居ませんか?」

「ああ、いるっぺ。ちょっとまってくんろ」

階段の途中で意外にも軽やかに身を翻して、二階へと戻るおばさん。どうやらヴァリとゼェタの運動能力の高さは母親譲りみたいだな。


「ギル様さぁ~、どすたべ~」

身体をパッパッと払いながら階段を降りてきたのは……、うん、歯が欠けていないから、これはゼェタだ。今だにこれ以外には見分けの区別が出来ない程、ヴァリとゼェタは瓜二つ、いや西瓜二つなんだ。


「ちょっとだけ、話しがあるんだけどいいかな?」

「あ~~、ちっと時間ねぇだべ」

階段を降り切る事もなくなんかそわそわ気味で応えて来る。むっ、自分とは話しもしたくないって事か? ほんとに一体なにがあったんだ。


「なんさしてるべ! はよ戻らんか!」

「あいっ、わったぁ。ギル様さぁ~申し訳なけんど、ごめんしてな」

「あっ、ちょっと……」

二階からのこれは中母ちゅうかあさんかな? の怒鳴り声に、これまた母親同様な素早い身の熟しを見せて、ゼェタは二階へと姿を消した。自分の最後の言葉が虚しく消えていく……。これはなんだ? 家族ぐるみでの公童塾のボイコットなのか? これはなんかマジやばい感じがして来たぞ。


 その後誰も姿を見せる事がなかったオバル家をスゴスゴと退散すると、足取りも重く今度はセシルの家、そうアバルマ家へと向かった。う~、オバル家みたく冷たくあしらわれたらどうしよう……。なんか背中がゾクゾクして来たな。今日は止めた方がいいかな? でも明日も生徒0だったら……。どうしよう、どうしよう、どうしよう……。うん、着いちゃったな……。




 オバル家と同様な使い込んだ感ありありな、古い木の扉の前でゴクリと唾を飲み込む。オバル家には何度が行った事はあったけど、アバルマ家、そうセシルの家に来るのは初めてだ。別の意味での緊張感が高まってくるのがはっきり判る。


「ガダスシアプ~」

その古い木の扉をノックしながら、家の中に声を掛ける。やはり無反応だ……。なんだ、マジにどうなってるんだ? 扉の取手を押せば、やはり扉は奥へと開く。まぁ集落では鍵を掛ける習慣は無いから、これは普通なんだけどね。


「ガダスシアプ~。誰かいませんか~~」

扉を開けると、そこにはオバル家と似通ったような居間が広がっている。集落の家はみんなで建てたらしいので、だいたいの造りはかなり似通っているんだね。当然の様に誰もいないので玄関扉の右脇に在る、二階へと延びる向こう側が見える剥き出しの木の階段に向かって、声を出してみた。


「あんだぁ~~~?」

案の定二階から返事が戻って来た。この声はどうやらアバルマ家の中母ちゅうかかさん、つまりセシルのお祖母ちゃんだな。どうやらオバル家同様にアバルマ家でも、家人はみんな二階に集合してるみたいだ。


「ガダスシアプ~。アバルマさん。ギルです」

「ガダスシアプ~。若様ぁ、なんだべ?」

「えっとですね……」

そんなアバルマ家の中母ちゅうかかさんが、階段の先にある天井にぽっかりと開いた四角い穴から顔を突き出しくる。どうやらこれはオバル家よりも対応が悪そうだな。思わす言葉が途切れてしまった。


「ギル様!」

いつもの心を擽るような細いけどしっかりとしたセシルの声が響くと、セシルがいつもの白ローブ姿じゃなくて、オバルのおばさん同様の貫頭衣ぽい服に前掛け姿で階段をギシギシと下って来る。うん、やはりオバルのおばさんよりも階段の軋む音が軽いな。でもどうもその貫頭衣ぽい服はお下がりらしく、セシルにはダブダブだ。腰紐がギュてなってる。それに普通下は膝下位の長さなのが、足首までの長さがある。なんだ足が全然見えないや……。いやそれは関係ないな。


「ガダスシアプ。セシル」

「ガダスシアプ。ギル様、どうしたんですか?」

そう云いながら、自分の前に立つとセシルはパッパッと前掛けを手で払う。ん? 麦藁か?


「えっと……」

なんて聞けばいんだ? ひと目見てセシルが病気とかじゃない事は判る。困ったな。ん? あれは?


「セシルその手はどうしたの?」

「これは……」

セシルの白い右手のてのひらには、はっきりと幾つもの赤い筋がついてる。セシルはその手を慌てて後ろに隠す。


「セシル~~~。あにしてんだぁ。はよせんかぁ~」

「はい。ちょっとだけ待って。ギル様あまり時間がないんです。御用はなんでしょうか?」

「えっとね……」

二階からの声はどうやら大母だいかかさんらしい。それもかなりのイラつきを感じさせる声だ。


「ギル様、御用は?」

「二階ではみんなで仕事なの?」

「セッ! シッ! ルッ! おめぇは後6束残ってんぞ。ずるけっとると晩めし抜きだかんな!」

大母だいかあさんの声が怒号に近づいてきてる。セシルがちらちらと二階を伺っている。どうも状況は相当に厳しい様子だ。それに今の大母だいかかさんの声で状況は把握できた。ここは一刻も早くセシルを解放すべきだ。


「セシル早くすんべ。だいかぁが怒っとるよ」

「セシル。もう判りました。ありがとう。さっ早く二階へ戻って」

「はい?」

天井にぽっかりと開いた四角い穴から顔を突き出してる中母ちゅうかかさんが、小声でセシルを急かす。うんうん、セシルもう早く戻った方がいい。でも自分の言葉になんか不思議なそうな顔のセシル。


「今用事は終わりました。アバルマさん。お邪魔してすいませんでした~」

「ほんとだべ。このクソせわしぃ時にわらしの相手なんぞできっかね」

「すいません。ギル様」

これで少しでもセシルへの怒りが消えればと二階へ向かって大声を上げます。そして大母だいかかさんからの応えがコレですね。思わず苦笑いを浮かべていると、顔を突き出してる中母ちゅうかかさんが、無言で指先を鼻に当てながら“ごめん”をしてます。セシルは消え入りそうな様子で頭を下げます。


「セシル全然気にしなくていいよ。本当に僕が悪かった。それじゃ、ガダスシアプ」

「ガダスシアプ。ギル様」

セシルには悪い事しちゃったな。でもこれで謎は全て解けた。ありがとう、セシル。


 そうか、そうか、あれが原因か。確かにそうだな。ちょっと考えれば判る事じゃないか……。しかも原因は全部自分にある。これはなんとかしない訳にいかないぞ。うんうん、よしアレの登場だな。走って家に戻る間にもアレの計画が頭の中でグルグルと回転し出す。うん、材料は大丈夫だ。いける、いける。





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