17.久し振りに勉強してみよう 貨幣経済の成り立ち②
これが竹宝貨? これが貨幣なのか? 貨幣と云えば硬貨か紙幣をイメージしちゃうよな……。でもこれ竹の棒だ……。でもそこに信用が在るなら、竹でも貝でも石でもなんでもいい……。それが通貨の基本原則だよな。その竹宝貨を手に取ってみる。当たり前だけど軽い。
「それが竹宝貨(ユロ:ER)よ。この黒石2つのが5ユロ竹ね。1つだと1ユロ竹、この3つのが10ユロ竹よ。4つあったら50ユロ竹ね。こっちの青石1つのが100ユロ竹で、2つなら250ユロ竹、3つだと500ユロ竹、4つで1000ユロ竹ね。紅石1つが2500ユロ竹、2つで5000ユロ竹、3つなら10000ユロ竹、4つだと50000ユロ竹になるわ。でも50000ユロ竹は正直滅多に見られないけどね」
「この真ん中の黒い石はなんですか? ガラスですか?」
「その石は普通“貨石”って呼んでるのよ。なんでも火系の秘匿系術で作るものらしいわ。でもね、ちょっとやそっとの魔術じゃ出来ないらしいわよ。色別に黒貨石、青貨石、紅貨石って云うわね。良くご覧なさい。同じ黒貨石でも貨石の表面に数字の文様があるでしょう? その細かい細工にはほんとに驚かされるわよね」
ほんとだ、お母様が云った通り2ユロの黒貨石には小さく2の数字となにやら複雑な文様が、10ユロの黒貨石にも10の数字と文様がしてある。ええ、お米に文字を書く奴みたいな精緻な文様です。それにこの貨石って……、火系術で……、ガラスぽい……、ん? これってもしかしてテクタイトじゃないのか? でもテクタイトってのは隕石の衝突エネルギーなんかで蒸発気化した地表の石や砂が、急冷固化して出来る奴だぞ。そりゃ原材料には事欠かないだろうけど、果たしてそんな莫大な熱量を魔術で発生できるのか? 思わずその竹宝貨の貨石に陽を翳して見入ってしまう。確かに不純物もないしやはり人工なんだろうか……。
うむむむ、そりゃテクタイトなんかそう簡単にできるハズないし、この精緻な数字とか細かい文様も偽造防止策なんだろうな。確かにこれならどっかの北朝○が起こした、スーパーKとかスーパーXみたいな騒動は発生しないんだろうな。マジ凄いなこれ。単位はユロって云うのか……。
「この竹宝貨は、初代魔道王リジェット・エメタリーパティックによる、通貨発行基本5原則に沿って造られたのよ。その通貨発行基本5原則と云うのはこういうのよ。
1.発行量を確保する為に通貨の製造原料は多量に確保可能な物とする事。
2.製造コストは極限まで低減する事。
3.短時間での大量生産が可能である事。
4.偽造が困難である事。
5.定期的な改造が簡易に出来る事。
この原則は、非常に優れたものとして現在でも評価されているのよ」
おお、凄いな通貨発行基本5原則ってか……。確かにテクタイトが魔術で簡単に出来るなら、この竹宝貨は全ての原則を満たしているんだろうな。材料はテクタイトと竹だけ、構造も至ってシンプル。テクタイトの製造そのものに加えてこの微細な文様だから偽造も困難だろう。マジ立派なもんだ。
「この竹宝貨は、それこそ大量に造られたのね。それが当初の目的だしね。そしてこの竹宝貨はエスタ硬貨とは違って、これ自体には価値はないのよ。だから竹宝貨の価値は魔道国の信用だけが後ろ盾なのね。そうよ魔道国は魔力品の交出とかで昔からお金持ちだったからこそ、それが出来たのよ。それでも最初はみんな信用しなくて誰も手を出さなかったらしいわね。それはそうよね、いきなりコレがお金だって云われても信じられないわよね。だから魔道国では公民の奉給を竹宝貨で払って、魔道国公営の竹宝貨専用の小売店を造ったのよ。これはかなり効果的だったみたいね、なんと云っても上得意の公民がみんなその竹宝貨専用小売店に流れちゃったからね。だからね、商種系のギルドが一気に危機感を覚えて、挙って竹宝貨の利用を自分たちのギルド員達に促したのよ。
その上で魔道国は奉納の支払いは基本竹宝貨だけに限定したのね。これで奉納する為には、誰もが竹宝貨を入手しなきゃならなくなったのね。ここまでしてなんとか、魔道国は竹宝貨の流通を成功させた訳ね。そしてこうやって苦労して造った竹宝貨で、エスタ街道魔道の道建設で雇った建設屋と人足への支払いを行ったのよ。これでリジェットさんの方針が実行できたのね」
なるほどこれがセラワルド版信用通貨初めて物語か……。確かに最初は苦労するだろうな。この竹棒に信用を与える訳だからね。しかし2000年前に信用通貨の誕生かぁ~、前世での信用通貨の登場って1910年台以降だからハンパなく早いよね。しかも前世は金本位制の崩壊が信用通貨の誕生原因だったけど、こちらは最初から信用通貨を創造したって訳だから、リジェットさんなかなかやるな。いやいやほんと先端行ってるな。
「ちょっと脱線するけど、この時造られた魔道国公営の竹宝貨専用の小売店なんだけどね。商種系ギルドのギルド員達のお店ががどんどん竹宝貨を解禁して行くと特徴が無くなっていくでしょう?」
「それはそうですね。元々目的は竹宝貨の普及なんだから、目的を達成したって事ですよね? 後は普通のお店に任せればいいんですよね?」
「普通はそう思うわよね。でもね、府官と云う者達は、一度手にした仕事(権限?)は決して手離さないのよ」
「えっ?」
「その後、この小売店は扱う品物の種類を増やして、各専門ギルドの商店へ対抗して行くのよ。そしてギルド間で決めていた営業時間の制約を無視するのね。まぁ公営だからこその暴挙よね。普通ならギルドの圧力で潰されるわ。その結果今では常開万店として、魔道国中に広がっていったのよ。王国の都市にも幾つも支店があるのよ。確かにいつでも開いてて品物も豊富で便利なのよね」
なんですかそれ? 開いててよかったコンビニエンスですか? コンビニがあるファンタジー世界ってどうなんだ? なんだか唖然としていたらお母様が、非常に態とらしい咳払いをちょっとすると話しを戻しました。
「こほっこほっ、それでは話しを元に戻しましょうね。当たり前だけどこの竹宝貨は、当初魔道国内だけでしか流通しなかったのよ。でもねその利便性に目を付けた交易商ギルドが、竹宝貨による交易決済を宣言するのよ。この宣言の裏には交易商ギルドと魔道国がなんらかの裏取引をしたって噂が尽きないわね。勿論ロキシア民国は便利な交易決済通貨の登場に両手を挙げて賛成したのよ」
国際基軸通貨のエスタ硬貨から竹宝貨への変更ですか? そりゃ相当な利権が絡みそうなお話しですね。それに神国にしてみたらとても癪に触る話しだろうな。
「神国は何も云わなかったんですか?」
お母様はこの自分の質問を聞いて、かなり驚いた顔をした。いえ、お母様それ位は判りますけど……。
「ギル、あなたほんとに良く判ってるわね。そうよ竹宝貨が交易決済に使用できるなら、それまで交易決済の主だったエスタ硬貨の地位を脅かす事になるから、神国に取ってみれば嬉しい事じゃないわよね」
「はい。僕もそう思います」
「でもね。神国は建前上経済支配には興味ない事になっているのよ。なんと云っても神の国ですからね。そういう下世話なお話しには口を出さないことが建前なのよ。だからこの時も表面的には黙認したらしいわ」
「表面的にはですか?」
「ええ、でも神国は自国での交易決済での竹宝貨使用を認めなかったのよ。そして神国の影響が大きいガリオン士道国とナミアン公国がこれに習ったのね」
確かにガリオン士道国とナミアン公国は神国とは地理的にも近いし、神国の影響は大きいんだろうな。
「でもね。不思議な事に皇国は、神国の方針に逆らって交易決済での竹宝貨使用を認たのよ。これってかなり怪しい話しでしょう?」
「はい。そうですね……」
う~んなんか、虚々実々な駆け引きがありそうだな。うん、皇国はなんかマジ胡散臭いぞ……。
「そしてやっぱりロキシア民国が交易決済での竹宝貨使用を認たのが大きかったわね。なんと云ってもロキシア民国は、アニウラワルドとの交易を一手に占めています、だからセラワルドの全ての国はロキシア民国と交易をしているんですね。ロキシア民国から交入する時はなんとか我を通せても、ロキシア民国への交出の場合はそうは行かないでしょう? それにあの遠いロキシア民国まで大量のエスタ硬貨を運ぶのにみんな辟易していた事も事実なのね」
そりゃそうだよ。何と言っても“お客様は神様です”だからね~~。確かにこのエスタ硬貨だと宝箱に入れて運ぶのかな? もしかして馬車全部これになっちゃうかもね。自分が、うんうんと頷くのを見て、お母様は嬉しそうにお話しを続けて行きます。
「結局の処、そんな事でなし崩し的に竹宝貨が、交易決済の主流になって行くのね。今でも神国の交易決済では、表面上はエスタ硬貨が使われてる事になっているけど、それはあくまで書類上だけみたいね。そしてこの竹宝貨は、あっと云う間にセラワルド全土で広く使われる様になるのよ」
おお、国際基軸通貨の交代ですね。それに各国で使え、量も十分、使い勝手もいい、その上裕福な魔道国の後ろ盾がある竹宝貨が、セラワルド中に広がるのは当然だね。
「多分この流れでそのまま行っていれば、セラワルドの通貨は竹宝貨で統一されたでしょうね。でもね。少し遅れて皇国が、竹宝貨とほぼ同じ物を品を変えて皇帝貨(DK)として発行したのよ。皇帝貨ってのはほんとに竹宝貨と似ていて、違いっていえば貨石の色が違う位かしらね。実はねその皇帝貨の製造は魔道国が引受けているのよ。似ていて当然よね。つまりそれほど貨石の製造は困難なんでしょうね。でもこれを引受けた魔道国も凄いわよね」
「それって……」
「ええ、そうよ。多分皇国が交易決済での竹宝貨使用を認た事への見返りなんでしょうね。そもそも皇国はギルドへの監督権がありますからね。そこら辺の影響力も利用したんでしょうね。つまり皇国は、名を捨て実を取ったって事よね」
おおお、多分交易決済での竹宝貨使用禁止を宣言しても現実には無駄だと見て、それよりも対抗できる新貨幣を造った方がいいと判断したんだろうね。それに国際基軸通貨を抑える事が経済へ及ぼす影響力を見ぬいた、皇国の経済官僚の彗眼は凄いですね。しかも貨幣製造は丸投げとは、ほんとにお母様が云う通りに名を捨て実を取ってますよ。皇国も外交力ハンパないな。さてこれで国際基軸通貨は2軸体制になるのかな?
「皇帝貨は、竹宝貨の交易決済での使用を禁じた、ガリオン士道国やナミアン公国で受け入れられて広まっていくのね。ヴォツェック大公国、ロキシア民国なんかでは先行した竹宝貨が広まったわ。そして神国はどっちつかずな態度を取り続けた訳ね。まぁ神国としては建前の経済支配には興味なしを守るしかなかったのよ。もしこの時神国がどちらかの通貨に肩入れをしたら勝負はついていたかも知れないわね」
むむむ、もしかしてそれこそが神国の狙いじゃないのか? どこか一国に国際基軸通貨を支配されるよりは、分散させた方が自国には有利になるって読みかも知れないな。うう、これはかなり奥が深いな。
「まっ、結局今は交易決済では竹宝貨がやや有利って感じで収まっているのよ。そしてこの竹宝貨と皇帝貨の登場で、エスタ硬貨を使う人はほとんどいいなくなったのね。つまりエスタ硬貨はこの2つの通貨に負けた訳ね」
おお、これでなんとか最初の方のエスタ硬貨が別のお金に負けたって処にまで到達したぞ。なんかすげ~長い話しになったな。
「ここまでで、竹宝貨と皇帝貨の登場と流通の過程を説明したけどいいかしら?」
「はい。そこまでは判りました。次は竹宝貨と皇帝貨にエスタ硬貨が負けた理由ですね」
「そうよ。ギルはなぜエスタ硬貨が、竹宝貨と皇帝貨に負けたのか理由は判るかしら?」
「それは……、竹宝貨の方が軽くて使い易いし、流通量も十分にあるからみんなに行き渡ったって事ですよね」
確かそこから話しが始まったんだよね。最初の方の話しを思い出しながらお母様の質問に自信を持って答えました。基本自分は記憶力抜群ですからね。
「それも一理あるわね。でも本質は違うのよ。もしエスタ硬貨がもうちょい軽くて、量が豊富にあったとしても、多分竹宝貨や皇帝貨には負けたでしょうね」
「…………?」
えっ、なんで? なんで? 話しが違わないですか?
「ギル、これと、これが同じ価値だとして、どっちの方が立派、いい物だと感じる?」
そう云いながら、お母様が丸くて黒光りするエスタ鉄貨とちょい竹の部分が汚れてる黒石2つの竹宝貨、5ユロの両方を掌に載せて見せる。かたや鈍い輝きを見せる鉄貨、かたや黒石が2つ嵌ってるだけの薄汚れた竹片、そりゃ考えるまでもないね。
「こっちが立派に思えます。でも価値は一緒なんですよね?」
お母様の掌の上の、エスタ鉄貨を指さします。そりゃそうだよね?
「そうよ。価値は一緒なの。でもそここそが問題なのよ。価値は一緒だけど、わたしでもこのエスタ鉄貨の方が立派に思えるわ。そしてそれって多分みんな同じに思うわよね」
「ええ、多分……」
「もしギルがこの両方のお金を持っていたとしてよ、どちらをお買い物の時に使うかしらね?」
「……、たぶんこれ(竹宝貨)です」
「そうせ・い・か・い。そしてそれはみんなも同じく思うものなのよ。すると誰もエスタ硬貨を使わなくなるでしょう。使われないお金、つまりお金としては負けた事になるわね」
あっ、なるほどグレシャムの法則“悪貨は良貨を駆逐する”だっ! これって前世の大学の経済論で習ったぞ。凄いなお母様って、通貨の基本原則をきちんと抑えてるんだ。自分が関心しきりに盛んに頷いていたら、一息付いたお母様がいつの間にか居間が薄暗くなって来てる事に気がついたみたいだ。
「あら、思わず長くなったわね。これからお夕飯の準備もあるから続きは明日でもいいかしら? それとももう退屈ですか?」
「いえ、お母様凄い勉強になります。明日もお願いします」
「良かったわ。大抵の男の人は、正道が大切でお金の話しを嫌がるものなのよ。正道はそりゃ大切なんでしょうけど、お金の事も大切なのよ。ギルにはそう云った事も理解してほしいわ。それでは今日はここまでにしましょう。ガダスシアプ」
「ありがとうございました。ガダスシアプ」
そう云いながら、お母様がオデコにそっとキスをしてくれました。あうっ、愛こそ全てです。イデオロギーなんかじゃ飯は食べられませんね。そしてお金も大事です~。お母様のその意見に大・大・大賛成です。ほんとに明日も宜しくお願いしま~す
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