14.改革をしよう⑤【農業生産編その2】
それでは農業生産改革第3の策に掛かりましょうか。これは今までのものとはちょっと毛色が変わってって、なんだろう……、意識改革的な話しになるのかな……。だからもうただただお母様の出番なんです。まずは公童塾に通う子供達を通してお母さん方に集合のお願いを出しました。やっぱり子供の事ってのは心配だから集まりはいいね。
今塾所の道場に、そうやって集めたお母さん方の前にいくつもの茶芋料理が並べられて行ってます。なにか子供についての話しがあると思って集まっていたお母さん方は、目の前に料理が並んで行く様子を眺めながらちょっと訝しげなご様子です。えっと、決して騙した訳じゃありませんよ。これから始まるお話しは、間違いなく子供達にも係る話しなんですから……。
ちなみに今ずらりと並んでいる料理の数々はお母様の指揮の基、カリ姐ぇさんとその配下の塾所料理隊にセシルも参加して調理したものです。セシルはあのピクニック以来なんか凄くカリ姐ぇさんと仲良くなってるんだよね……。えっと、僅かながらですが自分も料理のお手伝いをしました。まぁ茶芋を洗ったり、皮剥きをした程度だけですけどね……。あの料理の知識はあるんですが、実際に鍋を振るとか煮るとか味付けるとか出来ないんですよ~。なんといっても時計も計りもないですから、全ては勘と経験の世界な訳ですよね……。
さて集落のお母さん方の前に並んでいるそんな風に作られた料理の品揃えはと云うと、茶小芋の丸素揚げ、茶芋の細切りのフライ(フライドポテト)、粉吹芋、茶芋のポタージュ、茶芋の細切り炒め、茶芋と玉葱の薄切りの重ね焼き、茶芋とピグゥ肉の香草炒め(ジャーマンポテト)、茶芋と玉葱とピグゥ肉のスープ等などです。でも残念ながら肉茶芋はありませんでした。これってのは醤油がないからですね。ヴェルウント家にはリシン爺さん秘伝の魚醤が在るんですが、全然一般的じゃないし、どうやらさすがのお母様も肉茶芋のレシピまではまだ未開発みたいです。こんどこっそりセシルにでも教えてみようかな……。
こうして塾所の道場では、お母さん方の目の前に様々な茶芋料理が広がっている訳です。そんな茶芋料理を目の前にして、お母さん方はザワザワと隣の人と互いの顔を見つめあっています。それってのは、この集まりの目的が判らなくなってる事と、やはり茶芋への偏見があるんでしょうね。はい、なんと云っても茶芋には毒があるって意識が強いんですよね。うん。もともと茶芋は鑑賞用でかつ薬用として考えられていますからね。それに実際に貧しい人達が、芽なんかも全く除去せずに食べて腹痛・下痢を起こしたりしてるし、子供なんかが死んじゃった事実もあるんで、“悪魔の芋”とかって風評が完全定着してしまってるみたいなんだよね。絶対茶芋は食用としては捉えられてません。そんな“悪魔の芋”茶芋の料理がこんなに並んでいれば、そりゃザワザワもするよね。
でもほんとは茶芋ってのは、優れ物の救荒植物なんだから、どっちか云えば“天使の芋”ってのが正解なんだよね。ここ数年は、麦の育成が上手くいってるけど、親父殿、お母様の記憶には不作=飢饉の記憶がしっかり残っているみたいで、常にその時に備えていたいって意識が強いみたいだ。うん、それってかなり悲惨な記憶みたいなんだよ、だから家の軒先で茶芋の花を見つけた時に思わず“茶芋ってのは、りっぱな食料になりますよ”って云った一言に、ふたりとも飛びついて来たんだ。まぁ茶芋ってのは、寒さ乾燥に強くて荒地でも育つしね。そこで早速家の裏で茶芋を育てると、茶芋料理に挑戦したのがお母様です。家での試食を繰り返して納得出来たのか、(カリ姐ぇさんは自分では未だに食べませんが……)次には塾所で出す料理とかに使った訳だね。これで完全に茶芋を信用出来たらしい。そこで一気に茶芋の普及を企んでの、今回の集落のお母さん方へのアッピール会の開催って事に成った訳です。
「ガダスシアプ。皆様、今日はお集まり頂きありがとうございます」
「「「「「「「「「「ガダスシアプ」」」」」」」」」」
お母様がいつものワンピース姿で、手をお腹の前で組ながら上品に軽くお辞儀をする。何時見てもお綺麗ですよ、お母様!
「今日お集まり頂いたのは皆様に、この茶芋について説明したいと考えたからです。いいでしょうか? 皆様実はここ最近の塾所の集まりでは、良くこの様な茶芋料理をお出しています」
「“悪魔の芋”をだか?」
「そりゃちっとまずくないだか?」
「「「ザワザワ、ザワザワ」」」
おお、なんか周りのザワザワ音が大きくなって来たぞ。
「でも今まで唯のひとりも病気にはなっていません。それに家のギルは、ずっと茶芋を食べて育っております。いいですか、茶芋が、“悪魔の芋”なんて云うのは単なる噂に過ぎません。いえ茶芋は、“天使の芋”とも云えるものです。今日はそれを皆様にご理解頂きたいと考えています」
「美味しいです。お母様!」
「ほんとだべか?」
「すったらことが……」
「「「ザワザワ、ザワザワ」」」
ますますザワザワ音が大きくなって来る。よし、今だな。お母様の言葉が終わるタイミングを見計らって自分が天真爛漫な顔をしながら、目の前のジャーマンポテトをパクついて見せる。まっ、マジ美味いしね。そんな自分の様子を見て“おおお”って声があがります。次にザワザワ音が収まって自分に視線が集中するのを感じます。そこで更に茶小芋の丸素揚げに手を伸ばします。
「ほら、ギルはなんともないでしょう? どうぞ召し上がって下さいな」
「うん、ほんとに美味しいよ」
しばしの間が開いてから、自分に異常がないのとお母様の言葉を信じたのか何人かのお母さん方の手が、おずおずと戸惑い気味ながらも目の前の皿に伸びて行く。
「「「「「美味しいだ!」」」」」
一瞬の間の後に、料理を口に運んだお母さん方より異口同音の感嘆が上がった。よっしっ! つかみはOKだっ。その声を聞いて他のお母さん方も、恐る恐るだけども次々と料理を口に運んでいった。そしてみんな一様に驚きの表情を浮かべていく。いいぞ、いいぞ、これは好感触だね。
「これだば、どんやって作るのんだか?」
「料理すんどこに、あんだか注意すんべきことがあっか?」
「料理の時に芽を取り除くのが大事ですよ」
「わらしっこにも食わせていいだか?」
「ほんどに、病気になんないだべか?」
「家のギルを見て頂ければお判りでしょう。一切問題はありません」
「茶芋ば食えるんだば、えっれぇ助かるだべ」
「そんだ茶芋なら簡単に育つべ」
「んだ、んだ。あじのとこでも何本か勝手に生えてるべ」
お母さん方の声に適切に応えるお母様。それにさすが農村のお母さん達だけあって、茶芋が簡単に栽培できる事は知っているから、その茶芋が食べられる事がどれだけ重要であるかは即座に理解できるみたいですね。うん、いろいろな意味で食いつきすっげぇ~ハンパない。やっぱり百聞は一見にしかず。経験に優る知識なしだね。しかし一気にすっげぇ姦しくなったな……。
「そうです皆様も知っている様に茶芋はどこでも簡単に育ちます。まずは皆様の家の裏庭で茶芋を作ってみてください。種芋が無い方には少しならお分け出来ます。あと裏庭で栽培するなら奉納は掛かりませんからね」
このお母様の一言に、お母さん方のしゃべりが更にグワグワって沸き立って行く。ガディミリタの妻が奉納の対象外って云うんだから、これほど間違いない事もないもんだ。奉納は基本麦なんだけど、そこはそこできちんと麦以外の作物についても麦の収穫量から換算されて奉納が取られています。どんな世界でも税務署ってのが一番恐ろしい処なんだよ。
それに裏庭栽培って云ったけど、当たり前な話し家の横でも前でもでこでも栽培して良い訳だから、結構な量が栽培できる事は間違いないよね。そこら辺はみなさんしっかり計算してる感じだ。そうそう、つまりは救荒以前に救財布になるって事なんだよね。やっぱり最後は金だよ金……。たぶんここに居るお母さん方は、算学なんか習っちゃいないはずだ、でもこういう計算は体感的にできるんだろうな……。おばさん恐るべしだな。
「奉納無し?」
「そんだば、ほんとのことか?」
「ええ、間違いありません。わたしが夫に成り代わり保証致しますわ」
やっぱそこは一番確認したい処だよね。きっぱりと言い切るお母様。あ~、お母様素敵です。お母様のこの言葉に一瞬だけ、ほんとに一瞬だけだけど道場が静寂に包まれた。そしてその直ぐ後に、今度はみんなが一斉にしゃべりだした。うwww、どうしておばさんって同時にしゃべれるんだろうな。
「奉納にならんだら、そんだば助かるべぇ」
「んだんだ奉納外なら、間違っても損にはならんべ」
「あんだ、あんだ」
「茶芋を食わせば、ちっとだけパンを買うのを減らせるべ」
「「あんだ、あんだ」」
「裏庭でどんだけできんだべ?」
「あじは家の周り全部畑にすっべよ」
「「「あじも、あじも」」」
「こら、うんとにいい話だんべ」
「助かるべ~」
「「「「あんだ、あんだ」」」」
「早速明日茶芋を植えるだよ」
「あじは、けえったらすんぐ植えるだよ」
「「「「「あんだ、あんだ」」」」」
よしっ。これなら問題ないな。やっぱり税金が掛からないってのは大きかったね。なんと云ってもセキニア王国では、茶芋は作物として認定されてないからね。逆にそれが利用できたって訳さ。でも気づくとおばさん達の話題がなんか違う方向に……。
「やんだよ~こんな食べたら、あじふとっちまうがね」
「そんよりふとらんべさ」
「あんれその腹にゃ、ややこがおるんじゃないかね?」
「いやんだぁ、ぎゃはははは」
「でんもこりゃうんとに旨いだよ」
「「「「「あんだ、あんだ」」」」」
「ちっとこっこを連れてきて食わしてもいいだべか?」
「ええ、どうぞ構いませんよ」
「あじもそうすっべ」
「晩飯はこんでいいな」
「「「「「あんだ、あんだ」」」」」
姦しいとはこの事かっ! お母さん方の話し声と笑い声が止まりません。そして料理に伸びる手も全然止まりません。おお、これが噂の女子会なのかぁ。でもこれで茶芋への抵抗感が払拭されたなら、畑での栽培も可能になるはずだ。そうすれば茶芋が夏作物の主要作物になるの間違いない。今までは基本夏作物は野菜が中心で、穀物類はヒエやアワ程度だったから、穀物のほとんどは冬作物の麦、大麦に頼っている。でもこれで夏作物でも主食にできる作物が栽培できる様になるんだ。これは結構大きい話で、今までは冬作物が不作になると、丸々一年飢えに耐えるしかなっかたけど、これからは半年後のじゃがいもの収穫に期待できるようになるんだ。これこそがじゃがいも=救荒作物の所以だね。さてこれで農業生産改革第3の策も成功間違いなしですね。恐るべしはおばさんパワーかな……。
ほんとは、農業生産改革第3の策としてはじゃがいも以外にトウモロコシも導入したかったんです、でも色々調べたんですが、どうもセラワルドにはトウモロコシがないみたいでした。トウモロコシの原産地はメキシコから南アメリカ北部地域だから、高温多湿地域ってことだ、確かにセラワルドではちょい難しいかな……。とするならば、ウラワルドかサラワルド辺りにあるかもだな。そしてあとアレね。そうそう、さつま芋ね。これもどうもセラワルドにはないみたいなんだよ~。こちらも原産は中南米のはずだから、条件はおんなじかな……。う~、残念! そしてカブですよね。カブ! カブならセラワルドにもあるんですよ。ええ、カブは畜産改善の切り札みたいなもんなんでからね。でもね残念ながら農具のほとんどがまだ木製なんで、あまり深くまで畑を耕せないんですよ。だからまだ無理だなと諦めた次第です。う~ん、これも残念! 残念! まぁ、畜産の改善についてはまずはクローバー導入で満足する事にしましょう。
でもね、まだまだ出来る事はあるはずだ。何と云っても公衆衛生改革が功を奏したらなら、子供の生存率が良くなり、人口が増えるはずなんだ。そうなると文字通りヒトのクチが増えるんだから、当然だけど今のままじゃ食料が足らなくなる訳だよね。じゃがいももかなりの有効策だとは思うけど、やはり打てるべき手はどんどんやって置かないとね。同じ後悔するならさ、やらずに後悔するよりやって後悔したいからね。さて、次は何をしようか……。
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