1.ヴェルウント家
自分が異世界転生をはっきりと認識したあの日から、あっと云う間に5年の歳月が経ちました。でもね、あの夜の出来事はいまも脳裏にはっきりと刻まれています。両親の驚きの声、そして優しい笑顔。お母様の始めての魔法……。あれから5年……ええ、その後も両親の深い愛に包まれて、すくすくと育っております。なんせ0歳からの記憶がはっきりとあるので、マジ子育てって大変だな~と思いましたよ。いや~ほんと感謝、感謝ですね。親の心、子知ってるですよ。この両親の子供に生まれて? すっごい感謝感激です。ほんとに心から愛してるし、愛されてる実感に満ち満ちているんだ。これこそが家族愛なんだってね。あっちの母さんにはちょい悪い気もしてるけどね……。ごめんよ。でも自分が不幸になるよりも幸福になった方が、あっちの母さんも絶対に喜んで呉れるに違いないさ。
さて言葉の方は大方の予想通り直ぐに覚えました。なんたって記憶力抜群だからね。生後半年位経った処で、もういいかなぁと思って話しだしたんですが、親父殿が“天才だ、天才だ”と大騒ぎしたのを、昨日の様に鮮明に覚えてますね。あれはちょいマズったね。
そうそう最初に覚えた言葉なんですけど、それは、“ガダスシアプ”です。まぁなんか意味不明なんだけど、みんながみんな、まず最初にコレを云う訳なんですよ。使用頻度が異常に高いんで、そりゃ最初に覚えましたね。
ええ、そうです、“ガダスシアプ”これって挨拶の言葉なんですね。しかも、おはよう、こんにちは、こんばんは、宜しく、さようなら、ありがとう、お休みなさい、の全てを表す万能挨拶言葉の様なんです。はい、とっても便利な言葉です。この言葉“ガダスシアプ”に本来どういう意味があったのかはよく判りません。でもニュアンスとしては日本語の、ごきげんように似てるのかな? まぁ自分も今ではガンガン使っています。
と云う事で今後も宜しく“ガダスシアプ”です。
で、ですね言葉を覚えたのだから、次は当然アレです。そうアレ……、文字ですっ。直ちに我が家にある数少ない本を使って文字の解析を始めましたよ。ただし我が家に本らしきものはたった2冊しかなかったけどね……。でもこの世界の文字が表音文字だったことと、我が家にあった本の1冊が、なんと、なんと辞書だったと云う幸運に恵まれて、文字の解析もそう困難ではなかったです。でも2冊の本のうち1冊が辞書ってのはど~いうことだ? つまりあれか? 文字は苦手って事なんか親父殿……。
あともう一冊の本は、どうもなにかの専門書(後に分かりましたが、それは書式・規約・儀礼・典礼についての専門書でした)みたいで、解読は、かなり、ほとんど、……全く意味が判りませんでした。したがって本からこの世界の情報を入手するという計画は、呆気無く霧散霧消してしまいした。くそっ、本での情報収集ってのは、こ~いう場合お約束じゃないのかよっ!
それでもこの5年間で理解・把握できた事は、山のようにありますよ。ではここでいつもの様に、この世界の状況を整理してみましょう。さてこの世界で今、自分達の家族が暮らしているのは、“セキニア王国”の“リシュール州”にある“キトア郡”は“キグトア地区”と云う王家直轄領地みたいです。そして親父殿はそのリシュール州の地方行政官、いやお代官様かな? の部下らしい。つまりは地方公務員って事か? いやどうも中央省庁の地方出先機関に務める国家公務員と云った所みたいですね。親父殿よ、すごいよそれは、ちょ~安定した職業じゃないか。始めて見た時は、絶対に傭兵が冒険者、下手すると山賊の類かと思ったもんだけどね。
さてセキニア王国ってのは“守護二国”とか呼ばれてる国の1つで、他に“神衛三国”と呼ばれる国々や、“エスタリオン神国”、“神聖ダイトニア皇国”とか云う国があるらしい。更に他にもいくつか国があるみたいだけど、親父殿とお母様共に、あまりそっち系の話をしないので、残念ながらあまり詳しくは判っていません。残念だ。
まずは今認識できてる、この世界の文明レベルなんですけども。まずここはキトア郡って云うだけあって、我が家がある場所は完全な農村です。しかもかなりの田舎だと思われます。だから本当は他はもうちょい進んでるかも知れないんだけど、この農村だけが異常に文明的に遅れてるって事がないのならば、この世界の文明レベルは、多分ヨーロッパの中世初期位みたいです。
その根拠はなにか? まず農村なのに鉄製の器具が極端に少ないんですよ。ほとんど木製、青銅器の器具が中心なんですね。最初は、まだ鉄がない? と思ったんだけど。親父殿の武具・防具には鉄が使われているし、腰に佩いてる刀に至っては、どうも日本刀に似てて鋼製なんだよね。
つまり鉄器製造の技術はあるけど、未だ鉄器の大量生産が出来ていない時代って感じなんです。つまり水車利用以前の文明レベルって事だね。親父殿との会話から察するに武具のレベルは、刀と槍が中心で飛び道具は弓か投げ槍、それにスリングと云った感じの様です。ええ、火薬系統の銃やら大砲はまだ未開発みたい。そして当然機動力は全て、馬か徒歩って事ですね。戦場の花は、名実共に騎士って事みたいですよ。はてローマ軍の戦車は、ないのかな? でもここから見ても中世初期なイメージにぴったりだよね。
でもね、自分の記憶と比べても、親父殿、お母様の服装なんかはかなり進化・洗練されてる感じがあるんだ。それにあの謎の灯りね。あれってのはラストンって云うらしいんだよ。まぁ詳しい仕組みは、さっぱり判りませんけど、一般品だと、ちょっと黄色ぽい光で2m四方程の広さを、本が読める位の明るさで照らすんだね。それで大体6時間程連続で発光するみたいだ。当然高級品だと明るさも、発光時間も良くなるらしいよ。ええ、これがあるんで、結構夜も遅くまでいろいろな活動が可能って訳なんだ。所謂朝日と共に起きて、落日と共に寝るって生活じゃありません。
このラストンの電源? 燃料? が、よく判らないんだけど、暗くなるとみなさん手を翳して、なにやら呪文らしき言葉を唱えていますね。お母様も猫耳姉さんも、なんと親父殿まで同じ事してる所を見ました。今度自分でもできるのか、是非挑戦してみたいもんです。
更にはこんな農村なのに貨幣経済が確り成立してるみたいなんだよね。よく行商の人が馬車で遣って来て、露店を立てるんですよ。そこでみんなは、普通にお金を使って買ったり売ったりしてるんだよ。自分のイメージでは、まだまだ物々交換じゃね? って所なんだけどね。
う~ん、なんだか文明レベルにチグハグ感が拭えないんだけど、考えて見ればそりゃ、地球の歴史感からの話しだし、こっちにはこっちの歴史があるんだろうし、当然と云えば当然なのかな? ああ、早くこの世界の歴史とか知りてぇぇ~。
次にですね自分の名前なんだけど、“ギル”っての愛称だったよ。正式名は“ギルナス・ヴェルウント”と云う事が判りました。まぁ確かに“ギル”だけじゃ、ちょっと簡単過ぎるとは感じていたんだよね。それで親父殿が“ナイアス・ヴェルウント”、お母様は“リリュシカ・ヴェルウント”です。まぁ当然愛称は、ギル、ナイ、リリュって事だろうね。
ちなみに猫耳姉さんの名前は“カリファ”だって、人猫族は一般に“家名”を持たないらしいので、ほんとにカリファさんだけですね。でも同名だと困っちゃうよね。
親父殿の年齢は現在27歳、意外と老けてみえたんけど、むむむ、結構若いんだ。そんでお母様は24歳だから、自分を産んだのは18~19歳って事になるね。おおマジにヤンママだ!
それで最後はカリファさんの年齢なんですけど、実はカリファさんに直接歳を聞いたらですね。
「ギル様、女に歳を聞くもんじゃないね」
とあっさり答えを拒否られました。そこで別方面から探って見たところ……。
「ヒト族以外の諸族はね。老化があまり目立たないのよ」
お母様が少し羨まし気な表情を浮かべながら、カリファさんの年齢について話してくれたんです。なんとカリファさんは35歳らしいです。これは親父殿とは逆に思ったより年上さんでした。つまりカリファさんがヴェルウント家の最長老って訳か~。
そうです“年齢”って概念がある以上、“年”という概念が、元の世界と同様に存在していました。そうです月日の単位としては年、月、週、日となっています。なんだかあっちと似ててちょい驚きだね。1年はなんと12カ月でおんなじです。でも1カ月は30日の固定です。つまり1年は12カ月✕30日で360日となります。
そして週なんですけど、1週間は7日じゃなくて、10日でラウドと云います。そして月の中では、1のラウド、2のラウド、3のラウドと云うんです。まぁある意味すっきりしてるよね。えっと曜日という概念はないみたいです。まぁ神様が6日間で世界を作って、最後の1日は休んだって逸話も存在してないみたいだから、1週間が10日でもなんでも問題はないって事だよね。
あと各月には固有の名前があって、まずは最初の3カ月をエス季と云って、エスタン、エスニア、エスアドとなります。続いてがアラ季で、アラタン、アラニア、アラアドです。次がオル季でオルタン、オルニア、オルアドになります。最後がウズ季で、ウズタン、ウズニア、ウズアドとなっています。うんうん、これだと第一四半期とか、第二四半期とか云わなくてすみますね。
まぁ年と月と週、日については、こんな感じです。
ところでこのエスタ暦って奴でなんですけど、5年間この世界で生きてきた実感では、毎年の季節感に大きな違和感を感じる事はなかったし、これといった暦の補正もされていない様なので、きっと太陽暦なんだろうと思っています。
まぁこちらの世界にも月はあるんだけどさ、あちらの世界よりかなり小さな月で、それがなんと姉妹の様に仲良く2つ並んで夜空で月光を放っているんだよ。う~~ん、これじゃ太陰暦の作成はかなり難しいだろうって感じだよ。
ちなみにその2つの月なんですが、大きい方の月は“ムン”と云って、小さい方を“ルン”と云います。実はこれって女神様の名前で、ムン=姉月の女神、ルン=妹月の女神だそうです。
つまり、このエスタ歴は、あちらの世界でのグレゴリオ暦とほぼ同一って事だな。ええっと、これが“エスタ暦”の仕組みの概要でした。
さてこのエスタ暦なんだけど、名前から判るように【空間と時と存在の神】を崇めるエスタリオン教が定めた(解明した?)みたいなんですよ。どうも宗教と暦に関係性が在るのは、どこの世界でも普遍的なものみたいだね。ええ、さっきの月の女神様も当然、このエスタリオン教の女神様ですよ。
次に時刻の仕組みなんだけど、なんと24時間制なんだ! マジかって感じだね。あれかな? 太陽暦を採用すると24時間制が便利なんのかな? これも聞くとこによるとエスタリオン教が、エスタ歴と同時にお決めになったらしいです。はい。
それで、あくまでも感覚だけど、こちらの1時間の長さには、そんなに違和感はありません。でもそもそも時計がないんで実際の所は判らないけどね。ただし実際生物が生存できてる気候環境の惑星なんだから、太陽との距離(=公転周期)も地球のそれとそんなに大きく変わらないんだろうし、1日の長さ(=自転周期)だってさほど違わないはずなんだ。そう生物が発生できる環境ってのはもの凄く微妙らしいからね。
だからこんな似た様な暦になるのは当然なのかな? でもね1年の日数はいいとしても、1年が12カ月とか、1日が24時間ってのは、ほんとに単なる偶然なんかな? 別に1日が20時間でも30時間でも、1年が10カ月でもいいハズだよね? う~~んマジ不思議だ……。
ちなみに今年はエスタ暦で3015年だそうです。むむむ歴史、長っ!
これで暦関係の話は終わりですが、最後に一言だけ、なんとなんと毎朝、太陽は西から登って来ますぅ。うwwっw,ここは○カボンの世界かぁぁぁぁ~。
さて、ちょっと脱線したついでに、もうちょい脱線してみましょう。今度はヴェルウント家の家系について、説明してみますね。
我がヴェルウント家は、首都セキトの周辺にある農村? 町? のクルシュって所に本家があるそうです。ええ、自分はクルシュには、まだ行った事はありません。さて親父殿は、現当主であるジェイアス・リシン・ヴェルウントさんの次男さんなんです。ちなみに長男さんは、ケイナスさんで、妹のロアリスさんに、末弟のザイオスさんが居るそうです。残念ですがどなとも会った事はありません。ええ元々、ヴェルウント家は単なるクルシュの一農家だったらしいんでけど、自分から見て5代前の爺さんリシン・ヴェルウントさんの登場によって、家運は大きく変わって行ったらしいです。
このリシン爺さんは、剣術のシンゲキ流リシン派と、ソンジ派軍略を初めてセキニア王国に紹介したんですよ。現在シンゲキ流リシン派は、残念ながらかなりローカルな流派らしいですけど、ソンジ派軍略は、大メジャーのヴォルグ派軍略、王国では当然人気のセキニア派軍略に次ぐ、第3勢力の地位を獲得してるらしいです。うんうん、そこそこなモンって事だね。
実はリシン爺さんは、異世界人さんらしいです、異世界人ってのは、まぁ外国人的な感じですね。リシン爺さんは、ず~~っと東の、アニイラワルドって世界?、地域?、から来たらしいんだけど、残念ながらそこら辺の詳しい事情は、伝わってないんだってさ。きっとすんごい冒険談なんだろうな~。残念っ!
だからシンゲキ流リシン派も、ソンジ派軍略も、輸入もんなんだけど、まぁ独創的だし、セキニア王国ではリシン爺さんしか知らない訳だから、どーしてもリシン爺さんが、“開祖”的な感じになってるみたいですね。またこのリシン爺さん、剣術と軍略以外の事も色々とヴェルウント家に伝えてるらしいんだ。でもでもその件については、また追々とね。
つまりこのリシン爺さんの登場によって、ヴェルウント家は単なる農家から、地方の名士?、に変化していったと云う事だね。ただし確りと農業自体は続けているらしい。そうそう所謂兼業農家って奴だ。ちなみにこのリシン爺さんはセキニアではかなりの有名人らしいです。
リシン爺さんの長男がオルトナスさん。オルトナスさんは、シンゲキ流リシン派の皆伝を初めて賜授されて、黒虎騎士団に入団したんだって、それで騎士団でかなり偉くなって、なんか貴族だか、貴民だか、とかになったらしい。それがオルトナス・リシン・ヴェルウント、つまり俺の高祖父さんだね。
このオルトナスさんの長男さんが、トスナスさんで、この人は堅実に剣術と軍略の普及に努めたらしく、ソンジ派軍略がここまで広がったのは、トスナスさんの功績らしいです。このトスナスさんが俺の曽祖父さんね。でも3代目が優秀ってのは珍しいよね? 普通3代目って身代を潰す穀潰しじゃね?
さてトスナスさんの長男さんは、若くして亡くなったらしくて、次男だったジェイアスさんが、ヴェルウント家の家督を継いだらしいんだ。でこのジェイアスさんってのが自分の祖父、そして親父殿の父親って事に成る訳ね。そしてどうやらこのジェイナスさんと親父殿との親子関係には、問題があるらしいんだ……。
ジェイアスさんは現在は仕事を引退してるらしいんですが、ヴェルウント家初の府官になって、かなりの出世をしたらしいよ。その結果ジェイアスさんも貴族だか、貴民だかに成ったらしい。その名はジェイアス・リシン・ヴェルウント。現在も元気にご存命中でヴェルウント家の御当主って事だそうです。ええ、このお祖父さんにも一度も会った事はありません。
ちなみに、ジェイアスさんの奥さん、つまり自分に取っての祖母さん、親父殿のお母さん、お母様にとってのお姑さんが、ベスミラル・リシン・ヴェルウントさんです。なんでも結婚当初の一時期お母様は、クルシュの本家に居たそうなんですね。むむむ、どうなんだ? 嫁姑問題は勃発しなかったのかな? ちょっと興味あるな。
さて、さっきも云ったけど、親父殿はどうも父親のジェイナスさんと反りが合わなかったので、若い時にクルシュの実家をおん出て、王都セキトに進出していたシンゲキ流リシン派の本塾に転がり込んだらしい。そこで皆伝を賜授されて、黒虎騎士団に入団したらしいよ。そして……、まぁその後の事は、また別の機会に説明するね。
そうそう最後にちょっと、“氏名”について説明しますね。セキニア王国での氏名ってのは、一般的【個名】・“尊名”・【家名】って形で構成されているんだ。【個名】と【家名】の説明はいいよね。そこで“尊名”って奴ですが、これ別名“貴名”って云ってですね。貴族だか貴民だかになると、名乗れる物らしいです。その場合に“尊名”として、尊敬する人の個名とか家名を名乗るの普通みたいです。うんうん、だから、“尊名”って事ですね。
ただし、同じ家名を持つ者同士では、同じ尊名を名乗る事はできません。まぁ先に名乗って居た人が死んでいればいいんだけどね。貴民ってのは、どうやら一代限りらしいんでね。そんな訳でヴェルウント家ならやっぱり、尊名は“リシン”って事になるんですよね。それがオルトナス・リシン・ヴェルウントでありジェイアス・リシン・ヴェルウントって事です。ええ、どうも“名前”については、かなりの拘りがある世界の様ですよ。あっ、当然ですけど結婚すると、普通に【家名】は変わります。
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