8.祝! 公童塾開塾② 虐めは駄目だっ!
完全な学級崩壊の呈を様した修学初日のサラキトア公童塾。そんななか自分は、完全に無法地帯となった塾所の広い道場の床に蹲り、抱えた膝の中に顔を埋め両手で耳を塞ぎ目をしっかりと瞑って、現実世界から逃避し別世界へと遊離していました。完璧に心を閉ざし無知覚な中で感じられるのはキリキリと痛む胃の感覚だけ……。そんな中で様々な騒音の中に交じって塞いだ耳朶に微かに響いて来たあの声……。
「イ……イヤッ……」
ほんの数回しか聞いていない声。でも絶対に忘れらない声……。抱えた膝の間から頭を持ち上げおずおずと瞼を開ける、涙で視界がちょっとアレだけど……。双子ジャ○アンの片割れ、ジャ○アン1号が、セシルの黒いフードを剥がそうとしている姿が目に飛び込んで来た。
「おらぁっ、噂の雪肌っちゅうを見してみぃ? どんだけ白いだ?」
「「剥がし、剥がし」」
「「やれっち」」
「ヴァリ、やめんときぃ」
周りで無責任に囃し立てる餓鬼共の中、ひとりだけ女の子がそれを静止してくれている。ありがとう、感謝します。
「うっぜぇ、黙ってんろっ」
だがジャ○アン1号のそのたった一声の怒声で、その女の子もあっさりと無関心な様子に成ってしまう。だけどセシルは頭を覆うフードの端をしっかりと両手で掴んで抵抗を続ける。そんな様子が逆に楽しいのか、ニヤニヤ笑いを浮かべるジャ○アン1号は、フードのてっぺんを両手で鷲掴みにするとセシルを持ち上げていく。セシルの体重は多分20Kそこそこだろう。一方ジャ○アンは既に身長は140cmは超えて、体重も軽く40Kオーバーって感じだ。つまり正に2倍の体躯の怪物に襲われるお姫様って構図そのもの……。ちなみにこの時の自分の身長は、110cmに届かず、体重も18k程です。襲われている当のセシルよりも小さくか細いと云う実情でした。
今自分はそんな風景を見ながら頭の中で反芻している。なんの為に公童塾を始めたんだっけ? セシルの未来の為だよね? 自分がセシルをここに連れ出したんじゃないか……。そしてそのセシルが今いじめに会ってるぞ? そうだ先生役とかそんなの関係ないじゃん? もともとの目的はセシルの為じゃん? 初志貫徹しなきゃだぞ? そうしてると怒りなんだか、なんだかよく判らないけど、確かになにかが胸にグングン込上げて来た。グッと下唇を噛むとちょっとだけ手足の感覚が戻って来た。そこでなんとか蹲った姿勢からゆっくり腰を上げてみる。うん、なんとか……、正直膝がまだちょっとガクガクしてるが、この際それは無視しとけっ。
さっきまでの恐怖はまだ完全には払拭できてないけど、それを上回る怒り? 使命感? いやなんだか判らん気持ちがエンジンを回してる。ジャ○アン1号までの距離は6mくらいか? ジャ○アン2号は、セシルを虐めるジャ○アン1号をニヤニヤしながら1m程離れた所から眺めている。当たり前だけど誰も自分の事なんか一切気にもしてない。そうだなんにも考える事なんかないでしょう。いつ行動か? そう、今でしょっ!
すでに理性とかそういうものが無くなってる自分は、その心の声に命じられるままに、立ち上がる途中の中腰の姿勢から、バッと一気に走りだした。あれだね低学年の徒競走のスタートな感じだね、そしてそのまま勢いに任せてジャ○アン1号に駆け寄る……。でもジャ○アン1号のほんの手前、後僅かなで処でガクガクしてた膝からマジ力がフッと抜けた! あうっ! 膝がストンと落ちて上体がガクッと崩れる。でももう勢いは止まらない、その前屈みとなった姿勢のまま肩から、ジャ○アン1号のぶっとい太腿に突っ込んで行ったんだ。
“バァガッ”
「ぐあっ」
「ううっ」
なにか変な衝突音がして、自分とジャ○アン1号の口から、なにか声じゃない音が漏れだした。自分の体重は、多分ジャ○アン1号の半分以下だけど、運動エネルギーは、1/2✕重さ✕速度の2乗だからなっ。全くの無防備だった事と予想外の場所への衝撃にジャ○アン1号の巨体は意外に脆く、自分の身体と絡まったままゴロゴロと道場の床を転がっていく。その転がりが収まった時に幸運にも自分はジャ○アン1号の上に馬乗りに成っていた。
「なぁんじゃらっ! てっめぇぇぇ」
背後からジャ○アン2号の怒声が響く。でもね今は完無視です。ジャ○アン1号はまだ完全に事態を把握してないみたいで、こっちを見上げる目に力が篭ってない。そう、今はまずこのジャ○アン1号を倒す事に専念すべきだね。この態勢で最も短時間に効果的な攻撃方法は? おお、なんか頭がどんどん回転してきぞ。パパパパって前世の格闘番組の映像が脳裏をよぎった。そうだ、あれだっ!
馬乗りになってる上半身を大きく仰反らせると、その反動のままに一気に頭を振り下ろす。“ガキン”と云うもの凄い衝撃が頭を襲う、そうそう痛いというよりまさに衝撃だ。痛みじゃないけどなんかギィーンって頭の芯が痺れる感じ。しかしどうやらジャ○アン1号は仕留めたようだ。尻の下のジャ○アン1号の動きが止まっている。でもでも、まだ次にジャ○アン2号がいる……。立てるかな? うんうん、立てる立てる。ちょっと頭を振りながらもなんとか立ち上がって振り向くと、そこには、ジャ○アン2号がこっちをすごい顔をしながら睨んでいる。でもなんかもう怖くない。
「静かにしろっ。そして虐めは駄目だ! 絶対に許さないぞっ」
あれ? 汗かな? 温かいなんかが頭から滴って来た感じがするな。思わず額を手で拭うと、その手の甲がベッタリと真っ赤になっている。ふん、なんだこれ? まっ、今は関係ないな。
「みんないいねっ! 虐めは駄目だ!」
道場中の視線が自分に集中してるのが判る。さっきまでの喧騒が全くの嘘のように広い道場が静まり返っている。うん、なかなかいい感じだな。
「なぁんじゃと……」
「黙れっ! 虐めは100パー駄目だっ」
「「「「…………」」」」
ジャ○アン2号がさっきの威勢が嘘のように、何故か小さい声で反論してくる。ジャ○アン2号の目がなんか泳いでるな。よし今が勝負時だな。腰に手を当てて胸を張って声を出してみる。どうだっ! ジャ○アン2号め。おお、みんなも静かになったぞ、そうだ授業ってのは静かにやるべきなんだ……。むむむ? なんか目の前が紅いぞ? ああ膝から力がぬける~。あれ? なんかフラフラするぅぅ~、ジャ○アン2号の顔がふ~って視界から消えていく? あれれ? 道場の天井が見えるぞ~。
~キャスレット・ウォールドからの視線~
おら塾所の2階の大広間で寝転がってたんだけんども、下が騒がしくなってきたんで、ちょっくら覗きにいっただよ。したら道場でなんやらこっこ共が、騒いどる騒いどる。若様がなんか云っとるが、こりゃあかんな。抑えが効いとらんだべ……。よっしゃここはおらが一発。イヤイヤ駄目だべ。団長様にも、イジュマー様、アドバン様にも、決して若様の修学には手をだすなと云われてたべ。むむむ~。でもリリュ奥方様には、若様を頼む云われとるし……。おらこまっちまうべ……。
「黙ぁってすっこんどれ。そんだらぁ、なぁんもせんよって」
おっ、なんやらちっと“ごんたれ”な感じなこっこがふたりおんな。ありゃ? ギル様、腰がぬけただな。もっかして喧嘩した事ねぇだべか? ぼんじゃな~。こんりゃ困っちまったな。ほんにどんすべかな……。
「イ……イヤッ……」
「おらぁっ、噂の雪肌っちゅうを見してみぃ?。どんだけ白いだ?」
「「剥がし、剥がし」」
「「やれっち」」
「ヴァリ、やめんときぃ」
「うっぜぇ、黙ってんろっ」
あり? ちっと嫌な感じになってきただべ。あんりゃ弱いもん虐めでないだべか? こーいうのは、おらあんま好かんべ。こりゃもう仕方ないだべ……。ん? 若様が立ち上がってきたど? ちっと様子をみてみっか……、うおっ、突っ走ってそんで突っ込んただ。けんども、なんじゃありゃ、いつもの修動の技とかどこいっちまっただ……。やっぱもちっと実戦形式の修動せんといけんな。
“バァガッ”
「ぐあっ」
「ううっ」
おおっ、だけんどいい肩当たり(ショルダーアタック)が決まったべ。はは、転んどる転んどる。若様もあげなでかいこっこを転ばすとは、思ったよっかやるべ。やったべ、若様が馬乗りになっただ。やっぱ勢いあるもんが上になるんだべ。
「なぁんじゃらっ! てっめぇぇぇ」
そんだそんだ、そげな声を気にしねぇこった。まんず今の相手は目の前のひとりだべ。ほんでそっから……。うぎゃっ、頭突きかやっ! あんりゃえれぇ勢いだ、こりゃ決まったべぇ。若様さぁ結構エグいだべ……。まぁそんだはいいか……。さっ若様そんで残るは、あとひとりだなや。でも立てるだべか? おお、ちっとフラついてけっど立っただべ。根性あるだな。これにゃほんに驚れぇただ。
「静かにしろっ。そして虐めは駄目だ! 絶対に許さないぞっ」
ほんらみろ、頭突きで相手の歯があったんだべ、頭から血が出とるべ。ありゃ自分の手の血糊をみたけんど無視? 若様大丈夫け? 道場のこっこ共はみなドン引きだべ……。
「みんないいねっ! 虐めは駄目だ!」
「なぁんじゃと……」
頭から血流しながら睨んでるべ。こりゃ鬼気迫るべ~。おお、あんのでかいこっこも若様の迫力に呑まれてるだ。
「黙れっ! 虐めは100パー駄目だっ」
おお、なんや腰に手を当てて胸を張っただ。だけんどその姿勢じゃなく、みんなその血まみれの顔に引いてるだよ。若様がニヤってしただ、あれは怖いだ。みんろ、みんな黙っちまっただ。あっ! 若様がフラついて……、あ~あついに倒れちまっただ……。
~ギルナス・ヴェルウントからの視線~
ふと気が付いて目を開いたら視界に入ってきたのは、道場の木の天井だった。あれ?なんか既視感が……
「若様、大丈夫だか?」
「ん? あれ? 僕?」
「頭はどうだべ?」
その視界を遮ったのが、幅広の鼻が目立つ浅黒く引き締まったキャスの顔だった。
頭? えっと、ちょっとズキズキするけど、そんなでもないな。え~っとなんだっけ?
「だ、だい、だいじょうぶ? そ、それに……、あ、ありがと……」
キャスの顔が引っ込み、代わりにフードを被った綺麗な細い顎と紅い小さな唇が間近に現われると、あの声が耳に響いて来た。セシルだ……。
この声を聞いた瞬間に全ての記憶が戻ってきた。しまったあの後どうなったんだ?
「み、みんなは?」
「もう、こっこ共はみんな家に帰っただべ。もう17時になるだ」
うげっ、じゃぁ3時間位は気絶してたんか? その時突然自分の後頭部が暖かくて柔らかいものの上に乗っていることに気がついた。はて? これは……。視線をちょろちょろと動かして、状況を再確認する……。うwwwwこの位置関係から考えると、これはっ!
「そんだよ。セシルがずっと膝枕してんべよ。もうかれこれ3時間になんべ」
「あたし、も、もう、帰らないと……」
「……」
うう、頬がカッと熱くなるのが判るけど、なんにも声が出ない……。キャスよ、きちんと説明してくれて、ありがとう……。でも今ここで、いったいどういうリアクションをする事が、正しいのかが全く解らないんですが? 出来ればそっちの説明もあると助かるな……。セシルの声を聞いてあわてて膝枕の状態から上体を起こす。するとパラリと紅い血染めの布が、額から外れてお腹に辺りに落ちた。これセシルのかな?
「セ、セシル。あ、ありがとう。えっと……あ、明日も来てね」
「は、はい。ガ、ガダスシアプ」
「ガダスシアプ」
なんかもっと上手い事云えないかなぁ、自分っ! しかしなんとか挨拶だけは交せたぞ。さずがは万能挨拶だ。立ち上がるとちょこんと頭を下げるセシル。黒いローブ姿のセシルは、まさしく魔女っ子って感じでなんだか萌え~……。ハッと気が付けばキャスは視線をわざとらしくずらしてる。なんだよお前……。
トコトコと自分の家に向かう、セシルの黒ローブの後ろ姿を道場からなんとも和みながら見ていたら、道場の引き戸の影から2つのおんなじ顔が、上下に並んで恐る恐るって感じでこちらを覗いて来た。
「……」
これもどんなリアクションが正しいのか想像できないので、無言でその瓜二つの顔を見つめる。
「「だ、大丈夫じゃか?」」
「ああ、もう大丈夫です」
声もちゃんとハモってるな。theタッ○かお前達は……。まぁ凶暴な悪タッ○だけどな……。自分のその声を聞いて、その凶暴悪タッ○のふたりが、完全に一緒にニッと笑う。全くおんなじ笑顔なんだけど、上の顔の方は下の前歯が半分欠けてる。
「あっ。その歯」
「「こげなこっとぉ気にぁせん!」」
マジハモってるなぁ。ユニゾン?
「えっと……あ、明日も来てね」
「「ガダスシアプ」」
「ガダスシアプ」
その自分の声に、再びニッと笑うと凶暴悪タッ○のふたりは、元気な挨拶を残して自分達の家に向かって走りだしていった。なんかお互いの一言で心が通ったみたい。いやほんと便利な挨拶だ。
「若様、よっかただべ」
キャスがそう云いながら、頭の髪をワシャワシャとする。そうされながら、うんうんって只々無言で何度も頷く。だってなんか声にだすとさ、泣きだしそうだったからな……。こうして記念すべきサラキトア公童塾修学の初日は最高の終幕となりました。ガダスシアプっ!
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