6.理由(わけ)
さて自分がなんでこんなに予備自警団? 童塾?(まぁどっちでもいいけどね)に拘ったのかと云う理由を説明します。さてそれは何故でしょうか? 将来の自警団の底上げ? Yes。集落の基礎的産力の向上? Yes。女性の地位向上? Yes But yet。そうみんな正解、でもそれはほんの一部……。その自分の動機の大半を占めた理由、そう、それはセシルナ・アバルマ、セシルなんですね。
セシルは極度の人見知りなので、あの日もあまり話はできなかった……。ってか、ほとんど話しはしてない。あの後、自分が落として割ちゃった皿の後片付けをして、丸太の流しに残っていた皿も洗ってあげたら、最後に“ありがとう”って、か細い透き通る声で云われたのがその会話のほとんど全てでした。うう、これって会話じゃないし……。
でもね……。その時のあの声は確実に自分の心に突き刺さったんです。そして間違いなく心の中に小さいけど何かが芽生えました。前世の自分は、9歳の時から現実世界から隔離されていたんで、当然ですがチェリーで、じつは恋愛の方も実体験としては、保育園の先生への初恋的な段階で凍結されております。そりゃ、お母様は大好きだし、カリ姐ぇさんも好きだよ。でもね、やっぱりおふたりは家族なんだよ。しかも自分の過去の全てを、あんな事もこんな事も知ってる人だからね……。もう一生頭があがらないよ。残念ですが恋愛対象外でありますっ!
さてセシル本人とはその後会ってません。ってか、この1年以上ほぼ毎日集落で跳んだり、走ったり、木剣を振ったりしてるのに、一度もセシルを見た事ないってのが、元々異常なんじゃないか? そこでお茶の時間にお母様にセシルの事をそれとなく尋ねてみました。
「セシルはね。雪肌病なのよ。だからあまり陽の光の下には居られないのよ。それに目もあまり良くないらしいから、細かい家事なんかも難しいみたいなの。だからほとんど日中は、2階の屋根裏で糸紡ぎか、麦藁での草鞋造りをしてるそうよ。あとは脱穀かしらね。そう云えばアバルマさんの家は割りと多目に脱穀してるわね、あれは辛いのよね……。それに目の問題もあるでしょう。だからセシルは夜の外出もあまりしないそうなの。でも篭もり切りってのもね……。それであの夜は、わたしがセシルのお母さんに無理云って誘い出したのよ。でもあの家にしてみると、やっぱりセシルを外にはあまり出したくないのよね……」
雪肌病ね……。確かにアルビノ、先天性色素欠乏症・白子症なんてよりも、ずいぶん柔らかい呼び名ですね。でもその中身には変わりはないから、症状なんかは一緒なんだろうな……。
アルビノ、先天性色素欠乏症・白子症、それは先天的な要因でのメラニン色素の欠乏による体毛や皮膚の白化症状を云う。重症な場合には瞳孔・唇が毛細血管の透過により赤色化する。網膜の色素不足に伴い視覚的な障害を伴い、日光(特に紫外線)による皮膚の損傷や皮膚癌のリスクが非常に高い。その外見上の特徴によりしばしば神聖視や凶兆視される……。確かこんな所だよね。どうやらエスタ教がしっかり根付いているこの世界では、残念ながら雪肌病者は神聖視されていないみたいだ。
「その上セシルは、ギルと同じで祖戻りなのよ。フェルムの特徴が結構出てるでしょう……」
そこは、なんかお母様も心苦しそうだ。なんと云っても自分も5代前のリシン爺さんの立派な祖戻りらしいからね。ええ、どうやらこの髪の色や顔付きはアニイラワルド人の特徴らしいね。まぁ自分としては馴染みある感じで全く気にしてないけどね。それに、こっちはリシン爺さん譲りって話しだから世間的には一つも問題ないんだ。
だけどアバルマの家では、自分の家の先祖にフェルム人がいたって事が露わになるのは嫌なんだろうな。うん、それは以前に習ったセラワルドの歴史から考えても理解は出来るけど……。つまりセシルは2重の意味で外出禁止状態な訳だ。本人にはこれっぽっちだって罪はないのに……。はっきり云ってほぼ軟禁な感じだ。このセキニアって国は、案外偏見とか差別の少ない国だと思っていたんだけど、これは結構衝撃的な事実だったね。そしてその後のカリ姐ぇさんの話はもっと衝撃的だった……。
「ギル様、あんまセシルの事は気にしない方がいいよ」
「えっ? どういう意味ですか?」
「うん。セシルってさ農作業はできないし、家の事もあんまり任せられないみたいなんだよ。糸紡ぎと草鞋造りと脱穀だけじゃ、食い扶持には足らないよ。今はまだ子供だからだけどさ。アバルマの家も子沢山で苦しいみたいだし、セシルがもちょっと大きくなったら、多分ね……」
多分? カリ姐ぇさん、多分なんなんですか? 自分の顔に浮かんだ“?”に気がついたのかカリ姐ぇさんが、そのまま言葉を続ける。
「ギル様、ギル様にはまだ判らないかもだけど、女の子には色々な需要があるんだよ。特にセシルは珍品だからね。それに村にいても、多分嫁の貰い手はおらんし、セシルにしたらそっちが幸せかもだよ?」
カリ姐ぇさん、いくらなんでも“珍品”はないでしょう? それに“そっち”ってのはどっちですか?
「カリファ、ちょっとよしなさい。ギルはまだ子供なのよ」
でも、そのお母様のセリフでピンと来ました。あっ、需要か! はいはい、判りました。つまり、つまり、この世界は一見平和で文化的に見えるけど、まだまだ中世的世界であると云うことですか……。
「アドバン先生、ちょっと教えてください。……えっと、セキニアの社会の階層構造っていうか、身分制度っていうか? そこら辺りをもう一度説明してください」
お母様達とのお茶会を終えると直ぐに、この気になる事実の確認に動きました。
「み、身分制度であるか?」
「はい。そうです」
「一度説明したであるよ?」
「もう一度お願いします」
なんかお茶を濁そうとしたけど、こっちの真剣な眼差しに気がついたのか、古武士さんは2~3度咳払いをすると、説明を始めてくれました。さすが古武士! 信用できるね。
「分かったである。まずセキニアでの二族七民については、もう説明したであるな。二族が、王族と貴族であるな。セキニアでは王族とは、王の一族とザッハニー公伯の一族である。貴族とは、侯爵、伯爵、子爵、男爵である。つまりセキニア15氏貴であるな。そして七民が貴民、公民、産民、作民、商民、奉民、無縛民である。貴民は、貴族に準じる者で、一代限りの貴族である。貴民には、司爵、軍爵、民爵があるのである。次が公民で、公民とは王国に仕える民である。公民とは府官と軍官であるな、そしてご子息殿のお父上がその軍官である。あとが平民と云われる5民である。つまり産民、作民、商民、奉民、無縛民であるな」
「王族と貴族に貴民と公民、そして平民の5民ですね。はい、それは確かに以前に習いました。でもほんとにそれで全てなんですか?」
そう、身分制度って聞いた時の古武士さんの表情が、これ以外のなにかをはっきりと感じさせたんだ。
「それは、ご子息殿がもう少し歳がいってから……」
「……それに外民じゃな」
古武士さんが苦しそうに口を濁したと同時に、老師さんが、ぼそりと呟くように言葉を落とした。ほらっ、ほらぁ~、やっぱりまだあるんじゃないか……。
「外民? ですか?」
「老よ。それはまだ早いかと……」
「しかし歴然とした事実じゃからな」
「アドバン先生、教えて下さい! お願いします」
「う、うむ……。外民とは、二族七民から外れた者である。つまり民とは認めれらない者、民でなく所有される者であるな」
ちょっと云いにくそうな古武士さん。それでもぼつぼつと言葉を選びながらも説明が続いていく。
「外民は3種類である。王国が所有している外民が国奴。貴族・貴民に所有される外民が貴奴。そして民に所有される外民が民奴である……」
国奴、貴奴、民奴か……つまり外民=奴隷ですね。古武士さんの説明が止まると嫌な沈黙が辺りを包み込んだ……。
「王国には刑罰として“外民落し”と云う罰があるんじゃが、これは死罪に次ぐ重罰なんじゃな。国奴となる者は、この“外民落し”となった謀反人、重度の犯罪者、侵略者、捕虜等じゃ。貴奴はこれら国奴となる者を、貴族・貴民に払い下げた者じゃ。この貴奴には元々貴族・貴民で謀反や重罪を犯した者なんかも居るようじゃ。まぁ体の良い見せしめじゃな。これらが“外民落し”の罰を受けた者共じゃな。じゃが民奴と云うのはちと違っての、確かに民奴の中にもこの“外民落し”の罰を受けた者はいるんじゃが、そのほとんどの者は、外民落しではなく借金等で自ら身分を売り渡した者なんじゃな」
古武士さんの後を引き継ぐ様に、老師さんが淡々と言葉を紡いでいく。やっぱり、ほとんど想像通りだ……。
「外民となった者は、民ではないので一切の権利・保護の対象外じゃ。あくまで主の所有物と見なされる、殺されようが、どうなろうが一切の文句は云えんのじゃ。者ではなく物なんじゃからな。一方で外民が取った行動の一切の責任は主の責任となるんじゃな。これは所有者としての当然な責務じゃな。例えば外民が、誰かを殺めた場合その罪は全て主の罪となる。当然の事じゃな。誰が刀に罪を求めるのじゃ?」
「……、あの、げ、げ外民からの復帰は?」
むむ、そりゃ徹底してるな……。でも身分回復の道はないのかな? 恐る恐る質問して見た。
「“外民落し”の罪が、冤罪ならば名誉回復の道はあるのである」
「冤罪ならな。しかし自分で身分を売った場合は身分の回復はかなり難しいんじゃ。まず主の同意が絶対条件じゃ。次に復民の手続きとして、再度の諸族識鑑の手続きが必要なんじゃが。もともと民奴となるには、棄民の手続きをするんじゃが、棄民の手続きの時に本人の承諾と両親の同意が成されているから、なぜ棄民したかを厳しく問われるんじゃ。実際民奴が復民したと云う話しは、ほとんど聞いた事はないのぉ」
「棄民とは、即ち自ら者である事を放棄する行為である。それは自助の放棄である。復民など認める必要などないのである」
古武士さん、それは正論なんだけど……。それってホントに自ら望んだ事じゃないでしょ? きっと……。
「そ、それで民奴ってのは多いんですか?」
実はこれがホントに知りたい事です!
「で、ある」
「じゃな」
「雑貨商ギルドの半分近くは、民奴商である」
吐き捨てる感じな口調の古武士さん。ざ、雑貨ですか……。
「セキニアではあまり見かけんが、なんでも各国では農村を定期的に仕入れに回っているそうじゃ。子供は比較的安く仕入れる事ができるからじゃな」
「そ、それは真であるか?」
「何じゃ、お主そんな事も知らんのか? 民奴のほとんどは、そうやって売られた子供を飼育、成長させた者じゃぞ」
「で、で、あるか……。し、仕入れに飼育であるか……」
自分も驚いたけど、明らかにショックを受けたご様子の古武士さんです。もしかして意外に世間知らずとか?
“ある程度の生産余力ができると余剰物資=富が生まる。この富が偏在する事で経済格差が社会に発生する。この時その社会に人権意識が普及していなければ、その社会に奴隷制度が発生するのは必然の罠である”と前世の社会学者がネットで教えて呉れた事がはっきりと脳裏に蘇りました。
まさに推して計るべし! これは良く考えると当然の帰結と云えるんじゃないか。どんなに民主的、開明的に見えても主権在民でない王権の世界で、貨幣経済がかなり発達していれば、奴隷制度は確かに必然とも思える。ああ、必然の罠とは良く云ったものだ。なんせあの前世にだって暗黙の“奴隷”と云える人々が少ない数居た訳だからね……。
お母様とカリ姐ぇさんとの会話、そして老師さんと古武士さんによる解説から推測するに、どうやらセシルの未来にはあまり明るくない一本道が拓かれてるみたいだった……。まだセシルが確実に民奴に堕ちるとは決まっていないけど、たぶん実態としてはそんなに変わらない未来へまっしぐらな感じだ……。
セシルはこれからどんどん魅力的な女子として成長するだろう。だがそれはアバルマ家には、たんなる負担の増加を意味するだけだ。それにセシルの下の兄弟達も成長して行くから、ますますアバルマ家の経済的負担は増加する一方だろう。そして一切アバルマ家の経済的な力になれず、更には自分の外見的特徴が一家に負い目を与えている事を理解しているセシルが、自からの外見・特徴に経済的な価値があり、自らを犠牲にする事で家族に恩返しができる事を理解したら? “珍品”ってカリ姐ぇさんの言葉が心に冷たく刺さった。
いや、きっともうセシルは、朧げには理解してるんじゃないか? それもあって自分から閉じこもってるんじゃないか? ああぁぁ、いやだいやだ、想像する事すら絶対嫌だ。なんか寒気がしてマジ胃がキリキリって痛くなってきたぞ……。そんな未来は断固拒否してやる。自分とセシル……とかは、一旦横に置いてだ。まずはこの許し難い未来を必ず打破してやる。ああ、絶対にだ。
でもでも、その為にはどうするのがいいんだ? よく考えろよ。まず自分には正直なんの力もないから、自分の手で助けるなんて事は絶対無理だ。奴隷反対~~、とかもあり得ないぞ、多分この制度には数千年の歴史あるんだ。神に祈るのも駄目だ。自由の女神とかいないみたいだし……。よく考えろ~~。よく考えろ……。なにか手はあるハズなんだ……。
そうだっ! それだ、それしかないな。未来の可能性を増やすんだ! 真っ暗な一本道に脱出ルートを開拓するだ! 一言で云うならセシルの選択肢を増やすんだ。そうそう、それってのは、アフリカとかの発展途上国の子供達への支援なんかと同じ話しなんだ。では、その為に求められる事はなにか? そうです、それは教育です。教育こそが未来を拓く為の唯一の武器に成るんだ。これこそ間違いなく正しい正解です! セシルに教育を! そしてセシルに明るい明日を! これだ! これですっ! 目の前が一気に明るくなった感じでした。胃の痛みもいつの間にやら消えていたし。ではでは、実際にはなにをどーしたらいいのかと考えた結果が……。
そうですっ! その答えこそが、あの予備自警団であり童塾の提案なんです。そしてその成果が公童塾へと繋がりました。さぁ仕組みはなんとか出来そうです。ここから先は自分とセシルの努力に掛かっているんです! 頑張れ自分! 頑張れセシル! ふたりで暗い未来を叩き潰そう! ってなんか自分だけで盛りがってるな……。そもそもセシル、公童塾に来れるのかな? つつっ、アレなんかまた胃が痛くなって来たぞ……。6歳にして胃痛持ちとかマジあり得ないんですけど……。
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