4.改革をしよう①【まずは教育から始めよう】
「子供に修学であるか? 子供の本道とはそもそも親の手伝いが本道である」
「親の手伝いをするなって云ってる訳じゃないですよ」
いつものトレーニングを終え、夕方塾所に老師さんと古武士を訪ねています。そしてこの自分の突然の提案に対して古武士さんは、眉を顰めながら反論して来ました。ええ、やっぱりって感じがしますね。
「それに幼い子供では、内容の理解が困難である」
「そんな事はないですよ。僕は5歳から修学を初めているじゃないですか?」
「まぁ、リジェットの王立魔道院でも、6歳から入学を認めておるのじゃから、能力的な問題はそんなにないじゃろ」
おお意外にも老師さんが助け舟を出してくれた。
「ご子息殿は別格なのである。王立魔道院も選りすぐりの子弟が入学する処なのである」
「僕は別に特別じゃないし、そもそも人の能力なんてそんなに差はないと思いますよ」
だが古武士さんも譲らない。これがこの世界の常識って事だね。
「ですけど、自警団に入ってからの修学で、読み書き算学の初歩を始めるのは効率悪いと思うんですよ。それに剣術の基礎も早くから始めた方がいいと思います」
自警団に入るのはある程度身体が出来て来る15歳近辺の人が多い。つまり高校入学なイメージかな? キャスは結構特別みたいだけどね。でも高校入学で初めて読み書き算学に取り掛かるから、みんなかなりそこに手間取るんだ……。そうそうキャスみたいに……。本当なら自警団なんだから、もっと剣術の時間や、歴史、地学、そして正道? を進めるべきなんだけど、そもそもの基礎がないから、そうもいかないのが実情なんだね。そりゃ文字と数字が判らないと歴史も地学もど~しようもないよね。
「確かに、それは正論であるな……」
「修学を始めるって云うよりも、最低の読み書きと、数字の扱いを覚える程度です。剣術の修行もですね、修行って云うよりは、基礎的な訓練のやり方を教える程度なんですよ。つまり自警団に入ってから、どんどん修行や歴史、地学、それに正道の修学が出来るように土台を作って置くって事ですね」
「坊主の考え方は判るのぉ。王立魔道院でも一般子女への基礎的修学を行っておるんじゃよ。それに読み書きは若い方が吸収が早いと云う者もいるんじゃ」
「イジュマー老、その話しは真であるか?」
「ああ、わしもそう感じたの」
古武士さんは、意固地親父ではありません。ちゃんと柔軟な理解力を持っているんですよ。だからきちんと説得すれば味方になってくれるハズです。そしてナイスフォローですっ! 老師さん! ほら、古武士さんが、その老師さんの一言で静かに考え込だしたよ。これはかなりインパクトあったかな?
「ギル、お前の考えなのか?」
親父殿が、自分を家の仕事部屋兼武具室に呼びつけたのは、老師さんと古武士さんと例の話をしてから3日後の事だった。うむ、親父殿の目は怒っていないな……。ここは特に隠し立てする必要はなさそうだ。だけどあまり生意気でも駄目だ、声高に主張するよりは、ここは簡単に頷くのがベストな感じかな。
「はい」
「試験的な予備自警団の創設……。それに集落の基礎的産力の充実? アドバン殿からの具案申告となっているが……」
うぉっ、具案申告とは、さすが古武士さん柔軟だし仕事が早いなぁ。
「イジュマー殿によると、これはギルが云い出した事らしいな? ギル。ホントの狙いはなんだ?」
ありゃぁ~、老師さんは味方だと思ったんだけど、意外に……。う~ん、なんて答えるかな? はてさて考え所だぞ、ここは。
「…………、あのですね、キャスさんを見ていて思いました。ほんとならもっともっと、剣術や正道の修学に時間を割くべきなのに、まだ算学の初歩に手間取っています。それに読み書きに苦労してる団員さんも他にいっぱいます。だから……」
「そうか……」
うん。親父殿を攻めるならやっぱこの線だな。そんな自分の答えを聞いて、ちょっと不思議な表情を浮かべると黙ってしまう親父殿。仕事部屋兼武具室が気まずい沈黙に包まれます。
「わかった。行っていいぞギル」
「はい。判りました。ガダスシアプ」
「ああ、ガダスシアプ」
腕組みしながら難しい表情のままな親父殿。むむむ、やっぱ簡単には賛成してくれないか……。ここはもっとお仲間を増やす必要ありって事だな。
~ナイアス・ヴェルウントからの視線~
さすが、ギルだ、やはり俺の息子だけの事はあるな。そうか予備自警団の創設か……。最初にこの具案申告を読んだ時は眉唾に思えたが、よく考えてみるとアイディアとしては悪くない……。俺が騎士団を目指して家を出て、王都のシンゲキ流リシン派の道場に転がり込んだのが11歳の時だった。そこには似たような連中がいたが、街の裕福な家の連中は、その位の年令でみんな普通に読み書き、算学が出来ていたよな。そして俺同様に田舎出の連中は、逆にみんなそれが出来てなかった。俺も必死で勉強したもんだが、どうしても読み書きが進まずに、騎士団入りを諦めた連中も多かったな。あの時はなんで都会の連中みたく子供の時から勉強できなかったのか、ほんとに悔しがったもんだ。確かに予備自警団か……いいとこ突いてるかもな。だが、この具案申請には幾つか問題もあるな……。
~ギルナス・ヴェルウントからの視線~
「ガダスシアプ。お母様、少し宜しいでしょうか?」
「ガダスシアプ。ギル、なんですか?」
親父殿に呼ばれた翌日、さっそく行動開始だ。家の台所の入り口から、こそっとお母様に声を掛ける。お昼のあとの片付けものをしていたお母様は、エプロンの腰辺りでササっと手を拭いてこちらを振り返る。ああ、今日も輝く様に美しいです……。キツ目の胸まであるエプロンで強調された豊乳が眩いです。いや違う違う……。
「ちょっとお母様にお話があります」
「はい。わかりました。居間で待っていて頂戴。直ぐに参ります」
居間の長テーブルに座り待つこと数分。お母様がエプロンを外した姿で現れた。いつもの白系のゆったりしたワンピースな優雅な姿。でもこれだと胸があんまり……。いや違う違う……。お母様は、長テーブルの自分の対面にいつもと同じく、背筋をピンと伸ばした姿勢でゆっくりと座りました。うん、お母様って普段の所作が優雅なんだよな~。そしてこっちの目を真っ直ぐに見ながら口を開いた。
「ちょうど良かったです。わたしもちょっとギルにお話がありました」
「はい? なんでしょうか? ますはお母様のお話しを聞かせて下さい」
はい、ではまずはなんだか不明ですけど、そっちから片づけましょう。
「ギルも何度か食べた、フロマと香草を乗せた薄焼きパンですけど、案外と評判がいいので、できればキトア名物として皆に教えて行きたいのですが。カリファが、“フロマと香草を乗せた薄焼きパン”では料理名として問題あると云うのです。ギルはどう思いますか?」
ぎゃっ、お母様“フロマと香草を乗せた薄焼きパン”では、それは料理名じゃなくて、レピシですよ……。するとカリ姐ぇさんが台所からお盆の上に、コップと小さな壺を乗せて現れた。ちょっと酸っぱい感じな香りが辺りに漂う。ん? なんかのハーブ茶ですね。
「ソンの新芽だよ。今摘んで来たんだ」
カリ姐ぇさんがハーブ茶の入ったコップをお母様、自分、そしてもうひとつをお母様の隣に置くと、そのコップを置いた席に腰を下ろす。ええ、カリ姐ぇさんは完全に家族の一員ですから、当たり前にいつもみんな一緒にお茶をしていますよ。
薄黄緑色のソンの新芽のハーブ茶……、集落の周りに植樹されているソンは、集落に安全を提供するだけなく、新芽はハーブ、成長した葉も茶葉(自分考案です)、秋には小さな実を提供する万能樹なんだ。しかもソンの林の中に住む、ファスキュは、貴重な石鹸の材料にもなる。ほんとマジ優れモンだよね。そしてそのハーブ茶の隣に置かれた小さな壺の中には、紅茶色のドロっとしたものが入っている。ええ、その正体は香りで直ぐにピンと来ました、そうですソンの実のジャムです。ソンのハーブ茶は酸っぱい味が強いので、この甘いソンの実のジャムを入れて飲むと、2つのソンの香りが相まって一層美味しく頂けるんです。
3人は、ソンの実のジャムをハーブ茶に入れると、それぞれ一口、ソンのハーブ茶を口に含みました。ふぅぅ~、なんかホッとするな。ソンの新芽のハーブ茶、これってほんの僅かな間だけの期間限定ハーブ茶なんですけど、このちょいカモミールに似た香りが堪りませんねぇ~。マジ心が落ち着く感じがします。
「カリファは、フロマと香草を載せた薄焼きパン”ではちょっ長いって思うんだよね。覚え難い感じだよ」
ソンのハーブ茶の入ったカップをテーブルに置くとまず、カリ姐ぇさんが口を開きました。うん。ここはカリ姐ぇさんに賛成だな。しかもちょっとじゃなくて、かなり長いですね。
「そうかしら? 判かり易い名前だと思うのだけど……」
いえいえ、お母様、料理の名前にしては長すぎです。それに、そっち系なら、“薄いパン生地にフロマと3種の香草を乗せたカリカリ焼き”の方がいいですよ。
「カリファは、やっぱ皆が云う“薄焼きフロマパン”が良いと思うんだよ」
うんうん、それはなかなか妥当なネーミングだね。でもどうやらこの話題は、女性陣の中では幾度が議論されているみたいだぞ。しかも容易に判断できますけど、多分お母様の意見は劣勢なんだろう……。本来ならあっさりと多数決で決定って処なんだけど、周りとしてはお母様の意見をそんな無碍にもできず……、さてどうするかって感じなんだろうな。うんうん、判りますね。ええ、目に浮かぶ様に判りますよ。となると、安易に“薄焼きフロマパン”に一票とはいかんと……。そうだ……。
「いっその事、説明的な名前はやめませんか?」
「説明的?」
ここはいっそグルっと方向を変えてみるのも手かな? 自分のこの言葉にお母様は思案顔、そしてカリ姐ぇさんはきょとん顔になってる。う~~んさすが猫人! そのきょとん顔に一票ですっ!
「そうです。例えばパンって名前は、なんにも説明してないですよね?」
「だってパンはパンだからね」
「そうです。パンは食材の“麦”とか“フロマ”、“茶小芋”みたく説明を要しない基本的な料理なんです。そしてお母様の創作した“フロマと香草を乗せた薄焼きパン”も、そのレベルの料理になり得ると思います。だから料理を説明する名前じゃなくともいいんじゃありませんか? …………ピザ! 、そう、ピザってのでどうでしょうか?」
「「……」」
お母様とカリ姐ぇさんが、この名前を聞いて目を丸くしながら、お互いの顔を見合わせる。うん、やっぱあれは絶対にピザだろう~。
「では、ギルのお話はなんですか?」
「はい、実はですね……」
ピザ問題が片付いた処で話題はいよいよ本題に移って行きます。ここでお母様と、カリ姐ぇさんに予備自警団の創設っていうか、自分的には小学校の創設なんですけど、の内容を説明をしました。
「つまり集落の子供達に読み書き算学を教えるのですね?」
「はい。そうです」
「ギル様、剣術とかの修行を女子にさせるっての?」
お母様が要点を確認する。さすがお母様、こちらの真意を適格にかつ素早く見ぬいてくれたみたいですね。一方カリ姐ぇさんが不思議そうに尋ねてくる。そうそう、そこは幾つかある問題点のひとつなんだ。
「カリファ。修行は置いていても女にこそ読み書き算学が必要なのですよ。家族の今日と明日を守るのは、いつだって女の仕事ですからね」
そうそう、そこです! さすがお母様。セラワルドって基本表面上は男尊女卑なんだけど、一番信じられているエスタ教の影響からか、実質権力って云うか、家の家計や運営は女子の仕事みたいなんです。権力闘争や戦争、正道は馬鹿な男共に任せて、生活の実質全般は女子が仕切っているって感じなんですね。
それに他の国なんかには、結構女王様とかもいるみたいだし、そもそもエスタ教の教皇は全部女子さんですからね。つまりは女子に読み書き算学が必要な事は一目瞭然なんですよ。よし、この点はお母様が理解して呉れてるのでクリアですね。
「でもでもやっぱ女の子に修行とかどうかな? 猫人ならともかくヒトの女子はねぇ~」
「男の子には剣の修行が必要なように、女の子にはそれに変わる別の勉強がありますよ」
カリ姐ぇさんの再度の突っ込みだ。う~ん。確かにその点は問題なんだよね。女子に修行とかさせるのは、やっぱちょっとだよね……。でもお母様がなんかあっさりと云い切る。あれ、これは予想以上にお母様は賛成派なのかな? それに別の勉強ってなんだろう?
「お母様は、予備自警団の創設に賛成なのですか?」
「予備自警団と云うのはわかりませんけど、街にいくと、童塾と云うのがあって、そこでは、男の子も女の子も一緒に並んで読み書き算学等を習っています。それをこのキトアで行なってはいけないと云う法はないでしょう?」
「はい。僕もそう思います。それでさっきの、女の子には修行に変わる別の勉強があるってお話しなんですけど?」
よしっ、これで、親父殿説得への大援軍をGETだね。それに童塾? うむ、つまり寺小屋みたいなもんが、こっちにもあるんだ。でもやっぱ都会にしかないんだね。ふむ、ここは絶対改革が必要って事だな。それと正直にお母様に相談して正解だったな。
「なるほど判りました。あとひとつご相談があるんですけど……」
お母様の妙案を聞いて修行問題は解決できそうです。残るはもうひとつの問題だな。実はこれこそが女子の修行問題よりもでかい難問なんだよね。でも驚いた事にお母様はこの問題にもあっさりと正解を示してくれました。さすがですお母様。
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