4.Another World
あれから数日。ついに観念しました。“覚めない夢はもう夢ではなく、それは現実である”と誰かが云ってました。あれ? 誰だっけかな? まぁいいか……。
したがってこれは夢だが、現実でもあるんだ。もう認めます。はい、降参です。ここであっさりと全ての疑問・疑い・疑心・疑惑を放棄します。ええ、この現実を受け入れます。
そこで早速このもう一つの世界の探索を開始しました。ただし現在の自分が出来る事は、泣く事とおっぱいを吸う事、……でもでも残念ながら、あの夢の様な豊満おっぱい女子から直接母乳にありつけたのは、ほんの数回しかなくて、あとは口にスプーンやらなんやらで、猫耳女子から母乳を与えられています。まったく残念なことよ……。それに寝る事が仕事であり、行動範囲は、もちろんこのベビーベッドの中だけなんですよ。と~ぜん周りの会話は全くわからないので、そちらからの情報収集も不可能ですね。つまり基本、ここ、ベビーベッドの上から目に入る事だけが、唯一の情報源です。しっかし一方で時間だけは一杯あるので、ここまで集めた情報を整理する事にしてみましょう。しかもどうも記憶力は未だにとてもしっかりしているので、うっかり忘れると云う事が、まずないのがちょ~便利です。
さてまずは、この夢は一向に覚める様子がないから、当面この状況を現実として認定します。諦めが悪いと思うかもしれないけど、どう頑張っても自分としてはこの当たりが妥協点なんだよ。そして認めたくはないが、自分はどうやら新生児らしい。性別は男子。これはオムツ交換時に目視にて確認済みだね。
えっと次は自分自身の見た目だが、まずは黒髪ストレート、でもただ毛はかなり薄いんだよね。この歳でハゲって事はないだろうから、きっとこれから増えていくんだろう。瞳も黒ですけどちと薄い感じかな。二重瞼に憧れあるんだけど、まだ一重瞼なのか二重瞼なのかはわかっていません。だって顔全体がまだシワシワの完全な猿顔なんで……。ええ、母親と思しき豊満おっぱい女子が初めて手鏡でこの顔を拝ませてくれた時には、正直かなり凹みましたよ……。
でもね周りの反応からみると、それもあまり悲観する必要はないのかなと思ってます。これにはマジ正直かなりほっとしています。そうそう人は成長するものさ……、きっとね……、だぶんね……、そう希望します……。その他として目は2つ、鼻があって口があります。腕は2本、脚も2本。指は手足ともに5本ずつ。どうやら人間らしくて五体満足って感じですね。ただし生物学的にホモ・サピエンスであるかどうかは、現時点で全く不明です。
そして自分の母親は、どう考えてもあの豊満おっぱい女子だろう。正直大変に嬉しいですっ! なんか最近やっとおっぱい以外の部分も認識出来る様になりました。年齢は20代の初め位かと思われ、うん、正直かなりお若いですね。でもヤンママなんて感じじゃないぞ。全体的には面長のキリッと引き締まった顔形で、額は少し広め、鼻筋がスっと通っている、その高い鼻の下の唇がぽってりと厚めで、顔全体から見てちょっとアンバランスな感じが逆に色っぽい(ごめんなさい)感じです。“母さん”じゃなくて、“お母様”って感じですね。
更に続けるなら、お母様は、ブルーの瞳に長い睫毛、銀色に近い薄い金髪が真ん中分けで広い額を隠しています。その薄い金髪は肩に触れる位のセミロングです。肌は日本人よりは確かに白いんだけど、白人的な白さと云うよりも若干クリーム色が混ざっている感じで、とっても柔らかそうで、しっとり肌なイメージを受けます。
身長は170センチ近くありスラっとした体形だけど、肩幅と胸だけはとても大きいんだよ。所謂おっぱい勝ち組さんですね。でもね腰は柳腰とも言えるような細さなんだね。安産体形でもモデル体形でもないけど、とっても素敵です。銀河T道9○○に登場するヒロインを彷彿とさせるんだけど、あれよっかずっと現実感があって色っぽくて健康的な感じのする、ちょ~美人さんです。ほんと嬉しいですよ~。
ただね、その薄い金髪のセミロングの髪から、時々覗く耳の形が不思議で、耳朶がなくって先の方が明らかに尖っているんだ。まるでスター○レックのス○ックさんみたいだ。驚いて自分の耳も触ったら、同じ様な形でした……。やっぱ親子なんだなぁ~。えっと、この耳の形から想像すると、ホモ・サピエンスじゃなくて、ホモ・バルカニア? かな? まぁどーでもいいね。
そんで今のところ父親の存在は不明です。あっちでも母子家庭だったんだけど、こっちでもそうなのかな? ちょっと心配になってくるよ。うん、母子家庭ってのはなにかと大変だからね。
そうそうそして忘れては行けない猫耳女子の存在があります。しかもお母様と会話が成り立っているんだから人に近い存在なんだろうね。その後ゆっくりと猫耳女子を観察したんだが、単に猫耳なだけではなく、顔の作りもなんとなく猫顔ですね。きっときっと尻尾もあると確信しています。ただし未確認ですけどね。なお現時点で確認できてる人間(?)は、お母様とこの猫耳女子さんのみです。
さて次に住環境の方ですけど、今居る部屋が居間なんだと思われますね。玄関と思しき木製に鉄の枠がついてる頑丈そうな扉があって、奥の方には扉のない廊下が延びています。この廊下の奥がきっと台所なんだろうな。そしてこの廊下はかなりの奥行きがあるんで、きっと別の部屋に繋がっているんだろう。居間の奥には、おおぶりな長方形の木製テーブルが鎮座している。うん。どう軽く見ても軽く10人以上が、同時に腰掛けることができる、でっか長いテーブルです。
そのでっか長いテーブルと自分の間には、かなり煤けた感じの煉瓦の暖炉があります。自分は今まで本物の暖炉なんぞは見た事ないけど、これってのは絶対にお飾りじゃなくて、現役バリバリに使用されている暖炉だって事は一発で判ります。その煤けた暖炉の前、ちょいと離れた床には毛皮製のもこもこのカーペットが敷かれてて、自分が寝てるベビーベッドはそのカーペットの脇に置かれているんだ。そしてそのカーペット越しの暖炉に対面する場所に色とりどりのクッションが置かれた長椅子、ソファーと云うべきなのかな? が置かれています。暖炉の両脇には結構背の高い、同じ様な形をした使い込また感じの木製の食器戸棚が置かれていますね。
それでですね。この部屋には3つ程窓があるんだけど、どの窓にもガラスは嵌まってなくて、窓には木製の扉(これが鎧戸って奴か?)が付けられています。煉瓦製の壁も所々欠けたり、変色しておりかなり年季が入っているって感じかな。結構広めな部屋なんだけど、まぁ正直裕福な感じは全くしませんよ。ただしそこかしらにある、お手製のクッションやら、テーブルクロス、壁に掛けられたタペストリーなんかのお陰で、質素ながらもとってもアットホームな感じが醸し出されているねぇ。きっとあれってお母様の趣味なんだろうなぁと思わず納得しちゃうね。
ええ、予想通りですが、この部屋内には電化製品っぽいものは一切ありません。当然プラチック製品なんてのも一切見当たらないね。多分他の部屋にだってそんな物は一切存在してないんだろう。つまり電気がない世界って事だね。電気がない、そうなるとちょい気になるのは夜の灯りじゃないかい? 当然電球の類があるとは思えませんよね。でもねローソク・ランプ類も存在してないみたい。自分のこの新しい身体は結構匂いには敏感みたいなんだけど、それらしい臭いがないんだよね。つまり無臭で結構明るい灯りが、手持ち式、備え付け式の形で存在してるんだよ。あれはなんだろう? 正直云ってまったく理解不可能なんです。残念ながら今はこれ以上は、はっきりとしません。
さて現時点で最大の問題で、心配事でもある言葉問題なんだけど、回りで使用されている言葉は、まぁ間違いなく日本語ではないです。しかも自分が知っている英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、中国語に類する言語でもないみたいなんです。う~ん、見知らぬ世界で言葉も通じないとは、本当にこの点には全くもって不安を覚えます。でも解決策は思い付かないので、これも一旦保留と云う事で……。
あとは……、え~っと、そうそう昼と夜はきちんと存在しています。でも1日が何時間であるか、1年が何日か、そもそも1年とかそういう概念があるのか? そこらへんの詳細については一切不明だし、時計・暦の類も全く見当たりません。
以上の事を勘案するならば、このもう一つの世界は、近代世界とは思えません。もしかしたら、剣と魔法のファンタジー的世界ではないだろうかと想像してしまう位です。でもね、ほらあちらのたった10畳の白い牢獄のRealWorldに比べるなら、ファンタジー万歳だけどね。ええ、剣と魔法Welcomeですよ。ただね、ネット環境がないのが、ちと残念ですけど……。しかしお母様の豊満おっぱいがあるし、猫耳のお姉さんもいるし。これで文句を云ったらきっとバチが当たるんじゃないでしょうか?
たぶんさ、なんとなくなんだけど、あっちのRealWorldでの自分は、もう亡くなっているんじゃないかと思えるんだよね。そしてそんでもって自分の血肉は、あっちの世の中の人の為に少しは役に立っているんじゃないかなって……。でも母さんには逆縁しちゃったな……、ごめんよ母さん。母さんに対しては完全な親不孝者だよね。でもきっと自分が死んだら母さんには、政府かなんかがきっとなんらかの保証をして呉れるハズだよね……。なんか良く判らないけどさ、自分はこっちで、人生も一回やり直してみるよ。今度はなんとか親不孝じゃない息子になりたいな~。
更に数日が経過して、いくつかの新しい事実が判明したので、またまた状況の整理をしてみよう。まずやっぱりこの夢が覚める様子はないので、継続してこの状況を現実として認定します。我ながら諦め悪るぅ~。
まず大発見ですけど、この世界での自分の名前は“ギル”と云うらしい。だんだん聴覚が生育して来たのか、耳が慣れて来たのか、音の聞き分けが出来て来たんだ。これならスピード○○ニング宜しく、いつかは言葉の習得も可能だろうと思えます。マジほっとしました。でもギルってなんか結構簡単な名前だなぁ。
そしてついに父親さんの登場ですっ! いやぁ~母子家庭の可能性が消えて、こちらもマジホットしてるよぉ。やっぱ母子家庭ってのはなにかと大変なんでね。ほんとに経験者は語るだよね。
さてさて、そのついに登場してきた父親さんですが、身長は180センチを軽く超える長身細身で、手足がちょっと長めな感じを与えるけど、細長い印象はないですね。全体としては結構な質量感? 迫力? を感じる体躯をしています。髪は俺に似て黒に近いブラウン、瞳はダークブラウンで目尻は切れ長。その目の印象もあり顔つきは鋭い感じ、鼻はそれほど高くないけど、すっとした感じで団子鼻ではありません。
肌は日焼けなのかは分からないが、お母様と比べて間違いなく浅黒い感じですね。そして歯がとても白いのが、ギャップ感を与えてかなりの好印象です。正直危険な香り漂う野性派イケメンって感じで、かなりの高得点男子だと評価できます。これから成長すると、あんなになれるのかと、思わず期待してしまう様な父親さんです。うん素敵だぜっ!
なんだか父親さんの年齢はいまいち良くわからなかったけど、その物腰や声質から見て、30代そこそこな感じかね。更に重要なことは、父親さんは何らかの皮と鈍い色のチェーンでできた鎧、そして鱗のある篭手と真っ黒な分厚いマントを纏った姿で初登場したんですよ。更に右腋には兜と思しきものを抱え、腰には長く細身の刀を佩いております。まさにこれこそ“the戦士”って姿だった! 父上、父親、父さんってよりは、親父殿って感じかな?
「ギルぅぅっ」
その立派な戦士が腋に抱えた兜をソファーに放り投げると、両手を広げてそう叫び、ガシャガシャと甲高い足音をあげながら、お母様の胸に抱かれた自分に向かって走り寄って来た。
おいよせよ。それにその靴じゃ床に傷がついちゃうぞ~。おいおい、定番な事は勘弁してくれよ? だけど親父殿は、そんな自分の心の絶叫を他所に、そのごっつくてぶ厚い大きい掌で、自分をお母様の胸から引き剥がすと、直ぐに天井に向かって両腕を掲げて高い高いをしてくる。更に次にはその浅黒い頬を、柔らかい頬に擦りつけてきたんだ。まさになんの捻りもない定番!
こんな定番な行為は絶対に許せんぞ。だから当然の如く火の出るような大声 で泣いてやった。ふふっ、どうだ親父殿? この反撃が功を奏し、自分はあっさりと大好きなお母様のふくよかな胸の中に復帰する事に成功したんだ。
うがっ! 思えばこの反応ってのも定番中の定番か……。だけども間違いなく剣と魔法の世界という予想の半分は、これで立証された事になりました。
その夜、すっかり鎧を脱いで寛いだ格好の親父殿と、白いローブのようなナイトガウンに身を包んだ、ちょういろっぽいお母様が、完全に闇に包まれている居間に現れました。木の床ってのは結構ミシミシって足音がするんだよね。ベビーベッドの脇にある、床に敷かれた毛皮のもこもこカーペットの上には、背中を丸めて完全に居眠りをしている猫耳姉さん、でもその耳だけがピクピクと独自な動をしている。そしてちょい大き目な鼻が、ふんふんしてる。こっちは昼間寝過ぎたのか、眠りが浅くて足音と気配に直ぐ気がついた。
猫耳姉さんがなんとなく物憂げに顔をあげると、両親の姿に気が付きハッと慌てて身だしなみを直しながら、立ち上がってお辞儀をしようとする。一方それを軽く手で制する親父殿。むむ、なかなかに堂にいった雰囲気だな、やるな親父殿。その親父殿が手に持っている金色のねじねじの三叉の燭台の先端では、例の不思議な灯りが白い柔らかい光を放っている。
マジあれはいったい何の光なんだろう? 匂いがしないからロウソクやら油系統の炎の光じゃない。だいたい光が完全に安定しているから、炎系の光じゃない事は、はっきりしてしてるんだよね……。その謎の光を発する燭台を翳して、親父殿とお母様がふたりしてベビーベッド中の自分の顔を覗きこむ。おい照れちゃうよ~。止めてくれよぉ~。
「きゃはははは」
と照れ笑いの声を上げてみる。どうにもこの身体は上手く感情表現ができないな……。幸せそうな表情を浮かべながら、こっちを見詰める親父殿とお母様のふたり。うん。ここはひとつ、大サービスだな……。
「うきゃきゃ、ぶぅぅ~、ばっぁぁぁぁ、うううぅ」
一所懸命に息を整えると大きな声を上げながら、開いた右手をふたりに向かって突きだしてみせる。
「「@*W#!」」
親父殿とお母様の声が見事にハモる。なんて云ってるのかな? でもなんかすっごく喜んでいるぞ?。まさか“喋った”とか云ってないよね。まだまだ声帯はそこまで発育してないから、絶対に無理だぞ。うん、もしそうなら、親馬鹿正にここにありだな。
親父殿が見事に崩れきった笑顔を浮かべながら、こちらに向かってその無骨な手を伸ばした時、もう片方の手に持っていた燭台の灯りが、何の前触れもなくフッと光りを失った。居間が突然ほとんど真っ暗な闇に包まれる。むむむ~。直ちにちょっとした不安感がムクムクと湧いてくる。泣くぞ? 泣いちゃうぞ?
うぉっ! そんな闇の中から大きな瞳が怪しく光ってこちらを伺っている。さすが猫耳姉ぇさん。暗闇で目が光るのか!
「?%A$・DZ」)@+*・・8)*++」
その闇の中からお母様の静かな声が響いてくる。すると何の前触れもなく、室内が再び柔らかい光に包まれました。親父殿の2~3歩後ろに下がった場所に、そっと佇むお母様。その膨よかな豊乳の前、50センチ程の所にソフトボール大の、ほんの僅かに黄色味かかった光を放つ光球が浮かんでいるんです!
きったぁぁぁぁ! これは間違いない! お母様、さっきのは“ライト”の呪文ですかぁぁぁ~。お母様は、マジシャンですか? はたまたブリーストですか? マジ凄い凄い凄いぃぃ!
ここで三度目の世界の状況整理をします~。まったくこの夢が覚める様子はない。継続して、この世界を現実として認定します! そして、そしてこの世界は、間違いなく“剣と魔法”の世界である! ここにめでたく、異世界転生が確定致しましたっ。
序章「Another World」 完
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