14.勉強のお時間 その⑫【セキニアの社会】
「「「ガダスシアプ!」」」
今日も授業開始前の挨拶は元気一杯だ。
昨日の授業の最後は酷くご機嫌斜めだった老師さんも、一晩たってその機嫌は完全に治っています。なんか昨夜の夕食に出た、ジキンのクリームシチューが偉く気に入ったみたいだったんだ。それに今朝の朝食に出た、昨晩の残ったジキンのクリームシチューを、小さくちぎった黒パンの上に掛けて、その上にフロマを載せて焼いた、ドリアもどきにもすっごい喜んでいたしね。小さな丸い顎いっぱいにシチューとフロマを付けていたのが、なんとも可愛かったな。
今日は、勉強机(さっきまで朝ご飯を食べていた居間の長テーブルです)の一方に自分が座り、老師さんと古武士さんが、もう一方に相対する形で座っています。どうやら今日は特に教材がないのかな?
「今日は、王国の社会について説明するである。少しばかり難解であるが、おいおい理解が進むであるので、今日全てを理解する必要はないである」
「まっ、そうじゃな。社会常識なようなもんじゃから、あまり気張る必要はないぞ」
おっと、きましたね。待ってました社会制度! こんな田舎にいるとさ、そこら辺まったく判らんのですよ。宜しくお願いします!
「初めは、二族七民からじゃな」
「で、あるな」
「ん? ナナミンですか?」
早くも不思議な単語出現ですね……。
「二族七民とは、王国の社会制度を表す言葉じゃよ。まずは二族じゃが、これは王族、貴族を表すのじゃ。王族とはセキニア王家一族と、ザッハニー公伯家一族じゃな」
ほぉ~、ザッハニー公伯ってのは、貴族じゃないんだ。確かに成り立ちがちょっと特殊だもんね。しかも公爵じゃなくて公伯だからね。そりゃぁ特別なんだろうね。
「二族のもうひとつが貴族なんじゃが、セキニアの場合ならセキニア15貴氏を示す事になるんじゃ。15貴氏の始祖はセキニア創国時に大きな功を立てた者どもじゃな。創始王は“セキニア15貴氏は国の礎なり、しかして礎過ぎても国沈む”と15貴氏以外の新しい貴族の創家を禁止したんじゃ。まぁその15貴氏に限って云うと、廃絶したり新たに立嫡したりはしておるんじゃ。確か今は12家だけが存続しているんじゃなかったかの?」
「で、あるな。そして15貴氏の爵位は、侯爵、伯爵、子爵、男爵の4つである」
おお、貴族増殖の禁止ですか、創始王ってのはほんとにやるなぁ。大抵貴族ってのは国の癌になるからね。そんで貴族に公爵はいないんだね。
「さて次に七民じゃが、七民とは貴民、公民、産民、作民、商民、奉民、無縛民の事じゃな」
「貴民とは、一代限りの貴族であるな。貴民の爵位は府爵、軍爵、民爵の3つである。公民とは、府官と軍官である。他の産民、作民、商民、奉民、無縛民とは、それぞれの生業を示しているのである」
「一括りに云うと、府官と軍官を除く5民を“平民”と云うのじゃ」
「それがし平民は、あまり好きな言葉ではないである」
一代限りの貴族か……。やっぱ王政だから、功ある人には貴族への叙勲とか必要なんだろうな。その上でのこれも貴族増殖へのストッパーなんだろうな。でもどうなんだ? それ……。公民はつまり公務員って事だね。後はやっぱ平民になるんか……。
「平民の5民で云う処の産民とは、農産、林産、水産、鉱産を生業とする者共じゃ。これが最も多いんじゃな」
うむ、つまり一次産業従事者ですね。そりゃ農業は全ての根幹ですからね。それに機械化されていない以上、農業は労働集約型産業の典型ですからね。
「次に作民とは、鍛冶、裁縫、建築、調薬、木工などの物を作る者共じゃ。商民とは、様々なものを売買する者共じゃな」
はい。それもわかります。ええ、商民って商売をする人だから、つまり商人ですよね……。あっ、そっかそっかヒトに限らないから商民なんだ。
「奉民とは、様々な奉仕を売る者共である。物送、宿屋、食堂、人足、教導、救護などである」
「外功術使や、祭事祈祷を生業とする者共も奉民じゃ」
う~ん。それってつまりサービス業ですかね?
「無縛民は、これらの決まった生業を嫌い、自由に生きていく事を選んだ者共じゃ。それこそ傭兵、用心棒、揉め事解決屋、吟遊詩人やら、ほんに様々じゃな」
おおっ、つまり冒険者ですか? やっぱりそれってファンタジー世界には必須ですよね。
「これがセキニアの二族七民じゃ。王国以外の国では、エスタリオン神国なら二教六民、皇国ならは、一皇六民、魔道国では二導六民で、あとの国はほぼ二族六民じゃの」
「で、あるな。神国の二教六民は、二教が教皇、枢機卿、六民は教民、産民、作民、商民、奉民、無縛民である。皇国の一皇六民とは、皇族と公民、産民、作民、商民、奉民、無縛民である。そして魔道国の二導六民なら、導主、導師に公民、産民、作民、商民、奉民、無縛民である。普通に二族六民と云えば、王族、貴族と公民、産民、作民、商民、奉民、無縛民であるな」
「うむ、確かにそんなとこじゃな。あとロキシア民国が、皆七民じゃったな。司民、公民、産民、作民、商民、奉民、無縛民じゃな」
なるほど、なるほど、支配層の呼び名がちょっと違うって感じで、基本六民の方はほとんど一緒なんだね。でもさすがに民国って云うだけあって、皆七民とはね。ほんとに民主国家ぽいよね。
「王国の臣民の数は、ほぼ7百万人なんじゃ。その殆どが産民で、全体の3クオを占めるのう、まぁ王国は基本農産国じゃからな」
「諸族別には臣民の中でもヒト族が圧倒的に多いのである。全体のほぼ3クオなのである。ヒト族以外の人族が、10ブ2少しであるな。獣人族は100ブ5程であるか」
「実はの、ヒト族もそうじゃが、王国ではそれ以外の諸族の人口が大きく減っているのじゃ……」
「で、あるな……」
えっ! セキニアって人口減少社会なの? もしかして日本と同じ少子高齢社会なんですか? そんな、まさかだよねっ? じゃぁ一体どうなってるんだ?
「どうじゃ、二族七民はよいかの?」
「はいっ。解ります」
うんうん、理解できるし面白かったよ。ただ最後の人口減少社会については、すっごく気になったけど……。まっ、それは置いといて、早く、早く次をお願いします。
「それでは、次は王国の国の仕組みである」
おお、きたきた、国家組織だぁ~。
「まず最初に云っておくが、セキニアの国の仕組みは他国とは、かなり変わっておるんじゃ。これは創始王が考えた物でな。一言で云うと王と国家の分離じゃな」
えっ? 王国なのに、王と国家を分離するんですか? 自分が浮かべた不思議そうな表情を見て、嬉しそうに微笑む老師さん。そして一枚のベルピスを机(長テーブルね)の上に広げました。
「そうじゃ。王国じゃからな最後は王が決めるんじゃが、実際の国の運営への、王の介入を出来にくくしてるんじゃ。創始王曰く“舵取りは優れた操舵者に任せるべし。王は方角の指差しに止めよ”じゃな。これに沿って王国の仕組みは、大きく3つの枠組に分かれておるんじゃ。王の下には王府と臣府と臣の申卓があるんじゃな。王府とは王側に立って国を支える者共じゃ。臣府とは、王の定めた方針の元、王国の政務・実務を行う者共じゃ。
そして臣民の意見を代表するのが臣の申卓じゃな。これら3つの枠組みの上に立って、王国の進む道を決定する場が王儀じゃな」
ふむふむふむ、えっと今の話と机(長テーブルね)の上に広げられた絵から自分なりに解釈してみると、つまり臣府ってのが行政機関ですね。その中で司府ってのが一般行政で、軍府が軍事・警察・司法だよね。儀府は外交・教育か。王府ってのは王のシンクタンクかつ、行政に対する査察部かな? そして臣の申卓ってのが立法機関? つまり国会かな? ただし決定権は王儀にあるのか……。王儀ってのが閣議なのかな? つまり王様が首相か大統領で、王儀のメンバが内閣か大統領府って感じか? うんうん、これはなかなか複雑だぞ~。
「王と国の実務者の間には、いくつもの壁があるのである。王と云えども直接介入は難しいであるな。王の力が及ぶ範囲はあくまで王儀なのである」
「これこそが、創始王が考えた王と国家の分離じゃな」
「王と云えども万能ではないである。全てに口を挟めば必ず道を誤るのである。“舵取りは優れた操舵者に任せるべし。王は方角の指差しに止めよ”正しく真言であるな」
う~ん、結構三権分立も出来てるみたいだし、王制なんだけど、意外に国家運営は民主的なのかもね。
「次に、これは王国の制度ではないが、ギルドについて説明するぞ。ギルドとは同業者協同組合の事じゃな。このギルド、そもそもはロキシア民国を創立した交易商人盟約団がその発祖なんじゃ。交易商人盟約団はそのままロキシア民国へと移った訳じゃが、ここに参加しなかった者共が、交易商人盟約団の仕組みを真似て同じ生業をする者同士が、互いに助け合う事を目的として作ったのがギルドじゃな。ギルドはあくまで同じ生業を基としておるので、種族、国家を超える仕組みなのじゃ。そんなギルドじゃが、当初は3種9業であったのが、今では5種29業程もあるようじゃな」
「ギルドの5種とは、平民の5民と同じである。つまり産種、作種、商種、奉種、無縛種であるな。このギルド5種は、セラワルド全域に共通するものであるので、国を跨って活動をしているのである。したがってギルドは皇国が管理しているのであるよ。だから各ギルドのギルド本部は、皇都ダイトにあるのであるが、これはあくまで建前で、実際には各ギルドが最も便利な処に、“統括部”とか“総支部”とか“大表支部”とか様々な名前で、事実上のギルド本部があるのであるな」
おお、本音と建前か~。どこにでもあるんだねソレ……。
「ギルドとは同業者協同組合なのじゃから、その名の通り当初は同業者間で価格や生産量、販売地域などを互いに調整することで、互いの利益を保護したり、情報のやりとりで互いの成長を促したり、新規同業者の育成・促進等を行い、業種全体の拡大を担うなかなか前向きな組織じゃったのだが、いつの間にやら排他主義的な既得利益の保護組織になってしまったようなのじゃな。特に国に対する政治圧力団体化したのが大問題じゃな。これでギルドそのものに、権力が発生してしまったのじゃ」
「国もまたギルドを徴税組織の一部として利用してるのである。これで本来ギルドとは、生業を成す者の為の組織であったのが、ギルド単体に存在価値が出来てしまったのであるな。今では、ギルドの為に生業を成す者が存在するかの様である」
うあっ、目的と手段の逆転ですか? そーいうのって共○党とか、労働○合とかに良くあるよね~。むむむ~、マジなんかア○リカの産業別労○組合みたいな感じだな。
「当たり前の事じゃが、当初ギルドへの加入は自由じゃったのじゃ。それがサロン殿が云った通り、国によってギルドが徴税組織の一部と成った当たりから、ギルドへの加入が強制化されたのじゃ。今ではなんらかの生業を起す事を企てる者(=業主)は、必ずどこかのギルドに業主登録を行い、業主許可を得なければならんのじゃ。もしギルドに登録せずに生業を起すと、刑罰(財産没収などの経済罰)を受けるんじゃ」
うおっ、ユニオン化ですか? それではまるでギルド中心主義ですね。中世ヨーロッパで教会が凄い権力を持って、教徒でなければ、生きていけなかったって感じ? その内カノッサの悲劇とか起きそうだ~。
「ほとんど意識はないであろうが、産種を生業をとする者は農産ギルド、林産ギルド、水産ギルド、鉱産ギルドの何れかのギルド員な訳である。そしてそれ以外の多くの者もギルドに業主登録を行った業主の下で働く、雇人なのであるよ。それほど迄にギルドとは巨大な組織になったのである」
う~ん、つまり農産ギルドってJA農○っみたいなモンですか? それに雇人? つまりそれはサラリーマンですね? ああ~~、剣と魔法の世界が……、なんかすっげ~どこかで見ていた社会と同じに感じてしまうのは、何故なんでしょう……。
「そうじゃ、それ程のものとなったギルドじゃ。今ではギルド長などと云う輩は、一国の王並の権力と富を持つと云われておる様じゃな」
「特に産種の農産ギルド、作種の武具鍛冶ギルド、商種の食料商ギルド、交易商ギルド、交換貸借ギルド、奉種の物送ギルド、外功使ギルド、無縛種の無縛人ギルドなど有力ギルドの影響力たるや、セラワルド全体を揺るがす程である」
確かにそれって、なんか有力そうでヤバめな感じなギルドですね。おお銀行ぽいのもあるし~。なんかギルドへのイメージ、正直幻滅気味なんですが……、しかし唯一希望を感じられるギルドが残ってるぞ。
「えっと無縛種にはどんなギルドがあるんですか?」
「むふ、無縛種は無縛人ギルドのみじゃな。まっ、無縛人とは、何にも縛られない、自由に個人の才覚で生きる者じゃな。基本無縛人以外の者は、なんらかの定まった生業を持っているのじゃよ。まっ、かく云うわしなんぞも、その無縛人じゃな」
「それがしは、奉種の教導ギルドに入っているのである。そこで業主登録を行いレイジナ流の教導塾を開いていたのである。今回は教導ギルドからの紹介でこのキトアに参ったのであるよ」
「たぶん小僧の親父が、教導師の依頼を無縛人ギルドに出したのじゃろう。無縛人ギルドは、如何なる仕事の依頼も受け付けるんじゃ。そして無縛人ギルドから、教導ギルドに依頼が行ったのじゃろうな。無縛人ギルドには、確かにあらゆる種類の生業を行う者が属しておるが、それでもやはり餅は餅屋じゃからな。専門的な仕事なら、やはりその専門家が居るギルドに依頼を回すのは当たり前な事じゃな」
「で、あるな」
ほうほう、自由に個人の才覚で生きて、如何なる仕事の依頼も受けるんですか……。それってやっぱりアレか?
「無縛人って、つまり冒険者ですよね?」
「冒険者? なんであるかそれは? 冒険などしても一銭の稼ぎにもならないである」
「そうじゃな。冒険者なんぞはさすがに無縛人ギルドでも聞いた事もないぞ? 無縛人とは子供の遊びではないんじゃぞ?」
「えっと、冒険者ってのは例えば迷宮とか地下迷宮とかで宝物をGETしたり、野獣とか魔獣の討伐とか、盗賊を捕まえるとか、希少な何かを収集するとか、そーいう事を専門にやる人ですよ?」
冒険者はファンタジー世界のちょ~定番ですよ? 名前は違ってもそーいうのいないんですか? するとなんとも不思議な表情で古武士さんと老師さんが顔を見合わせる。
「迷宮に地下迷宮じゃと? なんじゃそれは?」
「洞窟とかであるか?」
「入るとですね、中が迷路になっていて魔獣とかが現れて、それを倒すと宝箱が出て来るとか……」
「それはなん「じゃ?」「であるか?」」
うわっ、おふたりの声がハモったし、ええ、わかりましたそんな都合のいいもんが、あるハズないですよね。そりゃそうですね。あの~、そのまるで可哀想な人を見る様な視線を投げ掛けるのは止めて下さい。お願いします。
「あと野獣、魔獣の討伐は、大抵は騎士団か自警団の仕事じゃな。林産ギルドには狩人もおるしの。わざわざ金を出して討伐の依頼を出す物好きはおらんじゃろう。そもそも無縛人は依頼を受けてなんぼじゃからな」
「盗賊の類の捕縛は、間違いなく騎士団と自警団の仕事であるな。確かに仇討ちの類で、個人が賞金を掛ける事もあるが、非常に珍しい話であるな」
「希少な何か……。まぁ鉱産ギルドなんかでは、山師と云われる連中がおる様じゃな。確かにあれを請け負う無縛人はおるかも知れんの」
「薬草とかは?」
「それではまず食っていけないであるよ。もしそんな高い薬草があるなら、農産ギルドか林産ギルドの者が育成するか採取するである」
ああ、判りました。判りました。つまりこの世界はマジまともな世界だから、そんな夢みたいな冒険者なんて存在はあり得ないって事ですね。
「まぁ無縛人、無縛人と云ってもそんなに特別な事はないんじゃ。普通のギルドに入ってる者と基本遜色はないんじゃ。ただ普通のギルドに入って長期的に縛られる事を嫌って、一件一件の依頼仕事を請け負う事を好む連中なんじゃな」
なんだよ~。それじゃ無縛人=アルバイターかフリータじゃないかよ~。なんだかイメージがぁぁぁ。
「ただ無縛人特有な仕事もあるのである。傭兵とか警備とか、所謂武を売る生業である。確かに業主が専属の警備人を雇人とする事もあるし、人足ギルドや外功使ギルドからそういう者を派遣させる事も可能である。しかしプロの集団としての傭兵団や警備団は、無縛人ギルドに特有なのである。そして彼らは確かに優秀で信頼できるである」
「そうじゃな。わしも一時期ノホク傭兵団とか、幻影傭兵旅団に居ったからの。あれらは正にプロじゃったな」
「イジュマー先生が傭兵団ですかっ!?」
「なんと云っても、わしは7術使じゃからな。引く手あまたじゃな」
ご自慢ですね……。う~~、でもそれはなんか冒険者とはちょいイメージは違うけど……。なんか完全にファンタジーワールドの世界観が木っ端微塵になってしまいました。もう授業始まった時の元気が雲散霧消しちゃったよ……。あっ、台所からお母様が現れたな。そうかもうお茶の時間なのかな?
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