12.勉強のお時間 その⑩【セラワルド史の5 セキニア・アグヴェントの登場】
カリ姐ぇさんが登場し、今日のお茶の時間の開始です~。
「ガダスシアプ。飲み物をどうぞ」
「ガダスシアプ。今日はなんじゃ?」
「ガダスシアプ。頂くである」
「ガダスシアプ。カリファさん、ありがとう~」
カリ姐ぇさんが、運んで呉れた今日の飲み物は、薄い茶黄色でちょっとだけ苦味と酸味のある、とても香りのいい冷たい飲み物です。ん? これはアレか。
「これはとても香りがよいであるが? なんであるか?」
興味深げに、飲み物をちょっとづつ口に含む古武士さん。老師さんもなんかクンクン匂いを嗅いでいる。
「これはね。ソンの葉の水出し茶だよ」
「ソンの茶? アレは、こんなに深い味じゃないじゃろ?」
老師さんが、カリ姐ぇさんの答えに不思議そうな表情を浮かべる。
「これは、ソンの葉を少し蒸してから、手で揉んで、その後でちょっと休ませてから、鍋で炙って乾燥させたものを、水出し茶にしたんですよ」
ええ、この水出し茶については、自分が解説します。そうです、ソンのお茶はすっごい一般的なんだけど、味と香りがとても軽いんだよね。だってソンの葉をお湯に入れるだけの感じだからね。そこで、ソンの葉で紅茶を作ってみた訳なんですけど、なんと出来上がりは紅茶と云うよりはウーロン茶風になったんだよ。でも味と香りは紅茶に近いよっ! はい、心の中では“ソンティー”と呼んでいます。
「なに? これは坊主考案なのか?」
「そうね。これはギル様考案だね」
「驚きであるな」
「いえいえ、そんな大したことはないですよ~」
先生方の視線が、ちょっと照れくさいです。よしっ、ここは話題チェンジだ。
「カリファさんも、セラワルドの歴史とか知ってる?」
勉強机(居間の長テーブル)の脇でちょこんと控えているカリ姐ぇさんに向ってちょっと振ってみました。
「レ・キ……、れ、れき・しぃ~? …………あぁ~歴史ね。う~ん、まぁカリファは昔の事とかには、ちっとも興味ないね。嫌な思い出は消し去るし、いい事もいつかは忘れるさ。興味あるのは今日のご飯と寝床、そして明日の天気だよ」
「……真言じゃ」
「で、あるな……」
あうっ、カリ姐ぇさん、それってなんか夢も希望もありません。
「猫娘が云うことはアレはアレで正しいのじゃが、10年後の事を考えるならば、過去のことを知って置くのは良いことじゃ」
「で、ある」
「はい。僕もそう思います」
カリ姐ぇさんが、台所に姿を消すと老師さんが、小さく一言呟く。はい。自分もそう思います。では気を取り直して、次に進みましょう。
「さてエスタ暦1907年に起こった2度目の魔禍も、最初の魔禍と同様に、オズグムルツの奥底で発生したんじゃが、この2度目の魔禍は、オズグムルツより湧き出ると、最初の魔禍とは全く違ってまるで国々を避ける様に、エクスムア大草原へ抜け出たんじゃな。
そして魔禍は、遊牧民とその家畜を襲いながら、エクスムア大草原をどんどんサラ下していくんじゃ。結果エクスムア大草原を抜けた魔禍は試練の森へ入り、その後恵みの森へと進むんじゃよ。そしてついにはセラワルドのアニサラにあるフェルキア族長国を襲撃したんじゃ。まぁ魔禍が恵みの森に入った時点で、フェルキア族長会議も危険を察知してのぉ、フェルキア族長国の全土に”危救戦族”の令を発動するんじゃ、この令によって、フェルキア族長国の土鬼騎兵団、赤鬼騎兵団、青鬼騎兵団そして白蛇の槍が魔禍との戦いに挑むことになったんじゃ」
土鬼に赤鬼と青鬼ね……。ん????? えっなんで? そうなるの?
「魔禍との戦いなのに、迎え撃つのはフェルキア族長国のみなんですか?」
老師さんの話の途中だったけど、これにはさすがに質問してしまったよ。
「そうなのである。神聖ダイトニア皇国と神衛三国(ガリオン士道国、ナミアン公国、ヴォツェック大公国)は、魔禍の出現の報告と同時に出陣の準備はしていたのであるが、エスタリオン神国教皇からの“守神戦”の神宣は下らなかったのであるよ」
「魔禍の予想外の動きで、タイミングを失ったのか、フェルキア族長国の弱体化を狙ったのかは、定かではないのじゃが、魔禍と族長国が戦いを開始した時点では、間違いなく2度目の“守神戦”の神宣は、出ておらんのじゃな。そして確かに皇国と神衛三国、それにリジェット魔道国は一切動かなかったのじゃ」
う~ん、それはいかんなぁ。そこで助けて“こそ”じゃないのか? 長年の蟠りを解決する最高のチャンスじゃん!
「フェルキア族長国の土鬼騎兵団、赤鬼騎兵団、青鬼騎兵団そして白蛇の槍は、首都“赤き岬の都”付近で魔禍を迎え撃ったじゃ。これが、”セラフォの戦い”じゃな。この”セラフォの戦い”は当然激しい戦いじゃったが、結局はファルキア族長国側が負けるんじゃな」
「フェルム人も、遥かな過去に魔禍と戦った経験はあったようではあるが、最初の魔禍との戦いに参戦しなかった事で、魔禍との戦う方法が失われていたのであるな。魔禍は魔人を倒す事! この一言なのである、例え全ての戦線で負けたとしても、魔人を倒すと云う一点のみに、全ての戦力を叩き込むのである。
多分フェルム人も頭ではそれを理解していたと思うである。しかし云うは易いが、この戦略を如何に実践できるかが問題なのである。事実” セラフォの戦い”では、白蛇の槍が魔人に接敵したのであるが、赤鬼騎兵団、青鬼騎兵団が、首都の“赤き岬の都”防衛の為に戦力を動かさなかったのが、最大の敗因となったのであるな。後一歩で白蛇の槍が力尽きた後に、土鬼騎兵団が崩れ、結局は首都“赤き岬の都”を防衛していた赤鬼騎兵団と青鬼騎兵団もその後敗れ去ったのである。白蛇の槍が魔人に接敵した時に、首都防衛をも放棄して一気に魔人を斃すべきであったのであるな。だがフェルム人にはその覚悟がなかったのである」
首都すら捨てる覚悟……、正に全てを捨てて、一点突破すべしなんだね。でもやっぱ首都防衛隊は動きにくいだろうな。気持ちは判るなぁ。
「そしてこの”セラフォ河の戦い”では、リジェット・エレリープティクの魔獣研究の報告内容のひとつである、“魔人は生物から魔獣への遷生を助長できる”が立証されたのじゃ。セラフォの戦いでは、かなりの数のフェルム人兵士が魔獣に遷生した事が確認されておるからのぉ」
なんかこの辺から、おふたりさんとも熱が入ってきたのか、どんどん交互に説明を初めだしたよ。どっちの言葉に集中していいかわからん。でも斃れた兵士が魔獣に遷生って、魔人って吸血鬼なんですか……。
「で、あるな。首都“赤き岬の都”の攻防戦には、元白蛇の槍のフェルム人が、多数魔獣となって参戦していたのであるよ。それは正に悲惨な光景であったらしいである。」
うっえぇぇ、なんですかそれ? なんだよそれ、マジゾ○ビ映画じゃん。ブルブルなんと恐ろしい。そっかぁぁ、だから、だから、全てを捨ててでも魔人を倒せって訳ですねっ!
「首都“赤き岬の都”防衛戦で敗れた直後に、フェルキア族長会議は、”逃避残族”の令を発動して首都を放棄するんじゃな。確かに戦いには敗れたが、奴らのその潔さ、決断の速さは見習うべきじゃな。フェルム人の正道とは、個々人の命ではなくて“氏族の存続”じゃからな」
逃避残族……ですか……、うむぅ徹底してるなぁ。逃げろ、逃げろ、そして氏族を残せってことだね。
「赤き岬の都の全てを喰らい尽くした魔禍は、一旦恵みの森へ戻り行動を止めるのである。この時に至ってようやく、エスタリオン神国教皇により、史上2度目の“守神戦”の神宣が下りたのであるよ。この“守神戦”の神宣によって、4国連合軍にリジェット魔道国の火の騎士団、雷の騎士団、風の騎士団が加わった、5国連合軍30万人の大軍団が、恵みの森へ向かって進軍を開始したのである」
30万ですか! そりゃぁ自分達だけでも充分に勝算があったんだろうね。でもさぁ、それでもやっぱり、族長国さんと協同でセラフォの戦いに当たるべきだったよね。
「そして試練の森、神の森、恵みの森に囲まれた地帯で、魔禍とそれぞれに各国から集結して来た5国連合軍が激突したのである。自然と魔禍は、5国連合軍に包囲される形となるのである。これは5国連合軍に取っては、一見有利に見えるのであるが、包囲の中心に魔人がいる以上、魔禍全てを攻撃せねばならないので、魔人への集中攻撃という戦略から見ると、あまり宜しくない戦況であるな」
でもでも包囲戦は、戦術的には有利な状況ではあるよね? でも魔禍からするとその全戦力を有効に使えてるってことかな? 個々の戦闘力では魔獣が上だしね。なかなか難しいな。
「罠なんじゃ」
ここで老師さんから突然の一言が吐き出されました。えっ、罠ですか? いっぃぃ、包囲される罠とかあるんですか?
「で、ある。魔禍を包囲した5国連合軍であったが、なんとその後試練の森、恵みの森から新たな魔獣の群れが湧きだしたのである」
なっ、なんですと。
「リジェット・エレリープティクの研究によると、魔禍とは、魔人に率いられた魔獣の群れの事じゃ。したがって包囲された魔禍の外側から、別の魔獣の群れが襲い掛かって来るなんて事は、本来あり得ない話なのじゃよ……。普通ならばな……」
んんんっ? 老師さん、それってど~云う事ですか?
「つまりじゃ、魔獣の群れとは魔人に率いられるものなのじゃから、魔獣の群れが3つあるなら、魔人が3人居ると云う事じゃな。誠に簡単な計算じゃよ」
な、なっにぃ~。そんなのありですか。
「で、あるな。3人の魔人は最初からこれを狙っていたのである。フェルキア族長国とエスタリオン神国の不仲、そして森に囲まれた地理、全てを考慮した上での戦略であるよ。新たに湧きでたふたつの魔獣の群れに包囲され、その結果二重包囲に陥った5国連合軍は、数的には圧倒的に有利であるにも関わらず劣勢に陥っていったのである」
むむむ~、二重包囲は確かに不味いよねぇ、前面後面の全てが敵って事だよね。つまり究極の挟撃の体勢って事だ。
「状況の打破ができなければ、たちまち殲滅戦になろうかと云う状況じゃな。この絶望的な状況において、ガリオン士道国、サノア騎士団の百人隊長を努めていたセキニア・アグヴェントが、配下のクラウド・ザッハニーと、同僚の百人隊長のアイロス・ベルムニトと共に、魔禍の包囲からの脱出に成功したんじゃ。だが多数の魔獣の追撃を受け、セキニア・アグヴェント達は、這々の体で神の森へ退避したんじゃ」
出ました! セキニア・アグヴェントぉぉ~。いやぁぁぁ、長かったぁぁ。ここまでで約2000年ですよ。マジ長かったなぁ。ほんと、みなさんもお疲れさまでした。ついに長かった歴史の勉強も次回で終了しま~す。
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