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3.マグス(見守る者)達

 

 

~夢見る者ゼシュ・マグスからの視点~

 眩い光の中から突然、漆黒の闇の中に意識が跳んだ。身体が急激に沈む、沈む沈む。どこまでも沈む。そして漆黒の闇よりも、もっともっと昏い穴、捻じられて昏くて狭い穴、そこに落ちていく、落ちる落ちる。一転、眩い光に襲われる。その刹那に意識と身体が裏返った感触……。そして再びの闇。


 穴を登る登る。穴の捻じりに沿って、意識も身体も捻られて伸びる。そして登る、上へ上へと上がる。昏い捻られた穴の中を登っていく。その漆黒の闇の果てに、周りと特に異なった極小の点が観える。闇に光る一点の光! 一瞬でその一点を突き破る!


 闇空を突き進む。その闇の空に浮かび上って来る青と白が入混ざった巨大な半球。その半球に一気に近づく。一瞬でそこは青い空! 雲を突き抜け更に空を進む。真ん中に高い山脈が走る巨大な大陸。その一角の逆三角形をした巨大な半島、そこに広がる大きく果てのない様な緑の草原、うねうねと続くなだらかな丘陵、所々に観えるブッシュ、その緑の草原に真っ黒なザジル(ガゼル)バソン(バイソン)の巨大な群れが、まるで溢れる奔流の様に奔っている。そしてキラキラと光を弾く碧い湖面。


 そんな大いなる自然の中にあるソン()に囲まれた小さな村、赤茶色の木の屋根が連なる。その中の一軒の同じ赤茶色の木の家の屋根を突き抜ける。粗末な暖炉のある部屋に置かれたベビーベッド。その中で黒い髪の赤ん坊がひとり仰向けで寝ている。その赤ん坊が突然瞼を開き、その大きなつぶらな黒い瞳でこちらを見上げる。




“うっぎゃっぁぁぁ”

突然耳許で、大きな赤ん坊の泣き声が鳴り響く!


 ガバっと上半身を起こす。一瞬で目が覚めた。そしてそこはいつもの自分の寝床だった。身体中から汗が噴き出しているのが判る。


「顕示夢だっ」

その自分の声は、まるで誰か他人の声の様だった。






 摩訶不思議な薫りが漂う薄昏い室内に、それぞれに姿形の違う5人の影が佇んでいる。この薫りは私特製の、コカの葉とダバの葉を微妙に調合し、更に数種類のハーブオイルを加えた香料を香炉で焚いたものだ。あの顕示夢から、すでに1年。今日ようやく我が同胞、久遠の友、血の盟友であるマグス(見守る者)達全員が集まった。


 そこに並ぶ懐かしき顔々をゆっくりと見渡す。

「ガダスシアプ」

「「「「「ガダスシアプ」」」」」

マグス(見守る者)達よ。はるばる、遠い所を集まって頂き申し訳ない」

特にこれと云う反応は返ってこない。まぁこんなものだろう。


「2カ月前、私は夢を見ました。その夢は……」

私はみなに向って、忘れもしないあの夢の中身について、ゆっくりと説明を始めた。


「……。そうです。あの夢は間違いなく、ノーマーからの顕示夢です」

5人の視線が私に集まっている。そして私の言葉が途切れたところで、誰かが、フーっとため息が漏らした。


「うん。そうみたいだねぇ。ねっ、これって何年振り?」

この6人が一堂に会したのは、1100年振りか? 少なくとも私の言葉に応えた孤高なる者カバックとは、それ以来一度も会った事はないな。猫人は群れないと云うが、まさしく名言だな。カバックはいつでも単独行動だ。あれは、ただ気まぐれなだけだと、考える者メルキオ辺りは云いそうだな。


 猫人の孤高なる者カバック。キラキラと輝く金髪に、小さな額、大きめで淡いグリーンの瞳。細目の小顔に小さな顎。細くて長い手足、小柄な体格だが、しなやかで敏捷性に溢れる肢体、相も変わらない妖艶で小悪魔的な容姿だ。しかし3000歳の小悪魔と云うのはちょっと頂けない。


「だいたい1000年振りですね」

「顕示夢! 夢見る者ゼシュ様、真に喜ばしい事です」

実直さを、そのまま体現したような表情を見せる、犬人の親愛なる者オクリョが、素直に喜びを表す。


「しかし顕示夢である事は間違いないですが、種伝者の場所まではわかりません」

「それは、今回もわしが見つけるぞ」

ごつい顔に立派な髭を生やした、山人ドワーフの見出す者カスパが自信有りげに私に向かって確約する。


「ええ、今回も種伝者探しは、カスパにお任せします」

「おお、任せておけ」

「世は乱れ。堕落しておる。いよいよ変革の時きたるじゃな」

野人ホビットである育てる者パルザルが、めずらしく楽しげな表情を浮かべる。


「パルザル様、種伝者と世の変革とは関係ないと思いますが」

「そうかのオクリョ? “種伝者顕われしなら、世は乱れる”ではなかったかの? のうゼシュ殿?」

「いえ、パルザル、それは私の言葉ではないですよ」

犬人オクリョと野人ホビットパルザルが言葉を交わす。そうパルザルが云った言葉は確かに真言だが、それが誰の言葉かは、正直あまりはっきりしたくない所だ。


「ではメルキオ様の言葉でしたか? “種伝者顕われしなら、世は乱れる”確かに心に響く言葉ですね」

「いや、違う」

耳長人エルフの考える者メルキオが、ちょっと顔を顰めながら一言で否定する。オクリョもういい。止せ……。


「はて、それでは誰の言葉でありましょうか?」

犬人のオクリョの目が山人ドワーフカスパに向けられる。

「止せよ。俺じゃねぇよ」

大げさに両手を振って否定するカスパ。オクリョもう止せ、あとは簡単な引き算だろう……。


「それってさ、あたいが云ったんだよ! あははははは」

全員が完全に沈黙する。話題を変えよう……。




「ゴホッゴホ、ああ、1000年振りの4度目の種伝者です。今度こそは成功させねばなりません」

一瞬の沈黙があり、そして5人の視線が小柄な人物に集中する。


「ふむ、今度はわしの番じゃな」

「パルザル様ならば、必ずや成功なさるでしょう」

「オクリョよ。メルキオも、カバックも、そしてお前もだが、あれらは失敗した訳ではないのだ。全ては宿命であり必然なのだから、あれは、まだ“時”ではなかっただけなのだよ。そして我らは常に行動するだけだ」

私の声に5人が無言で頷く。




「では、見出す者カスパ・マグスが種伝者を見つけ次第、育てる者パルザル・マグスが種伝者の許へ向かう。そして今度こそ、我ら見守る者の力を持って、ノーマー・マグスの導きに従い、新たなる扉を押し開くのです」

「「「「我らマグス(見守る者)、ノーマー・マグスの導きに従い、新たなる扉を押し開くなり」」」」

5人が一斉に声を揃える。


「それでは、みなさんこれでお終にしましょう。遠い所ご苦労様でした、またいつか再会しましょう。ガダスシアプ」

「「「「「ガダスシアプ」」」」」




 夢見る者ゼシュが席を離れると、残り3人がそれぞれに挨拶を交わしながら次々と席を立っていく。だがそんな様子には、全くお構いなくひとりで鼻歌を歌うカバック。そして部屋に誰も居なくなると、テーブルの上に頬杖を付いてちょっと目を瞑る。しばしの間を置いてから、その大きなライトグリーンの瞳を開き、ニーッと正に小(?)悪魔的な楽しげな笑みを浮かべる。

「さてさて、1000年振りの種伝者出現かぁ~~。こりゃまたまた退屈しないで済そうよねぇ。“種伝者顕われしなら、世は乱れる”? うふふ、オクちゃん、そうじゃないぞぉ、正しくは“種伝者顕われしなら、世を乱せ”なんさぁ。さぁ1000年振りに、しっかり楽しませて貰うよ」





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