9.勉強のお時間 その⑦【セラワルド史の2 えっ? 魔禍ってなんですか?】
「ガダスシアプ。みなさん。どう? ちょっと飲み物でも」
「ガダスシアプ。うむ、ちょうど良いタイミングじゃ。頂こうかな」
「ガダスシアプ。カリファ殿。それがしも頂くである」
「ガダスシアプ。カリファさん、ありがとう」
授業の中でのちょっとした休憩時間、そこにタイミング良く(多分覗いていたな)現れたカリ姐ぇさん。すでに姐ぇさんの口調は普段のソレになっている。つまり老師さんと古武士さんを仲間と認めたって事だね。
さてそのカリ姐ぇさんが配ってくれた木のコップの中身は、一見透明な普通の水? でした。でもそれを一口含むと、ほのかな甘味とさっぱりした酸味となんとも言えない香りが、口中にパーッと広がりました。それに凄く冷たい! 一同驚きの表情を浮かべカリ姐ぇさんの顔を見る。
「蜂蜜水に、ピノネ(ワインから作った酢:ワインビネガー)を垂らして、あとソンの樹皮を乾かして細かく砕いたのをちょいね」
澄まし顔をしつつも、どこか得意気な雰囲気を漂わせながら説明するカリ姐ぇさん。
「驚きである。この様なもの王都でも飲んだ事ないである」
「奥方の考案かな?」
「イヤっこれは、カリファ考案だよ」
「カリファさん。凄いよブラボーだ!」
「「「ブ、ブラ……ボ?」」」
どうよって感じなカリ姐ぇさん。でもでも、マジに感動した! もしこれが炭酸入りだったらきっとコカ・コーラよっか百倍美味しいよ! ふたりで会社を起こして全世界へ進出したい位だよっ! そんなみんなの感想を聞いて満足したのか、カリ姐ぇさんはちょこんとお辞儀をすると、何事も無かったように台所に姿を消していきました。でも台所からは、お母様とカリ姐ぇさんの小さな含み笑いが漏れてくる……。ん? 一体なんだろう?
3人が、それぞれの想いを感じながらも、その木のコップのピノネ入り蜂蜜水を美味しく頂くと、老師さんの声によって勉強が再開されました。
「坊主よいか再開するぞ」
はい。宜しくお願いします。
「さてフェルキア族長国の建国から、ちょっと戻るんじゃが。エスタ暦100年に、エスタ暦27年から工事が行われていた、エスタ街道神導の道が完成するんじゃな。それと同時に、神導の道の始点に当たるロキシア地峡の地に、ロキシア民国が創国されたんじゃ。これは交易商人盟約団からの要望に対し、エスタリオン神国教皇による“神許”と神聖ダイトニア皇国皇帝からの“皇任”が許された結果じゃな。まぁ民国とは云っているが、実質は商都ミラのみの交易都市国家じゃな。民国の国家体制は交易商人盟約団に加わっている商業主による議会制じゃ。国主はおらんが国の代表者は、ロキシア交易商人盟約団会議議長じゃな」
なるほど議会制だから民国なんだ。でも民主主義と云うより、商業主義かな? 主権者は誰なんだろう? まぁ王国とか帝国よりは、民主的か……。これで国家は、エスタリオン神国、神聖ダイトニア皇国、フェルキア族長国、そしてロキシア民国の4つですね。
「民国の創国、そしてフェルキア族長国の建国によって始まった、エスタリオン神国、神聖ダイトニア皇国、フェルキア族長国、ロキシア民国に拠る4国時代は、結構長く300年程続いて行ったんじゃ。この4国時代には、ギルドが生まれたり、エスタ街道レブラの道が完成したりと、まぁまぁ平和な時代が続いたんじゃな。だがこの時代もエスタ暦451年、唐突に起こった最初の魔禍によって、その幕を閉じる事になるんじゃ」
んんんん? 魔禍ってなんだ? 思わず質問しようとすると、老師さんが、“わかっておるわ”と云う表情を浮かべ先に説明を始めてくれました。ど~も、みなさん先読みがお得意だよね。
「魔禍とは森の奥底に潜む、魔獣が群れをなして湧いて出てくる事じゃな」
なんですか、魔禍の次は魔獣ですかっ! 謎が謎を呼んでる~。でも魔獣って悪魔みたいなものですか?
「よいか? 魔獣とは、生物に相対する存在として古から存在するものじゃ。魔獣は神に仇なす物、死に帰属する物として、忌嫌われておったのじゃ。そして魔獣とは長らく伝説の悪魔、悪霊、悪鬼の類と思われておったんじゃな。だがこれもリジェット・エレリーパティックが発見したんじゃが、魔獣とは悪魔、悪霊、悪鬼の類に非ず、普通の生物が死に至る時に、稀に死なずに魔獣に遷生したものなのじゃ」
えっ? 悪魔とかじゃないんだ。でもその遷生ってなんだ?
「この遷生とは、森の奥中で起る事が多く、リジェット・エレリーパティックによるならば、“遷生とは一種の疾患で生命の相転換である。生物の基底がある疾病によって質的変異を起こす事象である”と断じておるな。生物が魔獣に遷生すると、生命力(魔命力?)が爆発的に強化されるのじゃ。一般的には筋力・敏捷力共に急激に強化され、更に肉身頑健になり寿命が伸びる様じゃ。見た目的には元の外見的特徴が強化されるんじゃ。
リジェットの言葉じゃと“色黒きは漆黒に、腕太きは豪腕へ、爪鋭きは尖鋭となる”じゃな。ただしその魔命を維持する為には、より多くのエネルギーが必要なようで体内の脂肪は瞬く間に消費されるんじゃ。その為か魔獣の多くは痩身となり常に飢餓状態であるよう様じゃな。正に飢えた魔獣よな……」
生命の相転換に質的変異? か、身体が頑健になって痩身ですか……。そ、それは、ダ、ダイエットによさそうですね。しかも寿命も伸びるんですか? なんかいい感じですけど……。でも自分は遠慮しときます。
「この様に魔獣とは、生きる為に多くのエネルギーが必要になるので、常に異常な食欲に取り憑かれる訳じゃな。しかも食性は肉食が強まるので周囲の生物を見境無く襲うようになるのじゃ。食欲の権化、まさに餓鬼と化す訳じゃよ。これが魔獣の正体じゃ」
うぐっ、前言撤回です。全然いい感じじゃないです。
「なんでもこの魔獣は、リジェット・エレリーパティックによると、脳への糖の供給が追いつかないのであまり頭は良くないらしいのじゃ。即ち生存本能より食欲が優先されるのじゃ。そんな食欲だけの魔獣は周囲の自分よりも弱い餌を喰らい尽くすと、自分よりも強いものにまで挑んだり、森の外に出てヒトや諸族を襲うのじゃな。すると当然討伐や狩りの対象となるんじゃ。従って寿命は長くても魔獣とは、そうは長く生きられない運命なのじゃよ。まぁ平常時には魔獣への遷生は、そうそう起こる事ではないからのぉ、それほど大きな脅威にはならんのじゃ」
うううう、常時飢えた凶暴な肉食獣ですが……。それは嫌だなぁ~。たしかにヒトや諸族は野生動物に比べると、狩りやすくて肉も一杯だからいい獲物だよね。でも確かにそうなると魔獣ってのは、危険で目立つから討伐対象になるんだろうなぁ~。そっかそっか発生数が少ないのが不幸中の幸いって事だね。
「さてこの魔獣への遷生は全ての生物で発生するんじゃよ。それはつまりヒト族であろうと諸族であろうと魔獣となる可能性があると云う事じゃな。それでじゃ、非常に稀にじゃが、このヒトや諸族の魔獣の中で、数10年も生き続ける者がおる様なのじゃ。するとこの魔獣は恐るべき存在の魔人へと進化を遂げるんじゃよ。リジェット・エレリーパティックによると、ヒトや諸族の魔獣が長生きすることで、脳自身が魔獣化し、高い知能と特殊な力を持つ魔人が生まれるそうなのじゃ」
ま、魔人ですか? 脳の魔獣化ですか……、でもそれって魔”人”、つまり人化なんだから、よい方向への進化なのかも……。
「この魔人は脳が進化しておるから、かなりの知能を持っておるじゃ。じゃが所詮は魔獣じゃ。つまりその知能は如何に餌を獲得するかに、その全てを使われるんじゃな。しかも厄介な事に、魔人は生物から魔獣への遷生を助長する力を持つ様なのじゃ。それに加えて自身が遷生させた魔獣に対しては操系術が出来るのじゃな。
魔人は生まれると必ず、自分の周りで多くの魔獣を遷生させ、その魔獣の群れを従えるんじゃ。どうもこれは魔人の本能の様じゃな。さて当然ながら多数の魔獣が存在するのじゃから、餌が絶対的に不足する訳じゃな。結果魔人は配下の魔獣の群れを引き連れオズグムルツより湧きだして来るのじゃ。これが魔禍じゃよ」
なんですかっ、それっ! 魔人駄目駄目じゃん。しかし死にそうな生き物が、死なずに魔獣になる? それが群れてやってくるんですか? うwwwそれって、T-ウィ○スの感染ですか? ゾ○ビですか? リッ○ーですか? タ○ラントですか? しかも配下を操るとか、嫌になるよそれ……。
「魔人が魔獣への操系術をできる事は判っているんじゃが、魔人がその他の外功術を使用できるかなどは、よく判っておらんのじゃ。なんといっても魔禍は、セラワルド史上、2度しか起こっておらんからじゃ。リジェットはどうやらフェルム人の神話・伝説も調べた様じゃな」
うわぁぁぁ、ちょ~強い上に魔法とか使われるともう堪りませんねぇ~。絶対その魔人さんとかには、会いたくありません。速攻逃げます! でもでも3000年の歴史で2回ですか? 発生確率は1500年に一回ですね。おお、関東大震災よりもずっと低い確率か、よかったぁ~。
「実はテゥス・オマジクが改訂されると、必ず魔獣や魔人の処は改訂されるんじゃ。多分噂通り魔道国には専門の研究所があるんじゃろ」
「それは、それがしも聞いたである。そこでは神にも背くような、おぞましい実験がされているとの噂であるな」
「そもそも魔道国の連中は神を信じておらのじゃ。やつらにとっては、事実が全てなんじゃ」
「で、あるか……」
ノーコメント、ノーコメント。おぞましい実験とか想像もしたくないです。そしてこーいうのは多分当たるんだよね。なんか魔道国行きたく無くなってきたな……。
「その魔禍が、最初の魔禍が、エスタ暦451年に、起こったんじゃよ。オズグムルツ
うわぁぁぁ、“魔禍”やっと理解できました。そりゃ大変じゃ~ん。マジ、リアルバイ○ハザードですか?
「結果としてエスタリオン神国のノラ
いい事ばかりは続かないって事ですね。夏は必ず終わり、そして冬が来るって事か……。
「さてこの最初の魔禍の殲滅戦には、結局2年程掛かったんじゃな。戦いの最後は森の死戦と云われる死闘で、エスタ護神騎士団の騎士長ナミアン・ロルドアが魔人を倒したのじゃ。この戦いの12年後に、エスタリオン神国教皇の“神許”と神聖ダイトニア皇国皇帝の“皇任”が下され、最初の魔禍殲滅に功があった、司祭枢機卿のミリシア・ロキ・ヴォツェック、エスタ護神騎士団の騎士長ナミアン・ロルドア、皇国竜騎士団の騎士団長のガリオン・ロテッチィアのそれぞれに領地が与えられ、3つの国が創国さるんじゃ。その3つの国こそが「神衛三国」たるヴォツェック大公国、ナミアン公国、ガリオン士道国じゃな。つまりこの「神衛三国」は、次の魔禍に備えてエスタリオン神国を衛る国と云う訳じゃな」
「この3つの国を繋ぐエスタ街道が盾の道と呼ばれ、森の死戦が行われた森が、盾の森と名付けられた所以であるな」
古武士
「この最初の魔禍が終わった後、エスタリオン神国、神聖ダイトニア皇国、フェルキア族長国、ロキシア民国に、ヴォツェック大公国、ナミアン公国、ガリオン士道国の3国が加わり、7国時代が始まったのじゃ。この7国時代は、この後300年程続くのじゃが、この7国時代にも、フェルキア族長国によるロキルム(ロキアの人:非フェルム人)への反抗は続いて行くのじゃな。
まずエスタ暦491年に神聖ダイトニア皇国領地内でフェルム人のムアエル氏族の流民による、ナイビアの乱が発生するんじゃが、これも元々はフェルキア族長国の策略によるものじゃな。皇国は最初の魔禍によって騎士団が壊滅状態じゃったので、ナイビアの乱を力で平定する事ができず。平和的解決方法として皇国は、フェルキア族長国とムエアル帰送条約を何度かに渡り締結し、合計80000人を超えるムアエル氏族の流民を、フェルキア族長国へ移民させたんじゃ。まぁその代わりに、神聖ダイトニア皇国は領地の返献を行っておるのじゃ。これが皇国の領地が小さい理由じゃよ。正にフェルキア族長国の思う壺じゃな」
「元々このムエアル氏族とは族長国の内乱“ムアエル氏族の乱”で敗れた者共の末裔である。転んでもただでは起きないのが族長国であるな」
おお、停戦中にもかかわらず、相手国の領地を縮小させたか。フェルキア族長国って、なかなか戦上手って云うか、政略上手ですね。しかもその原因がそもそも内乱? うん、そんな奴は絶対敵に回したくないな。
「そして7国時代の終わりに繋がる、“始祖への回帰”令が、エスタ暦587年にフェルキア族長会議の族長令として発令される事になるんじゃ。“始祖への回帰”令とはな、表向きはフェルム失われた5氏族の復興を目指すものと云われておるんじゃが、実際には最初の魔禍で被害を受けなかったフェルキア族長国による、セラワルド空隙地への全面侵略作戦じゃな」
マジすかっ。フェルキア族長国ハンパねぇ。
「この“始祖への回帰”令に呼応してエスタ暦702年に、フェルム失われた5氏族のひとつであるフェバオロ族が、エクスムア大草原でフェバオロ占地を宣言するんじゃな。まぁ占地宣言とは、セラワルドの草原域で暮らしていたフェルム人が、勝手にここは自分の国だと宣言する事じゃな。まぁ実際はフェルキア族長国による事実上の占領宣言じゃな。このフェバオロ占地によって、その後450年に及ぶフェルム戦乱時代が始まった訳じゃな」
えっ? 戦乱時代って、もしかして戦国時代ですか? それとも三国志ですか? それで、次は、次は?
「さて、フェルム戦乱時代については、昼餉をしてから説明じゃな」
「で、あるな。それがしも空腹である」
おおっ、これからって所だったのに~。でも正直お腹が空いているのも事実です。うんうん、お昼にしよう~、するとまたまたカリ姐ぇさんが、呼んでもいないのにいろいろな皿を載せたお盆を持って、台所から現れました。カリ姐ぇさん、あなたもしかして超能力者ですか? ……ってか、どんだけ聞き耳立ててます? ちなみに猫の聴力は人間の数十倍の能力らしいです……。
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