8.勉強のお時間 その⑥【セラワルド史の1 うおっ、そこからですか!】
「「「ガダスシアプ」」」
はい、そうです今日も今日とて、まずはきちんと挨拶を交わします。それから勉強机(居間の長テーブルですっ)に先生おふたりに挟まれる形で、3人並んで座りました。むむ、ちょっと緊張してしまう座り方ですけど、これは今日の教材が1つしかないから仕方ないんです。
「今日は、セラワルド年史についての説明じゃな」
どうやら今日の先生は、老師さんのようです。ここらへんの役割分担は結構上手くできてるな。
さて勉強机(居間の長テーブル)の上には、ちょっと黄色味掛かってはいるが、きちんと糸で綴られた10数枚位の紙の束があります。この紙の束の表紙はベルピスと違って間違いなく紙ですね。うん、紙の資料だから一部しかないんだろうな~。やっぱ紙はまだまだ高級品なんだろうね。そんな紙で出来た表紙を1枚捲ると横並びに数字と文字が並んでます。う~ん、これは……、そうか年表か! そしてその後のページは多分補足の説明かな? そっちは文字でびっしりと埋まってるからね。
「これはわしが、まとめたセラワルド年史じゃ。まぁ各国にも似たような本があるんじゃが、どうしても自国の主観が混じっておるから、わしとしてはあまり勧められんのぉ。セキニアは若い国だけあって、そこらへんは案外と公平じゃから、大概の記述はお咎め無しなんじゃな。まぁ実際他国で、これを見せると捕まるかもじゃな。ちなみにこいつの写本は、黒虎騎士団でも使用されておるぞ」
と、ちょっと自慢気な感じの老師さん。うん、結構自慢するよね……。
「おお、これは“正説セラワルド年史”であるな。なんとこれがイジュマー老の作であったとは……。それがしもこの年史を使っておったであるよ」
その紙の束、いえ正説セラワルド年史をペラペラとめくりながら、古武士さんは感心しきりだ。
「エスタ古記から始まり、エスタ神記、エスタ年譜、真セラワルド史、正統セラワルド年史、聖セラワルド史、皇紀年史、真正セラワルド年史、セラワルド正史等々、セラワルドの史書もいろいろであるが、まぁなんと云うか伝説・お伽話の類も混ざっているである。正しく過去を知る事は、今と未来を生きる者にとって大切な事な事である。その点この正説セラワルド年史は最適である」
おい、史書がそんなにあるんかい! お、老師さんが、この古武士さんの言葉にうんうんって頷いてるぞ、かなり嬉しそうだな。
「ゴホッゴホッ、では始めようぞ。そもそも、この地をセラワルドと名付けたのは、リジェット・エレリーパティックじゃ。それまでは個々の国の名前はあったが、ワルドという呼び方・考え方はなかった訳じゃ。ワルドに近いものとしては、エスタリオン教においてアニウラワルドをアンセラド、セラワルドをプロスラドと呼んでおっただけじゃな」
うんうん、認識の限界って奴だね。知らないこと=存在しない事と同義だからね。最大認識領域が、国単位ならば、世界とかの名前も概念も必要ないし、比較対象がないから当然セラとかアニウラとか云う訳もないよね。
「リジェット・エレリーパティックの魔道探求の旅によって、始めてアナワルドと云う考え方が紹介され、4大地7ワルドが理解された訳じゃな」
それが認識の拡大って奴だね。そしてその先には、惑星、衛星、恒星、宇宙、次元と認識が拡大されていく訳だよ。ん、ところでこの世界は球ってのは認識されているのかな? しまった地学の時に聞くべきだったな。でもあの日時計を作るには、そこら辺の理解がないと無理なはずだよね?
「まぁ、それは良いとして、プロスラドつまりセラワルドの歴史じゃが、全てはエスタリオン神国の初代教皇ロキシア・エスタ・ヴォツェックによるアンセラドつまりアニウラワルドから、プロスラドつまりセラワルドへの神導の旅によって幕を開けるのじゃ。
エスタリオン神国、初代教皇ロキシア・エスタ・ヴォツェックは、そもそもアニウラワルドの一地方の若いシャーマンであったのじゃが、ある日エスタリオンからの神託を受ける訳じゃ。それがプロスラドつまりセラワルドへの神導の旅の神託と云う事じゃな。彼女はこの神託を各地のシャーマンに伝え神導の旅を始める訳じゃ。なぜ一地方の無名のシャーマンに過ぎなかったロキシアの言葉に数多くのアニウラワルドの諸族が従い、この大移動を行ったのか? どうもここんところはあまり明確になっておらんのじゃな。まぁ、それももう3000年前の話じゃ、仕方なかろうて……。噂では、エスタリオン神国の教皇のみが閲覧できるエスタ聖文書には、そこら辺の事情が詳らかにされているそうじゃがな」
あうあう、老師さん。今回の歴史の授業は3千年前から始めるのですか……。
「まぁ理由はさて置き、3017年前のアラニアは1のラウドに、その神導の旅は始まった訳じゃ。神導の旅には数万に及ぶ諸族がこれに従ったと云われておるのじゃ。旅が始まり4カ月の後、深い森を進んでおったロキシア達は、プロスラドつまりセラワルドへと繋がる地峡に漸く辿り着く訳じゃ、ロキシア達はエスタの神に感謝し、この地峡に彼らの先導者の名前を付けた訳じゃな。そうじゃ、この地峡こそがロキシア地峡なんじゃ。
ロキシア地峡を渡りオズグムルツに踏み込み、6カ月の後、ロキシア達はオズグムルツを抜けて、ついにエクスムア大草原へ到達したんじゃ。そのエクスムア大草原を更に3カ月の間ウラへと進み、とうとうロキシア達は3つの森に囲まれた大いなる湖、レブラレクに至った訳じゃ。この神導の旅で辿った道程、それが後に最初のエスト街道、神導の道に成るんじゃな」
おお、3017年前って、なんだかずいぶん細かい数字ですね? ふぇぇぇ神導の旅って徒歩で13カ月ですか……。でもモーゼの出エジプト記だと約束の地まで40年だから、それよっかましか。それにしても一日15K移動したとして、6750Kですよ。ってか子供もいるし、森の中を進む訳だから、一日15Kは無理なのかな。でもでも相当な距離だよね。
「その地こそが、“見よ我が民よ。この地こそエスタの神が我に示した、プロスラドであり、これぞレブラレクである!”とロキシアが聖なる神宣をした場所じゃな。そしてその地こそが、今のエスタリオン神国であり、ロキシア・エスタ・ヴォツェックの名を戴いた神都ロキアじゃ」
ふむふむ、エスタリオン神国こそが、 “Firsrt State”、つまり 我らの初めの地って訳ですね。3000年続く神都か~、凄いなそれ。
「この有名なレブラレクの神宣が成されたのが3015年前の事じゃよ。そしてこの神宣と同時にエスタ暦が始まったのじゃ。つまり今年がエスタ暦で3015年と云う訳じゃな」
うがっ、ずるっ。そりゃ何年前か細かく判るハズだよね。
「さて、無事にレブラレクに辿り着いたロキシア達は、自分たちの居住地の建設に入った訳じゃな。まぁ様々な艱難辛苦を経て、それでもなんとか生活基盤が整ったエスタ暦7年に、ロキシアはプロスラド全土のエスタリオン神からの“借託” 宣告と、レブラレク湖畔でのエスタリオン神国の創国宣言をしたんじゃ。つまり事実上のプロスラド全土の領有宣言じゃな。
無論ロキシアに従っていた諸族は、この宣言に両手を挙げて賛成した訳じゃよ。じゃが実はこのセラワルドには、先住民が居ったのじゃ。まぁヒト族以外の諸族は、土地は自然物と考えておるし、森の民じゃから領有宣言への関心あまりないのじゃが、ヒト族の先住民たるフェルム人達は、当然黙ってはおれなかった訳じゃな。しかもレブラレクは、フェルム人にとっても聖なる湖であり、聖地であったのじゃよ。当然ロキシアの宣言をハイそうですかと聞き流す事は出来なかったのじゃ。
そもそもロキシア達とフェルム人達、両者の接触は当初友好的でな、フェルム人の中での最大氏族のフェルキア氏族とロキシア達は、“友愛の契”を結んでおっての、当初かなり困窮していたロキシア達に対しフェルキア氏族は、住居を貸したり食料を渡したりと相当積極的に助けておったんじゃ。だがロキシアによる、プロスラド全土のエスタリオン神からの“借託” 宣告と、レブラレクの地でのエスタリオン神国の創国宣言で、両者の関係は一気に悪化するんじゃな」
まぁ、そりゃそうだよね。フェルム人さんからすれば、ロキシア側って完全な侵略者だよね。しかもこれって助けた相手に突然裏切られたって感じだしな。普通に考えて許せんよね。
「フェルム人唯一の統一組織である13氏族会議に対し、ロキシアは広大な土地をフェルム人に“神許”すると妥協を図ったんじゃが、フェルム13氏族会議は即座にこれを一蹴したんじゃ。結果エスタ暦10年にフェルム人の最大氏族であるフェルキア族を中心とするフェルム7氏族連合軍と、エスタリオン神国の護神枢機卿率いる、エスタ護神騎士団がレブラレクのサラウラの平原で激突したんじゃ。
これが“レブラレクの戦い”じゃな。この戦いは、本来圧倒的多数であるフェルム7氏族連合軍側の勝利は間違いないはずであったんじゃが、エスタリオン神国側による事前の調略によるフェルム氏族間の切り崩しと、フェルム人側に蔓延った流行り病等が幸いして、エスタ護神騎士団がギリギリ勝利したんじゃ」
「初めて見た騎士団の重装歩兵の前に、フェルム人がまったく歯が立たなかった事も神国には幸いしたのである」
うがっ、それってまんまコンキスタドールじゃないですか。ロキシアってコルテスかピサロの再来ですか?
「このレブラレクの戦いの敗北がフェルム人に与えた影響は大きくての、フェルム氏族間の亀裂は決定的となり、フェルムの13氏族が全て集まる会議、フェルム13氏族会議は、レブラレクの戦いの前年、エスタ暦9年を最後に2度と開かれる事はなかったんじゃな。これは完全にエスタリオン神国側によるフェルム氏族間の切り崩しの成果じゃな。
レブラレクの戦い以降、エスタリオン神国とフェルム人との戦いは100年に渡って続いていくんじゃが、ロキシアにはこの血で血を洗う戦いは耐えられる限界を超えたようなのじゃ。そこでエスタ暦15年、教皇ロキシア・エスタ・ヴォツェックは、時の護神枢機卿アイシャス・ダイトロンに初の“神許”を行い、エスタ護神騎士団のほぼ全ての騎士と共に神聖ダイトニア皇国の創国を命じる事になるのじゃ。つまりダイトニア皇国は、エスタリオン神国に代わりセラワルド全土の運営を委任された訳じゃよ。これ以降神聖ダイトニア皇国の皇国竜騎士団がフェルム人との戦いを引き継いでいく事になるんじゃな」
うっぇぇぇ、なんだか酷い話だな。部下に嫌なことは丸投げですか……。元はと云えば自分がした宣言が原因じゃないのかよ。
「そしてそれから約100年後の、エスタ暦108年に試練の森のサラ、ノボフォとセラフォの分岐点近くで、“ノボフォの戦い”が起こったのじゃ。この100年でフェルム13氏族からは、既に5氏族が失われておっての、フェルム人側にすると、この戦いは正に種族の命運を掛けた戦いになったんじゃな。
残ったフェルム8氏族が全て参加したフェルム連合軍と、神聖ダイトニア皇帝率いる皇国竜騎士団の両軍合わせて9万人が、この戦いで真正面から激突したんじゃ。このノボフォの戦いは、5日に渡る激戦となったのじゃが、フェルム人のガジィオたる、フェルキアのギルラ(信頼される者=族長)“大きな爪・モカーフ・クュマ(大獣猫:ピューマ)・フェルキア”が率いる“赤鬼騎兵”と“白蛇の槍”が、終には神聖ダイトニア皇帝の首を上げたのじゃよ」
「ガジィオモカーフの戦術が優れていたとも伝わっているであるが、この時の戦いで、初めてフェルム人が槍を主武器とした事が大きいである。それまでフェルム人の武器と云えば、ダガーとトマホーク(戦斧:太く短い柄と小振りの斧頭を持つ)、それに軽弓が主なのである。このフェルム人の戦術変更に、ダイトニア皇国の竜騎士団は最後まで対応しきれなかったのであるな」
おお、フェルム人も背水の陣だから考えたってことか、そりゃ短剣と斧が相手だと思っていたら、突然槍で攻撃受けたらキツイよね。でも皇帝が殺られちゃ駄目でしょ~。
「その結果神聖ダイトニア皇国の竜騎士団は総崩れとなり、フェルムエト氏族連合軍の大勝利がほぼ決定したと思われたんじゃが、最後の最後にこの戦場に突如襲来したのが、100年かけて再編・錬成されていたエスタリオン神国のエスタ護神騎士団じゃったのじゃ」
うっぎぃぃぃぃ。そりゃ酷い。最後の最後で大逆転かよ。ってか、フェルム人さん側には偵察とかそ~いう言葉ないかな?
「文献に依ると、エスタ護神騎士団は筏を使って、ノボフォを下り戦場を急襲したらしいである。これもまた新戦術である」
なるほど、双方いろいろ考えたって事か……。
「このエスタ護神騎士団の介入で、皇国竜騎士団の殲滅はギリギリ免れた訳じゃの。エスタ護神騎士団を迎え撃ったフェルム8氏族連合軍にも既に戦力はほとんど残っておらんかったし、結局ノボフォの戦いは、フェルム8氏族連合軍優勢と云う形での痛み分けとなったんじゃな。そしてこのノボフォの戦いの2年後に、フェルム人の大英雄、フェルキアのギルラ(信頼される者=族長)“大きな爪・モカーフ・クュマ(大獣猫:ピューマ)・フェルキア”の名の下に、フェルキア族長国の建国が宣言されたんじゃ」
なるほどね、だからフェルキア族長国はセラワルドにおいて異分子なんだな。それに族長国ってのも理解できるな。でもフェルム族長国じゃなくてフェルキアなんだ……、う~、そこら辺の氏族意識はかなり強そうだな。そしてネイティブなのはフェルム人なんだな、どっかの合衆国かよ……。
「この後も、小さな紛争は続いていったが、エスタ暦132年に、フェルキア族長国と神聖ダイトニア皇国の間に、停戦条約“剣下の誓い”が結ばれたのじゃな。そしてこの状態が今に至るんじゃ」
「えっ、もしかしてそれから今まで、ずっと停戦中なんですか?」
「で、あるな」
古武士さんの一言。うっぎゃぁ、それはマジ長い確執だなぁ、ってか3000年経ってもまだ停戦ですかっ! なんだよそれぇ。日本人の感覚では従いて行くの無理だよ。ちょっと引くわぁ~。
「ここまでが、セラワルド草創期の出来事じゃな」
「で、あるな」
「はいっ、ありがとうございました」
老師さんのその言葉で、なんかホッとした雰囲気が広がりました、おお、確かになんか疲れたぞ~。マジお疲れ様で~す。それじゃこれで、いったん休憩ですね。ではではカリ姐ぇさんに頼んで、なにか飲み物をGETしよう。
「カリファさ~~ん」
台所に向って声を掛けた同時に、なんと木のコップを載せたお盆を持った、カリ姐ぇさんが音もなく現れました。さすがだぜ……。
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