8.マグス(見守る者)達
~夢見る者ゼシュ・マグスからの視点~
サーピが持ってきた、考える者メルキオからの手紙によると、ついに種伝者との接触に成功したらしい。さすがメルキオだ。これであとは、育てる者パルザルに全てを任せれば良い。そしていつか時が満ちれば、種伝者は今度こそ定められた道を歩むだろう。我らはマグス、もし種伝者が進むその道程に妨げあらば、身を呈して排除するのみだ。種伝者が進むその道の行く先には、新しき扉があり、その扉の先には新しき世界が待っているのだ。ああ、今度こそ、我らの夢を果たす時が来たのだ。
「我ら見守る者、ノーマー・マグスの導きに従い、新たなる扉を押し開くなり」
そうだ、この言葉こそが、我らの使命なのだから。そしてそれこそがわたしの全てだから……。
~孤高なる者カバック・マグスからの視点~
サーピが持ってきた手紙……。もう~、あいつらの臭いがついててほんと嫌なんだよね。ゼシュに云ってあたいだけ、別のサーピを使っちゃ駄目かな。だって考えてみれば、サーピなんて間違いなく、あたいら向きじゃん?
さてそのカパどん(カスパの事)からの手紙だけど、まぁまぁよく調べたもんだね。さっすが見出す者だけの事はあんな~。当然種伝者はなかなかおもろいんだけど。この種伝者の父親の、ナイアスってのが、これがまた実に面白いねぇ。まっ、過去の経歴もそうなんだけど、これから先が、どんどん面白くなりそうじゃん? てかっ、やっぱ種伝者だねぇ、周りに必ずなんか火種ってか、騒ぎのネタってか、なんか転がってんだよね。今までの3人だってそうだったし、4人目もおんなじじゃん。って事はさ、あたいのやる事もおんなじって事だよね~。
ほうほう、あのガディア、やっぱドルなんか、しかも“紅のスピドル”の出身なんか、こりゃますますおもろいぞ。いやぁ、まさかあたいの里族出身とは思わなんかったな。ふむふむ、ほうほう無音暗技の使い手ね。まぁそうなんだろうね。ん? なぁ~にぃ、里を追放されてるんか? あれだけの使い手を追放って、こりゃ尋常じゃないな。一体なにやらかしたんだ? いやいや、こりゃますます、おもろいぞぉ~。
うwww、マジなんか嬉しくなってくるな~。今回は1000年以上静かにしてたんだからさ、せいぜい派手にやらしてもらうよ。
“種伝者顕われしなら、世は乱れる”
あたいの格言、今回もきっちり証明してみせるさ。
~考える者メルキオ・マグスからの視点~
目の前の質素なベッドの上には、初老のホピットが、瞳をしっかりと閉じ一切身動ぎせずに横たわっている。顔にも血の気はほとんど無いし、息もしてないかの様だ。パッと見は完全な死体。まぁ実態も死体と、ほとんど変わりはない。しかし彼は確実に生きている。これはマグスにのみ伝わる命滞術によるものだからな……。彼には真に申し訳ないが、これも運命と思って諦めてもらおう。まぁ、本当なら見る事無き、先の世を見られるのだから、それもまた善しであろう。
4人目の種伝者の顕現か……。確かゼシュ・マグスはこの前こう云ったな。“そして今度こそ、我ら見守る者の力を持って、ノーマー・マグスの導きに従い、新たなる扉を押し開くのだ”。
“今度こそ”か、つまり否定はしていたが、本心ではやはりゼシュ・マグスは、あれを失敗だと思っているのだろう。この私、考える者メルキオ・マグスが失敗したと……。
違うのだよ、ゼシュ・マグスよ。いみじくもお前が、オクリョに云った様に、あれは本当にまだ“時”ではなかったのだ。
「時満ちれば何れは道は開かれる」
うむ、これはノーマーの言葉であったな。確かにこれは真実だろう。まぁカバックに云わせると、“そんなん、あったりめぇじゃん”とか鼻で笑っておったな。それを聞いてゼシュは苦虫を潰した様な顔をしていたがな。じゃが気が付かないか? この言葉の意味はかなり深いのだよ。
「時満ちればか……」
血の気がない初老のホピットが横たわるベッドから、その隣にある似たようなベッドへと視線を向ける。そこにはわたしの全てである、ホピット同様に血の気のない真っ白な顔色をした金髪のヒトの少女が、横たわっている。
今度こそは、ついに時が来たのだろうか? だがそれは判らない、過去2回は、やはりまだ時ではなかったのだ。だがしかし……、いや迷うまい。わたしもまた常に行動するのみだ。
融命術の準備に取り掛かる。もう何度も行った術式だ、スラスラと事は進んでいく。だが私が今している事を、他のマグス達が知った時、彼らはどう思うのだろうか? これを裏切り行為と捉えるのだろうか? まぁ確かにゼシュなら激昂しそうではあるな。
だがゼシュ・マグスは理解しているのだろうか? 我らはマグスなのだ。導く者ノーマーではないのだ。我らは種伝者に新たなる扉を見せる事はできるかも知れないが、その扉を開かせる事はできないのだ。そう我らができる事は見守る事と、道を示す事だけなのだ。多分我らマグスの本質を理解しているのは、私と孤高なる者カバック位だろう。いやアレは理解してるのではなく、単なる本能だな。
“種伝者顕われしなら、世は乱れる”か、ああ、やはり正に真言だな。
夢見る者、育てる者、見出す者。そう彼らには、はっきりとした使命がある。一方私や、孤高なる者、親愛なる者はそうではない。なぜノーマーはこの様になさったのか? それに、もし新たなる扉が開かれた時、我らはどうなるのか? 目的が達成されれば、我らの使命も終わるのではないか? だがそもそも使命が明確でない我らに、明確な使命の終わりはあるのであろうか?
新たなる扉が開かれた時、その時我らマグスはどうなるのか? ゼシュや育てる者、見出す者はその時、何を考えるのか。そしてカバックは何を見るのだろうか?
…………いや違うのか。そうではないのだな。我らにも使命があるのだ。彼らは種伝者を見守るが、我らは、道を、扉を、見守るのだ。そしてマグスの運命を見守るのだ。そうか、そうなのだな。我らマグスこそが、あらたなる扉への生贄・障壁なのか……。ノーマーよそれが我らを生み出した理由なのか? なるほど新たなる世界に我らマグスの席は用意されていないのだな。
だからこそノーマーは、我らをこのように創造したのだな。そして我ら3人、考える者、孤高なる者、親愛なる者を先の種伝者のマグスと定めたのか。なるほど、それこそが真実か……。うむ、彼らにもわたし同様に秘めたる思いがありそうだな……。一度話してみる必要があるか……、いや私と同じく秘しているならば、それも無駄な事か。そして育てる者パルザルが種伝者のマグスとなったこの時……、そうかついに時は満ちたのか。……よろしいノーマーよ、では、私も言葉を示そうぞ。
「マグス乱れる時、扉は顕わる」
ふむ、真に真言だ。しかし誠に残念だが、これでは誰にも云う事が出来ないか。いやカバックなら笑って受け流すだろうな……。
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