7.先生さん達の歓迎会
面接があったその日の夜、昼間は面接会場だった居間は、今歓迎レセプション会場に変わっています。ええ、面接結果は全員合格って事ですね。まぁ全員云ってもふたりだけどね。そして歓迎レセプションといっても参加者は、面接の時のメンバーに、お母様とカリ姐さんが加わっただけですけどね。
居間の長テーブルの両端と真ん中には、三股の燭台が置かれていて、その先端のラストンが白い光を静かに周りに放っている。そんな長テーブルの上には、昼とは打って変わって素朴な感じの麻のテーブルクロスが掛けられ、さらに各自の前には、それぞれ違う花の刺繍が施されたお母様手作りのランチョンマットが敷かれている。そして長テーブルの中央には、控え目ながらも数輪の花が飾られた、真っ白な花瓶が置かれている。さすがお母様だな。素敵に歓迎する心が感じられる趣向です。
長テーブルの上座には、エスコートマスターの親父殿が座っています。長テーブルの右側には、お母様と自分が座っています。その自分たちの向かい側に、老師ナハトマ・イジュマーさん、そして古武士サローン・アドバンさんが並んで座っています。座り順は老師さんが上座だ。後で古武士さんに教わったんだけど、なんでもこういう席でホピットが、ヒトより上座に座ることは、とても珍しい事らしい。だけど今回は男性陣が皆黒虎騎士団出身者であるので、自然とこうなったらしいね。そう、黒虎騎士団では種族に関係なしに、あくまで階級、そして先任者優先が当然なんだって、うむさすが軍隊ですね。あと考え方として年長者を優先する伝統があるらしい。年功序列か?
これは後で老師さんに教わった事だけど、実はこの世界(セラワルド世界)では、老人という存在そのものが珍しいらしいんだ。それってのは厳しい生存競争、紛争、戦争、日常的な事故、未発達な医療等により、寿命をまっとう出来る者が少ないからみたいだ。いわゆる多産多死の多子若齢化が進んでいる世界らしい。確かにサラキトアの集落でも、“子供”は多いんだけど、“老人”ってのは見たことがないな……。それが年長者を優先する風潮に繋がってるみたいだね。
「それでは改めて、ガダスシアプ。みなさんようこそキトアに。これは我が妻のリリュです」
エスコートマスターたる親父殿の紹介で、薄いブルーで、けっこうヒラヒラ系のワンピースを纏った、お母様がスッと立ち上がり黙ってお辞儀をする。いつも綺麗ですお母様。そしてこれが本日の歓迎会開始の合図と成りました。
「ガダスシアプ。奥方、ナハトマ・イジュマーと申す。以後お見知りおきを」
「ガダスシアプ。奥方様、それがしサローン・アドバンである。以後お見知りおきを」
おお、これが所謂形通りの挨拶って奴だな。
そして次に親父殿が、右の手の平をこっちに向ける。
「我が息子、ギルです」
「ガダスシアプ。イジュマー先生、アドバン先生、ギルナス・ヴェルウントです。これから宜しくお願いします」
椅子から立ち上がり、頭を下げる。えっと、これで問題ないよな? ちょい緊張する。ああ、挨拶は苦手だぁ。
「ガダスシアプ。坊主、ナハトマ・イジュマーじゃ。」
「ガダスシアプ。ご子息殿、それがしサローン・アドバンである。」
こちらに向かって軽く黙礼するおふたりさん。そっか、ゲストは座ったままでいいんですね。まぁ作法もいろいろだしな。それにしても“坊主”と来たか~(>_<)。
「そしてこれが、カリファです。我が家のメイド長兼、執事兼、警備主任です。以後お見知り置きを……」
最後に親父殿が、黒いチェニックに真っ白な長めの前掛けを着込み、皆の前に陶器の細めのグラス、小皿とフォーク、スプーン、ナイフをささっと音もなく優雅に置いているカリ姉さんを、ふたりに紹介する。
その親父殿からの紹介を受けると、手に持ってものを素早くテーブルに配ると、スッと2歩下がって手をお腹の前で組み、こちらに向かって、無言で腰を深々と折りながらお辞儀をするカリ姐さん。おおお、いつに無く優雅な感じだ。こんな事も卆なくできるんか。カリ姐さん、凄いぞ。
えっとですね。なんでも公式な食事会に置ける一般的な挨拶では、言葉を発せるのは男性だけらしいんだ。女性は黙ってお辞儀するだけらしい、う~、なんとも男尊女卑な事だな。
次にカリ姉さんが、我がヴェルウント家に1本しかない、濃い茶色のガラスの瓶を取り出す。そいつは扁平な丸みを帯びた胴体から、細めの首が伸びる大ぶりな瓶です。むむ、これってデキャンタって奴だな。そのかなり大きめな瓶から片手だけで優雅に、赤い液体を皆のグラスに注いでいくカリ姉さん。おおお、これはすごい洗練されたサービングだぁぁ。こんなカリ姉さん初めてみたぞ!
「ロドオルソ州のコートブルゴ産のカル・ソヨンのビノロソです」
カリ姐さんによって大人4人全てのグラスに赤ワインが注がれると、タイミング良くしっとりとした声で静かに、本日のディナーのコース説明を始めるお母様。挨拶以外なら当然女性の発言もOKだ。
「そしてサラキトアで作りましたフロマの3種盛りです」
各人目の前にある小皿には、確かに種類の違う3種類のフロマが数切れづつ、カリ姉さんの手によって盛られていく。仄かなカビ臭さと乳の匂いが辺りに漂う。うお、このフロマは始めてだぞ!
まずは表面が白い皮に覆われ、中身が綺麗なクリーム色でトロリとしたもの、これはちょい乳の匂いがする。そして僅かに黄色みかかった白の生地の中に青い筋が混じっていて、ちょうど大理石みたいな奴、おお、こいつの匂いは強烈だ! 3つ目は表面が硬めでピンク色、中身のところどころに穴が空いている奴だ。これの香りは、ちょいカビ臭いけどそれほど強烈じゃないな。
カリ姐さんのフロマのサービングが終わったタイミングで、親父殿が陶器のグラスを軽く持ち上げる。
「それでは、おふた方には以後宜しくお願い致します。フラージュ」
親父殿の乾杯の音頭によって皆さんが、それぞれのグラスを持ち上げると、それぞれがお互いに向かってグラスをちょっと突き出す。ふむふむ、乾杯で互いのグラスを触れさせる事はしないんだな。そこでみなさんのその動きを真似てみます。ええ、まだ5歳なんで当然自分のグラスには、ビノは入っていません。中身はチェードですよ。
フラージュで、一気にグラスを飲み干した親父殿と古武士さんに、素早くビノを注ぐカリ姐さん。お母様はまったくお酒は飲まないし、老師さんも、ほとんどビノで唇を濡らす程度みたいだ。その自分へビノのサービングを行うカリ姐さんの動きを鋭い眼光で見ていた古武士さんは、なにかに気がついたのか……。
「なるほど、警備主任殿ですか、なるほど、なるほど」
としきりに頷きながら呟いていた。古武士さん、なにか問題ありましたか?
「みなさん、このフロマのお味は如何でしょうか? このフロマ作りは3年前から始めたばかりですが、幸い村にゾナンダの出身者がおりましたので、それなりの出来かと思っておりますが……」
お母様が心配そうに、せっせと皿の上のフロマを片付けている古武士さんと、ゆっくりとフロマを味わっている老師さんに尋ねる。
「いやっ。奥方様、これはなかなかである。たしかにゾナンダのフロマに比べると、少し匂い味共に尖った感じではあるが、これはこれで美味であります」
古武士さんが3杯目のビノに口をつけながらフロマを論評している。お母様がその言葉にちょっと嬉しそうに頷いているな。
「確かに白フロマは、ちと熟成度合いに疑問を感じるが、こっちの青フロマは、このキツ目の苦味がまさに絶品じゃのぉ」
皿の上のフロマをちびちびと食べていた老師さんも負けずに論評を下す。そっか? 白フロマは、濃厚でクリーミーな味がとってもいいと思うし、逆に青フロマは、苦すぎじゃないか? あれ? 自分もしかして、舌もお子様になってるのかな?
「貴重なご意見、ありがとうございます。ゆくゆくはこのフロマをキトアの名産にしたいと思っておりますの」
お母様がふたりに向かって軽く目礼をする。う~ん、そう云えばお母様は、今まで親父殿や自分に、あまり料理の味の感想を聞いた事ないな? むむ、それって、どーいうことなんだ?
さて本日の歓迎レセプションのメインディッシュは、ジキンの香草焼きです。ジキンのお腹に7種類の香草とログラスを詰めて、丸焼きにした奴ですよ。いよっ、ジキンの丸焼きっ! 見た目も豪華だよね~。ええと、このジキンの香草焼きそのものは、セラワルドでは一般的なおもてなし料理のひとつらしいけど、カリ姐さん曰く、お母様の香草焼きはちょっとひと味違うらしいんだ……。
ジキンの香草焼きってのは、要するにジキンの腹に香草を混ぜた詰め物をして丸焼きにする料理なんだけど。お母様のレシピでは、腹以外にもジキン全体に、乾燥させて細かく砕いた香草をまぶして、更に焼いている途中に何度も何度も、ジキンから出た油を掬って上からかけるんだって。これによって皮の表面がパリっと仕上がるし、しかも香草の香りがしっかりと皮と身に染み込むって訳だ。特に身肉にもかけた油が染み込むから、焼けた身肉がパサパサになるのを防ぐ事になるらしい。
ジキンの香草焼きってのは、普通は焼きっぱなしなんだそうだ。それに比べると、お母様のレシピってなんかすっげぇ手間がかかる調理法なんだけど、それこそ“お も て な し”の精神に合致した一品だと思うね。うん、本当にいつ食べても、絶品の料理です、お母様。
ちょうど良い具合に表面が薄っすらと焦げて、いい色合いとなった皮に包まれたジキンの丸焼きが、染みだした油と香草、それに焦げた芳しい香りを漂わせながら、真っ白な長めの前掛けを着込んだカリ姐さんの手により、大皿に載って台所から運ばれて来ました。全員の視線が、自然とその大皿の上の、2本の脚を天井に向けてるジキンに集まってしまう。まぁこれって仕方ないよね。
そしてそのジキンの丸焼きが載った大皿は、まず恭しく親父殿の前に置かれる。すると親父殿は、おもむろにスッと立ち上がると、皿に添えられた大きめのナイフとフォークを器用に遣って、ジキンの丸焼きをザクザクと慣れた手つきで分解していく。そうこれこそがエスコートマスターの大きな役割なんだ。
その親父殿のナイフがジキンの身肉をサクッと足と肋に胸と腰に切り進めていく。そうです、その各部位がそれぞれ2つづに切りだされていってます。ああ、それに手羽を忘れちゃいけないな。さすがジキン、飛べるだけあって手羽がでけぇ~。おお、これはまさにK○Cのピースを彷彿とさせるな。するとその切り分けられた部位から、湯気と肉汁が溢れ出し、新たななんとも云えない香りが鼻を襲ってくる。それに肉汁を含んでいい色になってるログラス! おお、口中に唾液が溢れ出して来るぅ~。
“ゴクリ”
思わず唾飲んじゃったよ。ああああ、お腹空いたよぉ。だけどね、サービングにも順番ってのがあるんだよ。順番がね……。ええ、当然自分は最後って事ですね。まずはエスコートマスターの特権として、最初に親父殿が肉を自分の皿に取り分ける。おっ、選んだのは足だな。足1本とジキンの肉汁が染みこんで茶褐色となったログラスを取りましたね。最初に選ぶのが足とは、ここはやっぱ遠慮してるって事か。うんうん、奥ゆかしいな~。
次はゲストの番だ。老師さんが手羽を1つとログラスを取った。うむ、さすが老師殿、これも遠慮気味だな。いや意外に手羽好きなのかもな。そして古武士さんが肋の部分を取る。うおっ、そこそこ大好きなんだけど……。クッあと残り一個か! 次がお母様の番だ。当然お母様は……。うわっ! お母様も肋ですか? OhMyGod! 容赦なしかっ! でもね、でもね、実は、腰の部位も好きなんだよね~♪。
「失礼だが奥方は、どちらで魔術師の師位を授かりましたかな?」
自分がジキンの肉のお替わり、今度は手羽を取っている時に、老師さんが、お母様に向かって唐突に質問を発したんだ。
「さすがですな、見ただけで判るものですか、イジュマー殿?」
親父殿がちょっと驚いた表情を見せる。そ、そうか、やっぱりお母様は魔法使いなんだっ。その親父殿の声に、“当然じゃ”と軽く頷く老師さん。
「いえ、違います。師位などは頂いておりませんわ。わたしは、たんなる一介の外功術使に過ぎません」
ささっとナプキンで、口許を拭うと、きちんと視線を老師さんへ向けてお母様が答える。ほんときちんとしてるよねお母様って。でも外功術使? そういえば内功ってのもあったな。それにやっぱ魔術師であって魔法使いじゃないんだ……。う~ん、魔術師と外功術使って、なにがどう違うんだ?
「ほう。これは失礼したの。じゃがそれほどの魔源力と伝魔力……。かなりの力量を感じるぞい。ほんとうに魔導師からの教えは受けておらんのかの?」
「おお、判りますか、リリュは、4術使ですよ。たしかに師位はありませんが、そこらへんの魔術師に劣るものじゃありません!」
沈黙するお母様に変わって、ちょっと目許が赤くなっている親父殿が嬉しそうに答えている。むむ、これはビノをかなり飲んでいるな。
「あなたっ。止めてください」
お母様が慌てた様子で親父殿を窘める。
「4術使! それは驚きであるな。それにこの料理の腕を数えると、奥方様は5術使並ですな!」
こちらも相当、ビノを飲んでいる古武士さんが、いいタイミングで合いの手を入れる。
「真に4術使とな? それは……」
「それでは、最後のお料理にかかりますので……」
老師さんの質問の途中で、そう云いながら慌てて、席を立つとそそくさと台所へと向かうお母様。あれっ? なんだろう? ちょっといつもと感じが違うな。老師さんが、なぜか訝る様な視線を、お母様の背中に向けているのが、ちょっと気になるな。
まぁこうして、ふたりの先生方の歓迎会は、滞り無く無事終了しました。ちなみに最後の料理は、ミルクと卵と黒砂糖を使った、ちょっと色の濃い冷乳菓子だった。これには老師さん、古武士さん共にぶっ飛んでいた……。まぁ、正直自分だって、これをこっちで始めて食べた時には正直ぶっ飛んだけどね。だって冷蔵庫すらない世界で、アイスクリームですよ。生クリームとかどうやってGETしてるんだろう。てかっ、どうやって冷やしてるんだ?
小説家になろう 勝手にランキングに登録してみました~。
応援のつもりで、カチッとクリックしてみてね~。
感想・誤字指摘・要望・意見・応援は随時受け付け中です。宜しく!




