5.サローン・アドバンとナハトマ・イジュマー その①
~ナイアス・ヴェルウントからの視線~
アズナルに例の依頼をしてから、あれこれと、もう約1月半が経った今日……。今居間の長テーブルには4人の男が座っている。まずひとりは俺。俺の右隣りにギル。ふっ、ギルはちょっと緊張気味かな? まぁそれも仕方ないか……。そして俺の向かい側正面に2人の男が座っている。こちらも少々緊張しているか? いやそうでもないか……。ふむ、流石だな。
俺の正面、向かって右側に座っているのが、サローン・アドバンと名乗った男だ。身長は俺よりは少し低い、179セル(cm)位か?。まぁセラワルドでは平均的な感じだな。少しくすんだ金髪にちょっと白髪が交じってる。うんうんこれはきっと若白髪だな。そんな白髪交じりの前髪が広い額にかかっている。長髪でなくザンバラな感じ。まぁあまり身だしなみには興味がないようだな。だからこの歳でひとり身なのかもな。
ほほ骨がちょい出ていて、スッとした高い鼻、そして青い瞳。少し尖った感じな顎、その顎には、頭髪より白い毛が多めに感じられる見事に整えられた逆三角形の顎髭が威厳を与えている。うん、間違いなくセラワルド人だな。肌の色は本来は白なんだろうが、長年の日焼けで結構浅黒、そう余計な物だけを削りとった荒削りな石の彫刻の様なイメージだ。切れ長で鋭い眼つきと右頬にうっすらとある親指大の傷跡が、特徴だな。年齢は40歳は超えているか? まぁその歳にしては引き締まった顔つき、そして同様に引き締まった身体付きだ。そんな第一印象を確認してからアズナルからの紹介状に目を落とす。
“サローン・アドバン、ヒト44歳、独身、元黒虎騎士団、ハソチフ。直属のキソチフの不正を騎士建白書で訴えるも、その後騎士団を退団。その後はセイリア州の州都セイトでレイジナ流の教導塾を開く、剣術はレイジナ流カイト派に学び師範を賜授、当然、内功術を使える。しかもラフチェスカハソチフ殿とも交流があったらしい。基本的な事だけは話してある、まぁ後の判断はお前に任せる。”
むむむ、かなり大雑把な紹介状だな……。まぁアズナルらしいと云えばらしいし、仕方ないよな、確かに最終判断は俺が成すべき事だからな。
「ガダスシアプ。ナイアス・ヴェルウントです。アドバン殿、アズナイル・ソルメタルからは、どのような話を聞いておりますか?」
視線を紹介状から上げ、正面のアドバンへと移す。
「ガダスシアプ。ソルメタル殿からは、それがしの仕事は、このキトアの若者に、武と文への道を示す事と聞いております。それとご子息への教育ですな」
その声は予想に反して少し高目で、優しい感じがした。さっき名乗った時は、もうちょい低い声だったが……。しかし見た目的には結構頑固親父的な感じがするな~。上手くやっていっけかな、大丈夫かな……俺……自信ねぇ~。
「武は、レイジナ流カイト派の師範ですか。得意の武具はなにになりますか?」
ここは結構重要だ。あまり特殊な武具が専門でも困るからな……。
「ご存知だと思うが、レイジナ流は、武具百般であるが、その中でもカイト派はソード系を得意とする。それがしはレイピア、ショートソードを最も得意と致す」
ふむふむ確かに腰に佩いているものは、見事な拵えのショートソードだったな。騎士ってのは、どうも馬上からの切り降ろしが好みなのか、みんなロングソードを好むものだが、ちょっと珍しいか? まぁ俺だってこのカナタだけだからな……。まっ俺の黒疾斬だってどちらかと云えばショートソードかも知れんしな。それにショートソードは全ての基本とも云うからな。よしそこは問題なしっと……。
おや? 隣のギルがチラっと俺を見てるな。大丈夫だ心配ないぞ、カナタの使い方は俺が教えてやる。ああ、当然この家伝の黒疾斬も、いずれはお前に譲るからな。うん今からその日が楽しみだ。お前がこの黒疾斬を振り上げながら、全ての敵を薙ぎ斃す姿が見えるようだな。
「わかりました。全く問題ありません。では文はなにを教えられますか?」
「エスタ語の読み書き、あと必要ならアニウラワルドのゲルビム語も少々、王国と各国の司政制度、王国の軍政、戦史、軍略ですな。それに社会常識一般、最後に正道ですな」
「軍略? どの軍略派になりますか?」
俺も軍略と云う分野には、一言家であるので、軍略と聞いて思わずつっこみを入れてしまう。
「それがしは、セキニア派軍略を学んでおります」
アドバンのその、“さも”当然と言った答え……。ですよね! ええ、王国で軍略っていえばセキニア派って事ですよね……。そしてその次が最もメジャーなヴォルグ派ですね。
「ヴェルウント殿、なにか?」
俺の表情からなにかを感じたのか、アドバンが探りを入れてきた。我がヴェルウント家ってのは王国では、ある意味ユニークなグループに属している。例えば俺の剣術は、シンゲキ流リシン派だ、シンゲキ流はちょ~マイナ~な流派で、しかもリシン派ってのはリシン爺さんの事だ……。実際王国のシンゲキ流にはリシン派しか存在してないしな。とお~~い、アニイラワルドにはリシン派以外のシンゲキ流が存在してるらしいが……。
そして俺の軍略の派閥は、当然ながらソンジ派だ。これも同じくリシン爺さんが、広めた軍略派だ。実はシンゲキ流よりは、こっちのが有名なハズなんだが、まだまだヴォルグ派やセキニア派に比べるとマイナーってことだな……。
「うむむむ。ヴェルウント……? おお、もしや貴殿の家は、賢者リシン・ヴェルウント殿の流れであるか?」
ええ、そうです、リシン爺さんの直系なんですよ……。でもリシン爺さんの名前が出るってことは歴史に詳しいと云うのは間違いないようだな。隣のギルがちょっと心配そうに、またこちらをチラチラ見ている。心配いらないぞ軍略ってのはな、いくつもの派を学んで、いいとこ取りすればいいんだ……。だが一番優れてるのは、間違いなく我がソンジ派だって事は譲れんがな……。ギルよ、それはお前だっていつか確信するハズなんだ。なんといっても我らは、ヴェルウントなんだからな。
「まぁ、それはのちのち。それで内功術の指導はできますか?」
内功術は、剣術とは教え方が全く違うので、両方を指導できる指導者はあまり多くないんだ。例えば俺は、シンゲキ流リシン派の皆伝者(なお、シンゲキ流に“師範”と云う階位はない)だから、剣術は充分に教える事はできるが、内功術を教える自信はまったくない……。
「当然な事である」
胸を張り自信満々な様子のアドバン。おお、それはいいな。それじゃ最後に最も肝心な事を確認するか。
「アドバン殿の正道の真根則とは?」
うん、ここは重要だぞ。正道にもいろいろあるからな。
「正道の根則にもいろいろあるようであるが、それがしの真根則は“諸族七民に隔たりなし”であるな」
よしっ合格! まぁ真根則とか云って、ほんとの所どうだかは、こんな1回話しただけじゃわからんけどな。そういう所はおいおいとな……。うんうん、よし、これからアドバンは、武士殿と呼ぼう! 武士か、ぴったしだな。
「わかりました。アドバン殿少々お待ちください」
俺は、そこで視線を武士殿の隣に座るナハトマ・イジュマーに移す。武士殿の腹部の高さ辺りに頭があるナハトマ・イジュマー。そうナハトマ・イジュマーは、ホピットだ。身長は80セル(cm)に足らないか。これはホピットにしても小さい方だな。5歳のギルでも身長は1メル(m)を軽く超えているが、そんなギルの3クオ位か?
ホピット特有のきつい縮れ毛、かなり多くの白髪が混じった茶色のその縮れ毛の間から伸びる少し尖った耳、顔は身体に比べると大きく、ギル位はあるな。顔付きはホピット特有の丸顔。その丸顔の中の大きな丸い目と、少し前にせり出している顎が特徴的だ。
髭はホピットだから当然ないな。肌には深い皺が多くあってかなりの年齢を感じさせる。ヒト以外の諸族は老化があまり表面化しないものだが、このホピットはまさに老人な雰囲気バッチリだ。もともと色黒なのか、日焼けした褐色の肌色がホピットにしては珍しい。ホピットってのはもっと色白なもんだ。
そして普通ホピットはもっと太り気味なもんだが、ナハトマ・イジュマーはスマートではないが、決して太ってはない。これはかなり珍しいぞ。年齢は100歳くらいか? しかしホピットは人間より長い寿命を持っていて、表面上老化が目立ちにくいから、ここまで老人ぽいならもっと上かもしれないな……。ザッとひと目見た印象を確認してからアズナルからの紹介状に目を落とす。
“ナハトマ・イジュマー、ホピット84歳、独身、元黒虎騎士団、ハソチフ。65歳の時に騎士団の教育制度に対し騎士建白書を提出した上で騎士団を自主退団。その後無縛人として王都に在住し、色々な冒険者・傭兵・護衛士クランを転々としている。リジェット魔道国の王立魔道院で魔術師と魔導師の両師位を得る。外功術の達人で、10系術のかなりを使えるらしい。噂ではラフチェスカハソチフ殿の内功術の導師らしい。基本的な事だけは話してある、まぁ後の判断はお前に任せる。”
こちらもまた大雑把な紹介状だな……。しかしまさか84歳とはな、見た目ではもっと上かと思ったな。完全に若年寄りだな。軽く100歳は超えてると思ったが、ヒトも含めてやはり外見だけでは歳はわからんもんだな。
「ガダスシアプ。ナイアス・ヴェルウントです。イジュマー殿、アズナイル・ソルメタルからは、どのような話を聞いておりますか?」
視線を紹介状から上げ、正面のイジュマーに移し、武士殿に聞いたのと同じ質問をする。
「ガダスシアプ。アドバン殿と同じじゃな。わしの仕事は、キトアの若者に、魔道と文の道を示す事と聞いておるぞ。それにお主の坊主への教育じゃな」
おおお、偉そうだな~。それって曲りなりにも雇い主になろうって相手への言葉使いじゃないぞ。こっちもなかなかな難者かぁ~。アズナルお前、もしかしてわざとか?
「リジェット国立魔導院で魔術師と魔導師の師位ですか、凄いですね。当然魔力判定もできますね?」
俺も魔術師で魔導師と云うのは初めて見る。魔術師ってのも結構珍しいが、魔導師ってのはそれ以上にまれなもんだからな。しかもホピットで魔術って云うのがこれがまた希少だ。まるで賢者のなんとか云う奴みたいだな。普通諸族で魔術と云えば、やっぱエルフだよな。
「わしは魔導師じゃぞ? 判定など当然の事じゃ」
「外功術はどの術系を使えますか?」
“10系術のかなりを使えるらしい”、かなり……、らしい……。紹介状ってのはもっと正確に書けよな、たく……。
「光、火、爆、風、雷、冷、動、の7系を発功できるぞ。ただし動系は役に立つものではないがのう」
うはっ、マジかよ。たしか普通魔術師と云われる連中ってのが発功できるのは、大抵光系術と他に2系術で、ほとんど3術使がいいトコだよな。たま~にいるのが4術使って話じゃなかったか?
魔法学校とかに居る大魔術師とか云われる連中でも5術使じゃなかったか? 7術使ってそりゃなんだよ? そこら辺に居る外功使いなんかは2術使ってのが常識なのに。それチート過ぎだろ。そもそも10系術のうち、産系術は失術なんだろう? 9系術のうちの7系術って、いったい……。あれだろ、リジェットの魔道王の資格が9系術使だっけか?
隣に座る、アドバンも思わずイジュマーの顔を驚きの表情で見直す。俺も今あんな顔してんかな……。思わず頬の辺りを撫でてちまうな……。
「わかりました。全くなんの問題ありません、では文はなにを教えられますか?」
声がひっくり返らないように、気をつけろよ俺。
「そうじゃな、エスタ語にフェルム語、アニウラワルドのゲルビム語とイラワルドのフギ語、それに古獣語の会話、読み書き。当然魔導全般、算学、錬成学、地学、王国の歴史、それに古代近代の神話・歴史、あと正道じゃな」
「算学はどれほどまででしょうか?」
あまり算学には自信がないが、確かめない訳にはいかないからな……。
「お主に判るかの? 加算、減算、乗算、除算、分数、負数、割合、項数式、因数、乗数、多元式、図形解析、確率解析、角法、指数法……」
「わかりましたっ」
延々と続く呪文を中断させる、何云ってるのか全然わからねぇ……。隣の武士殿も眉を顰めている。よかった、同じ気持ちなんだな……。
「まぁ、一般に必要な部分のみを教えるがの、本来算学はもっと普及すべき知識なんじゃがな……」
イジュマーのぶつぶつと不満気な呟きは一切無視する。うわっ、隣のギルがなんか頷いてるぞ? 意味わかるのか? そんな馬鹿な……。
「錬成学とは?」
ちょっと聞き慣れない単語だったので確認してみっか。
「ああ、今はやりの言葉じゃな。響きが気にいってのう。昔風にいうと、造金、造薬、造材とか云われておったものじゃよ」
「それが、錬成学ですか?」
造金使とか造金術とかは、知っている。もちろん造薬使とか造材使ってのも知っているが、それぞれ全然違うものじゃないのか?
「お主も学ぶ必要があるようじゃな。等しく万物は根源で繋がっておるのじゃ、金属も、生物も、土類、鉱物全てに、なんらかの関連があるんじゃ。それを多角的に究めんとするのが、錬成学じゃよ」
俺の顔つきから全く理解できていない事を察してるんだろうな。その口調は完全に学徒に対するものだよな……。そろそろこのキトアにガディミリタとして赴任して、もう6年だ。この前王都に行ったのが、2年前か? もしかして俺って世の中の進歩に追いていってないかもな……。隣の武士殿も天を見上げているのは、きっと俺と同感なんだろうな。おや? 逆に隣のギルが結構身を乗り出してるぞ? この食いつきはなんだ……。
「まぁ。それほど気落ちする事もないぞ。わしは常に最新知識を吸収しておるからな」
はぁ、逆に心配させてしまいました。これって面接だったよな……。
「はぁ……。ではイジュマー殿の正道の真根則とは?」
もういい、これで最後の質問だ……。
「わしはホピットじゃぞ? そのわしにそれを聞くか? 正しく愚問じゃな。じゃが答えよう。真根則は、“諸族七民に隔たりなし”じゃよ」
はい合格っ! もう疲れました……。
なんか、最後になってギルが食い入るように、イジュマーを見つめてるな。ああそうかホピットを見るのは始めてだからな……。ん? なんか今ニヤっとしたな? ギルはこのふたりを気にいったのか?
最後に俺は、隣で静かに畏まっているギルに声を掛ける。まぁなんといってもギルの家庭教師な訳だからな。一切意見なしってのもどうかと思うよな、やっぱし。
「ギルどうだ。なにか聞くことか、云いたいことはあるか?」
するとかなり驚いた表情を浮かべて、ギルが俺を見返す。どうだ! 俺って理解ある父親だろ?
「なんでもいいぞ」
んんん~、寛容な顔つきってのはこんな感じかな?
「は はい それではひとつだけ教えて下さい。セイドウってなんですか?」
うおっ、“正道ってなんですか”だと? ギルそれは凄い質問だぞ! さすがは、俺のギルだな。ほら見ろイジュマーと武士殿も、思わず顔を見合わせているぞ。
「う、うむ。それは難しい質問であるな」
武士殿の一言。そうだ、最も簡単な質問こそが難問なんだ。
「坊主、正道とは正しい道の事じゃよ。つまり何の為に生きるかと云うことじゃな」
イジュマーが後を続ける。うん、確かにそれが正道の一般的な答えだよな。多分俺でも、そう答えるけど、それって割りと判りにくいんだよな……。
「よいか。ありとあらゆる生き物にとっては、生きる事こそが最重要問題なんじゃ。自らが生きて子孫を残す、つまり種として生き残る事が目的なんじゃよ。その為に働き、喰らい、休み、育む訳じゃ。全ては生きて子孫を残す為じゃ。じゃが我ら“知を知る諸族”だけは、その最重要な生きる事に意味を求めたのじゃ。確かに生きることは重要じゃ、だが我らは、我らの存在とは、ただ生きる為だけではなく、この存在はなんらかの目的の為に生きているんじゃと考えた訳じゃよ。そしてその目的を考え、実践し、究めんとする事が正道じゃな」
むむむむ、さすがはご老人! 分かりやすっ。やっぱ年の功なのか、これからはイジュマー殿あらためご老人と呼ぼう! ピッタシだ!
「イジュマー殿いかにもである。それがしもその教えに賛成である。一言付け加えるならば、自己の信じるべき事の基準とでも言うべきか、物事を決断する場合の判断基準であるな。その基準を整理し明示し究める事が正道である」
おお、こちらは実践的な言い方だな。どっちも俺には云えない話だな~。ご老人の云い方に対して、具体的な説明か、う~んさすが武士殿だな~。
「……つまり、なぜ僕は存在するか? ですか?」
うがっ! ギ ギル……なんかお前が一番凄いぞ……。
「……じゃな」
「……である」
「ギ、ギル……」
ご老人も、武士殿も一言もないぞ。勿論俺もだが……。
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