1.Real World
始めてのファンタジー小説です。しかもお決まりの転生物です。でも当初考えていた、お気軽冒険物語のはずが、なぜかどんどん違う方向へ進んでいってます。
なんと全編に渡るテーマがあって、それは「進化」なんです。でも作品的には全然重くはないです。上手く物語っていけるかのか? それが少し心配です。
ファンタジーなのに残念ながら戦いとか、魔法とかほとんど無いです。胎動編では、「Another World」の世界観と主人公の生い立ちを語っています。
気が付いたらかなり毛色の違うファンタジー物になっています。読んで貰って、もしも興味持って頂けたら、応援してくださいね。
それでは「Another World(もうひとつの世界)」をお楽しみください。
あと胎動編のくせに、異常に長いです。あきずにお付き合い下さい。
「どうだい。なにか欲しいものないかい?」
いつもの少し寂しげな表情を浮かべる母さん。そしてその言葉も何度何度も聞いた台詞だね。ああ、欲しいものはいっぱいあるさ。友達に会いたい、学校に行きたい。外で遊びたい。海に行きたい。スキーだってしてみたい……。だけど自分が云う台詞も何時もと同じで決まっている。
「大丈夫だよ。母さん」
完全気密室の白い壁の病室、外部との直接的接触を完全に遮断した設計だ。たぶんこのまま宇宙空間に持っていっても、なんとかなるんじゃないか? いつもの母親との、この会話だって壁に据え付けられた120インチの液晶パネルを通じての会話なんだ。
「また。くるね」
寂しげな笑みを浮かべ、小さく手を振りながら去って行く母さんの背中を見つめながら、いつもながらなんとも云えない思いが胸を突いて来る。ごめんよ母さん……。
~牢獄~
自分がこんな牢獄に入ったのは、今から11年前の事だ。それから数年毎に新しい牢獄に引っ越ししているが、その度に気密性が上がっているみたいだ。
正直なんで自分が、この牢獄暮らしをしないと行けないのか? 当事者たる自分には、最初良く理解できてなかった。まぁその理由は、その後で何度も、何度も、何度も、聞かされたが、まぁ正直今だって納得できてるもんじゃないけどね。
そもそもの切欠は、中国の内陸部、青海省の奥地にある貧しい農村で発生した“7日咳”だったらしい。この“7日咳”って云うのは、咳をし出したら7日であっさり死ぬという、すっげぇやばい病気で、この地域独特の風土病のひとつだったみたいだ。でもね“7日咳”ってのは感染率は凄く低くて、発症者数も年に数人、老人か幼児が死ぬって程度のものだったらしい。確かに恐ろしけど、まぁ危険度はとても低い病気と云う奴だ。それよりは、交通事故の方がよっぽど危険度は高いって感じだね。
でも11年前に発生した“7日咳”は、今までとは様子が違っていたんだ。例年になく寒気と乾燥が厳しかったその冬に、村人の老若男女が次々と“7日咳”で倒れていったらしい。しかも時期が最悪で、村人達が倒れ出したのが、2月の春節が終わって2週間程の時期だったんだよね。つまり村に帰省していた村人達が、村から帰った都市部で、“7日咳”を撒き散らしていった訳だ。
まったく当然なんだけどさ、2月の下旬に突如北京・上海・西安・成都・広州・香港等の大都市で同時多発的に発症した、この“7日咳”に対し、中国の衛生当局は、全くの無力だったね。その上、なんでも2013年のH7N9鳥インフルエンザの教訓を踏まえて、当局はこの“7日咳”情報の公表を極めて限定したんだね。だから全世界がこの“7日咳”の危険を検知した時には、既に全世界の大都市で“7日咳”が発症していて、全ては手遅れだったって事みたいだよ。そうそう一説によると、中国の衛生当局は“7日咳”感染者は所かまわず埋めまくったらしいよ。いや、人事じゃないんだけどさ、笑っちゃうよね。
それで中国で発生したこの“7日咳”ですけど、原因はH8N4という突然変異型のインフルエンザだったらしいです。このH8N4インフルエンザが世界を席巻したのが11年前。結局ですねH8N4インフルエンザの致死率は公式には71.84%だったらしいです。それだってもの凄い致死率だけど、それにしても7割だよね。3割が助かるってことだよね。でもね問題は残りの28.16%が助かったのか? と云うと、そうではなくて生死安否不明と云う事実だったんだよ。つまり実質の致死率は100%? と云う事だったんだ。
それってちょ~おっかない事実だよね。当然だけど完全に世界中がパニックに襲われたんだ。人類滅亡? 世界の終末? うん、絶対そんな感じだね。
でもそんな時にアメリカ、ユーロ、ロシア、中国、そして日本で感染後に回復・完治した人間が居る事が確認されたんだってさ、そうそう、そうです、自分もその1人ですよ。そしてその回復した自分達の血液から製造された血清で、4億人以上の人間が助かったらしいよ。この血清で助かった研究者達によって、その後になんとかワクチンが完成してなんとか人類は、このウィルスとの戦いに勝利したんだ。うんうん、ほんとよかったよね。
でもね結局このウィルスに感染して全世界30億人以上の人が死んだらしいよ。その後このH8N4ウィルスは、毒性が弱まって無害なインフルエンザウィルスに変異したんで、今世界は再び安全な世界となっているんだ。でもね、実は完治した自分達の体内には危険な形でH8N4ウィルスが残存しているらしい。それにいつまたH8N4が変異して再び人類に襲い掛かるかわからない。
まぁ幸い自分達の血清は、ウィルスが再び変異してもH8N4系統のウイルスならば効果はありそうなので、緊急時の血清製造の血液提供源として、自分達は国家によって完全隔離管理されてるんだ。そんな自分達の事を、世界の人々はTheLastHopeSevenと呼んでいるらしいよ。
そんな訳で今年20歳の自分は、9歳の時からこの牢獄で暮らしています。自分のRealWorldはこの白い小さな、完全気密された10畳程の牢獄だけって事だ。
1日1回行われる各種検査、血液採取なんかが、今の自分の仕事だ。あとは完全に自由……。ただし籠の鳥だから当然外出なんかできる筈もなく、できる事と云えばこの籠(病室)の中からネットで外の世界とコミニケーションを取る位だ。9歳からの小学校教育、そして今も受けている大学教育までの全教育は、ネットによるリモート授業だったしね。
それにどうも世間様では、自分達生き残りTheLastHopeSevenについて、興味津々らしい。まぁそりゃ最後の希望なんだからな。仕方ないか。またいつN8A4ウィルスが猛毒性を獲得するかわかんないからね。そんな訳で外の世界では、そこそこ有名な自分は、ネットでの話し相手には全く困らないんだよね。ありとあらゆる人達とありとあらゆる話題で盛り上がっています。ただし残念ながらオフ会には参加できないけどね……。
でもね。なぜだかTheLastHopeSeven同士の会話は禁止されているんだよね。できれば同類相見えたいと思ったんだけどね~。それに、他のTheLastHopeSevenの事は殆ど教えてくれません。どうしてだろうか? そうそうTheLastHopeSevenと云えば、ネット上でよく話題となるのが、インドだかアフリカだかアマゾンの奥地だかに、俺達TheLastHopeSeven以外の治癒者がいるって話ね……。まぁ正直ちょっと眉唾なんだけどね。
さてさて今日も牢獄に備え付けられた機器と備品を使って、検尿だ、CTスキャンだ、脳波検査だ、う~~んなんで脳波検査が必要かはずっと疑問なんだけど……、と云ういつものお決まりな検査スケジュールを消化して、最後に全然痛くない極微細の針を自分で右腕に刺して、採血を終える。ええ、この検査は全部自分自身で、全部やるんだよ。綺麗な看護師さんも自分の病室には入れないからね……。そしてこの後は自由時間となります。さぁ今日もいつものボイスチャットで誰かと話そう、なんかおもろい話が聞けるといいなぁ。そんでボイスチャットのサイトのメニューを開くといつも通り、ズラ~ッと会話申し込みのメッセージが並んでいました。
「わかったかな? つまり進化のベクトルには大きな2つの方向があるって事が」
真っ白な顎髭が印象的な、自称分子生物学の先生と云う人が念を押してくる。
「えっと、つまりですねひとつは複雑化で、もうひとつは単純化ですね?」
「そうだよ。様々な環境に対応できる能力を確保しようと複雑化を進めて行く者。一方様々な環境から影響を受けない様に、逆にどんどん能力を排除し単純化を突き進む者だな」
「ええ、そこまではなんとなく解ります……」
「様々な環境に対応できる能力、例えば高い運動能力、恒温性、雑食性、胎生、そして行き着いたのが環境を改変できる能力、つまり知性を持った存在だね。一方単純化とはなんだろう? そう生物の基本である細胞構造すら排除し、自らの生命維持に必要なエネルギーの産生機能すら捨て去り、なんと増殖能力も持たない。あるのは核酸の複製だけと云う存在」
「つまり人間とウィルスですか?」
「そうだ。どちらも生物の究極目的である、自らの遺伝情報をとぎれなく後代に繋げる事に成功しつつある存在だよ」
ニヤリと120インチの液晶画面に映る顔が笑う。先生なんか、正直ちょっとぶっ飛んではいませんか?
「人間とウィルスを同じレベルで論じるのはちょっとどうかと……、それにウィルスってのは宿主が死ぬと結局死滅するから、それって自滅の道ですよね?」
「個として見るとそうだが、種として見ればウイルスは自滅はしてないね。それに知っているかな? 自殺する生物は人間のみだよ? それと大規模に同族を殺すのも人間だけだね。人間だって個として見るなら自滅の道を進んでいると云う人は、多いだろうね。分子生物学的に見るなら人間とウィルスは、そんなに大きく違わない気もするけどね」
云ってる事ひとつひとつは正しくも感じるんだけど、全体としてはなんか怪しいんだよなぁ~。
「0と∞(無限)は判るね?」
「ええ」
あら、また話が飛んだね。
「0に何を掛けても0だね?」
「はい」
当たり前じゃん。
「∞(無限)に何を掛けても∞(無限)だろ?」
「ええ……」
ん? なんの話だ?
「じゃぁ、0と∞(無限)を掛けるとどうなるんだろうね?」
「…………」
おいっ、一体なんの禅問答だよ?
「H8N4ウィルスは、生物学的に見て非常に優秀なウィルスだよ。私には11年前の7日咳の悲劇は、H8N4ウィルスと約30億の人間と云う検体を使って行われた、壮大な実験の様な気がするんだ」
「実験って? 目的はなんですか?」
「0と∞(無限)の融合かな?」
お~~い、先生なんか遠い目をしてるぞ?
「融合って?」
「違うな。峻別だな?」
「峻別??」
駄目だ全く理解の範疇外だ……。
「つまりH8N4ウィルスと共存できるヒトDNAの……」
“ポチ”通話切断……。あうう、もう駄目だ着いていけない。
~病室の隣に設置された検体観察・分析室~
「検体No6♂の体内のH8N4ウィルスの活性状態に変化なし、抗体の減少率にも変化なし。体内の蛋白質の変異も依然進行中」
検体No6♂の検査数値を意訳して報告する白衣の男。
「やはり限界は近いのか?」
「どう考えてもあと2カ月持てばいい所ですね」
もう1人の白衣の男が呟くように尋ねる。すると最初に検査数値を意訳した白衣の男が更に冷静な報告を続ける。
「3年前のロシアの検体No2♀、2年前のユーロの検体No5♂、そして去年のアメリカの検体No4♂も全く同様な症状で死亡に至りました。ここまでの検体No6♂のデータと各国から提供されたデータでは症状・状況共に全く同じです。我が国の検体No6♂が同じ道を進む事は不可避と思われます」
検査数値を意訳した男が、淡々と全く表情を変化する事なく結論を述べる。
「それでは仕方ない。各国と同様に最大限、血清源材料の確保を優先しろ。それと、SI(Stand-in:替え玉)の準備を進めろ」
その報告を聞いたその部屋の主たる黒い背広の男が、事も無げに静かに指示をだした。
~牢獄~
昨日から食事の内容と薬の種類と量がなんか変わった。そして毎日多量の血液を抜かれだした。まぁ自分自身で抜いてるんだけどね……。えっと、なんでもですね新しい治療法が開発されたって事らしいですよ。なんでも骨髄にある造血する細胞を、遺伝子レベルで変化させて、血液中の抗体を強化して体内に居るH8N4ウィルスを完全に根絶するらしいんだ。その為に身体中の血液を全交換する勢いで抜いて、新しい血液を造血させるらしい。う~ん、なんか結構乱暴な気もするんだが……。でも治療の効果が現われれば、H8N4ウィルスを根絶できるらしい。つまりこの牢獄から解放されるって訳だね
でもこの新しい治療が始まって2つの変化が感じられるんだ。まずはやっぱ血液不足なのか常にフラフラする事、もう一つは、そんな状態にも関わらず、なんか記憶がやけに鮮明で、すっげぇ細かいことも簡単に思い出せる様になったことだ。
なんだか気になったんで記憶についていろいろ調べてみたんだ。なんでも記憶ってのは、脳内の蛋白質で蓄積されてるしいね。なるほどそっか俺の脳内蛋白質は強化されたんかな? まぁそんな馬鹿な事ないか、きっと薬の副作用って奴だよね……。
そうそう先日の自称分子生物学者先生の云った事がちょっと気になったので、アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が公表しているH8N4ウィルスについての論文を読んでみたんだけど、あまりよく判らなかった。ただその他、いろいろネットを見ていたら、ちょっと気になる情報が転がっていました。
それによると、普通ウィルスってのは、基本宿主細胞からエネルギーを奪って自分のDNAを大量複製する。そして最後には宿主細胞を破壊して、そこから大量の複製されたウイルスを飛び散らして、次々と他の細胞へと感染して行くんだけど、あるウィルスでは、ほんの一部ながら、宿主細胞との親和性・共生活動が見られると云うのだ。この説によると、あるウィルスは、自分のDNAを宿主細胞のDNA分裂時に、紛れ込ませる事でDNAの生き残りを図るっていうんだ。この説を発表した人は、元々はCDCの研究者で、ウィルス研究の第一人者だったらしい。でも他の研究者が行った追証明での立証が確認出来なかったので、結局その説は認められなかったらしいね。
で、結局その人はCDCを追われたらしい。それでもその後も、いろいろと研究を進めて、いろいろな説を発表したんだけど、それも元々の説が認められていないんで、世間的には完全無視状態だったらしいね。いわゆるトンデモ理論って奴だね。ただ結構おもろかったので、ちょろちょろっと読んでみました。
確かに正直とんでも理論だったよ。うん、まぁ最終的にはウィルス進化論に行き着いてましたね。しかもある“種”のDNAがウィルスを通じて、他の“種”に伝播するとか、所謂ウィルスキメラ説とかね。当然立証できるモデルもデータもないんだよ。でも不思議になんか気になる説なんだよね。
ええ、このトンデモ理論を突き進んで居た人の名前は、ウィルラッド・R・ファウストマンって云います。なんでもそんなトンデモ論文を書く一方で、世界各国の奇病・地域病のフィールドワークをしていて、結局30年前に中国の奥地で亡くなったらしい。その時、最後に研究していた論文のテーマが“生命の目的”だったらしいね。生命の目的? 目的って……。それって哲学か? まぁちょっと読んでみたいけど、どうもこの論文、表題と最初の一行しか残っていないらしい。その一行ってのが、“GuidancefromSeniorPresence”なんだってさ……。
~病室の隣に設置された検体観察・分析室~
「検体No6♂は昨夜から昏睡状態に陥りました。バイタル低下、酸素飽和度低下中。限界に近いです」
薄暗い部屋の中に、所狭しと並んでいる幾つもの小さなモニター画面に表示されるグラフやら数字やらを見ながら、白衣の男がいつもの冷たい声で報告する。
「呼吸器の酸素濃度を上げろ、それとスペリカンを常駐させろ」
その報告を聞き、別の白衣の男が、慌てる様に次々と指令を出す。
「血を抜け。それに造血剤を常駐させろ。一滴でも多くの血液を確保するんだ」
だが黒い背広の男から、全く方針の違う重い指令があっさりと出される。その声に一瞬室内が沈黙に包まれる。
「ん? どうした? やれ」
その黒い背広の男の声に促され白衣のオペレータが、いろいろなスイッチやらダイヤルやらを手早く操作する。昨夜検体No6♂が昏睡状態に落ちいった時に、厳重な気密服を纏った3人の看護師により検体の身体には、幾く本もの針や電極が付けられ、チューブやらコードやらが、検体No6からニュキニョキと生えている状態だった。その中でも一際太い透明チューブの中を検体No6♂の赤い血液が流れ出して来る。指令通りに検体No6♂の血液がどんどん抜かれていく。検体No6♂の脳波計クラフは、典型的なノンレム睡眠の状態を示している。その脳波計グラフにちょっと目を遣る黒背広。
「申し訳ないが、この一滴で何百人の命が救えるかもしれんのだ、悪く思わないで欲しい。せめていい夢でも見ていてくれ」
最後の指令を下した黒背広の男が、大きなモニターに写る検体No6♂の姿に向かい、
誰にも聞こえない、そう呟きですらない様な心の声で贖罪を漏らすと、僅かに目礼する。だがそんな自分の心情の一片をも感じさせない冷たい声で命令を続ける。
「それと検体No6♂のSI(Stand-in:替え玉)-SIXを今日から働かせろ」
~牢獄~
なんかずっと夢を見ている。それもかなり鮮明な夢だ。この牢獄に閉じ込められる前の楽しい記憶。小学校でのちょっとムズかった授業、ドキドキした運動会、楽しかった遠足、新しいランドセルの匂いが嬉しかった入学式、保育園の卒園式、優しくてとっても綺麗だった保育園のお姉さん先生、そして保育園で出来た初めての友達……。なんだ? これじゃまるで走馬灯じゃん? ああ 夢の中だけどすげぇ眠くなってきたな……。
~病室の隣に設置された検体観察・分析室~
検体No6♂が昏睡状態に落ちいってから3日目。ついにその時は訪れた。
「心停止です」
心拍計のグラフが完全にフラットとなり、いつにも増して静かな室内に“ピィィーッ”という鋭い警告音が響き渡った。
「検体No6♂の全状況の記録内容を最高機密として保全。検体No6♂は全ての血液を回収後直ちに、冷凍保存しろ。今後は正式にSI(Stand-in:替え玉)-SIXを検体No6♂と呼称する」
黒背広の男は、静謐な室内でただひとり次々と指示を出す。そしてその視線を正面の大きなモニターに向け、改めて静かに合掌すると、初めて感情の篭った声で、呟くような声を出した。
「母親には、私から事情を説明する」
~黒背広の男からの視線~
この時点でTheLastHopeSevenは、検体No6♂以外、あとたった3人しか生き残っていない。だがその事実は、世界へ混乱を巻き起こす可能性がある事実だ。だからこそ過去に死去した検体には、検体No6♂と同様に全てSI(Stand-in:替え玉)が立てられているのだ。検体の生存確認はネット上でしかできないのだから、このSI(Stand-in:替え玉)によって世界の人々はTheLastHopeSevenの生存を盲信し、安寧を得ている。この事実はTheLastHopeSevenを抱えた各国政府で取り決められた国家最高機密事項だ。今この部屋にいる全員には、これからの一生24時間の監視が付けられるのだ。当然俺にもだ……。
更に別の極秘情報によると、残る3名の検体、中国のNo1♂、No3♀、ユーロのNo7♂の容態も検体No6♂とほぼ同じらしい。もしかすると既に死亡しているかもしれない。つまり今ネット上に存在するTheLastHopeSevenは、その全てがSI(Stand-in:替え玉)なのだ! ネット上にのみ存在する幻の存在に安寧を求める人類。この夢幻の様な安寧はいつまで保たれるのか? だがこの人類共通の夢を覚ます事無く、現実と為す事こそが俺の仕事なんだ。たぶん俺に安寧な眠りが訪れることは死ぬまでないだろう……。だからこそ検体No6♂よ、俺の代わりに安らかに眠ってくれ。どうか安らかに。
小説家になろう 勝手にランキングに登録してみました~。
応援のつもりで、カチッとクリックしてみてね~。
感想・誤字指摘・要望・意見・応援は随時受け付け中です。