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人殺しシリーズ

少女は狂気片手に愛情を歌う

作者: 赤柴紫織子

何が狂っていなくて何が狂っているのか。


その問いすら狂っていないのか怪しい。

『ねぇ、京香』

 幻影の中であなたは笑う。

『なぁに、明日香』

 幻影の中でわたしは笑う。


 わたし達に名前をつけたのは一体誰だったのだろう。


 ひとつ分かることは、あの母親おんなではないということ。

 母親は双子の姉妹にキョウカとアスカなんて洒落た名前をつけられるほど頭が良くないのだから。

 もしかしたら、わたしと明日香に遺伝子を与えた男だろうか。

 祖父や祖母でもないだろう。

 そもそも生きているのか死んでいるかも不明だ。

 いわゆる駆け落ちなのだから連絡すら取っていないと思う。


 ――まあ。

 今となっては色々遅すぎた。


 わたしは死んだ。


 両親――便宜上両親と呼ぼう――も死んだ。


 わたしはとある頭のおかしい集団によって。

 両親は明日香の手によって。

 明日香。

 血の繋がった姉妹。

 わたしの、大事な、大事な片割れ。


 あの子にあれだけの行動力があるとは思わなかった。

 さすが、わたしの明日香だ。

 いつだってわたしの期待を良い意味で裏切ってくれる。


 だけどもう、わたしは明日香のそばにいないし声もかけられない。

 彼女はひとりぼっちになってしまった。


『ずっといっしょだよ、明日香』

『ずっといっしょだよ、京香』

 そう約束したのに。

 ごめんね、明日香。

 いっしょに生きられないならいっしょに死ねば良かったわね。


 ライトの代わりに蛍光灯を、

 歓声の代わりに怒号と悲鳴を、

 化粧の代わりに血と涙を塗りたくり、

 ただ一人、誰もいない舞台で無様に踊り続ける。


 いいよ、明日香。 観客がいないならわたしが観客となるから。

 そしてアンコールを出してあげるよ。


 他のキャストは?

 分かんない、どこに行っちゃったんだろうね。

 桃花も藍川くんもとうの昔に降りたよね。


 あなた以外何にもいらないの。

 あなた以外視界に入らないの。


 さあ、踊ってみせて。

 片手にナイフを、もう片方には何を掴めるのかしら?

 希望?

 それとも絶望?

 未来?

 それとも過去?

 明日はあなたに微笑んでくれるかしら。


 わたし達をとりまくものは狂気よ。

 飲み込まれないでね。

 溺れて沈まないでね。

 目をそらしちゃ駄目、しっかりと見て。

 そうしないと、あなたから生まれたそれはいつかあなたを食い潰すわ。

 もしかしたら下手な凶器なんかよりやっかいかもね。


 ああ、じゃあ今のわたしは狂気の塊なのかな。

 それでもいい。

 あなたが舞台から降りるまで、静かに見ているから。


 ……ううん。


 音楽が無ければ踊りづらいかもね。


 じゃあ、観客から格上げさせてもらうよ。

 あなたには聞こえないだろうけど精一杯に声を張り上げるから。



 ――さぁ、狂気片手に歌いましょうか?



 愛してるわ、明日香。


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