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第七話  状況整理と対策会議

「流石に男連れ込んでる、は酷いと思います」


 ソラの部屋に入って、ラゼットは開口一番そう言った。

 不名誉極まりないソラの発言でガイストの魔手から逃れたとはいえ、やはり納得はいかない。

 ソラは書斎から持ち出した聖書の類を適当にめくっている。


「大体、さっきの振る舞いは何ですか? まるっきり聞き分けのない子供じゃないですか」

「仕方がないだろう。演技した方が効率が良さそうだったんだから」


 普段から館にいる者は既にソラの年不相応な振る舞いにも慣れてしまっているが、外部の人間は違う。

 ソラが素で接したなら混乱を招くだけだろう。本来の彼に子供らしさなど欠片もないのだから。

 ラゼットは唇を尖らせつつも、威風堂々と椅子の上であぐらをかくソラの姿に納得せざるを得ない。


「それにしても、村の位置がバレたか。……どうも胡散臭いな」

「むしろ、一年も隠し通せたことに驚くべきだと思います。獣人のサニアが追跡を警戒してはいても確実ではありませんから」


 難しい顔をしたソラにラゼットが意見を述べる。それでもソラの顔色は晴れなかった。


「ラゼットの言う通り、もっと早く位置を特定されている可能性の方が高い。だから気になるんだ。何故オガライト生産工場が出来た今になって発見されたのか」


 難しい顔で天井を仰いだソラは嫌な想像を吐き出した。


「有り体に言えば“内通者”がいるんじゃないかと思うのさ」


 教会に情報を流している存在がいるならオガライトの安定生産が可能になるまで待っていたと考えれば納得ができる。

 同時にソラが指示している村が見つかった際の連絡方法や逃走経路も把握されていたなら──


「打つ手がありませんね……。」


 ラゼットが呟きを落とす。

 何よりも連絡方法の要がラゼットであり、教会はそれを防ぐ手だてを講じていた。状況証拠だけが積み上がる。


「でも、見捨てたりしませんよね」


 ラゼットが問えば、ソラは頷きを返す。


「当たり前だ。人材は掛け替えのない財産だからな。この際、オガライトの販売利権は手放してでも子供達の安全を確保する」


 オガライトの生産方法を知る子供達は教会がオガライトを販売する上で邪魔になる。

 クラインセルト領内では領主により専売が認められているが、他領では違うからだ。唯一オガライトを入荷できるから結果的に専売になるだけで、商売敵が現れる可能性はある。

 子供達が他領の商会に製法を教えれば教会の専売体制が崩れてしまうだろう。

 教会にとっては子供達を確保するのに越したことはない。

 子供達に危険が及ぶのは避けたいソラだが、連絡手段がないために今は無事を祈るしかない。

 やれるのは逃げてきた子供達をどうやって保護するかを考え、準備する事だ。


「確か、領主軍に襲われた時の避難場所は街外れの猟師小屋だったな」

「はい。去年、オガライトを備蓄した小屋でもあるので子供達も覚えているはずです」


 ソラが確認するとラゼットが付け加えた。

 内通者がいた場合は教会にも知られている事になる。

 連絡が取れない以上は避難場所の変更は行えない。

 従って、避難場所から上手く領主館に連れてくる必要が生まれる。


「領主館に連れて来ても領主様が教会へ引き渡すのでは?」


 ラゼットの質問にソラは三本の指を立てて見せた。


「村に連れ戻すことはあっても引き渡しはしない。その理由は三つ。一つは教会が製法を知るのをクラインセルト家が嫌う事」


 クラインセルト家が生産し価格を設定、教会が買い上げて市場へ流す。それが教会と領主の協力関係だ。

 教会が製法を知れば領主の提示した価格に難癖を付けて自力生産も可能だろう。クラインセルト家との関係が悪化するのは避けられないが……。

 逆を言えば、教会はクラインセルト家を敵に回すつもりが無いという事だ。その気があれば村や首謀者と勘違いしているラゼットに対して個別に交渉したに違いない。


「もう一つは子供達が俺の遊び相手であること」


 領主はソラの機嫌を損ねるのを避ける。

 ただし、子供達は元浮浪児でありソラの遊び相手としては不適格と判断される可能性もある。サニアなど貴族には好かれない獣人なので尚更だ。

 ソラはそれを踏まえて、いざという時に領主の前にぶら下げる利益を考えてある。


「最後の一つ、村人は領主の財産だからだ」


 村の管理を任せて欲しいと申し出たガイストを領主は一喝して黙らせている。

 がめつい領主がタダで村人を渡すはずがない。


「これらの理由から考えて、教会へ引き渡すとは思えない。引き渡すとしても交渉期間があるだろう。つまり、教会が子供達を諦めるか見逃さざるを得ない理由を作ればいい」

「理屈は分かりました。それで、その理由はどうでっちあげるんですか?」


 ラゼットが身を乗り出そうとするのを押し止め、ソラは頬を掻く。

 実はまだそこまで考えてはいなかった。方向性は決めてあっても具体的な手だてが思い浮かばない。

 何か発想の手がかりにはならないかと先程から教会関連の書物を読みあさっている。

 前回は魔法についての記述だけを探していた為に読み飛ばした部分が多かったのだ。

 この世界の教義も神話も殆ど初めて接する。

 ──こうして見ると地球との差異が大きいな。

 ソラの前世の記憶にある宗教といえば、博愛や礼節が大本にある理念だった。他者との衝突を避け助け合おうという呼びかけが宗教の大ざっぱな教義である。

 この世界で教会が説くのは魔法使いに改変された世界を元に戻すというもの。神話の世界を実現する事が基本理念であり、それに反する魔法使いを批判している。


「魔法使い、か……。」

「魔法使いがどうしたんですか?」


 ソラの呟きを拾ってラゼットが首を傾げる。


「ラゼットは魔法を使えないか?」

「使えるはずがありませんよ。そういうソラ様はどうなんですか?」

「使えないな」


 使いたいな、と心の中で続ける。ソラはちらりと玩具の山へ視線をやった。

 研究はしたが、魔法書がないと修得は無理だと分かっている。


「ソラ様ならパパッと使いそうですけどね」

「一回俺に対する認識を改めた方が良いぞ。それはそれとして、ラゼットが魔法を使えないなら問題はないな」


 何を思いついたのかソラは腕を組んでそう言った。


「俺達の中に魔法使いがいたら、ガイストって奴はどうするだろうな?」

「捕らえるか、殺すかだと思いますよ。ソラ様は伯爵家の跡継ぎですから、領主様次第でしょうね」


 ラゼットは考え考え口にする。

 領主と教会の力関係が分からないラゼットなりの予想だが、実に的を射ている。


「でも、魔法使いなんていませんよ。何を企んでるんですか?」


 ソラは書物を片付ける手を取め、窓の先の教会へ視線を移した。


「敵の打ちたいところに打てってな」


 街から村までは子供の足で通常三、四日かかる。領主軍は馬で行くだろう事を考えれば、逃げ延びた子供達が到着するのは今から六日後と見るのが妥当だろう。


「時間がないな。ラゼット、酒瓶を用意しろ」


 子供達の無事を祈りつつ準備するしかないのなら、万全に整えるのが義務だろう。そう考えながら、ソラは教会の金飾りを睨みつけた。


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