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詰みかけ転生領主の改革(旧:詰みかけ転生領主の奮闘記)  作者: 氷純
教会編 第一章 二歳児と宝くじ騒動
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閑話 ゆきやこんこ

本筋には関係ないです。

たまには遊ばせないとね。


お気に入り登録6000を超えました。

「例の用意はしてあるんだろうな?」


 真白の雪がちらつく冬の庭に幼い声が落ちる。

 雪化粧を施された庭につけられた小さな足跡を辿れば、そこに声の主であるソラがいた。

 隣には側付きのラゼットが傘を差している。


「もちろん、話は通してあります。本人の知らない所で」


 ラゼットが企みを秘めた笑みを浮かべる。


「お前もワルだなぁ」

「いえいえ、それほどでも」


 発端はオガライト制作前のある約束だ。


「ついに獣耳をこの手で、いや、尻尾もだ。尻尾も触るぞ!」


 両拳を雪降る空に突き上げ、ソラは宣言する。

 獣人サニアの耳と尻尾を触る、ささやかな夢にして今や第一目標となったソラの願いは今日、成就する予定だ。

 いつもはラゼットが未然に防ぐのだが、約束してあるので彼女は今回ソラの妨害をしない。

 サニア以外の子供達にはラゼットが話を通してある。


「外堀は埋めた。後は本丸を残すのみ……。」


 見る者によってはいやらしいと感じる表情でソラは呟いた。

 雪ウサギを作って暇を潰していると、子供達が姿を現した。


「キターー!」


 一人歓声を上げるソラ。踊りださんばかりの狂ったステップで子供達へと駆けていき、スッ転んだ。

 ズザリともグサリともつかない痛々しい音に子供が思わず目をつむった。


「……。」


 沈黙が場を支配する。

 積もった雪がクッションになるとしても、連日の寒さで地面は固く厚く凍っている。


「……めっちゃ痛い」


 鼻を押さえたソラが涙声を出すのも当然だった。

 ラゼットが駆け寄って怪我がないのを確認する。

 所在なげな子供達の中からシャリナがサニアの手を引いて進み出た。


「ソラ様、大丈夫?」

獣耳キミのためなら」


 言われたサニアがビクリと肩を跳ねさせた。

 幽鬼のようにふらりと立ち上がったソラをサニアは怯えた目で見る。


「そうだ、獣耳、尻尾、それを触るために我慢を重ねたんだ。転んだくらいでへこたれるものか。って訳で触らせてくれ」

「嫌だ」


 伸ばされたソラの手からサニアは素早く飛び退いた。

 ソラが硬直する。

 彼は心の底から不思議そうな顔をしてラゼットを振り返った。


「なぁ、ラゼット。話が違わないか?」

「邪魔はしてませんよ」


 飄々と言ってのけたラゼットに訴えても無駄だと判断したソラはシャリナ達を見る。


「なぁ、話が──」

「邪魔はしないよ」


 言葉を遮って突き返された傍観者の台詞にソラは泣きそうな顔をする。

 サニアはジリジリと後退りながら距離を取る。


「全力で逃げるから、諦めて」


 サニアはソラに向けて説得する。

 サニアは五歳、対するソラは二歳だ。

 無様を晒さないように普段から歩く訓練を自らに課しているソラでも走れば先ほどと同じく盛大に転ぶ。

 更に、サニアは獣人だ。身体能力は飛び抜けている。

 つまり、本気で追い駆けっこをすれば、ソラに勝ち目はない。


「サニア……。」

「諦めて」


 俯いたソラから視線を逸らしつつもサニアは言いつのる。


「諦める……と思うのか? この俺が!」


 雪雲に隠れた太陽の代わりさえ務まりそうな爛々とした瞳でソラはサニアを射抜く。


「今回は耳だけで満足しようと思っていたが、止めだ、止め! 逃げるのならば是非もない。捕まえる途中で尻尾をモフモフしても事故だよな、不可抗力だよな」


 言い訳にも聞こえる独り言を垂れ流し、ソラは足元の雪を掴む。

 サニアは怪訝に思いながらも逃げる体勢に入る。

 しかし、ソラは丸めた雪玉を持つ手を振り被った。


「ラゼット、風呂の用意をしろ」


 ニヤニヤと笑いながら、背後のラゼットに声をかける。


「一緒に入ってもらうぞ、サニア!」


 ソラは雪玉をサニアに投げつける。

 幼児の特権、混浴を狙ったソラの第一球。放物線を描き直撃するかに見えたそれをサニアは肩を引いてかわす。


「まだまだッ!」


 ソラは次々と雪玉を投げつける。ただの直球ばかりではなく、空から落ちる時間差雪玉、空中分解して襲いかかる散弾雪玉、木の下に追い詰め枝を刺激する樹下爆撃雪玉などなど、効果的に使用される特殊玉の数々。


「よくもまぁ、思いつくな」

「投げるのは下手なのに追い詰めるのは上手いよね」


 呆れ顔の子供達を後目にソラはサニアへ雪玉を当てていく。


「おい、その布を貸せ!」


 ソラは男の子が頭に被っている布を指差した。


「良いけど、何に使うの?」

「スリングを作るんだよ」


 スリングとは振り回して遠心力を上乗せし物を飛ばす原始的な投石器の一種である。

 ソラの本気が伺えた。


「サニア、これで止めだ。奥義、雪華流星群ッ!」

「なんか仰々しい名前が出た!?」


 子供達が口を揃えた突っ込みも何のその、ソラが投げ飛ばした雪玉は放射状に散らばり絨毯爆撃の様相を呈する。サニアは為す術もなかった。


「ずぶ濡れだな」


 不適な笑みで雪玉を転がすソラ。

 対面ではサニアが肩で息をしている。

 雪が積もって動きにくいのも不利に働き、サニアの体力は尽きかけていた。

 これが単純な雪合戦なら避けつつ攻撃ができるサニアの圧勝だっただろう。

 しかし今回、ソラはいくら濡れようと気にしない。むしろ、風呂に入る大義名分を得るので喜ぶ始末だ。

 そもそもが勝負ですらない。ただ一方的にサニアをずぶ濡れにするゲームだ。


「さぁ、体が冷えただろ? 風邪を引かないように風呂に入ろう。一緒に、な」


 とんでもなく良い笑顔でソラが誘う。

 丁度、風呂の用意も整ったらしい。

 しかし、ソラには誤算があった。


「賛成」

「あ、僕も入る!」


 子供達が一斉に声を上げる。

 ソラはそれを聞き一瞬だけ呆けたが、事態を飲み込んで自らの失敗を悟った。

 子供達はラゼットと違って傘など持ってはいない。元浮浪児なのだから当然だ。

 ちらつくだけだった雪はいつしか本降りとなり、傘を持たない子供達は頭から雪を被って髪から雪溶けの滴を垂らしている。


「全員、お風呂行きですね」


 ラゼットが最後通牒を突きつけ、ソラは力なく苦笑した。


「男女に分けて放り込め。待機組には乾いた布を渡して体を拭かせろ。あと、厨房に言って暖かい物を運ばせるんだ」


 てきぱきと指示してソラは頭を掻く。

 どうやら、今回もおあずけになりそうだと、ソラはため息をついた。

 子供達が入ると聞いて使用人達は良い顔をしなかったが、ソラに言われて渋々従った。

 二、三人づつ子供達は風呂へと入る。


「乗り切ったね」


 お湯を頭から被ったシャリナはサニアの肩を叩いた。

 予想以上にソラの諦めが悪かったため風呂に入る事になったが、サニアは耳と尻尾を守りきった。


「その尻尾は触らせたくないよね」


 シャリナがいたずらっぽい視線を向けた先にはサニアの尻尾が揺れている。外側が黒、内側が白のツートンカラーが特徴的だ。


「じろじろ見ないで」


 サニアが唇を尖らせ、両手で尻尾を隠す。

 そう、手で隠してしまえる長さしかないのだ。


「熊の獣人は尻尾が短いもんね。サニアのも握り拳くらいの長さだし、尻尾に触れば同時にお尻も──」

「止めてってば!」

「はいはい」


 クスクスと笑うシャリナを不機嫌顔で見るサニア。

 恥じらいの出てくる年頃でもあり、尻尾の話題はサニアにとって好ましいものではない。


「さぁて、ソラ様はいつサニアの尻尾を触れるかな?」

「絶対に触らせないもん」


 頬を膨らませる友人にシャリナは笑みを深めた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] パンダ!?
[一言] いや主人公意味わからん。なんだこいつ
[気になる点] おそらく作者は子供のいない環境に居るのでしょう 2歳児…転生設定どころでは無い違和感
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