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詰みかけ転生領主の改革(旧:詰みかけ転生領主の奮闘記)  作者: 氷純
第五章 伯爵領初年のジーラ同盟騒動

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第八話  キングとクイーン

 ソラ伯爵領東部の街、グラントイースの郊外に双頭人形と呼ばれる娘達がいた。

 切り株に腰掛ける彼女達の周囲には、気配を消した腕利きの男達が潜んでいる。

 木漏れ日の中で、手を空にかざしていた双頭人形は、ふと思い出し笑いをした。


「処刑されたと聞いた時はがっかりしましたけど、元気そうで本当に良かったですね」


 大型船と甲板にいた仮面の伯爵の姿を思い出し、機嫌が良さそうに笑声を上げる。

 しかし、張り付けたような笑顔は感情を映す事なく、陶器を思わせる硬さと冷たさがあった。

 娘達が互いの存在を気にも止めず、足を揺らす。全く同じ幅と速度で揺れる足はぶつかり合うが、やめる気配はない。


「──ご報告です」


 潜んでいた男達の一人が進み出て、双頭人形の前で頭を垂れた。


「ホルガーがこちらに向かっています。ザシャの姿も確認されました。双方とも、尾行は確認できません。お会いになられますか?」


 男の報告を受け、双頭人形は周囲を見回す。


「この人は誰かしら?」

「新ジユズから来た新入りさんかしら?」


 双頭人形は顔を見合わせた後、男を指差して声を揃える。


「あまりおもしろくなさそうな人ね」


 双頭人形から評価を受けた男は一切表情を変えず、指示を仰くため報告を繰り返す。

 その時、木々を縫って眼鏡を掛けた男が現れた。

 双頭人形と目が合うと、眼鏡の位置を直しながらため息を吐く。


「双頭人形、私の上司から伝言です。くだらない事に付き合わせやがって、さっさと指示を寄越さねぇとその首を落として門の左右に飾るぞ……との事です」

「あら、怖い」

「まぁ、恐ろしい」


 双頭人形はわざとらしく口元を片手で覆い、怖がってみせる。

 浮かんだままの笑みを見て、眼鏡の男は再度ため息を吐き出した。

 件の上司がこの場にいたら、剣を抜いていそうだ。


「からかう暇があるなら指示をください。本来の潜入目的とは違うのですから、我々がいつまでも協力するとは思わない事です」


 脅すように言われ、双頭人形は肩をすくめる。


「ホルガーもザシャも、ここに案内して」


 双頭人形からの指示に頷き、眼鏡の男は踵を返して戻っていった。

 後ろ姿を見送った双頭人形は顔を上に向け、木の葉の枚数を数え始める。

 笑みを浮かべてはいても、どこか厭世的な空気をまとっていた。

 酷くつまらなそうにしていると、ホルガーとザシャが連れ立ってやってくる。

 二人の姿を視界に納めた途端、銀の娘達は纏う雰囲気を一変させ、楽しそうに互いの手を取った。


「いらっしゃい」

「ようこそ」


 口にした出迎えの言葉をホルガーが鼻で笑い飛ばし、ザシャに無言で見つめ返されても、銀髪の娘達は纏う雰囲気を変えなかった。

 子供が物語をせがむように、双頭人形は首尾を訊ねる。

 ホルガーが不愉快そうに首を振った。


「芳しくねぇな」

「ソラ伯爵領成立のゴタゴタを利用して、抱き込んだ商会を向こうに紛れ込ませる事には成功しました」


 ホルガーの言葉を引き継いだザシャが補足する。

 双頭人形は、抱き込んだという商会の名前と位置を聞き、顔を寄せて囁き合う。


「北を封じられてしまうかも」

「南でない限りは大丈夫よ。それに優先航行権を盾にすれば上手くいくもの」

「怪しまれてしまうわ」

「ソラ伯爵は表立って過激な事はしない方でしょう?」

「思い切りは良い方だもの。優先航行権は最後の輸送に使いましょうよ」


 銀髪の美しい人形が語り合う。

 やがて、結論を出したのか、ホルガーとザシャに向き直った。


「商会の抱き込みを継続してくださいな」

「内通者は多い方が貴方達も寂しくないでしょう?」


 策の継続を指示され、ホルガーは同意しかねるとばかりに腕を組んだ。


「肝心の乗っ取りが進まねぇだろ。いつ仕掛けるつもりだ」


 双頭人形がホルガーとザシャに計画を持ちかけてから、既に五年以上が経過している。

 ホルガーの我慢も限界が近いらしい。


「乗っ取りは頭を潰してからにしましょう」


 双頭人形はさらりと言い放つ。

 ザシャが眉を寄せた。


「確かに暗殺してしまえば、乗っ取りが可能です。ですが、護衛がいて簡単には手が出せません」


 ザシャの言葉にホルガーが頷いて同意を示した。


「そもそも、あの町から連れ出せるとも思えねぇ。奴は引きこもったまま出てこねぇだろうよ」


 お仕事が忙しいからな、とホルガーが皮肉と自嘲を込めて肩を竦めた。

 銀の娘達はぶらつかせていた足の動きを止め、互いに目で会話する。

 目の前の男達は本当に何も分かってはいないのね、と。

 計画の全てを知っているホルガー達でさえ、対象を暗殺する機会がすぐそこまで来ていると気付いていない。

 がっかりして、双頭人形は肩を落とした。

 双頭人形の態度が癇に障ったらしいホルガーが、こめかみに青筋を浮かべた。

 ザシャが無言でホルガーの肩に手を置き、周囲に目を向けて隠れ潜む双頭人形の護衛を意識させる。

 ホルガーが舌打ちして顔を背けた。

 双頭人形はホルガーとザシャのやり取りを見ていたが、態度を改めないまま口を開いた。


「何も直接的に手を下す必要はありません。暗殺も謀殺も、結果は変わらないのですから」

「……意味が分からねぇ」


 苛々した口調でホルガーが口を挟む。

 双頭人形はつまらなそうに空を見上げた。


「偽装した兵で闇討ちしましょう。殺せなくとも、無視できなくなりますもの──」


 後は言うまでもないでしょう、と双頭人形は立ち上がり、埃を払う。

 そして、隠れ潜む手練達の中から眼鏡を掛けた男を手招いた。


「話は聞いたのでしょう?」


 眼鏡の男は気乗りしなそうにため息を吐いた。

 返事はなかったが、双頭人形は眼鏡の男が断る事はないとばかりにホルガーとザシャを見る。


「頭を潰した後の準備を進めないといけませんから、沢山の商会を味方に付けてくださいね」


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