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詰みかけ転生領主の改革(旧:詰みかけ転生領主の奮闘記)  作者: 氷純
第三章 子爵領次年に王都へお呼ばれ

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第十八話 奥庭の問答

「僕としても、ソラ卿が王国に居てくれる事が心強いんだ」


 王太子は王城の奥庭にソラを導きながら、にこやかに切り出した。

 花がまばらに咲く奥庭は、十代前半の王太子の姿を隠すには十分だった。

 ソラもまた、頭より少し高い位置にある植木の頂点に目をやりながら、王太子の言葉の続きを待つ。


「ソラ卿が僕に仕えてくれている内は、僕の頭を悩ませる問題は一つだけだと思う」

「問題、ですか」


 王太子はこくりと頷く。


「──ソラ卿が離反した時の対策さ」


 王太子が無表情で振り返る。

 ソラはにこやかな笑みを作り、首を傾げた。


「随分と唐突ですね?」

「唐突……確かにソラ卿にとっては唐突かもしれないね」


 王太子は少しだけソラから距離を取り、落ち着いた笑みを見せる。

 ──去年の誕生パーティーで見た時より、振る舞いが安定してきているな。

 ソラは冷静に王太子の態度を評価する。

 だが同時に、多少の違和感も感じていた。

 ソラは素早く周囲に視線を走らせる。

 駆ける馬を模して刈り込んだイチイの木など、多様なトピアリーが並んでいた

 ツル植物を骨組みに巻き付かせて作った熊のトピアリーに目を止めて、ソラは笑みを浮かべた。

 ──そういう事なら。

 ソラは改めて、王太子を失礼に当たらない程度に観察する。

 落ち着かなげに手を組み替えては、視線を少し泳がせている。

 操る糸が目に見えるようだった。

 とはいえ、この歳で表情を作れるのなら大したものだ。

 ソラは笑みを消し、王太子の前で地面に膝を突いた。

 土が付くこともお構いなしだ。

 ソラは王太子に頭を垂れる。


「存分に対策を立てるのが得策でしょう」


 何の気負いもなく、自らの不利になる事を勧めるソラに、王太子が目を丸くした。

 困ったように視線が泳ぐが、ソラに見られている事に気付くと、取り繕ったような笑みを浮かべた。


「……それは、離反するかもしれないという事?」


 王太子は考え考え、不安そうに問う。

 ソラは静かに首を振った。


「離反しなければならない事態に陥る未来を想定しております」

「どういう意味?」


 王太子が困惑を深めた。

 ソラは頭を垂れたまま、淡々と告げる。


「王太子の考えに賛同出来なければ、私は異を唱えます。それでも、私を従わせる必要がある場合、離反時の対策を活用すると良いでしょう」

「僕にソラ卿を脅せって言うの!?」


 ソラはゆっくりと頭を上げ、王太子と視線を合わせる。

 そして、柔らかく微笑んだ。


「必要とあらば、脅す覚悟をお持ち頂きたい。王太子が目指す未来と私が目指す未来は違います。手段もまた異なるでしょう。片方だけが実行されるべき時、私は決して譲りません」


 王太子が難しい顔で腕を組み、考え込む。


「それは、反逆ではないの?」

「民を幸せにする事が反逆ならば、国は成り立ちません」

「……よく分からないよ」


 王太子は眉根を寄せて首を傾げた。

 ソラは苦笑する。


「私からこれ以上を申し上げる事はできません。何時の日か、殿下が目指す未来と実現への手段をお聞かせ頂いた時、私が目指す楽園の話を致しましょう」


 ほんの少しだけヒントを与えて、ソラは口を閉ざした。

 王太子は腑に落ちないといった表情を熊のトピアリーに向けた。

 すると、熊の腹部分が開き、人影が現れた。

 満足そうな顔をしたシドルバー伯爵である。

 ──糸を引いていたのは活火山か。

 ソラは特に驚かなかった。

 熊のトピアリーの大きさを見て、人が入っているだろう事を予想していたのだ。

 ソラはシドルバー伯爵に軽い礼をした。


「見破られるとは思わなんだが、目的は果たせた。殿下、ソラ卿の手綱を握ろうと考えてはなりませんぞ。ソラ卿が奸雄となる時、それは王国が滅ぶべき時です」

「手綱を握るなって……ソラ卿と真逆のことを言うんだね」


 益々分からない、と王太子は眉の間に力を込めて悩む。

 シドルバー伯爵はソラをちらりと見た後、ニヤニヤと笑う。


「ソラ卿を脅した所で、数倍の威力で脅し返されますぞ。ベルツェ侯爵のやり方が参考になりますな」


 王太子はようやく合点が入って、手を打った。


「貸しを作ればいいんだね!」

「……殿下、シドルバー伯爵、答え合わせは私が居ないところでお願いします」


 ソラが口を挟むと、王太子は目を瞬く。

 王太子は状況に気付くと、救いを求めるような上目使いでソラを見た。


「思惑が分かっていても、ソラ卿は借りを返さずにはいられない……よね?」

「思惑の内容によります」


 ソラの返答を聞き、シドルバー伯爵が大笑いした。

 決して広いとは言えない奥庭に笑い声が木霊して、ソラと王太子が思わず耳を塞ぐ。

 しかし、シドルバー伯爵は委細気にせず、王太子に向き直った。


「ソラ卿の様子からして、ほとぼりを冷ます時間が必要じゃ。殿下、我々は会議がある故、これにて」

「あぁ、そうやって逃げればいいんだ」


 王太子が感心してシドルバー伯爵に頷き、ソラを見る。


「それじゃあ、会議頑張ってね!」


 これが正解でしょ、とばかりに満面の笑みで王太子はソラを励まし、手を振りながら奥庭を去った。

 王太子の後ろ姿を見送り、ソラはシドルバー伯爵に声をかける。


「能力と人となりを見るために殿下を利用するのは、如何なものかと思います」


 シドルバー伯爵はソラの苦言を鼻で笑う。


「殿下に対し嘘偽りを申せば、即座につるし上げるつもりだったのじゃ」


 シドルバー伯爵は何でもないような顔で言う。

 ソラは顔をしかめた。

 ──得意の人物眼で早めに悪い芽を摘んでおこうってか。食えねえ爺さんだな。


「そんな顔をするな。ソラ卿は合格じゃ。可愛げのない奴め。チャフを見習え」

「手の掛かる子ほど可愛い、ですか?」

「手を焼くのが年寄りの楽しみじゃからな」


 皮肉を受け流され、ソラは苦い顔をした。

 ──困った爺さんだな……。

 会議室に向かうシドルバー伯爵の背中を見つつ、ソラはため息を吐き出した。


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