第四号 もう一人のイレギュラー
僕は仕方なくレジを開け札束を全て渡すことにした。
幸いそこまでのお金はレジにはなく札だけでも8万ぐらいだった。
「渡します。これでどうか彼女を殺すのは勘弁して下さい」
「3,2…………これで全部か」
僕の手から奪い取った札をポケットに入れ机を叩く。
「全部ですよ、見てください札は空っぽです」
僕は両手を上げレジの場所を移動し中神の隣に移った。
(大丈夫だった)
(は、はい。なんとか)
言葉では平気ぶっていても、体と声は少し震えていた。やはり女の子である。
「まあいいか。おいお前ら絶対動くんじゃないぞ」
強盗はそのまま振り向き逃げていく。
結局警察は間に合わなかったわけだが、バッチリ防犯カメラに移ったし恐らく机を叩いた時に指紋も残っただろう。一時はどうなることかと思ったけど………?
いきなり隣にいた中神が動いた。
「上杉さん、私彼を仕留めます!」
「へ?」
そう言って少し大きめの服を腕まくりし近くにあったビール缶を三本握りしめ、先ほど強盗が逃げ出した道を走っていく。
目の前の駐車場に出て5、6歩助走をつけ、車で逃げようとする強盗目掛けて遠投をするかのように振りかぶる。その細く綺麗な腕からは考えられないほど早く、力強いビール缶が投げられた。恐らくマウスピースをしていることにより噛みあわせの良さからもその速度は上昇しているのだろう。
一投目、二投目、すこし間を空け強盗が車から降りたところで三投目。
一投目で助手席の窓ガラスが割れる。
二投目で強盗の恐らく頭部に直撃。強盗は慌てふためいて外に出てくる。
三投目でこちらを向いた強盗の喉に直撃する。そのまま仰向けに倒れこむ強盗。
「上杉さんは何か縛るものを持ってきてください」
そう言い残し強盗に向かって走っていった。
「あ、うん」
どこかの舞台を見ているかのようだった。僕は商品棚にあるビニールのロープを持って中神の後を追った。
すると慣れた手つきで白目を剥いている強盗を関節技で固めている中神がいた。
「上杉さん、この人の親指どうしを結んでください。私は足を縛ります」
手際よく縛り上げたところで、遠くからサイレンが聞こえた。
「よしっと。これで行動不能ですね」
両手を払うように二度叩きこちらを向く。
「お手柄………? だったな、警察も来るし一安心だな」
はい。と何故か元気よく答える。あれだけの速球とコントロールを見せつけ、取り押さえても中神は呼吸一つ乱していなかった。
それからというもの警察が到着して僕らは事情徴収を受けた。深夜ながらさすがの店長も飛び出してきたし、地域の人も僅かながら野次馬としてきた。
空はうっすら明るくなりつつあった。
そんなとき僕はふと思った。初めは大人しめだと思った中神だが、どうやら結構活発な部分も有るんだな、と。そしてそんな中神に少し惹かれる僕がいることも知った。
「今日はもう二人共あがっていいよ。こんなこともあったんだから寄り道せずに早く帰りなよ」
店長が僕たちを呼びそう伝えた。
確かにこんな体験は初めてだし、終わってみると疲れが体を襲っていた。僕たちはお言葉に甘えあがらせてもらうことにした。
「今日は長い夜だったな」
ロッカールームでそっとため息混じりで呟いた。着替えを終わらせ外に出るとそこにはダンボールの家に帰ろうとしている中神がいた。
「中神さん、そのあの家に帰るの?」
「はい………」
こんなペースで大丈夫か?




