第三号 イレギュラー
「いいか!お前ら大人しくしてろよ!」
店内に響き渡る怒声、目は充血しており男の手には拳銃が握られていた。
えっと、なぜこんな状況になっているのかというと……それは今から二時間前に遡る。
中神とのコミュニケーションの取り方に戸惑っていた僕は、とりあえず店内のどこに何があるか、掃除の仕方など初歩の部分を教えていくことにした。中神も覚えることに関しては得意なようで、僕の言うことを素直に実行してくれた。
「上杉さんトイレの掃除終わりました。トイレットペーパーの数が少なかったので補充しておきました」
「中神さんは覚えるの早いな、こっちとしても助かるよ」
「ありがとうございます。私こういうこと得意なんです」
中神はどうやら嬉しそうだ。僕はそこまで女性と慣れ親しんだことはないが、なんとなく悪い気はしていないのはさすがにわかる。
物を整理していく中神だが、やはり少し躊躇ってしまうのは成人向けの雑誌の整理である。
「う、上杉さん。これ」
「ああ、これね」
表紙を飾っている女性は面積の非常に少ない水着を着用し、両足をMの時に曲げ片手でMのヒズミの部分に人差し指をさし、その豊かな胸を強調しながら、とてもグラマラスな表情で微笑みかけてくるその姿は、世の性に悩めるおのこ達には堪らない一冊となっている。
「上杉さんは、こ、こういったのが、その、タ、タイプ何ですか?」
「ちょっと過激かな、あんまり好みって感じじゃないな」
こうもエロスを強調されると逆に手を伸ばしにくい男性も多いのである。
「中神さん、そろそろ休憩してきたら?疲れたでしょ」
「いえ、まだ覚えきれてないところがあるので、復習を兼ねてもう一度最初から見てもらっていいですか」
中神は本当に勉強熱心だ。その時である。自動ドアが開いたかと思うと、黒尽くめの男が一人声を震わせながら
「静かにしろよ、殺したいわけじゃないんだ」
入ってきた。
いきなりのことで頭が真っ白になって固まってしまったが、それが強盗だということは分かった。
「え、あっと。落ち着きましょう。ね」
強盗と思しき人物に近づく。冷静に、冷静に。と自分に言い聞かせながら一歩また一歩両手を上げ真っ直ぐ進む。中神は何が起こっているのか理解できないような顔で固まっている。
「だから静かにしろってんだろ!」
強盗は興奮しているようで僕の言葉が届かないのか、手に握ったその銃を振り回す。そして商品の陳列台を破壊する。
といった感じだ。とりあえず何とかしないと……
「お、お金が欲しいんですよね。レジは僕しか動かせませんから、僕が動かします」
そう言って前を通りながらレジの前に立つ。
「だったら早くしろよ、そこの女は動くんじゃねーぞ!」
無言のまま中神は首を立てにふる。その目には少し涙を浮かべているようだった。僕は強盗にバレないようにレジの下にある通報のボタンを押した。
これを押すことで最寄りの警察署に連絡がいくようになっており、こいつが捕まるのも時間の問題となった。
(あとは時間を稼ぐだけだ…よし)
「あの、いくらぐらいお渡しすればい」
「札全部だ! いいから早くしろ、急いでんだよ」
わざとレジの操作に戸惑っているように無駄な動きをする。
「あ、あっ」
ピーーー エラー音が聞こえる
「おい、お前まさか時間稼ぎしてるんじゃないだろうな!」
「まさか、僕だって命は惜しいです。でも拳銃つきつけられてレジを触るなんてやったことないですから、緊張しちゃって思うようにできないんです」
ガチャガチャと意味のないボタンを押すが、これも時間の問題である。すでに怪しまれている以上あまり効果のない時間稼ぎだ。
すると
「もう我慢できねえ。俺が10数える間に金を渡さないとこの女を撃ち殺す」
(これまでか…)
男のカウントが始まる。
「10、9、8、7……」
半年ぶりですね。燃料補給長かったですね。ガンバリマス




