otto.2
凛は大きなビルの最上階にある役員室の応接間に居た。
そこに少し年配の夫婦が入ってきた。
「お義父さん、お義母さん。ご無沙汰しています」
凛が立ち上がり2人に挨拶をした。
「あらあら、まだ、そう呼んでくれるのね。嬉しいわ」
「今日は何をしに東京に出て来たんだ」
「はい、私用でちょっと」
「そうなのゆっくりしていけるんでしょ」
「すいません、店が心配なんで明日戻ります」
「相変わらず忙しい奴だなお前は」
「すいません」
「良いじゃないですか良い事ですよ、忙しいのは。でも私達の申し出を受けてくれて嬉しいわ」
「はい、亜紗義姉さんとの約束ですから」
「亜紗は元気なの?」
「ええ、元気ですよ」
しばらく色々と話をして凛は役員室を後にした。
そしてその足で打ち合わせの為、根岸との待ち合わせ場所に向かった。
「しばらく会わないうちに大人しくなったと言うか覇気がなくなったみたいだな」
「あなた、それは違うのよ。あの子は迷っているんだと思うの。橘、資料を持ってきて頂戴」
秘書らしき黒いスーツ姿の女性が2つのファイルを持ってきた。
「小説の映画化と夏海、杏さんか……どうしたものかしら」
「継いでくれると言うんだ、良いじゃないか」
「あなた、そんな簡単な問題じゃないのよ。私は2度とあの子に辛い思いはさせたくないの、今でも背負い続けている重荷を何とかしてあげたいの。その為には、どれか1つでも欠けちゃいけないのよ。決めたわ、この問題は私に一任して頂戴いいわね」
「ああ、お前がそうしたいと言うのなら構わんが、大丈夫なのか?」
「私達にしか出来ないことがあるのよ。少しワクワクするわね」
その目は悪戯っ子がするような眼だった。
翌日、朝1便で凛はARIAに戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「凛さん、お帰りなさい」
楓が出迎える。
「ただいま」
「杏ちゃんには会って来たんですか?」
「いや、会わなかったぞ」
「ええ、それじゃ何しに東京に?」
「ちょっとな、ほらお土産だ」
楓にお土産のお菓子を渡し店の中へと歩き出すと、突然凛の目から光が消えて床に倒れ込んだ。
「いつも、ありがと……凛さん!」
楓が倒れた凛の顔を見ると、目が少し開いているが光が消えて死んだ魚の様な目をしていた。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁー!!」
楓がしゃがみこみ両手で頭を抱えて叫んだ。
「どうしたんだ、楓?」
葛城がキッチンから出てくる。
「凛さん?」
事務所からは亜紗と藤崎が出てきた。
「何があったの? 凛! どうしたの?」
亜紗が慌てて凛に駆け寄り体を揺すろうとする。
「オーナー! 触らないで」
藤崎が声を上げた。
その声に驚いて亜紗が手を止める。
藤崎が凛の顔を覗きこんで声を掛けた。
「凛さん。凛さん」
凛の目に光は戻らないがゆっくり瞬きをした。
「葛城君、手伝って。ゆっくり凛さんを仰向けに寝かせます、いいですね」
「はい」
2人でゆっくり凛の体を仰向けに寝かせ藤崎が凛のベルトを緩め、シャツの胸元のボタンを外し凛の足を少し高くした。
「たぶん大丈夫だと思いますが救急車を呼びますか? オーナー」
「藤崎が大丈夫と言うのなら、少し様子を見ましょう」
「でも、オーナー。凛さん気が付かないですよ」
楓が震えながら言った。
「落ち着きなさい。藤崎は看護師の資格を持っていて応急手当や救命処置のエキスパートだったの、藤崎の指示に従いましょう」
「目は虚ろですが呼吸はゆっくりと正常にしていますし脈もはっきりしています。おそらく過労か心因性のものだろうと」
楓が落ち着きを取り戻し冷たく冷やしたタオルで凛の顔を拭いた。
しばらくすると凛が意識を取り戻した。
「俺は……?」
「凛、私が判る?」
「義姉さん」
「良かった、あなた倒れたのよ」
凛が頭を擦りながら起き上がると側で楓が泣いていた。
「楓、ゴメンな。もう大丈夫だから」
「は、はい」
「少しふらつくが、もう大丈夫だから。皆に心配掛けてすまなかった」
凛が立ち上がり皆に頭を下げた。
「凛、家まで送るから。今日はゆっくり休みなさい」
「ああ、そうさせてもらうよ」
凛を家まで送り届けた亜紗は帰り道、車の中で呟いた
「心因性って……」
それから数日後、オーディションに合格した杏の元に花束が届けられた。
メッセージカードには、『ad Albicocca Congratulazioni!! da Campanella』と書いてあった。
「杏、外国のファンから花束が届いているわよ」
西川が小振りの向日葵でアレンジされ一抱えもあるくらい大きな花束を届けに来た。
杏がカードを見て考えている。
「誰からだろう英語じゃないよね」
急いでパソコンで文字の意味を調べ出した。
「イタリア語なんだ。最初のが、アド アルビコッカでトゥー アプリコット? あっ『杏へ』だ。そして次がコングラチュラツィオーネ! でコングラチレイションで『おめでとう!』だ。ダ カンパネラってフロム カンパネラ……んん?」
「カンパネラ、カンパネッラ……あっあった。小さな釣鐘て、なんだろう」
その時、携帯が鳴った。
携帯を取ると携帯につけてあったストラップの鈴がチリンと鳴った。
「ああ、鈴の事かも。でも鈴って? リン? もしかして凛?」
杏が花束を抱しめた。
「今日はオフだし、凛に確認とお礼の電話してみようかなぁ」
凛の携帯に電話を掛ける。
「お客様がお掛けになった……」
「もう、電源切ってある。馬鹿。それじゃ、久しぶりにARIAの皆の声でも聞こう」
今度はARIAに電話する。
「ありがとうございます。レストランテ ARIAでございます」
「あのう」
「もしかして、杏ちゃん?」
「うん」
「私、楓だよ。久しぶりだね」
「うん、お久しぶり。なんだか照れちゃうなぁ」
「元気?」
「うん、元気だよ」
「ARIAの皆は、元気なの」
「う、うん」
歯切れの悪い返事だった。
「何かあったの? 楓ちゃん」
「それが……」
楓は何かを考えているか戸惑っているようだった。
「楓ちゃん。友達でしょ」
「そうだね、実は凛さんが倒れたの」
「えっ!」
「そんなに心配しなくても大丈夫、たぶん過労だろうって。今は元気に仕事に来ているし、けれど時々休憩時間に寝ていると何かに魘されている時があるの、だから心因性の可能性もあるって」
「心因性って、あのトラウマに関係があるの?」
「詳しい事は、私には分からないよ。今日はオーナーに言われて病院に精密検査受けに行っているの」
「精密検査って?」
「ああ、念の為だよ。凛さんは大丈夫だ、面倒くせえなぁって言っていたから」
「そうなんだ」
杏の声が沈んでいた。
「心配だよね、やっぱり」
「心配だけど、凛が大丈夫って言うなら私は凛を信じる」
「やっぱり、杏ちゃんは凄いね」
「凄くなんか無いよ。長くなるといけないから、もう切るね。仕事頑張ってね」
「杏ちゃんもね」
「うん、また電話する」
電話を切り杏はその場にしゃがみ込んだ。
心因性、トラウマ、凛が杏を預かると決めた時に亜紗とした約束、そして杏と交わした約束。そんな事を考えていると空港で凛が言った言葉を思い出した。
『俺を信じてくれ、必ず俺が何とかするから。もし杏にしか出来ない事なら助けてくれよ』
「私にしか出来ない事。こんなに離れていて私に出来る事なんかあるの? 凛、約束は縛りつけるものじゃないんだよ。今の私には歌う事しか出来ないのに……そうだ。今、出来る事をしよう」
杏は机に座りノートに向かい何かを書き始めた。
あの一件以来、凛は休憩時間に店の中ではなくガーデンにサマーベッドとパラソルを置いて横になるようになった。
精密検査の結果は心身の過労によるものだろうと診断された。
今日も休憩時間に凛はガーデンもサマーベッドで海を眺めながら横になっている。
夏休みも始まり日差しがとても眩しく強かった。
「凛さん、大丈夫なのかなぁ」
柚葉が窓の外を見ながら呟いた。
「心配だよね、最近あまり笑わなくなったしね」
「楓もそう感じてるんだ」
「うん」
「凛さん自身が大丈夫だって言ってるんだから、俺等にはどうしようもないだろ」
「そうなんだけどさぁ。葛城、私達に何かしてあげられる事何のかなぁ、いつも助けてもらってばっかりでさ」
「そうだけど、出来るだけフォローして見守るしかないんじゃないか」
「そうだよね」
3人はテーブルでおしゃべりを続けた。
「そうそう、話し変わるけれど夏海 杏の新曲聞いたか?」
「ああ、『ラ・プロメッサ 約束』でしょ」
「良い曲だよな」
「そうだね、でもかなり切なくって意味深なラブソングだよね。テレビでも突っ込まれていたし、本人が詩を書いたんだよね」
「ブログで、恋人がいます宣言しているしな。杏にしては珍しいスローな曲だよな」
「楓、あのイタリア語の意味分かる?」
「La promessa e legame が約束は絆 La promessa e amore が約束は愛だよ」
「それじゃ最後の言葉は?」
「Mi, amore Campanella は私の愛しいカンパネラ」
「カンパネラって人の名前なの?」
「小さな釣鐘って言う意味があるんだけど良く判らないんだ。それで最後に囁いているのが、たぶん『ティ アーモ』って言う言葉で『愛してる』って言っているんだと思う」
「何でイタリア語なのかなぁ? 夏海 杏の恋人ってイタリア人なのかなぁ」
「柚葉、流石にそこまでは私にも分からないよ」
「でも、超人気アイドルの彼氏ってどんな奴なんだろうな」
「そうだよね。きっと素敵な人なんだろうなぁ」
その頃、東京に居る杏はパソコンと格闘していた。
それは誕生日に届いた花束が原因だった。
「もう、こんな長い文書解らないよ……」
その花束は、青いバラの大きな花束で、送ってくれたのはオーディションに合格した時の差出人と同じ人だった。
「青いバラの花言葉は『神の祝福・可能性』かぁ。あとはこのメッセージだけなんだけどなぁ」
そのカードにはこう書かれていた。
『ad Albicocca
Buon Compleanno!!
Gli auguri piu sentiti di poter festeggiare questo giorno ancora tantissime volte.
da Campanella 』
杏は悪戦苦闘していた。
「『 Buon Compleanno!!』の意味はと……見つけた!」
スペルを検索してみると、お祝いの言葉の中にお誕生日おめでとうの次の言葉をやっとの思いで見つけた。
『杏へお誕生日おめでとう!この日を何度も何度も再び祝えることを心から祈っています。カンパネラより』
「今日こそは、凛に確認しなきゃ。でもまた電源切ってたらどうしよう、そうだ今の時間ならきっと」
時間を確認して杏は楓の携帯に電話をした。
楓、柚葉、葛城の3人はおしゃべりを続けていた。
そこに亜紗が事務所から出てきた。
「ねぇ、凛を知らない?」
「いつもの様に、外で眠っていますよ」
「外は暑いのに馬鹿なんだから」
「私、呼んで来ますね」
柚葉が立ち上がり店の外に出て行った。
「そうだ、オーナー。イタリア語のカンパネラって小さな釣鐘って意味なんですけど日本じゃ釣鐘なんてイメージが湧かなくって」
「そうね、日本では鈴みたいなものかしらね」
「鈴ですか?」
その時、楓の手元にある携帯が鳴った。
「もしもし、ああ、杏ちゃん。何? 凛さん、ちょっと待ってね」
楓が外にいる凛の方を見ると柚葉がサマーベッドの横で座り込んで震えているのが見えた。
「オーナー、凛さんの様子が変なんじゃ?」
楓が叫ぶと、慌てて亜紗と葛城が外に飛び出した。
楓もそれを追いかけた。
「柚葉、如何したの?」
亜紗が柚葉に声を掛ける。
「凛さんが……凛さんが……」
凛を見ると前回倒れた時と同じ様な状態になっていた。
「葛城君、藤崎を大至急呼んできて」
「は、はい。判りました」
葛城が店の中に走り込んだ。
「柚葉ちゃん、落ち着きなさい。凛は気を失っているだけだから」
「わ、分かりました」
「柚葉、大丈夫だよ。前も直ぐ意識を取り戻したから。ね」
「楓、本当に?」
「今、藤崎さんが来てくれるから」
そこに藤崎がやって来て凛の様子を見る。
葛城はバケツに氷水を入れてタオルを持って戻ってきた。
柚葉がタオルを氷水に着けて絞り凛の顔を拭いた。
「どの位、この状態だったんですか?」
「分からないです。店の中からじゃ何時こうなったのなんか見えないし」
楓が答える。
その時、楓が握り締めている携帯から杏の声が聞えた。
杏は不安で胸が張り裂けそうだった。
携帯から聞える声や音から凛の身に何か大変な事が起こっているのが判り楓の名前を呼び続けていた。
「杏ちゃん。ゴメン。凛さんがまた意識を失っていて」
「それで、凛の様子は?」
「まだ、意識が戻らないままなの」
「楓ちゃん、私の声が凛に聞えるようにして欲しいの」
「判った」
楓が携帯を凛の耳に当てる。
「凛! 凛!」
携帯から杏が必死に凛の名前を呼ぶ声が聞える。
その時、僅かだが凛の指先が動いた。
藤崎が亜紗の顔を見上げた。
「杏ちゃん、聞えるわね。続けてちょうだい。今、少し凛が反応したの」
杏の返事は無かった。
亜紗が携帯を取り杏を呼ぼうとすると、電話口から杏が泣いている声が聞えてきた。
「杏ちゃん、聞える?」
「……は、はい」
「そのまま聞いてちょうだい。凛はこんな事を繰り返していると2度と元に戻らなくなる可能性があるの、心の傷が原因だと思う。前に杏ちゃんには言ったわよね、凛の心の傷は1人じゃ治せないってあなたの力が必要なの。あなたにしか凛は助けられないの」
亜紗の言葉を聞いて杏が泣き止んでいた。
そしてシッカリとした口調で亜紗に言った。
「判りました。私がやってみます」
「お願いよ」
亜紗が楓に携帯を渡す。
「もしもし、杏ちゃん」
「楓ちゃん。もう1度、凛の耳に携帯を」
「判った」
楓が凛の耳に携帯をあてると携帯から歌が流れてきた。
その声はとても澄んだ優しい声だった。
あなたと出逢い 私は変わったの
大切な事を あなたが教えてくれた
出逢いは一瞬
出逢いは永遠 約束をしてくれたよね
La promessa e amore
永遠に約束を交わしたい あなたとなら
迷った時には 導いてくれたよね
ありのままで それで良いんだよと
私は信じる あなたを信じる
約束に縛られないで
La promessa e legame
La promessa e amore
Mi, amore Campanella
Ti amo
「あ……ん……ず……」
凛の口が動き、目に光が戻ってきた。
しばらくすると凛の意識がはっきりと戻った。
「杏に助けられたみたいだな」
「凛! ちむ ぐるしいよ」
携帯越しに杏が泣き叫んだ。
「ごめんな」
楓がヨロヨロと立ち上がった。
「どうしたの? 楓」
柚葉が不思議そうな顔をして楓に声を掛けた。
「あ、アンだ……」
「楓、何を訳判らない事言っているんだよ」
葛城も不思議そうな顔をしていた。
「今、杏ちゃんが歌って聞かせた歌 『ラ・プロメッサ 約束』だった」
「はぁ?」
「楓、それって」
「そう、杏ちゃんが夏海 杏だったんだよ」
「ええっ!」
葛城と柚葉が驚いて声を上げた。
「ああ、面倒くせえなぁ。ん? 義姉さん?」
凛が亜紗の顔を見ると真っ黒なオーラを放ち鉄仮面の様な顔をして凛を見下ろし。
徐に足元に有る氷水の入ったバケツを持ち凛に氷水をぶちまけた。
「凛! 少しは目が覚めたかしら?」
「冷てえなぁ。何するんだよ!」
凛が声を上げる。
「面倒くせえだと、散々杏を泣かせておいて。コラ! 何時までウジウジと考えて悩んでんだよ。お前は」
凛の頭めがけて蹴りを叩き込んだ。
寸での所で凛が受けたが吹き飛ばされた。
「し、死天使アーサと死神リンのバトルだ」
「葛城、唯の兄弟喧嘩にしか見えないけれど」
葛城が呟くと楓と柚葉は葛城の後ろに隠れていた。
亜紗が一瞥する。
藤崎は呆れ顔で2人の様子を見ているだけだった。
「凛! てめえ。何時からそんな腑抜けたヘタレ野郎に成り下がったんだ。それでも男か? 女の腐ったのみてえだな。何がトラウマだ、双樹と桃香が聞いて呆れるぜ」
その名前を聞いた瞬間、凛が切れた。
「おい、アーサ。貴様、言って良い事と悪い事の区別も着かないのか?」
「何度でも言ってやる。今のお前を見て双樹と桃香が笑ってるって言ってんだよ」
「ふざけるな、俺のどこが腑抜けでヘタレなんだ!」
凛が亜紗の胸座をつかんだ。
亜紗も凛の胸座をつかみ返す。
「全部だよ、トラウマなんざに押し潰されているお前全部だよ」
「何が約束だ! 今のお前に約束なんか1つも守れるものか」
「ん、だとコラァ!」
「それじゃ、守れるのかよ」
「守って見せるさ」
「無理だね、今のお前じゃ何一つ守れやしないね。そんな死んだような目のお前にどんな約束が守れるって言うのさ」
「守る為に今、動き回って居るんだろう」
「違うな、今のお前は迷って同じ所をグルグル回って居るだけだ、雷神の死神リンなら総てを手に入れようとするはずだ。今のお前に約束を守ってもらって嬉しい奴なんて1人もいねえんだよ」
亜紗が凛を殴り飛ばすと凛が後ずさりをして尻餅を着いた。
「今の凛の姿を見たら双樹や桃香は泣くぞ、杏だって私だって今の凛なんかに約束なんて守って欲しくないんだよ。苦しくって辛いのは凛だけじゃ……凛だけじゃ……無いんだよ……」
亜紗が泣いていた。
今まで一度も弱音を言った事が無い亜紗が人前で涙を流していた。
「着替えてくる」
亜紗の泣き顔を見て凛が立ち上がり店を出て行った。
「オーナー、いくらショック療法でもやりすぎですよ。辛かったでしょ」
藤崎が優しく声を亜紗にかけた。
「わぁぁぁぁ……」
亜紗が藤崎にしがみ付きながら泣き崩れた。
「オーナー、本当は凛さんの事が……」
柚葉が呟いた。
「あ、杏ちゃん? あれ? 切れてる」
楓が携帯を耳に当てると既に切れていた。
その頃、杏は西川に急に呼び出され。
プロダクションの社長つまり杏の叔父さんに呼ばれ真剣な面持ちで話を聞いていた。




