sei.2
凛はマンションに着き部屋の中を探していた。
「クソ、居ないか。どこに行ったんだ」
杏に携帯で連絡を取ろうとしたが、杏の携帯は電源が切られたままだった。
その頃、杏は海が見える公園の先にある工事現場の放置車両の中で膝を抱きかかえて震えていた。
「絶対に帰らないんだから。でも、何だか凄い嵐になってきたよ、どうしよう」
亜紗達は街中を走り回っている、だんだん暗くなってきていた。
「どこに行ったのかしら?」
「闇雲に探しても見つけられないんじゃ」
西川が呟いた。
「そんな事は分かって居るわよ」
亜紗は焦りを隠せないでいる。
「オーナー、凛さんと杏ちゃんが買い物をした。お店の方に行って見ましょう」
柚葉が提案すると亜紗がハンドルを切りバイパスを東に向けて走り出す。
すると楓が何かを見つけた。
「止めて! あそこに私の原チャリがある」
車を少しUターンさせると、通行止めになっているサザンゲートブリッジの脇に楓の原付が止められていた。
「まさか、杏ちゃん。この先に」
「凛さんに知らせないと」
葛城が凛の携帯に連絡すると直ぐに凛がスクーターやって来た。
「楓、間違いなくお前の原付なんだな」
「はい!」
「凛、携帯は?」
「義姉さん、駄目だ。電源を切っているんだ」
「確実に居場所が判らないと危険だわ。この先に居るとは限らないし」
「行くしかないだろう!」
「落ち着きなさい。凛」
「もう一度掛けてみる」
凛が杏の携帯に電話する。
杏は車の中で携帯を取り出した。
「あれ、電源が切れてる」
電源を入れるとバッテリーマークが1つしかなかった。
その時、杏の携帯が鳴った。
「もしもし、杏か」
凛の声だった。
凛の声を聞いた瞬間、不安が爆発して涙が溢れてきた。
「凛、怖いよ。助けて」
「今、どこにいるんだ?」
「猫が居る公園に来たら雨が強くなってきたから、その近くにある工事現場の壊れた車の中に……」
その時、電話が切れた。
「あれ、凛! 凛? 助けて!」
「クソ! 切れた!」
凛が携帯をポケットに入れて、横殴りの雨と強風で殆ど何も見えない橋の先を見つめた。
「凛、居たのね」
「ああ、この先の工事現場だ。たぶん放置車両の中に居る」
「でも、凛さん。入り口が閉鎖されているのにどうやって」
「こいつで行く」
凛がスクーターのハンドルを叩いた。
「スクーターでって無理ですよ。いくら凛さんがチューンしているからって」
「歩きじゃ、この橋は超えられない。行くしかないんだ」
「台風が過ぎてから助け出せば」
西川が恐る恐る呟いた。
「このまま、杏を放って置けるか! 何かあってからじゃ遅いんだ」
「それじゃ、あなたまで」
「黙れ! 俺はどうなっても構わない。もう、何も失いたくないんだ」
「凛、見つけたら必ず連絡しなさい」
亜紗は凛の覚悟を知り、止めてもしょうがない事を悟った。
「オーナー、いくら凛さんでも無茶ですよ。怪我だけじゃ済まないですよ」
「葛城君、もう誰も凛を止められないわ」
「凛、行きなさい」
「行ってくる」
凛が真っ直ぐに亜紗の目を見て走り出すと亜紗が呟いた。
「凛、あなた本気で杏ちゃんの事……」
凛が辺りを探してコンクリートブロックを見つけ封鎖されている橋の柵から少し離して置いた。
そしてスクーターに乗り込んで橋の反対側にスクーターを走らせUターンさせる。
亜紗が車で道路を封鎖し風が少し弱まった瞬間、凛がアクセルを全開にして橋に突っ込んだ。
ブロックの寸前でアクセルを戻し重心を後ろに下げ前輪を少し浮かせる。
ブロックに前輪が当たり浮いた瞬間アクセルを再び全開にする。
後輪がブロックに当たりスクーターが宙に飛び出した。
強風で横に流される。
「風で流された。駄目だ、雨でグリップが弱い! 越えられない」
葛城が叫んだ。
「クソ! 越えろ!」
凛が叫ぶ。
後輪が橋の柵に当たりナンバープレートやカバーの一部が吹き飛んだ。
「キャァーー!」
楓と柚葉が目を塞いだ。
スクーターのエンジン音が暴風雨で霞む橋の向こうに吸い込まれて行った。
「後は凛からの連絡を待ちましょう」
亜紗が皆に言った。
「でも」
「今、私達が出来る事は待つことだけよ。家に帰って心配だろうけど体を休めなさい」
「はい」
楓と柚葉が返事をした。
「西川さんも宿泊先で待機していて頂戴」
「分かりました」