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quattro.6

マンションの駐車場に車を止めて荷物を運び出した。

「ここが凛さんのマンションなんだ。なんだか普通だね、柚葉」

「そうだね」

「おいおい、普通ってどう言う事だよ」

「もっと、凄い高級マンションかと」

「俺は、そんな金持ちじゃないよ」

3階に上がり凛が部屋の鍵を開ける。

「どうぞ、ごゆっくり」

「うわぁ、凛さんのお家だ」

「先に順番にシャワーを浴びてくれ」

凛が奥の部屋からバスタオルを3枚持ってきた。

「それじゃ、面倒だから3人でシャワーを浴びよう」

楓が2人に言った。

「ええ、はずかしいよ」

杏が嫌がるが問答無用で楓がバスルームに連れて行った。

バスルームからはキャーキャーと3人の声が聞えてくる。

凛はパソコンを立ち上げてデジカメのメモリーカードから写真をプリントアウトし始めた。


しばらくすると3人がシャワーを浴び終えて出てきた。

「凛、何をしているの?」

「今日の写真をプリントアウトしているんだよ」

「見せて見せて」

「後でな。俺もシャワーを浴びてくるから」

「うん、分かった」

凛がバスルームに入りシャワーを浴び始める。

楓と柚葉はキョロキョロと部屋を眺めて部屋の中を歩きまわり始めた。

「こんな、広い所に独りで住んでいるんだ。杏ちゃんこの部屋は?」

「楓ちゃんそこは洋間だよ。物置とクローゼットみたいに使ってるけれど」

「杏ちゃん、こっちの部屋は」

「寝室だよ」

柚葉が覗き込む。

「うわ、大きなベッドがある。もしかして2人で……」

「ち、違うよ。凛はこのソファーで寝てるの」

杏が恥ずかしそうにソファーを指差す。

その時、凛がシャワーを浴びて出てきた。

「ほら、ちょうどプリントアウトが終わった所だ」

写真を杏に渡す。

「皆で見よう」

杏がリビングの円卓に写真を広げた。

「げ、いつの間にか寝顔を撮られてる。酷いよ凛さん」

凛はキッチンでコーヒーを入れ始めた。

「欲しい写真があれば持って帰って良いぞ」

「うわぁ、見て見て綺麗な写真」

それは杏の写真だった。

白い砂浜の上で七色の海をバックに生成りのリネンのワンピースを着て大きな麦わら帽子をかぶり杏が満面の笑顔をしていた。

「杏ちゃんって、めちゃ可愛いよね」

「そんなこと無いよ、楓ちゃんだって柚葉ちゃんだって凄く可愛いじゃん」

「そうかなぁ」

その時、楓の手に硬い物があたった。

「あれ、ノートパソコンだ」

「あ、それは駄目だよ。凛が絶対に弄るなって言ってたから」

「ふうん、そうなんだ。でも何で?」

「理由は教えてくれないの、仕事用みたい」

「そう言えば、凛さんって時々東京に出かけるよね」

「そうだね、楓。何しに行ってるんだろう」

「ええ、そうなんだ」

そこに、凛が大き目のカップにカフェオーレを入れて運んできた。

「温かい飲み物しか無いけど良いかな?」

「凄く、いい香りがする」

楓がクンクンと鼻をならしていた。

「ねぇ、凛。東京に何しに行ってるの?」

「なんだ、杏。野暮用だよ」

「怪しいなぁ、いつもノートパソコンで何かをしてるし。そう言えば仕事って言ってたよね、凛の仕事はコックさんじゃないの」

「そうだけど、趣味みたいな事をしてるんだよ」

「ええ、趣味みたいな事で東京に行くんですか?」

柚葉が驚いていた。

「まぁ、それなりにお金ももらえる訳だしな」

「何をしてるんだろうなぁ」

楓が疑いの眼差しで凛を見た。

「そんな、目で見るな。カフェオーレでも飲んでくれ」

「いただきまーす。美味しい」

「凛のカフェオーレは絶品だからね」

「ああ、ずるいんだ。杏ちゃんは毎日飲んでいるんでしょ」

「うん」

杏が嬉しそうに答えた。

「車を返してくるから、遊んで居てくれな。あれには絶対触るなよ」

「分かってるよ」

凛が杏に念を押して部屋を出て行った。


「杏ちゃん、寝室も入って大丈夫なの?」

「楓ちゃん平気だよ」

3人がカフェオーレを飲み終えて寝室に移動する。

「あ、これが凛さんの奥さんと娘さんだ」

楓がパソコンの上の写真を見つける。

「どれ? 本当にオーナーとそっくりだね」

柚葉が写真を手にとって見て言った。

「マンガやライトノベルがいっぱい、凛さんって秋葉系だったりするのかなぁ?」

「柚葉ちゃん、近からずも遠からずって凛は言ってたよ」

「あっ、アクアマリンやグランパがある」

「あちゃ、柚葉はバリバリ秋葉系だからね」

「え、柚葉ちゃんも好きなの」

「うん、歩の大ファンだよ」

「そうなんだ、私も大好きなんだ。グランパに憧れちゃうよね」

「そうそう、最新刊早くでないかなぁ」

「え、柚葉ちゃん最新刊ってまだ発売されてないの?」

「来月の筈だけど」

「じゃ、これは?」

「ええ! 何でここに未発売の最新刊があるの? 杏ちゃんはもう読んだの?」

「うん、面白かったよ」

「ねぇねぇ、2人で盛り上がっている所悪いんだけど。そんなに面白いの?」

楓が怪訝そうな顔で柚葉と杏に聞いた。

「面白いよ」

杏と柚葉の声がハモった。

「楓も騙されたと思って読んでみたら」

ベッドの上で楓が本をとってパラパラとめくり読み始める。

柚葉はベッドに寄りかかり最新刊に夢中になっていた。


杏はリビングで今日の写真を眺めて微笑んでいる。

「凛の事大好き。でも、いつか終わっちゃうんだよね、この生活も……」


「ただいま」

凛が車を返し買い物をして帰ってきた。

部屋を見ると楓と柚葉は本に夢中で凛が帰ってきたのも気付かない様子だった。

「さぁ、飯でも作るか」

「私も手伝う」

「ん? 杏泣いてたのか?」

杏の目が少し潤んでいた。

「違うよ、馬鹿」

杏が腕で目をこすった。

キッチンで晩御飯の仕度を始める。

「凛、ニンジンはどうするの?」

「千切りにしてくれ」

「千切り?」

杏が恐る恐る包丁でニンジンを切り始めた。

「危なっかしいな、杏は料理苦手なのか?」

「うん、あまりした事が無い」

「包丁はこう握って、左手はこう」

凛が杏の後ろから杏の手を取って教える。

「ゆっくりで良いからな」

「うん、分かった」

凛が横で料理をし始めると杏がそれを見ていた。

「痛い!」

杏が包丁で指を切った。

「馬鹿、よそ見するからだ」

杏の手を取って傷口を口に含むと杏の顔が赤くなる。

「押さえておけ」

凛が杏の指に絆創膏を張った。

「大丈夫か?」

「うん、ありがとう」

「直ぐ出来るから出来た物を運んでくれないか」

「分かった」

凛がとても手際よく料理を仕上げていく、出来上がった料理を杏がテーブルに運んだ。


豆腐チャンプルにメカジキの竜田揚げ、サラダに昨日の残り物の里芋の煮っ転がしと黒紫米入りのご飯に味噌汁が今日のメニューだった。

「楓、柚葉、晩飯が出来たぞ」

凛が本に夢中の2人に声を掛ける。

「えっ、晩御飯?」

楓がリビングを見ると円卓の上には料理が並べられていた。

「柚葉、ご飯だって」

「う、うん」

「良いんですか? ご馳走になって」

「構わないさ、大勢で食事した方が楽しいだろ」

「うわ、何だか和食って感じだ」

「いただきまーす」

2人が席に着いて皆で食べ始める。

「凄く美味しい、お家では和食なんですか?」

「そうだな、普段は店でイタリアンか洋食ばかりだからな。休みの日は和食が多いかな」

「独りの時もですか?」

「ん、独りの時はほとんど食べないか外食かな」

「それじゃ、杏ちゃんの為に作っているんですね」

「柚葉、別にそういう訳じゃないぞ。2人なら作った方が安いしな」

「そんな理由なんだ」

杏がボソッと言った。

「でも、杏ちゃんは良いよな凛さんと四六時中一緒に居られるんだもん」

「楓ちゃんも凛が好きなんだ」

「あ、杏ちゃん! 何を言ってるの私はただ憧れてるいだけだから」

「楓と柚葉は、普段何を食べてるんだ?」

「お弁当が多いかな、作るの面倒だし柚葉も私も料理得意じゃないし」

「楓ちゃんも柚葉ちゃんも料理駄目なんだ。それじゃ、凛に教えてもらおうよ」

「ええ、凛さんに? 迷惑だよ」

「お店の休憩時間に少しだけなら駄目かな。凛」

「しょうがないな、少しだけだぞ」

「やったー、約束だよ」

「ああ、分かった」


食事も終わり凛が楓と柚葉を家まで送りに行き。

杏が片付けをしていた。

「ただいま、杏。終わったか?」

「もう終わるから大丈夫だよ」

「そうか」

凛がソファーに座り込んだ。

「終わったよ」

そう言って杏が凛の横に座った。

「ご苦労様」

「うん。そうだ、凛」

「突然何なんだ?」

「まだ、発売前の新刊が何でここにあるの」

「新刊? 何の事だ」

「柚葉ちゃんがグランパの新刊はまだ発売されてないって」

「知り合いに貰ったんだよ」

「それで、読んだの」

「読まないぞ」

「え、じゃあ。何であんなに揃ってるの」

「さぁな」

「本当に、凛はずるい! 肝心な所でいつも逃げ出すんだから」

「そうだな、杏はずるい大人になるなよ」

「凛の馬鹿」

「そのうち、分かるようになるよ」

「本当に?」

「多分な」

「必ず、教えてもらうからね」

「分かったから、今日は疲れたから寝るぞ」

「うん」

杏がベッドに向かい横になった。

「凛、お休み」

「お休み、杏」


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