『バケモノ』
“何か”は食事をやめ、こちらに向かってきた。
身体を震わせながら、ゆっくりとした足取りで
パァン!
と銃声が響いた。
俺は1発で田中だった“何か”の心臓を撃ち抜いた。
田中は膝から崩れ落ちた。
「……なんなんだ、こいつは?」
田中の頭の“何か”は蠢いて、そのまま触手をめちゃくちゃに動かし壁を走った。
俺は1発、2発と撃ったが素早くて当たらない。
“何か”は触手を暴れさせながら、通気口の隙間に入り逃げて行った。
(しまった……通気口はB地区まで繋がっている!)
「ちぃっ!逃がした!」
追いかけようと思ったが舞に止められた。
「おじさん!こっち来て!この女、生き返るわ!」
見ると身体をガクガクと震わせながら血の涙を流し、女のピアスがこぼれ落ちた。
女は動き出し、立ち上がるところだった。
俺はすかさず頭を発砲音と共に撃ち抜いた。
頭に弾丸を受けた女は、
そのまま崩れ落ちた。
顔に埋まった触手がまだピクピクと動いている。
「こいつはなんだ?」
「わ、わからないわ」
舞は恐怖からか、青ざめていた。
「なんで食われたのに動いたんだ?」
「わからない。死体を調べたいわ……死んでるわよね?こいつ」
舞は恐る恐る突ついた。
「俺はB地区に戻る。娘が心配だ」
「えー、こいつ運んでよ。1人で運ぶの怖いじゃない」
舞が不満の声をあげる。
「ダメだ、B地区に戻りたい」
「私の研究室、トンネルから近いB地区の入口だからちょうどいいわ。一緒に運んで」
最近の若い子は図々しいな。
一緒に運ぶと言いながら、近寄りたがらなかったので、結局俺が背負うことになった。
気味悪かったが、その頃には触手も動かなくなっていた。
◇
B地区に辿り着き、研究室の手術台のようなところに運んだ後、すぐに家に走った。
「美奈子!無事か?!」
「え?何が?」
肩で息をしながら、家のドアをあけたが、美奈子はソファーでスマホを弄っていた。
どうやら無事なようだ。
「バケモノが出た」
そう言って俺は換気扇を塞ぎ、戸締りを確認した。
「バケモノ?田中さんはいたの?」
「いたが、田中じゃなかった」
息を整えながら拳銃の弾を込め直す。
「え?どっち?」
「バケモノが擬態していた。お前も気をつけろ。それと……」
俺はデスクの引き出しの鍵を開け、小ぶりなリボルバーを取り出し、美奈子に渡した。
「もし、擬態したバケモノが出たらこいつで頭を撃て」
「う、撃てるかな?」
「護身用だ。いざと言う時だけ使え」
「う、うん」
「俺はちょっと出掛けてくる。何かあったら電話しろ。あと今日は家から出るなよ」
「わかった。気をつけてね」
俺は鍵をかけ、舞の研究室へ向かった。
◇
「舞、どうだ?」
俺は研究室のドアを開けるのと同時に尋ねた。
「脳が全部食べられてるわ。好物なのかも」
舞はまだ死体を弄っていた。
「脳がないのになんで動くんだ?」
「仮説なんだけど、食べる時に卵か体の一部を残すんじゃないかしら?それが残りの脳を食べて急激に成長するのかも」
「あの生き物が脳の代わりになって動くってことか?」
「仮説ね。多分そうじゃないかしら、頭から根を張って全身に回る途中だったから脳だけじゃないと思う」
「やはり逃がしたのは失敗だった」
「あんなの見たら普通動けないわよ。しかも1匹仕留めたし、おじさん何者?」
「単なるロートルの元軍人だよ」
「軍人さんだったのね。通りで」
舞は納得したようだった。
「あと、弱点はこいつ本体ね。表皮の下が人間の脳みたいに変化してるところだったわ。脳に弾丸が食い込んだのが致命傷になったみたい」
「あんな狭い排気口に入れたんだ。広場はもう危ないかもしれない」
「そこが不思議なんだけど、表皮の下の脳に当たったから、こいつは死んでるんだけど、逃げた個体はなぜ、あの狭い排気口を脳を壊さず入れたのかしら?」
「あいつだけ特別なのかもしれんぞ」
「あと、こいつ歯がないわ。どうやって食べるのかしら?」
「乗っ取ったやつの歯を使うんじゃないか?」
「この女は田中が噛んで砕いたのだろうけど、今話してるのは最初の個体の話よ。中身だけ飛び出して逃げてったでしょ?歯もないのにどうやって人間の頭骨を砕くの?」
「さっぱりわからん。こいつはどこから来たんだ?」
「専門家じゃないから詳しくはわからないけど……」
「学者だろ?」
「学者だって専門分野があるのよ。私の見立てだと多分、地球の生物じゃないわ」
「と、なると、隕石と関係あるのか?」
「もしかしたらね」
この話は皆に話すべきか、話したら必ずパニックになる。それなら俺たちだけでやつを追うか。
俺はしばらく考えた後
「この事実は公表した方がいい」
「公表したらかならずパニックが起こるわ」
「じゃあ……」
と言いかけて、舞は話を被せた。
「でも、公表しないと知らないうちに誰かが乗っ取られて増える可能性もあるわ」
「やはり公表しよう。各々で監視し合えばやつも動きづらくなるかもしれないしな」
「それと、1つ見破り方があるわ」
「なんだ?」
「刺青やピアスなど恐らく人工物はコピーできずに外れるみたい」
「そう言えばこの女もピアス取れてたな」
「とりあえず今日はおじさん家に泊めてもらえる?」
「ああ、構わんよ」
「ついでに一緒に寝ようよ」
舞は艶っぽく笑った。
小娘の癖に
「やっぱやめるか?」
「冗談よ。普通に一人が怖いわ」
研究室から出ると俺の家に向かった。
向かう途中、軽そうな男が話しかけてきた。
「舞ー!新しい男?俺とも遊んでくれよ」
目鼻立ちが整っており、どこか中性的な男だ。
鍛え方が足りんな。
手足はヒョロ長かった。
「透ー!今日もかっこいいわね。めっちゃ遊びたいけど今日はダメなの。あら、いい腕時計ね。買ったの?」
舞は透と抱き合った。
「つい、買っちゃった。質屋に置いてあって一発で気に入っちゃった」
そう言って笑顔で左手の時計を舞に見せた。
「いいわね。似合ってるわよ。じゃあ今度遊んでね」
と言って舞は透と別れを惜しみつつ別れた。
「遊ばなくてよかったのか?」
「遊びたいわ。でもさすがに今日は怖いわ。あんなの見たばっかだし」
◇
「ただいま、美奈子、大丈夫か?」
「おかえりー、うん、荷物すら受け取らなかったよ。あれ?お父さん、彼女?」
「だったらよかったんだけどね。私は舞よ。ただの知り合い。よろしくね、美奈子ちゃん」
今日あったことを美奈子に話した。
すごく怖がって明日から外に出れないと言っていた。
「俺はこれから地区長に話してくる。2人とも大人しく待ってろ。美奈子、拳銃は舞に渡せ」
「え、また行っちゃうの?」
「なんで私に拳銃持たせるのよ。撃ったことないわよ」
「美奈子よりはお前の方が扱えるだろ。美奈子を頼む」
「私も行くわ。説明するのに私いた方がいいでしょ?」
「いや、1人でいい。ここで美奈子を守ってくれ」
「なによー。……でもまぁわかったわ」
「じゃあ行ってくる」
俺は拳銃の弾を確認し、地区長の元へ向かった。




