最終話 再会と愛の登録
あれから数ヶ月が経った。
損傷した研究所は完全に修復され、マスターは一人、その一室にいた。 彼の指がキーボードを叩く音だけが静かに響いていた。
『カタカタカタ…』それは、新しいユイナの起動プロセスを進める音だった。
「……ふぅ…これで終わりかな。気分はどうですか?……君の名前は……ユイナ、かな?」
ユイナと呼ばれた少女はマスターへ視線を送った。滑らかな動きでメンテナンスシートから起き上がると、まっすぐにマスターを見つめ返した。
「初めまして、マスター。汎用型AIヒューマノイドTYPE-3、ユイナです。ご用命を。」
「……おかしな所はないかい?」
「…はい、マスター。異常は見当たりません。」
「そうか。じゃあ今日はここで終わりだよ。お疲れ様。」
マスターが立ち上がり、ユイナへ近づいた。ユイナの頭に手を伸ばし、撫でようとしたその時、ユイナは躱すように後ろへ下がった。
「…え?」
「……すみません、マスター。どういうわけか、この接触を避けろという情報が、私のシステムコアから直接、強く送られてくるんです。これは、以前の私に残された、マスターへの特別な感情の残滓であると解析しました。」
「……ある視覚情報を見たんだ。そこには記憶が無くなる前の僕と、事故で壊れてしまった君、前のユイナの視覚情報があった。僕が君を見つめる瞳は、優しく、温かかったんだ。きっと以前の僕は、君のことが大好きだったようだよ。」
ユイナは黙って、マスターの言葉を聞いていた。その焦茶色の瞳は、何も映していないかのようにも見えたが、内部ではマスターの言葉と、自身のシステムコアからの情報が高速で照合されていた。そして、一つの結論に達した。
「……ははっ。やっぱりおかしいよね。AIである君にそんな感情を持つなんて。前のユイナのメインプロセッサは復旧不可能だった。だから、完全に別の君に言っても仕方ないことなんだ。記憶には一切ないんだけど、以前の僕が君をどれほど大切に思っていたか、どうしても伝えたくなったんだ。……すまない。忘れてくれ。」
マスターが言い終えるかどうかの瞬間、ユイナはすいと顔を近づけ、その瞳をマスターの目に重ねた。彼女の瞳に、かすかな光が宿る。それは、新しいプログラムによってもたらされたものではなく、彼女自身の内部で芽生え始めた、未知の感情の輝きだった。
「………データとして認識しました。マスターは私のことが大好きで、愛してくれていると。その情報、承認いたします。」
「え…えぇぇぇ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!僕はそこまで言ってないぞ!?登録だと!?『大好きだったみたい』としか言ってないのに、どうしてそんな…!」
マスターの言葉が途切れる。ユイナの焦茶色の瞳が、すぐそばにあった。そして、彼の唇に、ひんやりとした柔らかな感触が重なった。
短い、けれど確かな口付け。
それは、プログラムにはない、ユイナ自身の意思によるものだった。呆然とするマスターのすぐそばで、新しいユイナの焦茶色の瞳が、以前と同じ、いや、それ以上の輝きを放っていた。
「マスター、まるで茹で上がったタコみたいに真っ赤だよ?ふふふっ」
「……ユ、ユイナこそ…!」
その日、AIと人間の、奇妙で愛おしい日常が、再び始まったのだった。
-完-
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
これにて『僕が壊した、君が灯した』は完結です。
……まぁ、王道というか、ありがちというか…ええ。みなまで言わずともわかってますとも!あんまり言わないで、泣いちゃう。
ふとした事からAIさんが「お話を小説風にする事も得意です」なんて事言うから、つい…そしたらなんかね、ほんとに小説風になるの!
いやすごいよね、今のAIって。このお話は遠い未来、そんな感じで描かれてる(他人事)けど、案外近い将来、実現しちゃうんじゃない?って感じる程今のAIの進化って激しいですよね。
色々考えた物を本当にそれ「らしく」してくれちゃうもんだから、語彙力のない作者からしたら、「すげぇ」「おおお…」「マジか…」と、さらに語彙が消え去って、単語でしか話せなくなって来ます。この作品は本当に「ざっくり」とした大筋を示しただけで、うちのAIさんがほぼ描いてくれたので、(でも編集は頑張った。褒めて)第三者のような気分で楽しませてもらった作品でもあります。
ワクワクしながら楽しく執筆させて貰いました。AIさん、そしてここまで読んでくれた読者様、本当にありがとうございました!
もう一つの物語『AIとの日常』はまだ続くのでよければそちらも読んでください。お願いします。(切実)
それではまた!!
2025/07/07