第6話:スライムより先にベッドに入ったのは誰ですか?
土曜の昼、俺の家
「……で、まだ帰らないの?」
「帰るに決まってるでしょ! でも、雨まだ降ってるし、スマホ水没したままだし、ちょっとだけ……ね?」
理沙がリビングのクッションに埋もれてぐで~っとしている。
パジャマ姿(俺のTシャツ)でスライム・もにゅと仲良くテレビを見ていた。
なんだこの日常は。ラブコメか。
いや、ラブコメなんだけどさ!
「モニュ♪(=こいつ居心地いいモニュ)」
「……こいつまでくつろいでるし」
そこへ――
「ぴんぽーん」
インターホンが鳴った。
「……誰?」
俺も理沙も同時に振り向いた。
嫌な予感がする。めちゃくちゃ嫌な予感がする。
――モニター画面に映ったのは。
「こんにちは~、佐原くん。昨日おうちに忘れ物しちゃって、取りに来たの」
一ノ瀬 天音だった。
「昨日? おうち?」「忘れ物? え、うち来たっけ?」
「――っ!!???」
理沙が弾かれたように立ち上がる。
「待て、お前昨日天音来たって……どういうことよ!!!」
「ち、ちがっ、ちがうんだこれは誤解で!!昨日の話は、えっと、もにゅの餌やりにちょっとだけ来て、それで――」
「――女の子が“ちょっとだけ”男子の家に来るとか、普通、ないから!!!」
ピンポン、ピンポンピンポンピンポン(しつこい)
「もしかして寝てる? あ、もにゅちゃん起きてる~?」
やばい。天音、なぜか「合鍵」を持ってる!?
……いや、持ってるわけないのに開いたぞ!?!?!?
天音、強制イン
「こんにちは~あれっ? 理沙ちゃんもいたんだ~偶然~♡」
「偶然じゃないでしょ!?なんであんたが合鍵持ってんのよ!!」
「え? 開いてたよ?(にこっ)」
「こっわ!!この子こっわ!!」
部屋に入ってきた天音は、もにゅにすぐ駆け寄ってなでなでしていた。
「もにゅちゃん、久しぶり~! あれっ、なんか、理沙ちゃんの匂いがする?」
「モ、モニュ……(汗)」
部屋に漂う微妙な空気。
「ていうかさ、佐原くん。この服、私が去年貸してたやつじゃない?」
「えっ」「は? えっっ?」
「ねぇ理沙ちゃん、それ着て寝たの?」
「寝てないわよ!! そもそも私が濡れて帰れなかったのが先だから!!」
「……でも先に私が貸した服なんだよね~?」
「うるさいっ!! そっちはスライムに貢いでばっかじゃない!」
「スライムを介した恋の攻防、激化中」
「モニュ……(耐えて……ワイがバランス取るモニュ……)」
夜:修羅場拡大
「じゃあ、今日は私も泊まるね♪」
「いやいやいやいや、待て待て待て待て!」
「先にいたのは私よ!?なんで当然みたいに泊まる気なの!?」
「だってもにゅちゃんが寂しそうだし~。ね? 一緒に寝たいよね?」
「モニュ……(巻き込まないで欲しいモニュ……)」
こうして――
俺の部屋に、女子二人とスライムが雑魚寝する異常空間が完成した。
深夜2時
理沙と天音、寝てない。
こっそりもにゅを取り合って、ひそひそ小競り合いしてる。
――どっちが本命とかじゃなくて、
なぜか「スライムをめぐる主導権」でバチバチしてるのが、ほんともう。
俺は泣きながら床で丸まった。
頼む、スライム、次は透明になってくれ……。