第5話:べ、別に泊まりたかったわけじゃないんだからねッ!
金曜の夕方。小雨が降り出した帰り道。
「……で、なにしてんの、お前」
「見てわかんない? 雨宿りしてんのよ」
学校近くの商店街の軒下で、神田 理沙が傘も差さずにずぶ濡れで座っていた。制服のスカートは膝に貼りつき、ポニテはしなびて、顔もどこか疲れている。
「……帰んないの?」
「無理。スマホ水没したし、家の鍵も忘れた。しかも親、旅行中」
「詰んでるじゃねえか」
とりあえず、俺のビニール傘に半分入れてやった。
いつもツンツンしてる理沙が、今は妙におとなしい。俺の肩に少しだけ寄りかかる彼女は、いつもと違って……。
「うち、来る?」
言ってから、自分でびっくりした。なに言ってんだ俺。
「……は? アンタ、なに考えてんのよ……」
「ち、ちがっ、いや、そーじゃなくてっ、雨だし!風邪引くし!泊まるわけじゃなくて、その……あのっ」
「……はぁ。もうどうでもいい。寒い。……行く」
ツンから急なデレへ。
そしてそのまま、俺の家へ――。
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「狭い、男の部屋って感じ。なんか……生活感、あるようでないね」
俺の部屋で制服のジャケットを脱いだ理沙は、借りたバスタオルで髪を拭きながら不満げに言った。
「文句言うなよ……。で、お前パジャマどうすんの?」
「……貸して」
「マジかよ」
押し入れから部屋着を引っ張り出し、彼女に渡す。
「ちょ、これ大きいんだけど。ぶかぶか。てか、男子の服を着る女子って、普通に恥ずかしいんだけど……」
「俺の方が恥ずかしいわ」
そして。
「モニュ~~~♪」
ベッドの下から“あいつ”が出てきた。
もにゅ、今日も元気です。
「あ、いたいた。今日ずっと姿見せなかったから心配して――」
「って、もにゅ!? いるの!? ここに!?」
理沙が突然、叫んだ。
「……あ、うん。普通に同居してるから」
「……スライムと、同居?」
「そう」
「……へえぇぇ~~~~~(めちゃくちゃ睨んでくる)」
理沙は怒っている。
けど、理由が謎すぎる。
「もにゅ、こっち来なさい」
「モニュ?」
「はい、ごはん。私の持ってきた非常用クッキー!」
「モニュ~~♪」
「ほら見なさい。私のほうが慣れてるんだから」
「えっ、なんで急に張り合ってんの!?」
深夜。
「……あの、床でいいの? 私、ベッド使っても」
「いや、俺が使うから」
「ちょっと、なんでよ」
「男子が女子を床に寝かせるわけにいかんだろ!!」
「……べ、別に。私、別にアンタと寝たかったわけじゃないけど、そこまで拒否られると逆にムカつくんだけど!!」
「いやどうしろと!!?」
翌朝。
起きたら、理沙がベッドの真ん中で、もにゅを抱いて寝ていた。
「……くかー……モニュ……」
「お前ら、どういう関係だよ……」