第4話:え?スライムに触れるの、私だけじゃないの?
昼休み。俺は今日もリュックの中で“もにゅ”にエサを与えていた。
すっかりこの生活にも慣れた……と思っていた。
「佐原くん、はい。今日も持ってきたよ、手作りプリン」
教室の後ろから、ひょこっと顔を出したのは――一ノ瀬 天音。
昨日から、なぜか急に接点が増えた。もにゅに興味津々らしく、毎日「おやつ」持参。
「あっ、でも甘さ控えめにしたからね。スライムって糖分、どのくらいまで大丈夫なのかな~?」
「えっ、ありがとう……たぶん、食べると思う……」
もにゅはすでにプルプル震えながら、リュックの口から“ぷるるっ”と顔(?)を出していた。
俺はスプーンでプリンをちょんとすくい、もにゅの前に差し出す。
「モニュ~~~~♪」
完全にご満悦。
「……あはは、かわいい~……」
天音はほわほわ笑いながら、もにゅの頭をぷにぷに撫でる。
その瞬間だった。
「――……ちょっと」
冷えた声が、背後から聞こえた。
「なんで、あんたが触ってんの?」
そこにいたのは――神田 理沙。
ポニテを揺らし、いつも以上にツンツンしていた。いや、というか、めっちゃ機嫌悪そうだ。
「あっ、神田さん。こんにちは」
天音はにこっと笑った。
「……“こんにちは”じゃなくて。そのスライム、私が最初に世話したんだけど?」
「え? そうなんだ。私は、佐原くんから直接“一緒に育てない?”って言われたから、てっきり――」
「言ってない!言ってないぞ俺!?!?!?」
「……ふーん」
理沙の口元が引きつる。
「ていうか、スライムに手作りプリンとか、重くない? 甘やかしすぎでしょ」
「そう? クッキーは勝手に食べられたんだよね? うちのプリンはちゃんと渡したから、仲良しだよ」
「なっ……!! もにゅは、そういう“軽いやつ”じゃないから!!」
バチバチッ!
――何これ?
もにゅを巡って、女子二人が火花散らしてるんだけど……!?
当のもにゅは、「ぷる?」みたいな顔でぷるぷる揺れている。お前が元凶だろ。
「……もにゅは、私の手作りクッキーの味を覚えてるもんね!」
「それなら、私のプリンは一口で心をつかんだよ~」
「……ねぇ佐原、どっちの味が好きだったの?」
「質問の方向おかしいし答えたら死ぬ気がするんですけど!?!?」
こうして――
スライムを拾っただけだったはずなのに、
なぜか俺はヒロイン二人に同時に詰められるという、訳のわからんラブコメ展開に巻き込まれていくのだった。