第3話:だから私のクッキー返せって言ってんでしょ!!
昼休み。
俺は教室の隅で、パンをちぎって“もにゅ”に与えていた。リュックの中から手を突っ込み、ばれないように、こっそりと。
「……おいしいか?」
「モニュ……♪」
満足げな振動。うん、今日も平和――
「おい、そこの地味男ッ!!」
――じゃなかった。
突然、教室の後ろの扉がバァンッと開かれた。
そこに立っていたのは、隣のクラスのツンデレ女子・神田 理沙。
茶髪のポニーテールに、怒りのオーラを全開にした鋭い目つき。
「アンタ、昨日、私の机に置いといたクッキー食べたでしょ!?」
「は!? な、なんで俺!?」
「目撃情報があるの!“佐原がニヤつきながら袋を持ってた”って!」
「え、それ……たぶん、もにゅ……じゃなくて、えーと」
「……もにゅ?」
――やばい。また口が滑った。
「ちょ、違うんだ! 本当に俺じゃなくて……」
そのとき、リュックがぷるんと揺れた。
「モニュ……(←明らかに満腹)」
理沙の目が、リュックに釘付けになる。
「……それ、動いたよね?」
「……いや、動いてないよ?多分、気のせいだよ?」
俺の焦りとは裏腹に、理沙はゆっくりと近づいてきた。そして――
「ちょっと開けてみなさいよ」
「ダメだ!こいつは人前に出しちゃいけないんだ!出したら、きっと、あの……世界が終わる!!」
「クッキーの仇を見逃せっての? 私、動物好きなの。許すかどうか、見てから決める!」
強引にリュックを開かれ、ついに“もにゅ”が登場。
教室の隅で、机の下からぷるぷると現れた青いゼリー状の生物。
「モニュ~~~~」
「……ぷるぷるしてる……かわっ……」
理沙の顔が一瞬緩んだ。
が、
「……って、かわいいじゃ済まないのよ!? 私のクッキー返してよーっ!!」
机をバンバン叩く理沙と、ぷるぷる震えるもにゅ。
隣で俺は頭を抱えていた。
「……もにゅ、お前な……女子の机を漁るのはやめような……」
昼休みが終わる頃には、理沙はもにゅにちょっぴり情が移り、「一口だけなら触ってもいいわよ」とか言いながらぷにぷにしていた。
「……今度、おやつ持ってきてあげてもいいけど、また私の分まで食べたらマジで許さないから」
ツンツンしながらも、目がちょっと優しかった。
あれ?
なんか知らんが、俺――女子と話せてる気がする……?