第二話:それ、喋ったよな?嘘だろ…
翌朝、目が覚めると、枕元に何かがいた。
ぷるぷるぷる……
「……もにゅ?」
昨日拾ってきたスライム――俺が勝手にそう呼んでいるだけだけど――は、まるで猫のように丸まって(スライムだから丸いのは当然だけど)、俺の布団の上に鎮座していた。
「……寝てる間に食われなくて良かったわ、マジで」
昨晩は、テレビのリモコン、ノートパソコン、さらには俺のゲーム機までを餌にされるという悲劇が起きた。
慌てて冷蔵庫からハムを出して与えたところ、やたら満足そうに光り輝いたので、今はとりあえず“冷蔵庫の中身で釣れる”と学んだ。
とはいえ。
「朝ごはん、どうすっかな……」
俺の朝食はいつもパン一枚と水。だが今は、そこに“もにゅ”の餌まで考慮しないといけない。
――そのとき。
「……ハ……ラ、ヘッタ……」
「……は?」
一瞬、空耳かと思った。
でも確かに、聞こえたのだ。
ぷるぷると震えるスライムの体の奥から、ぼんやりと浮かぶ光。そしてその中から、確かに言葉が出た。
「……ハラ、ヘッタ……モニュ……」
「喋ったぁあああああああああ!!??」
俺は思わずベッドの上で後ろに飛び退いた。
いや無理無理、昨日は「スライム拾ってえへへ」とか悠長に構えてたけど、喋るスライムとか完全にホラーだろ!?
……が、そんな俺の混乱をよそに、もにゅは満足げに俺の靴下を咥えようとしていた。
「やめろおおおおおおおお!!それだけはやめろ!俺の唯一の冬用靴下なんだよおお!!」
その後、なんとかハムと卵でスライムの空腹を満たし、俺は学校へ向かう準備をした。
もにゅはリュックの中でぷるぷるとおとなしくしている。
「なあ……大人しくしてろよ?絶対動くなよ?授業中に勝手に出るとかしたら俺終わるからな」
……ぷるぷる、と軽く振動した。
まさか、返事?
……いや、考えすぎだろ。たぶん。
登校途中。
いつもどおり俺は下を向いて歩いていた。人目を避ける陰キャ・ムーブである。
が、その日だけは、事情が違った。
「……ん? 佐原くん?」
声をかけてきたのは、クラスの人気者――**一ノ瀬 天音**だった。
「おはよう、佐原くん。今日、なんだか……リュック、動いてない?」
「えっ」
しまった!
俺は慌てて後ろのリュックに手を当てる。……ぷるぷる震えてる。
バレる。バレたら変な目で見られる! 陰キャ卒業どころか**「あいつリュックに謎生物入れてるやべー奴」**扱いだ!
「あっ、えっと、あはは、これは……えーと……その、クッション的な……」
言い訳を口にする前に。
「……へぇ」
天音は一歩、俺に近づいてきた。そして――にこりと笑った。
「それって、スライムだよね?」
「……へ?」